ハコベの依頼
「ムサシ様、護衛をお願いしてもよろしいですか?」ハコベさんが組合にやってきて言う。
「勿論です。」俺は二つ返事で答える。
「夢見の町まで護衛をお願いします。」ハコベが言う。
「喜んで!」俺はにこやかに返す。
「おぉ、それはそれは。」ハコベさんは嬉しそうに答える。
「出発はいつですか?」俺が聞く。
「明日の朝6時に北の門の前で。」ハコベが言う。
「解った。」俺は答え、準備のために町に繰り出した。
「くふふ、必要なものがあるのかい?」ミロクが聞いて来る。
「あぁ、香辛料が少なくなってきた。」俺は答える。
「ふーん、んじゃ、香辛料の店に行くんだね?」ミロクが聞いて来る。
「あぁ。」俺は答える。
香辛料は普通に手に入ったので家に帰って寝た。
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翌朝、定時に北の門に行くと、ハコベさんが待っていた。
「ほほほ、今回もよろしくお絵が言いたします。」ハコベさんが俺に頭を下げてくる。
「早速出発しましょう。」俺はそう言いながら馬車の屋根に行く。
「おや、お連れの方は?」ハコベが周りを見回しながら言う。
「・・・、王都で死んだ。」俺はボソッと答える。
「そ、それは、し、失礼いたしました、お悔やみを申し上げます。」ハコベはばつが悪そうに言う。
「終わったことだ。」俺はぶっきらぼうに答えた。
出発して2日後、あの場所に着いた。
「ほほほ、灰色鼠では儲けさせて頂きました。」ハコベがホクホク顔で言う。
「良かったですね。」
「ほほほ、もう一回出ないかと少し期待しています。」
「思いっきりフラグじゃねーか!」俺が叫ぶ。
「灰色鼠が襲撃してきた!」御者が叫ぶ。
「マジで?」俺は疑問に思う。
「ほほほ、偶然があるものですね。」
「はぁ。」俺は溜め息をついて馬車を飛び降りる。
「数は、200匹ぐらいか。」俺は前と同じように、地魔法で灰色鼠の進路を変えるために、土の壁を作る。
「進む先には、深い穴。」俺は地魔法で、直径5m、深さ30m位の穴を作った。
「ははは、面白いように落ちていくな。」
「で、穴に熱湯を入れる!」
「くふふ、酷いことを。」
「む、ムサシ様、その灰色鼠をお譲りいただけますよね?」ハコベが聞いてくる。
「はぁ? 良いですよ。」
「おぉ、それはありがたい、また儲けられます。」ハコベはホクホク顔で言う。
俺は、穴の中で静かになった灰色鼠を魔法で持ち上げて、魔法で乾かし、ハコベの前に置いた。
「お前達。」ハコベが指示すると、
「はっ!」部下たちが、皮を剥ぎ始める。
「何度見ても見事なものだな。」俺は感心しながら言う。
「終わりました。」ハコベの部下が言う。
「ほほほ、ご苦労様です。」ハコベがニコニコしながら言う。
其処には、灰色鼠の皮を剥がれた物が残っていた。
「ミロク。」
「くふふ、解っているよ。」そこに有ったものが塵になる。
「ほほほ、お待たせしました、では、進みましょう。」馬車が進み始める。
程なくして鍛冶の町に着いた。
「がははは、身分を証明せい!」ドワーフの男が言って来る。
「こちらを。」ハコベは商業組合のカードを見せる。
「商人・ハコベ及び従業員6人か、通ってよし。」
「ありがとうございます。」そう言いながら、ハコベ達が門を通過する。
「次は、俺の番か。」そう言いながら、俺は組合のカードを見せる。
「げぇ、『神の身代わり』様ですか? どうぞお通り下さい。」ドワーフが言う。
「あぁ、ミロク。」俺はミロクに合図する。
「くふふ、これだろう。」ミロクはそれを俺に渡す。
「あぁ、お勤めご苦労様。」俺はそう言って、ウイスキーの瓶をドワーフに渡した。
「がははは、流石は『神の身代わり』様だ!」酒を受け取ったドワーフは、その場で蓋を開けてラッパ飲みした。
「ははは、前と同じだな。」俺は笑いながら門を潜った。
「宿は前と同じでよろしいですか?」ハコベが俺に聞いて来る。
「構いませんよ。」俺は答える。
「ほほほ、では宿に行く前に仕事を一つ片づけます。」ハコベはそう言いながら馬車をそこに向かわせる。
「なんだ、ガキーンの店か?」俺はその店を見て言う。
「ほほほ、国王様から頼まれまして。」ハコベがニコニコしながら言う。
「あぁ、そうか。」俺は察して言う。
「ごめん下さいませ。」ハコベが店先で奥に声をかける。
しかし返事はない。
「ははは、前と同じだな。」俺は苦笑いをする。
仕方なく俺も声を上げる。
「頼もう!」
「その声はムサシか?」ガキーンが奥から出てきた。
「おう、俺だ。」俺は答える。
「がはは、この間ぶりだなって、他にもいるのか?」ガキーンはハコベを見て言う。
「ほほほ、ガキーン様、お久しゅう。」ハコベはお辞儀をしながら言う。
「何の用だ?」ガキーンはハコベに言う。
