ジャイアント
「何を隠しているんですか?」俺はカロリーヌさんに詰め寄る。
「近い、近いです。」カロリーヌさんが言う。
「2階も人の唇を奪っておいて、それを言いますか?」俺が言う。
「むぅ。」カロリーヌさんが下を向いて、上目遣いで俺を睨む。
「オークのもつ煮を、皆で競い合っていたんです。」カロリーヌさんが頬を膨らまして言う。
「なんだ、それなら料理長の一強でしょう?」俺が言う。
「そうでもないんです、料理長はモツの掃除が苦手みたいで。」カロリーヌさんが悪い顔で言う。
「ふ~ん。」
「興味なさそうですね?」カロリーヌさんが言う。
「俺も参加しますよ。」そう言いながら、この間作ったオークのもつ煮を取り出す。
「オークキングは狡いです。」カロリーヌさんが抗議するが、
「正真正銘の、オークのモツ煮ですよ。」俺が言う。
「これは。」カロリーヌさんが俺のもつ煮を食べて固まる。
「どうしたのだ、カロリーヌ。」
「何があったの?」
「我らの戦いの最中だぞ。」
「主のもつ煮がどうしたと言うのだ?」
メイド達が、わらわらと集まって来た。
「なんだよ、このバトルジャンキー共!」俺が思う。
「皆、これを食べてみてください。」カロリーヌが、俺の作ったオークのもつ煮をそこに差し出す。
「どれ?」
「貰おう。」
「ふむ。」
「いただきます。」メイド達が俺のもつ煮を食べる。
「「「「ふをぉ!」」」」メイド達が奇声を上げた。
「オークキングは狡いです。」メイドの一人が言う。
「いえ、本当にオークだと言う事です。」カロリーヌさんが言う。
「信用できないなら、オークキングのモツ煮も出してやるよ。」俺はそれをそこに取り出す。
「どれ?」オークキングのモツ煮をメイドの一人が口にする。
「あぁぁ、これぞオークキングのモツ煮です。」メイドが悶絶する。
「では、本当に、ただのオークのモツ煮?」メイドが驚愕する。
「掃除の仕方と、味付けだな。」俺はそう言って部屋に戻ろうとしたが、戻れなかった。
「何だよ?」俺は俺の手を持ったメイドに言う。
「是非ご指南ください。」そのメイドがニカって笑いながら言う。
「勝負しているんだろう?」俺が言う。
「美味しいものを食べることこそ至福。」そのメイドが言う。
「はぁ、それで良いの?」俺がそのメイドに聞く。
「ははは、今回やっていたのはただの戯言、ご主人様の技術が私たち以上なら、それを盗んでこその本望。」
「何言ってるんだお前。」俺は冷たい目で、目の前のメイドを見る。
「私はアイラという、お見知りおきを。」アイラを名乗ったメイドが首を垂れる。
俺は面倒くさそうと思って、カロリーヌさんを見る。
カロリーヌさんは、やれやれって顔で両手を上げる。
「うわぁ、丸投げかよ。」俺は溜め息をつく。
「カロリーヌさんに、全部教えましたけど。」俺は言う。
「カロリーヌはそれをうろ覚えなんだよ。」アイラが言う。
「はぁ?」
「ほほほ。」カロリーヌが笑いながらそっぽを向く。
「うわぁ、駄メイド。」俺はつぶやく。
「酷いです。」カロリーヌさんが迫ってくるが、アイラさんが阻止してくれた。
「はぁ~。」俺は深いため息をつく。
「解りました、俺の技を伝授します。」俺が宣言する。
「本当ですか?」アイラさん以下、料理長迄目を輝かせる。
「はぁ~。」俺は2回目のため息をついた。
**********
俺はオークの腸をミロクから貰い、説明を始める。
「腸全体を30cm位に切って、縦に半分にして、流水で洗う。」俺はそれを実行する。
「更に、小麦粉を腸の内側に振りかけて、丁寧にヒダの間を洗っていく。」
5分ほど揉み洗いをして、水で流して臭いをかぐ。
「うん、臭みは消えているな。」そう言うと、残りの腸も同じように小麦粉を振りかけて洗っていく。
「最後に食べやすい大きさに切って、一度下茹でする。」俺は台所に行き、ミロクに持ってもらっていた大鍋に水を張って、オークの腸を入れる。
そして、ネギの青いところ、生姜を大量に入れ、砂糖もこれでもかと入れて煮始める。
**********
一刻程煮たらモツ以外を捨てて、酒、砂糖、味醂、醤油、生姜を適量入れて、水をひたひたにになるまで入れて煮る。
「最後に、味噌と葱の白い所を入れて煮れば完成だ。」俺はそれを実演した。
「ほををを、小麦粉を使って掃除をする、初めて知りました。」料理長が五月蠅い。
「成程ねぇ、最初に醤油で煮て、最後で味噌で風味をつける。」アイラさんが呟く。
「最後に入れた葱が、味の棘を消してくれて円やかになるんです。」俺が説明する。
「成程なぁ、主様は物知りなんだな。」アイラさんが言う。
