ゴブリン
「さて、今日は宿屋に泊まって、明日早朝に見晴らしの村に出発するって事で良いですね?」俺はハコベに聞く。
「ほほほ、それで間違いございません。」
「では、宿屋に向かいましょう。」俺はそう言って馬車に乗ろうとした。
「待て、ムサシ。」ガキーンが俺を呼ぶ。
「なんだ?」俺は振り返る。
「まさかこのまま帰るってことはないだろうな。」ガキーンが言う。
「あぁ、そう言う事か。」俺はガキーンの前に行く。
「ん?」ガキーンが不思議な顔をする。
「これだろう。」俺はミロクからウイスキーを10本貰いそこに置く。
「いや、違うが、これはこれだ。」ガキーンが言う。
「ん?」
「いや、たまには差しで飲まないかと思ったんだが、これはこれで良いか。」ガキーンが言う。
「んじゃ、別の機会にな。」俺はそう言って店を出た。
「よろしいのですか?」ハコベが俺に聞いて来る。
「あぁ、大丈夫だ。」俺はガキーンがツンデレだと思って言う。
「はぁ?」ハコベが複雑そうな顔をする。
「さぁ、宿に行きましょう。」俺はそう言って馬車に乗った。
「では、明日6時に宿の前で。」俺はハコベに言う。
「はい、よろしくお願いいたします。」ハコベが頭を下げる。
*********
次の日、朝6時に北の門に行くと、ハコベの小隊が待っていた。
「今日もよろしくお願いします。」ハコベが頭を下げてくる。
「あぁ、よろしく頼む。」俺はそう言って、馬車の屋根に上った。
「くふふ、またお肉が取れると良いね。」ミロクが言って来る。
「そうだな。」俺は口元を揚げながら答えた。
「では、出発します。」ハコベの号令で馬車隊が動き始めた。
出発して数時間が過ぎた。
「良い天気だな。」暇な俺はぼそりと呟く。
「くふふ、そうだねぇ。」
「そろそろ襲撃無いかな?」
「くふふ、無いねぇ。」
「闘気は抑えているんだけどな。」
「くふふ、そうだねぇ。」
「ん?」俺はそれに気が付いた。
「くふふ、襲われているね。」
「ハコベさん。」俺は御者台にいるハコベに声をかけた。
「何でしょう? ムサシ様。」ハコベが俺に振り返って言う。
「馬車が襲われている。」俺は答える。
「おや、こんなに街に近いところでですか?」ハコベが驚いて言う。
「あぁ、護衛も頑張っているようだが、数が違いすぎるな。」
「おぉ、それは。」
「助けるか?」俺はハコベに聞く。
「当然でございます、ムサシ様。」ハコベがそう言ったので、俺は馬車から飛び降りてそこに走った。
「くそ、後から後から来やがって。」護衛の一人が言う。
「口じゃなく手を動かせ!」ゴブリンを切り裂きながら別の護衛が叫ぶ。
「ちぃ! 何でこんなにゴブリンが沸いているんだ!」さらに別の護衛も言う。
「気ぃ抜いてるんじゃないよ!」魔法を放ちながら女魔法使いが叫ぶ。
俺は5mまで近づいて声を掛けた。
「手伝いはいるか?」
「あぁ、頼む、礼はする!」護衛の一人が叫んでくる。
「ミロク。」
「くふふ、任せて。」ミロクが手を払うとそこにいたゴブリンが一瞬で息絶えた。
「な?」
「何をやったんだ?」
「信じられない。」
「危なかったな。」俺はにこやかに笑いながら馬車に近づく。
「助かった、俺は護衛のリーダーをしているノダタ・モブだ。」男がそう言いながら俺に握手を求める。
「くふふ、近くにゴブリンが村を作っているよ。」ミロクが言う。
「何?」俺はその言葉で身を固める。
「どうしたんだ?」俺に手を差し出した男が言って来る。
「近くに、ゴブリンが村を作っている。」俺は答える。
「なぁ? マジか!」モブが叫ぶ。
「どういたしました? ムサシ様。」戦いが終わった事を察知して、馬車で近づいてきたハコベが言う。
「ゴブリンが村を作っている。」俺はハコベに言う。
「なんと? それは町に帰って報告をしなければ。」ハコベが言う。
「モブと言ったか?」俺はモブに声をかける。
「あぁ。」
「悪いが、こっちの馬車も少しの間だけ護衛をしてくれないか? 報酬は周りに散らばっているゴブリンの魔石だ。」俺はモブに言う。
「あぁ、それは構わないが、どうするんだ?」モブが俺に聞いて来る。
「村を潰してくる。」
「はぁ? おい、ギルドや組合案件だぞ、ソロで対処するなんて。」そこまで行って、さっき俺がやった行為を思い出す。
「出来るのか?」モブが聞いて来る。
「やるさ。」俺はそう言って走り出す。
「くふふ、男前!」ミロクが茶化してくるが無視した。
「酷いな!」ミロクがぷんすかしているがさらに無視した。
「あれか。」俺はその村を見て言う。
「くふふ、ご立派に門番迄いるね。」ミロクが笑いながら言う。
俺は足元のこぶし大の石ころを拾って、門番に向かって投げた。
「ぶきゃ!」
「みぎゃ!」ゴブリンたちの頭を吹き飛ばしそこに近づく。
「いちいち相手をしていられないな。」
「くふふ、そうだね。」
「ミロクさん、殺っておしまい!」俺は何かの物語を真似して言う。
「くふふ、それ!」ミロクが手を振る。
ゴブリンたちの気配が消え、無い?