「ほほほ、国王様から頼まれまして。」ハコベは書状をガキーンに渡しながら言う。
「例の奴か?」ガキーンは俺を見ながら言う。
「あぁ、そうじゃないか。」俺は答える。
「はぁ、受けてやるよ。」ガキーンは溜め息をつきながら言う。
「本当で御座いますか?」ハコベが目を見開いて言う。
「あぁ、ムサシに頼まれたからな。」ガキーンは俺を見ながら言う。
「ありがとうございます。」ハコベが俺たちに深々と礼をする。
「で?」ガキーンがハコベに言う。
「はい、お預かりしております、これ、お前たち。」ハコベが部下に言うと、部下たちは馬車からそれを持ってきた。
「ワイバーンの皮で御座います。」ハコベが言う。
「おい、書状にはムサシと同じ鎧をと書いてあるが、これだけじゃ足りないぞ。」ガキーンが言う。
「はい、前金として5000Gを用意しております。」ハコベが金貨の入った革袋を取り出す。
「いやいや、ムサシは魔石も用意したぞ。」ガキーンが言う。
「魔石ですか?」ハコベが固まる。
「あぁ、ワイバーンやらオークキングやら、色々渡したぞ。」俺は言う。
「魔石が無いと、付与は出来ねーぞ。」ガキーンが言う。
「俺が渡した魔石は?」俺はガキーンに聞く。
「売っぱらって、素材を買った。」
「そうか。」
「どういたしましょう。」ハコベがおろおろする。
「ガキーン。」俺が聞く。
「何だ?」
「魔石は、ダンジョン産でもいいのか?」
「別に問題ない。」ガキーンが言う。
「ハコベさん、俺がダンジョン産の魔石を提供しますから、それを国王に請求すれば良いのでは?」
「おぉ、ムサシ様、お申し出を感謝します。」ハコベが俺に土下座しそうになるので止めた。
「で、ガキーン。」
「何だ?」
「箱とかないか?」
「ん? これで良いか?」ガキーンが30cm四方の木箱を俺の前に置く。
「ミロク。」
「くふふ、また出番がないかと思ったよ。」そう言いながらその箱にダンジョン産の魔石を入れていく。
「なんと!」ハコベが驚愕する。
「おいおい、幾つ有るんだ?」ガキーンも固まる。
「おっとナーガの魔石は駄目だ。」俺はそれを取る。
「なんだよ、それが有ればムサシの鎧より良い物が出来るんだがな。」ガキーンが言う。
「尚更駄目だ。」俺はそれをミロクに渡す。
「くふふ、何で?」ミロクが聞いて来る。
「なんか悔しい。」
「くふふ、くふふ、もう。」ミロクが俺の頭を抱いて来る。
「何だよ?」
「くふふ、可愛い。」
「だぁ! で、どうだ?」俺はミロクを振りほどきながらガキーンに聞く。
「マスタークラスの魔石を12個だな。」ガキーンが言う。
「おぉ、お幾らほどに成りますか?」ハコベが聞いて来る。
「マスタークラスだぞ、1個2000Gは下らない。」ガキーンが言う。
「なんと、24000Gですか?」ハコベが再び驚愕する。
「ムサシ、お前ダンジョンを踏破したな。」ガキーンが言う。
「あぁ、この間な。」俺は答える。
「パーティーでか?」ガキーンが言う。
「一応?」俺は答える。
「なんだ、その疑問形?」ガキーンが言う。
「俺以外は、ポーターが二人だった。」俺が答える。
「それはソロと変わらねぇ」ガキーンが叫ぶ。
「そうなの?」俺は素で答える。
「マジかぁ、ムサシ、お前人外だな。」ガキーンが言う。
「ミロクによく言われる。」俺は答える。
「ははは、で、どうするハコベさん?」ガキーンがハコベに聞く。
「国王様に任されたので、当然お受けします。」ハコベが言う。
「任された。」ガキーンが請け負った。
「ハコベさん。」俺はハコベに聞く。
「何でしょう?」ハコベが俺に言う。
「今の話だと、俺の鎧は10000Gでは買えないような?」俺が言う。
「はい、見誤りました、ムサシ様の鎧は100000G以上の価値があります。」ハコベが言う。
「マジかぁ、脱いで置いておけないじゃん。」俺が言う。
「あぁ? ムサシ以外には装着できないぞ。」ガキーンが言う。
「マジで?」俺が聞く。
「最初に装着した者の魔力を登録するから、他の奴は装着不可能だ。」ガキーンが言う。
「そうなのか?」
「あぁ、子供に相続するなら、多分魔力が同じだから相続できると思うぞ。」ガキーンが言う。
「へぇ。」
「ほほほ、王族にも子孫に相続する鎧が出来ると言う事ですね。」ハコベが言う。
「あぁ、そうだな。」ガキーンが言う。
「ハハハ、良かったなハコベさん、国王の依頼を完遂できそうで。」俺が言う。
「先ほどから気になっていたのですが、国王様をファーストネームで呼び捨てとは如何なものかと?」ハコベが俺に言う。
「いや、国王がそう呼ばないと拗ねるんだ。」俺は答える。
「何と!」ハコベが驚愕する。(何度目だ?)
「今後、貴族の前でもそう呼ぶと思う。」俺が言う。
「ほほほ、ムサシ様と懇意にさせていただいて幸福です。」ハコベが首を垂れる。




