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レモン

 それから2日後、見晴らしの村に着いた。


 夜は食材と風呂を提供し、馬車の周りを地魔法で作った壁で囲むことで、魔物の襲撃もなくぐっすりと眠ることができた。


「ねぇ、ムサシ。」ミロクが俺に声をかける。

「何だ?」


「トロールが復活してる。」

「何だと?」


「くふふ、狩る?」

「当然だ。」


 俺は、順番待ちをしているハコベさんに声をかけた。

「ハコベさん。」

「何でしょうムサシ様?」


「少し用事が出来ましたので、今から離れます。」

「そうですか、出発は明日の6時に北の門です。」


「解りました、では。」俺は馬車を飛び降り、前回トロールを狩った場所に全力で向かう。


「あそこか?」俺はその場所から50mの所で止まって言う。


「くふふ、不思議なことに神気を持った奴がいるね。」

「ほぉ、前回狩り漏らしたのか?」


「くふふ、隠れていた子供だと思う。」

「そうか。」俺は天叢雲剣を抜いてそこに全力で走った。


 30匹いたトロールは全て首を落とした。


「両手足と、魔石で良いんだよな?」俺はミロクに確認する。

「くふふ、そうだよ。」


「おし!」俺は30匹分のトロールの両手両足を切り取り、魔石も取り出してミロクに渡した。


「ふぅ、良い汗かいた。」俺は額の汗を手で拭いながら言う。


「さて、見晴らしの村に向かうか。」俺はそう言って全力で走り出す。


「おや、前回は2時間かかったのに、1時間で着いた。」

「くふふ、君のレベルが上がっているからだよ。」

「そうなの?」

「宿に着いたら確認してみれば?」

「あぁ、そうする。」俺は入村の列に並んだ。



 暫くして俺たちの順番になった。


「やぁ、身分を証明出来る物は有るかい?」門番の男が聞いて来る。

「あぁ。」俺は組合のカードを男に見せる。


「あぁ、君かぁ、久しぶりだね、通って良いよ。」門番の男が言う。

「うん?」俺は疑問に思う。


「あぁ、前回も確認したのは僕だ。」門番が言う。


「あぁ、そうか。」俺はそう言いながら門を潜った。


「くふふ、トロールを組合に納品するのかい?」

「いや、全部リーンに持っていく。」

「くふふ、そうだね。」


 そう言いながら、レモンの宿に向かった。



「邪魔するぜぃ。」俺はそう言いながら宿の扉を開けた。

「帰っておくれ!」


「おぉ、新鮮な対応だ。」俺はそう思いながら声のした方を見た。

「おいおい、俺達にそんな事を言っていいのか?」男が言う。

「俺達は正当な要求をしているんだぜ。」もう一人の男が言う。


「何と言われようと、あんたらに払う金はないよ!」前に見た宿のおかみが男達に言う。


「ほぉ、良く言った、んじゃ証文の通りにその娘は連れていくぞ。」

「何だい、そんなインチキ証文なんか無効だよ!」おかみが叫ぶ。


「おいおい、ちゃんとお前さんのサインも有るんだぜぃ。」男が証文をひらひらとさせる。

「あたしは騙されたんだ、無利子で100Gを1カ月貸し付けると言われて借りたら、1日過ぎたら300Gになっていた、そんなことあり得るかい?」


「いやだなぁ、ちゃんとここに書いてあるだろう。」男が証文を見せる。

「どれ?」俺はその男から証文を引っ手繰って見る。

「何だ? 貴様!」その男が俺に詰め寄るが、俺は闘気を全開にして男に対応する。

「黙れ。」俺は男に言う。


「くっ!」男がその場で跪く。

「どれ?」俺はその証文を読む。

 

