かれぇ?
「ぶはぁぁぁ。」ファイアージャイアントが叫ぶ。
「ほぉ、流石に下級魔法じゃ、ダメージを与えられないか。」俺が言う。
「どこが下級魔法だ! 我の炎の半分を消しおって!」
「いま、俺が使ったのは『ウオーターボール』だぞ。」俺が言う。
「ウオーターボールだと?」ファイアージャイアントが叫ぶ。
「あぁ、ウオーターボールだ。」俺は答える。
「馬鹿なぁ、俺の炎を半分以上かき消す魔法が、下級魔法の『ウオーターボール』だと?」
「あぁ、信じられないか?」俺が言う。
「信じられん、だが、今は信じるしかないな。」弱々しい呼吸でファイアージャイアントが言う。
「とても苦しい、いっそ止めを刺してくれ。」ファイアージャイアントが言う。
「俺は、連れの神気を返してくれれば、お前を殺す必要はないんだ。」俺が言う。
「あぁ、神気を取り戻しに来たのか、それなら猶更俺を殺せ。」ファイアージャイアントが言う。
「ん?」
「神気は、俺の魂と同化している。」
「おぅ。」
「俺が死なないと、神気は解放されない。」
「あぁ。」
「俺は死んでも、生まれた火山で復活できる。」
「あぁ、納得した。」俺はウォータボールをファイアージャイアントに放つ。
「良い判断だ。」ファイアージャイアントが言う。
「くふふ、自我は残らないけどね。」ミロクがぼそっと言う。
「え?」俺はミロクを見るが、ウオーターボールは同時にファイアージャイアントに着弾した。
「くふふ、いっぱい戻ってきたよ。」ミロクが嬉しそうに言う。
「よかったな。」俺は冷たく言い放った。
*********
「む、ムサシ様、何をやっているのですか?」カロリーヌさんが聞いてくる。
「何って?」俺は答える。
「この刺激的な匂いは何ですか?」カロリーヌさんが言う。
「カレーを作っているんだが。」俺は答える。
「かれぇ? かれぇとは何ですか?」カロリーヌさんが迫ってきた。
「これ、カロリーヌよ、ムサシ様の邪魔をするな。」料理長が、俺とカロリーヌさんの間に入って言う。
「食べ物です、以上。」俺は切り捨てる。
「食べ物?」
「厨房を貸してほしいと、ムサシ様から言われてお貸ししたのだが、かれぇなる未知の料理を作っておられるのだ、私はメモを取るのに忙しいから、決して邪魔しないように。」料理長がカロリーヌさんにくぎを刺す。
「ぐぬぬ。」カロリーヌさんが淑女と思えない声を出す。
「まず、下ごしらえだ。」俺はそう言うと、オークのバラ肉、ニンジンン、ジャガイモ、玉ねぎをミロクから貰った。
「ジャガイモの皮をむいて、乱切りに。」
「ほぉ。」
「ニンジンは、洗って乱切りに。」
「皮は剥かないのですか?」料理長が聞いてくる。
「栄養たっぷりだからな。」
「成程。」
「玉ねぎは、2個をみじん切りにして、3個はスライスで。」俺はそれを淡々とこなしていく。
「オークのバラ肉も、一口大に切り。」
「ふむ。」料理長は熱心にメモを取る。
「さて、やるか。」俺はフライパンを取り出すと、油をひいて温め始める。
「最初に玉ねぎのみじん切りを炒める。」俺は玉ねぎのみじん切りをフライパンに入れた。
「じゅわぁぁぁぁ。」良い音を立てた。
「じっくりと玉ねぎを弱火で炒めるとあめ色に変わっていく。」俺はそれを実行する。
「ふむふむ。」
「良い色になったな。」俺は、そう言いながら火を止める。
「これは鍋に入れる。」俺はあめ色玉ねぎを鍋に入れる。
「次に同じフライパンで、オークのバラ肉を炒める。」
「肉から油が出るから、このままで良いな。」そう言いながら、オーク肉の表面を焼いていく。
オーク肉の表面が焼けたところで、ジャガイモ、玉ねぎのスライス、ニンジンもフライパンに入れて炒める。
ある程度火が通ったら,さっきあめ色玉ねぎを入れた鍋に移して、水を加えて煮る。
俺は灰汁を取りながら、中火で煮込む。
「暫く放っておくぞ。」灰汁を数回すくった俺は言う。
「はい。」料理長が答える。
「次だ。」俺は、料理カウンターの上に香辛料を取り出す。
俺はそこにある香辛料を小さじ1杯分ずつボールに入れていく。
「大蒜は摩り下ろして、小さじ4杯。」
「はい。」
「ターメリックは、小さじ6杯。」
「ほう。」
「で、カイエンペッパーは小匙半分で。」俺は作業を進める。
「ほう、なぜですか?」料理長がカイエンペッパーの量を疑問に思って聞いてくる。
「辛いからな。」
「おぉ、そうなのですか。」
「その辛さが病みつきになるんだがな。」フライパンを火にかける。
俺は温まったフライパンに、調合したスパイスを入れた。
「弱火で炒める。」そう言いながら、フライパンの中身を弱火で炒めていく。
徐々に漂い始めるカレーの匂い。
「おぉ、食欲をそそる匂いが。」料理長がメモを取りながら涎をすする。
「食欲をそそる匂いです。」カロリーヌさんがうっとりと言う。
「良い匂いが。」
「お腹がすく匂いが。」メイド達がわらわらと厨房に集まってくる。