「くふふ、残ったね。」ミロクが言う。
「ほぉ。」俺は門を蹴破った。
無数のゴブリンが死んでいる。
俺は、その存在を感知しながら近づいて行った。
「今の攻撃は貴様がやったのか?」その存在が俺に言って来る。
「ほぉ、人語を話すゴブリンは珍しいな。」俺が答える。
「くふふ、ゴブリンキングだね。」ミロクが嬉しそうに言う。
「悪いが、人間に仇なす奴は駆逐する。」俺は天叢雲剣を抜きながら言う。
「がぁぁぁ! 一族の仇!」ゴブリンキングが大きな棍棒を振り上げながら、俺に向かって駆けてくる。
しかし、その攻撃は限りなく遅い。
俺は、棍棒の一撃を余裕をもって避け、そのままゴブリンキングの首を切った。
「くふふ、キングの魔石は取ろう。」ミロクが言う。
「あぁ。」俺はゴブリンキングの魔石を抜き取った。
「周り中塵になれ!」ミロクが周囲を塵にする。
「終わったで良いのか?」
「くふふ、まだ。」
「何だ?」
「ゴブリンに捕まって、苗床になった女性がいる。」
「うわぁ。」俺は嫌な顔をする。
「くふふ、助けてあげなよ。」ミロクが言う。
「ちょっと皆を連れてくる。」俺はそう言ってハコベの所に走った。
*********
「これは凄い事になっていますね。」村の惨状を見たハコベが言って来る。
「これ、本当にお前ひとりでやったのか?」モブが俺に聞いて来る。
「とりあえず、モブ。」俺はモブに言う。
「何だ?」
「この周りのゴブリンの魔石を報酬にするから、捕まっていた女性を保護して鍛冶の町まで連れて行ってくれないか?」
「いや、俺は雇われている身だからな。」モブが言う。
「良いではないですか。」モブの雇い主が言って来る。
「良いんですか?」モブが雇い主に聞く。
「ハコベ様の護衛の方のお申し出です、お受けするのが良いでしょう。」その男が言って来る。
「ほほほ、流石はオクレ殿。」ハコベはモブの雇い主を称賛する。
「何の、何の、ハコベ様のご威光です。」オクレが言う。
「何を見せられているんだろう?」俺はそう思うが、女性たちを救出することにした。
粗末な小屋の中に入る。
女性は6人いた。
うち3人はゴブリンを身ごもっている。
全員が死んだ目をしている。
「ミロク。」
「任せて。」ミロクが女性の腹に手を翳すとゴブリンの胎児は消滅した。
「最初に眠らせる。」俺はスリープの魔法を唱えて全員を眠らせる。
「で、次に記憶消去の魔法をかける。」そう言って記憶操作の魔法(闇魔法:メモーリフォールスィフィケイション)を発動した。
ゴブリンは苗床に3回生ませると食用にする性質がある。
3回生むのに必要な期間は3カ月。
だから、念のため5か月分の記憶を消した。
「そして、傷を治す光魔法、ヒールを唱える。」俺は全員にヒールを唱えた。
「最後に、変な病気になっていたら困るから。」俺はキュアの魔法を唱え彼女たちを浄化した。
「鑑定。」俺は6人を鑑定し全員が健康体であることを確認した。
「おぉ、流石は『神の身代わり』様です。」オクレが俺に膝まづく。
「はぁ。」俺は溜め息をつきながらオクレに右手を差し出す。
「?」オクレは俺の顔を見て?って顔をする。
「握って。」俺は事務的に言う。
「はぁ?」オクレが俺の右手に触れる。
「なぁ!」オクレが驚愕する。
「幸あれ。」ミロクが無駄に神々しく言う。
「みみみ、ミロク神様!」オクレはその場で平伏する。
「女性たちはほぼ裸なので、何か着衣を。」俺はオクレに言う。
「はい、畏まりました。」オクレは俺にも平伏して言う。
女性たちは記憶が混濁しているが、全員大丈夫だろう。
「ではな、モブ、後は頼んだぞ。」俺はモブにそう言った。
「任せておいてください。」モブが良い顔で言う。
「なんか、ムカつくな。」
「くふふ、まぁ、まぁ。」ミロクが俺をなだめる。
「さて、見晴らしの村に向かいましょう。」俺はハコベに言う。
「ほほほ、そうですな。」
ハコベの馬車隊は見晴らしの村に出発した。
後で確認したら、女性6人救出とゴブリン村討伐の報酬が振り込まれていた。
モブかオクレか知らないが有難い事だ。
余談になりますが、ミロク神が獲物を一瞬で倒す技は、某ダンジョン系ロープレの〇カニトという魔法を元ネタにしています。
塵にする方は神の御業と言う事で(笑)。




