マンモス販売
俺は、ミロクが繋げたドアを通り、最初の村の家に潜る。
「お帰り、ムサシ。」シーナが俺に言う。
「あぁ、このままリーンの所に言って来る。」俺はシーナに答える。
「行ってら~。」シーナが無表情で答える。
「無表情はやめて、心に来る。」俺が言う。
「ふ~ん、善処するね。」シーナが真顔で言う。
「おぉ、頼む。」
「解った~。」
俺は、リーンのいる組合に向かった。
「リーン。」
「まぁ、旦那様、どうされました?」リーンが聞いてくる。
「マンモスを狩った。」俺は答える。
「はぁ?」リーンが固まる。
「ま、マンモスですか?」
「あぁ。」
「え~っと、本物をですか?」リーンが俺に聞いて来る。
「あぁ、端肉を食ったら美味かった。」俺は言う。
「なんと?」
「皮と肉を納品するぞ。」俺が言う。
「皮はオークションで、肉は・・。」
「どうした?」歯切れの悪いリーンに聞く。
「ここ数十年間、納品が無く・・。」リーンがぶつぶつ言う。
「うん。」
「昔の記録では、1Kgが1000Gと。」
「へっ?」俺は愕然とする。
「どうしました?」リーンが俺の顔を覗き込む。
「国王に100Kgあげちゃった。」
「あら~、それはご褒美が楽しみですね。」リーンがすまして言う。
「はぁ、済んだ事は良いや、それで、どのぐらい要る?」
「どの位需要が有るか解りませんので、告知をして注文を待ってからで良いですか?」
「あぁ、構わないぞ。」
「ありがとうございます。」
「そうだ、忘れる所だった。」
「まだ何か?」
「牙と脳味噌もある。」
「マンモスの牙は、武器に転用は出来ませんが、装飾品として人気です。」
「脳味噌は・・、これも昔の記録ですが、一つ10000Gで取引されたとか。」
「マジか。」
「どちらもオークションですね。」
「んじゃ、牙はここで切っていくよ、場所を貸してくれ。」
「どうぞこちらへ。」リーンが奥の解体所に案内してくれる。
俺は其処にマンモスの首を取り出すと、天叢雲剣で牙を根元から切り取った。
「ふわぁ~、初めて見ましたが、凄く大きいのですね。」リーンが興味津々で見てくる。
「皮もここに出すぞ。」俺はミロクから皮を貰いそこに置く。
「首はどうする?」俺はリーンに聞く。
「預かります。」リーンがそう言うと、マンモスの首がその場から消えた。
「ところで、お肉はどの位あるのですか?」リーンが聞いて来る。
「ん~、2000Kg以上かな?」俺は考えながら答える。
「そんなに、はっ、鼻は何処に?」リーンが詰め寄る。
「ミロクが美味しいっていうから、自分で食べようかなって。」俺が答える。
「マジですか?」リーンが更に詰め寄ってくる。
「勿論、リーンにも食べさせる。」俺はリーンの両肩を持って離しながら言う。
「絶対に、ですよ。」
「解ってるよ。」
「そうだ、少しだけ味見をするか。」俺がそう言うと、
「是非!」リーンが食いついた。
俺はミロクから比較的小さい肉塊を貰い、薄く何枚かを切り分けた。
そして、その場で火魔法で焼いて、塩を振りかける。
「ほれ、リーン。」俺は肉を摘まんでリーンの口に持っていく。
「パクリ!」リーンは躊躇なくそれを口に入れた。
「ふわぁ。」リーンが足から崩れ落ちる。
「だよなぁ。」俺もそれを口に入れる。
「ぐはぁ。」端肉では味わえなかった肉汁の旨味が襲ってきた。
「くふふ、私の分は?」ミロクが拗ねて言う。
「あぁ、ほれ、ミロク。」俺は肉を摘まんでミロクの口に持っていく。
「パクリ。」ミロクもそれを口に入れた。
「え? 肉が消えた。」リーンが目を見開く。
「あぁ、そうか、リーン手を。」俺はリーンに手を差し出す。
俺の手を持ったリーンが、目を見開く。
「ミロク神・・・。」リーンが呟く。
そこには、肉をもぐもぐと咀嚼する駄女神の姿が。
「残念だよ!」俺が叫ぶ。
「本当に、神の身代わりなんですね。」リーンが何かを納得して言う。
肉の美味さに我を忘れてのたうつ神様を見た感想がそれ?