「さて出来上がったカレーの元は、皿に出して冷やす。」俺はカレーの元をフライパンから皿に出してスプーンで平らにした。
「さて次の工程だ、っとその前に忘れていた。」俺はカバンから俺が自作した出汁パックを取り出してコトコトに込んでいる鍋に入れた。
「それは?」料理長が聞いてくる。
「俺が自作した出汁パックだ。」
「出汁パック?」料理長が復唱する。
「あぁ、俺がギルド時代に自作した、乾燥シイタケや、昆布、乾燥トマト、出汁ジャコを細かく砕いたものをガーゼに入れた。」
「おぉ、出汁の良い匂いが。」料理長が熱心にメモする。
「さて、ルウを作るか。」そう言いながら、俺はフライパンに油をひき、小麦粉を大匙8入れて弱火できつね色になるまで炒める。
「いい具合になってきたな。」俺はそう言うと、皿のカレーの元を大匙4杯フライパンに入れる。
「で、さっきの鍋から少し煮汁を取り出して、ここに投入。」俺は煮汁を大匙2杯ほどフライパンに入れる。
「おぉ、良い具合になったな。」俺はフライパンを見て言う。
「これを、煮ている鍋に投入する。」そう言いながら、フライパンの中身を鍋に入れる。
俺は、弱火にして煮込み始めた。
しばらくすると、鍋がぐつぐつと泡立つ。
「しばらく煮込む。」
「おぉ、良い匂いが漂っています。」料理長がうっとりとしている。
「さてその間に、ご飯の用意だ。」俺が米を出そうとすると、料理長が待ったをかけた。
「米なら炊いてあります。」
「そうか、ではそれを使わせてもらおうか。」
「はい、どうぞ。」
「深めの皿ってありますか?」俺は料理長に聞く。
「ございますよ、何枚必要ですか?」
「え~っと、人数分ですかね?」俺は厨房のドアにたむろしている者たちを見ながら言う。
*********
「え~っと、カロリーヌさん。」俺はカロリーヌさんに呼び掛けた。
「はい何でしょうか?」カロリーヌさんが小首をかしげて聞いてくる。
「人数分のコップと、お水を用意してもらえますか?」
「はい、承りました。」カロリーヌさんが用意をしに行く。
「さて、どうなったかな?」俺はカレーの鍋の所に行き、お玉でカレーをすくい、小皿に移して味見をする。
「よし!」俺は小さくガッツポーズを決めた。
「深めの皿に、ご飯を入れて、カレーをかける。」俺はそれを実演する。
「で、福神漬けとラッキョウをお好みの量乗せて完成。」俺は其処に用意した福神漬けとラッキョウをスプーンでさらによそった
「お~。」皆が拍手をする。
「アイラさん、皆さんの分を作ってくれますか?」
「はいよ。」アイラさんが元気に答えてくれる。
「お水も用意できました。」カロリーヌさんが言う。
「ありがとうございます。」俺は礼を言って席に着く。
やがて全員の分が用意できたので、それぞれ自分の分を持って席に着いた。
「いただきます。」俺はそう言ってカレーをスプーンですくって口に入れる。
「かは、美味いなぁ。」俺はそう言いながら何度も口に入れる。
「おぉぉ、これは、美味い。」料理長が涙を流す。
「は、初めての味です。」
「これは美味しい。」
「うはぁ。」
「何ですか、これは。」
「ウマ~。」
「お口に合ってよかったです。」俺は水を飲みながら言う。
「くふふ、くふふ、ひどい飯テロだ。」ミロクがぶうたれる。
「ムサシ様、このような料理を一体どこで?」料理長が聞いてくる。
「ギルド時代に姉御に教えてもらった、このカレーだけじゃなく、唐揚げや、すき焼き、てんぷらなんかもな。」俺は笑いながら答える。
「てんぷら?」料理長が反応した。
「ん?」
「てんぷらとは、どのような料理ですか?」料理長がカレー臭い息を吐きながら俺に詰め寄る。
「あぁ、海老や、烏賊、シイタケ、カボチャ、レンコン、ナス、サツマイモ、紫蘇なんかを、小麦粉を荒く溶いた液につけて油で揚げるんだ。」俺は答える。
「なんと。」
「それを、天つゆや、塩で食べるんだ。」
「じゅるり。」カロリーヌさんが変な音を出す。
「今すぐ、作りましょう。」料理長が言うが。
「材料がないですね。」俺はあっけらかんと答える。
「ぐぬぬ、アイラさん。」料理長がアイラを見て言う。
「何です?」アイラがカレーを食べながら答える。
「聞きましたね、材料を揃えてください。」料理長が言う。
「ほーい。」アイラが答える。
「あぁ、鰹節が有ったら、天つゆも作り方を教えますよ。」俺の言葉に料理長が反応する。
「何ですかそれは?」料理長が言う。
「あれ? 普通に売ってますよ。」俺が言う。
「アイラさん。」
「ほーい、解りましたぁ。」
「まさかギルド時代に姉御が教えてくれた事がこんなに役に立つとはね。」俺は思う。
「姉御様様だな。」
*********
「へくち!」
「どうしたんだい、エリス?」仲間の女冒険者が聞いてくる。
「あぁ、誰かがあたいの噂でもしてるのかねぇ。」
「ははは、そうかもな。」
(ムサシだったら嬉しいねぇ。)エリスは思う。