「ははは、俺の知識じゃないです、元のギルドにいた姉御から教わったんです。」俺は恐縮しながら言う。
「何を言う主様、人に教わった知識を、更に人に教えられるならそれは主様の知識だ。」アイラさんが鼻息を荒わげながら言う。
「そう言うもんですかね?」俺は問う。
「少なくとも私はそう思う。」アイラさんが言う。
「成程、納得しておきます。」俺はそう言ってアイラさんに答える。
「と、言うことで、実践してください。」俺が宣言する。
「やってやるぜ!」アイラさんが叫ぶ。
「一切理解した!」
「解ったぜ!」
「疑問は解けた!」
「ふははは、理解した!」
「目から鱗です。」
料理長以下、メイド達が一斉にオークのモツを処理し始めた。
「俺はもういらないよね。」そう言いながらその場を去ろうとしたら、アイラさんに腕を掴まれた。
「何で?」俺が聞く。
「審査員が必要でしょう?」アイラさんが良い笑顔で言う。
「知らんがな。」俺が叫ぶが、逃げられなかった。
*********
勝負の結果は、料理長の勝ちだった、伊達に料理長を名乗っていなかった。
「がははは、絡繰り(料理法)さえ解れば私の物だ!」料理長が吠える。
「はぁ、良かったですね。」俺はそう言いながら部屋に戻った。
*********
「くふふ、ムサシ、王国の傍にもう一匹いたよ。」ミロクが嬉しそうに言う。
「おぉ、そうか、良かったな。」俺は答える。
「くふふ、東の門から2日行った処に、『ファイアージャイアント』がいるみたい。」
「ファイアージャイアント?」俺が聞き返す。
「あぁ、炎の魔人だよ。」ミロクが答える。
「へぇ。」
「感動が薄いね。」ミロクが口を尖らせる。
「炎無効の俺が、水魔法や氷魔法で対処すれば一瞬だよな。」
「それはそうだけど。」ミロクがぶうたれる。
「一応、最強の巨人なんだよ。」
「へぇ。」
「感動薄いな!」ミロクが吠える。
「瞬殺の予感しかない。」俺は冷たく答える。
「それもそうか、でも物語的になんか欲しいよね。」ミロクが意味不明な事を呟く。
「?」俺はミロクを見て疑問に思う。
「何を言っているんだ?」俺はミロクに聞く。
「あははは、気にしなくていいよ。」ミロクが何かをごまかす。
「そうか。」俺はそれを受け流した。
「んで、東の門から出れば良いんだな?」俺はそう言いながら、東の門に向かった。
「この門から出るのは良いが、1日程行った処にある森には入るなよ。」門番が言う。
「振りか?」俺が聞く。
「マジでヤバいんだ、そこに言った冒険者は全員炭になったんだ!」門番が叫ぶ。
「そうか、気を付けるよ。」俺はそう言いながら森に走った。
二時間ほどでその森に着いた。
「くふふ、いるね。」
「おぅ、俺にも解る、凄いプレッシャーだ。」
「くふふ。」
「森の奥に行けばいいんだな。」
「くふふ、そうだね。」
俺は、そこに向かった。
*********
「そこの下郎、そこで止まれ。」ファイアージャイアントが俺に言う。
「はぁ、俺に言っているのか?」俺はファイアージャイアントに問う。
「我に疑問を問うか? 下郎の分際で!」ファイアージャイアントが言う。
「お前、俺のスキルやレベルが解るか?」俺が問う。
「知らん。」ファイアージャイアントが言う。
「はぁぁ。」俺は溜め息をつく。
「なぁ。」俺はファイアージャイアントに聞く。
「なんだ?」
「レベル差が解らないのは不幸だな。」俺が言う。
「何を言っているんだ?」ファイアージャイアントが言う、
「俺のレベルは、お前の20倍だ。」俺が言う。
「な!」ファイアージャイアントが狼狽えて言う。
「人間風情が有りえん!」
「んじゃ、試すか?」俺はそう言うと一歩前に出た。
「下がれ、下郎!」ファイアージャイアントが業火の魔法を俺に放つ。
「盾!」俺は防御の下級魔法を唱える。
ファイアージャイアントが唱えた業火は俺の魔法で無効になった。
「馬鹿なぁ!」ファイアージャイアントが叫ぶ。
「はぁ、んじゃこっちから行くぞ。」俺が宣言する。
「何だと」ファイアージャイアントが狼狽える。
「ウオーターボール!」俺は水魔法の下級魔法を唱える。
ウオーターボールは、下級とは思えない速さでファイアージャイアントに飛んでいく。
「ズバン!」大きな音とともに、その魔法がファイアージャイアントに当たる。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!」ファイアージャイアントが叫びを上げる。
ファイアージャイアントの体の半分の炎が消えていた。
「はぁ、罪悪感。」
「くふふ、気にしなくていいよ。」
「そうか。」俺はミロクの言葉に安心した。




