ユーリ
「ミロク神に会える催しを、です。」
「へ?」シスターマリーが変に固まった。
「シスターマリー?」俺はシスターマリーの顔の前で手をひらひらとさせる。
「はっ、私は何を?」シスターマリーが再起動する。
俺は、ミロクからコカトリスを受け取り、羽を毟った。
「尾羽と手の羽なら丁度良いな。」俺は羽を毟り終えたコカトリスを再びミロクに渡した。
そして、俺は孤児院に向かう。
「お前たち、仕事だ。」俺は孤児たちに言う。
「なに?」
「何をすればいいの?」孤児たちが聞いて来る。
「まず手を洗ってこい。」俺が言うと孤児たちが素直に手洗い場に向かう。
「洗ってきた~。」孤児たちが俺に手を見せる。
「良し、これからお前たちに仕事を与える。」俺は宣言する。
「仕事?」
「俺たちにできるのか?」孤児が騒ぐ。
「あぁ、勿論だ。」俺はそう言いながら、そこにコカトリスの羽を置く。
「何それ?」
「鳥の羽?」孤児たちが言う。
「あぁ、コカトリスの羽だ。」俺はそう言いながら一本の羽を持つ。
「この羽に、安全ピンを糸で巻き付けて、糸を糊で固める、出来るか?」俺は孤児たちに聞く。
「解んない。」
「見本を見せて。」孤児が言う。
「あぁ、よく見てろ。」俺はコカトリスの羽を持って、その付け根に安全ピンを付けて糸で巻き付ける。
「そして、糸を糊で固定する。」俺は実演した。
「解ったぁ。」
「出来る。」孤児たちが見よう見まねでやり始める。
「シスターマリー。」
「ひゃい、何でしょう?」
「明後日、朝10時から希望の羽を販売すると告知してください。」
「希望の羽?」
「今孤児たちが作っている物です。」
「はい。」
「希望の羽は、一つ100B。」
「はい。」
「希望の羽を一つ買えばミロク神の御尊顔を5秒間だけ拝めると。」
「はい。」
「一人で2個以上を買えば神罰が下ると。」
「はひぃ。」シスターマリーが狼狽える。
「では、二日後に。」俺はそう言って家に帰った。
「お帰りなさい、ムサシ様、お客様?」シーナが出迎えてくれて、俺に言う。
「客?」俺は振り返る。
「ムサシ様、お母様を助けて。」そこにいたのはさっきミロク神に会わせてと言った幼女。
「ん? どうしたんだ?」俺は顔の高さを合わせるようにしゃがんで聞く。
「おうちに帰ったら、お母さんが倒れていたの、それで、大人の人を探したらムサシ様が見えたから追ってきたの。」目に涙を溜めながらたどたどしく言う幼女。
「家まで案内できるか?」俺は聞く。
「助けてくれるの?」
「あぁ。」
「こっち。」幼女が俺の手を取って走り始める。
「ちょっと行って来る。」俺はシーナに言って手を引かれる。
「いってらっしゃい。」シーナは笑いながら手を振った。
「ここか?」連れてこられたのは、スラム街に近い場所にある一軒家。
「お母さん!」幼女がドアを開けて家に入っていく。
俺は其れに続いた。
「お母さん、お母さん。」幼女が母親にすがって言う。
「どれ?」俺はまず息があることを確認する。
弱々しいが息は有る。
「鑑定!」俺は母親を鑑定した。
「ふむ、栄養失調で風邪が悪化したのか。」俺はそう言いながら母親をベットに運ぶ。
「ムサシ様、お母さんは大丈夫なの?」幼女が聞いて来る。
「あぁ、大丈夫だ、其れよりお腹はすいていないのか?」俺は幼女に聞く。
「うん、お母さんがいつもお腹いっぱい食べさせてくれるから。」
「そうか。」俺は母親にヒールを掛ける。
「うぅ。」母親が反応する。
ヒールで風邪は治ったはずだ。
「後は栄養失調の方だな。」俺はそう言いながら台所に向かう。
「え? ムサシ様?」幼女が聞いて来る。
「台所を借りるぞ。」
「え?」幼女が困惑する。
「え~っと、こっちだな。」俺は台所に入る。
俺はミロクから土鍋を受け取り、そこに洗った米を半合入れ、水を600cc入れて火にかけた。
「えっと、何をしているの?」幼女が聞いて来る。
「お母さんのご飯だ。」俺は答える。
「なんで?」
「そういえば名前を聞いていなかったな。」
「あたしの名前?」
「そうだ。」
「あたしの名前はユーリって言うの。」
「そうか、ユーリ、お母さんはユーリに食べさせるために、自分の分を減らしていたんだ。」
「え?」ユーリが驚く。
「くふふ、少しオブラートに包んで。」ミロクが言って来るが俺は無視した。
「なんで?」
「それが親ってもんだ、だからユーリはしっかり食べろ。」
「でも。」
「お母さんがそう願っているんだ。」
「う~、解った。」
「よし良い子だ。」俺はユーリの頭をなでる。
「よし出来た。」俺はおかゆをお椀によそい、塩を一摘まみかけた。
「付け合わせは、梅干しと白菜の漬物だ。」
「ユーリはこれな。」俺はミロクから貰った串焼きを4本皿にのせてユーリの前に置く。
「食べても良いの?」
「あぁ、勿論だ。」
「わーい。」ユーリが串焼きを食べ始める。
「ここは?」母親が目を覚ます。
「大丈夫か?」俺は声を掛ける。
「え? 誰ですか?」母親がおびえる。
「ムサシ様だよ。」ユーリが口の周りをタレだらけにして言う。
「ムサシ様?」母親は怪訝な顔で俺を見る。
「ユーリに頼まれたからな。」俺はそう言いながらおかゆの入った茶碗を差し出す。
「食欲は有るか?」
「はい、少しだけ。」
「そうか、消化が良い食べ物だからゆっくり食べると良い。」
母親は茶碗を受け取り、レンゲでおかゆをすくって口に入れる。
「おいしい。」
「食べられるだけ食べろ、無理はするなよ。」
「ありがとうございます。」そう言いながら母親がおかゆを食べ進める。
「お代わりもあるぞ。」俺の言葉に母親がおずおずと茶碗を差し出して来る。
俺は先程と同じようにおかゆをよそう。
そして、机に米とパンを置き、冷蔵庫に野菜とランナー鳥の肉を入れる。
「しばらくはこれで持つだろう。」俺はそう言いながら2G分のコインが入った袋を机に置く。
「あの、何かお礼を。」母親が恐縮するが、「要らない、あぁ、ユーリ。」
「なに?」
「明後日ミロク神聖協会に来い、ミロク神に会わせてやる。」
「本当!」ユーリが目をキラキラさせながら言って来る。
「あぁ、待っているからな。」俺はそう言ってユーリの家を後にした。
「くふふ、今見せてやればいいのに。」
「こういうのは雰囲気が大事なんだ。」
「くふふ。」