「コホン、売れなかったら私たちで食べましょう。」リーンがニコニコしながら言う。
*********
「マンモス肉、部位選択不可、1kg 1000G」と書かれた看板を組合の前に掲げたところ、組合の前に長蛇の列が並んだ。
勿論、位の高い貴族の手の物だ。
初日は300kgが売れた。
二日目は、所在を聞き付けたよその町の貴族がやってきた。
約2000Kgの肉は、10日程で完売した。
俺の懐には、手数料を引かれた1999800Gが入ってきた。
「もうないのですか?」リーンが聞いて来る。
「いや、あと500Kgは残っているぞ、だがこれは自分用だ。」俺は宣言する。
「ふふふ、解ってます。」リーンがにっこりとほほ笑んだ。
「流石はリーンだ。」俺もほほ笑んだ。
*********
「げははは、見つけたぜ、ムサシぃ!」
「この間はよくもやってくれたな!」
「死んでもらうぞ。」
俺に絡んできたのは、シズカがいたときに絡んできた元のギルドメンバーだ。
「はぁ、性懲りもなく。」俺は溜め息をつく。
「げははは、女がいないな、愛想をつかされたのか?」
「前回はあの女にやられたからなぁ。」
「お前だけなら楽勝だ!」
そいつらが、俺に向かってきた。
「今回は手加減しないぞ。」俺が言う。
「ぎゃははは、最弱のくせに!」最初の男が剣を抜いて振りかぶる。
俺は振り下ろされた剣を奪い、腰の鞘も奪って剣を鞘に仕舞いミロクに渡す。
「悪いな、また剣をくれるのか。」俺はそう言いながらその男に拳を叩き込む。
「え? あれ? ぐぎゃぁ!」男の身体がくの字に曲がる。
手加減はしていない。
多分、内臓破裂だろう。
「この野郎!」もう一人の男も、短剣を抜いて俺に迫る。
「なんだ、毎回悪いな、でもこれが最後だな。」俺はその男から短剣を奪い、その男の腰にあった鞘も奪って短剣を収めてミロクに渡した。
「クフフ、預かるよ。」ミロクが嬉しそうだ。
「てい!」俺はその男の腹にも手加減なしの拳骨を叩き込む。
「ぐばぁ!」さっきの男と同じように、体をくの字に折りながら飛んで行った。
生きていたら良いな。俺は思う。
「この野郎。」最後に残った男も、馬鹿の一つ覚えで剣を片手に突っ込んできた。
「学習しろよ、まぁこれで最後だけどな。」俺は同じように武器を奪うと、全力で腹に拳を叩き込んだ。
「ひぎゃあ!」その男も吹っ飛んだ。
俺は、吹っ飛んだ男たちの処に行く。
「生きてるか?」俺が聞く。
「ぜはぁ、ぜはぁ。やってくれたな。」その中の一人が言う。
「お前ら、俺を舐めすぎだろう?」
「くそぉ、底辺の荷物持ちのくせに。」
「今の俺は、神の身代わりだ。」
「くそう、きっと敵を取る。」その男が言う。
「いや、これで終わりだ。」俺が言う。
「何だと?」その男が言う。
「全員、ここで死ね、ギルドカードは組合に届けてやるよ。」俺は笑いながら言う。
「貴様!」その男が叫ぶ。
「さようなら。」俺は其処にいた男たちに魔法を叩き込んだ。
「くふふ、殲滅完了。」ミロクが笑いながら言う。
「頼むから、俺をラスボスにしないでくれ。」
「くふふ、今更。」ミロクが笑う。
「よし、今後はミロクに食べ物を与えない事にしよう。」俺が呟く。
「酷くないかい!」ミロクが吠える。
「知らない。」俺はそれを無視した。
「ムサシ~。」
ミロクの叫びが響いた。
*********
オークションの結果、マンモスの皮は700G、マンモスの牙は1200Gで落札された。
落札したのはハコベさんだった。
一流商人凄いな。
それから数日、俺はまったりとした時間を過ごした。
マンモスの内蔵は、オークキングを超えた。
「かはぁ、これは駄目な奴だ。」俺は膝をつく。
「くふふ、これは駄目だね。」試食したミロクも同じように膝をついている。
「これは、誰かを籠絡するときに振舞おう。」俺が言う。
「くふふ、それが良いかもね。」
マンモスのモツはしばらく封印っと。
巷では、マンモスを狩るために、Aクラスのパーティーがレイド戦を仕掛けたと言う噂が流れた。
そのメンバーは壊滅したらしい。
「くふふ、ムサシは罪な男だね。」ミロクが笑う。
「ちょっと待てぃ、女性を泣かす以外にその言葉を使うなぁ!」俺は魂の叫びをあげる。