証文には、30日間無利子で100Gを貸し付ける。

 いつでも返済可能。

 担保はその家族。

 しかし、31日目には利子込みで返済額が300Gになり、払えなければ担保を差し押さえる。

 と書いてあった。


「おかみ、何でこんなものを借りたんだ?」俺はおかみに聞く。

「調理器具を新しくしたかったんだよ。」

「返せるあては有ったのか?」


「2週間後には耳を揃えて返しに行ったけど、のらりくらりと受け取りを拒否されたんだ。」

「はい、アウト。」俺は男に宣言し、証文をびりびりに破いた。


「貴様、そんな事をすれば呪いが発動するぞ。」男が言う。

「あぁ、俺には効かないから気にするな。」そう言いながら100Gが入った革袋を男に投げる。


「それを持って消えろ、今後この宿にちょっかいを掛けたら、俺がお前たちを消す。」俺が言う。


 事実、証文を破いた俺に呪いらしき物が発動したが無効化された。


「くそう、覚えていろよ。」そう言いながらその男と仲間が店を出ていく。


「いや、その言葉を聞いたら帰せないな。」俺はそう言いながらその男たちの前に走った。

「なぁ? いつの間に?」その男が狼狽える。

「答える義務はない。」俺はそう言いながらその男たちをボコボコに殴った。


「今後、この店に手を出せば、今度は死ぬ事になる。」俺は冷たく言う。


「解った。今後この店には一切手出しをしない。」その男が両手を上げながら言う。

「もし、手を出したら解っているな?」


「あぁ、身に染みた。」そう言いながら男達はびっこを引いて帰って言った。


「おかみ、悪かったな、チェックインを頼む。」俺はおかみに言う。

「チェックイン?」おかみが怪訝な顔をする。


「あれ、姉御がそう言っていたんだけど、違うのか?」俺は固まる。


「泊るんなら、この宿帳に書いておくれ、ってムサシさんか、前回と同じ部屋で良いかい?」おかみが言う。


「あぁ、一泊2食で900Bだったか?」俺が言う。

「今回はサービスするよ、特別サービスも付けるからね。」おかみが俺にウインクする。


「前回と同じ部屋だよ。」おかみが鍵をカウンターに置きながら言う。

「あぁ。」俺はそれを受け取って部屋に向かった。


「風呂に入ってくるか。」部屋に入って荷物を下ろした俺はそう言いながら風呂に向かった。


「ふいぃ~、生き返る。」俺は体を洗い湯船につかって言う。

「くふふ、私が浄化するのに。」ミロクが耳元で言うが無視だ。


 実態のある体で湯に浸かるのは正義だ。


 俺は四股を伸ばした。


 誰かが入ってきた。


「ん~?」俺はそいつを見た。


「ちょっと待て!」俺は声を上げる。

 そこには真っ裸のレモンがいた。


「何やっているんだ、今は俺が入浴中だ。」俺はレモンに言う。

「お母さんが、背中を流せって。」レモンが言う。


「あのアマ、後で粛清する。」俺は心に決めた。


「ふぇぇ、寒いから入っても良い?」レモンが言う。

「身体を洗ってから入れ。」俺はレモンに言う。

「うん。」


 レモンはもじもじしながらお湯に浸かってきた。

「あぁ、気持ち良い。」レモンは御湯に浸かってうっとりしている。


「恥ずかしくないのか?」俺はレモンに聞く。

「すごく恥ずかしいよ、でもムサシ様なら良いかなって。」

「はぁ、自重しろよ。」俺は溜め息をつく。


 結局俺はレモンに背中を流してもらった。


 そして、おかみに文句を言った。


「特別サービスだったんだけど。」

「身内を売るのはやめろ、次やったらもう来ないぞ。」

「解ったよ。」


 就寝前に俺は自分のレベルを確認した。


名前  :ムサシ。

 ジョブ :神の身代わり レベル138

 生命力 :731 一般成人男性の平均は15

 力   :840 一般成人男性の平均は10

 魔力  :1002 魔力適正者の平均は30

魔法適正:有り

 使用魔法:4大属性魔法 (火、水、地、風)、光、闇、時、空間、天、?

 スキル :剥ぐ者、統べる者 威圧 料理人 鑑定

 耐性  :炎無効 水及び氷無効 土魔法、大地魔法無効、風魔法、暴風魔法無効、毒無効、麻痺無効、精神障害無効、幻術無効、石化無効、汚染無効、即死無効、呪い無効、時魔法無効、睡眠耐性、飢餓耐性、排泄耐性、水分補給耐性、自然耐性(暑さ、寒さ、乾燥、湿度、雷) 


「成程、レベルが上がっているな。」俺は確認して眠りについた。


 夜中にレモンがベットに潜り込んで来たが、摘まみ出してドアに鍵を掛けた。


「おかみめ、俺の忠告を無視したな。」


 この宿にはもう来ないと俺は誓った。


 翌朝、おかみの指示ではないと知ったが、もう来ることはないと言って宿を後にした。

 レモンが泣いていたが知った事じゃない。


 俺は意外と冷たい男なんだと自覚した。


 翌朝、俺は北門の前でハコベさんと合流した。


「さて、目的の夢見の町へ向かいましょう。」ハコベさんの言葉に俺は頷き、馬車の屋根に乗った。


 ハコベの隊商が北の門から出発した。


 レモンがこっそり見送りに来ていたが、俺はガン無視した。


「本当に俺は冷たい男だな。」俺がぼそりと言う。

「くふふ、思いに応えてやれば良いじゃないか。」


「馬鹿言うな、第3王女を嫁にするんだぞ、リーンだけでも恐れ多いのに。」

「くふふ、リーンは別に結婚しなくても良いんじゃないかい?」

「え?」

「リーンが勝手に言っているだけだし。」


「でもそうしたら、俺は悪人じゃないの?」


「悪人だねぇ。」

「嫌だよ、そんなの。」


「くふふ、優しいねぇ。」

「ほっとけ。」俺は馬車の屋根の上で不貞腐れた。

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