神龍
「ムサシ様、来たよ。」ユーリが母親を連れて俺に向かってかけてくる。
「おぉ、よく来たな。」俺はユーリを抱き上げる。
「あの、本当に来て宜しかったのですか?」ユーリの母が聞いて来る。
「ユーリとの約束でしたから。」俺はそう言いながら、シスタークロエの前の募金箱に300B分のコインを入れる。
「さぁ、シスタークロエ、君とこの親子にその羽を付けてくれ。」俺は言う。
「え? 私も?」シスタークロエが困惑する。
「ミロク神に会いたかったんでしょう?」俺はシスタークロエに言う。
「そうなのですが。」シスタークロエがおどおどする。
「ミロク神の前ではすべてが平等らしいぞ。」俺は前に言った言葉を繰り返す。
「そう言う事でしたら。」シスタークロエはおずおずと俺の手を握る。
「お前の信仰を感謝する。」ミロクが後光を出しながら言う。
「あぁ、ミロク神様、御尊顔を拝謁できて至極幸福です。」シスタークロエがその場で平伏する。
「そのまま精進せよ。」ミロクがクロエに言う。
「はい、仰せのままに。」クロエが平伏しながら言う。
「俺の手を放しても、暫くはミロクが見えて聞こえるんだな。」俺は思う。
「お兄ちゃん、次はあたし。」ユーリが俺の手を握る。
「ユーリ、お前の今後に幸あれ。」ミロクが慈愛に満ちた笑顔で言う。
「誰だよお前。」俺は思わず突っ込みを入れた。
「ふわぁぁ、お兄ちゃん、ミロク神様があたしの名前を呼んでくれた。」ユーリが感極まって言う。
「そうか、良かったな、ミロク神はいつでもお前を見ているぞ。」俺はユーリの頭をなでながら言う。
「うん。」ユーリは最高の笑顔で言った。
その後、約100人がミロクを拝んだ。
「ムサシ様、感謝いたします。」シスタークロエが俺に頭を下げる。
「ありがとうございました。」シスターマリーも頭を下げる。
「経営が苦しくなったら、俺に言ってこい、いつでもイベントをやってやるぞ。」俺は二人に言う。
「「ありがとうございます。」」二人のシスターが俺に頭を下げた。
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「あぁ、疲れた。」俺は肩をコキコキしながら言う。
「くふふ、ご苦労様。」ミロクが珍しく労いの言葉をくれる。
「気持ち悪いな。」俺は嫌そうに言う。
「酷いな、信仰心は神気に上乗せされるんだよ。」ミロクが叫ぶ。
「あぁ、そうなのか。」俺は納得した。
「んで、この後どうする?」俺はミロクに聞く。
「王都の北の外れに行っても良いかな」ミロクが答える。
「いや、行くのは良いが。獲物は何だ?」
「神龍かな?」
「神龍? 願いをかなえる7個の玉を集めるやつか?」
「聞いた事がないよ。」
「それなら良いか。」
「良いんだ?」
「諦めた。」俺はニカって笑いながら言う。
「酷いな!」
「んじゃ、王都の北に行けば良いんだな?」俺はそう言いながら家に向かう。
「お帰りムサシ。」シーナが俺を出迎えてくれた。
「今からまた王都に行って来る。」俺はそう告げる。
「ありゃ、大変だね。」シーナが俺を労ってくれる。
「ははは、ミロクの人使いが荒いんだ。」俺はそう言いながら王都へのドアを潜った。
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「あら、お帰りなさい、ムサシ様。」潜った先の王都の家でカロリーヌさんが俺を見て言う。
「あぁ、ただいま。」俺は答える。
「あぁ、カロリーヌさん、ちょっと出かけてきますね。」俺はそう告げる。
「あら~、行ってらっしゃいませ。」カロリーヌさんが俺を見送ってくれる。
「とりあえず、北に行けば良いんだな?」
「くふふ、うん。」
「はぁ。」俺はため息をつきながら北門に向かった。
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「この門の先には行かないことを進める。」門番の男が言う。
「ははは、そうなんだよな。」俺はそう言いながら門を潜る。
「ご武運を。」門番の男が俺に言う。
「以前、アラクネを討伐した場所だよな。」
「くふふ、そこよりも深い場所だよ。」
「そうか。」俺はそこに向かって走った。
お肉? 勿論狩ったよ、勿体無いじゃん。
数十頭分のお肉を狩りながら、俺は其処に着いた。
「おぉぉ、これはヤバい。」そこにいる者の存在を感じて俺は言う。
「くふふ、成長をしているみたいだね。」
「ミロク、俺勝てるの?」
「大丈夫じゃない? 多分。」
「多分かよ。」
「ぐおぉぉぉぉぉ!」神龍が吠えた。
「くふふ、威嚇、石化、恐怖、混乱をレジストしたよ。」ミロクが嬉しそうに言う。
「はぁ、俺は不幸だな。」俺は諦めて神龍に対峙する。
「人間、我の咆哮に耐えるか?」神龍が俺に言う。
「なぁ、話し合いで解決できるなら、そうしたい。」俺は神龍に言う。
「くははは、笑止。」神龍は俺にブレスを吐いて来る。
「ちっ。」俺は天叢雲剣を抜きブレスを切り裂いた。
俺を中心に、俺の両後ろにブレスが炸裂して森を焼く。
「なぁ、我がブレスを切り裂くか!」神龍が驚愕する。
「話し合いに応じてくれる気になったか?」俺は神龍に問う。
「くははは、その程度で我と対等だと思うのか?」神龍が俺を踏みつぶそうと足を振り下ろして来る。
「どっせい!」俺はその足を受け止めた。
「何だと?」神龍が驚愕する。
「てい!」俺はそのまま足を持って放り投げた。
「何だと~。」悲鳴を上げながら神龍が飛んでいく。
「まだまだ!」俺は飛んでいく神龍を追う。
「ぐはぁぁぁぁ!」神龍が地面に叩きつけられて悲鳴を上げる。
「とりゃぁ!」俺はその腹に飛び蹴りをくらわした。
「ぐばぁ!」神龍が胃の中身をぶちまける。
「話し合いで解決する気になったか?」俺は神龍に聞く。
「うぐぐ、仕方ない話し合いに応じよう。」神龍が俺の前に平伏する。
「それは良かった、早速だがミロク神の神気を返してくれ。」俺は神龍に言う。
「神気? なんだ?それは?」神龍が言う。
「この期に及んで惚けるのか?」俺は威圧を込めて言う。
「まてまて、本当に分からないのだ。」神龍が言う。
「くふふ、自覚しないで私の神気を持っているんだね。」
「はぁ、んじゃいつも通りか?」
「くふふ、うん。」
俺は天叢雲剣を握る。
「おい、何をするつもりだ?」神龍が言う。
「とりゃ!」俺は神龍の首を刎ねた。
「くふふ、いっぱい戻ってきた。」ミロクが嬉しそうに言う。
「良かったな。」俺は答える。
「で、これはどうしよう?」俺は神龍の亡骸を見ながら言う。
「くふふ、勿論納品だよ。」ミロクが答える。
「こんなのを納品したら、また国王が落札するんじゃないのか?」
「くふふ、そうだろうね。」
「お肉は食べられるのか?」
「食べられるけど、食べない方がいいよ。」
「何で?」
「龍のお肉は精力剤だから、捌け口が無いと辛いと思うよ。」
「そうなの?」
「くふふ、私が受肉していたら処理してあげても良いけどね。」
「てい!」俺は真顔でミロクの腹に拳骨をぶっこむ。
「うぎゅう!」ミロクが変な声を上げながら撃沈する。
「下ネタは嫌いなんだ。」俺はそう言って神龍の亡骸を異空間に放り込む。
最近気が付いた、空間魔法でミロクと同じ事が出来ると。
異空間収納はミロクに持ってもらうのと同じだ。
「帰るか。」俺は王都に向かって走る。
**********
俺はリーンがいる組合に入る。
「まぁ、旦那様、いらっしゃいませ。」リーンが俺に抱き着きながら言う。
「ぐぬぬ、見せつけやがって。」
「リア充爆発しろ。」いつものようにやっかみの声が聞こえる。
「リーン。」
「はい、旦那様。」
「神龍を狩っちゃった。」
「はい?」
「神龍を狩っちゃった。」
「え,え,え,え、神龍をですか?」
「まずかったかな?」
「前代未聞です。」
「んじゃ、なかったことで。」俺は踵を返す。
「どこに行こうとしてるんですか?」リーンに捕まった。
「え~っと?」
「勿論オークションです。」リーンがにこやかに言う。
神龍は、皮、肉、骨が納品対象になるようだ。
また凄まじい値段になるんだろうな。




