ワイバーン料理
「はぁ、中々のお肉を納品できそうだな。」俺はホクホクしながら言う。
「くふふ、ちゃんと自分の食べる分は確保しないと駄目だよ。」ミロクが言う。
「ははは、当然だろう。」俺は良い顔でミロクに言う。
王都への帰還中、オークを始めとした、美味しいお肉を狩りながらミロクに答える。
「しかし、あまり珍しいお肉はいないな。」俺は残念そうに言う。
「くふふ、コカトリスや、金鶏を普通扱いする君が凄いよ。」ミロクが呆れて言う。
「だって、走ってれば普通に狩れるじゃん。」俺が答える。
「くふふ、どれもAランクのパーティーが何日かかけて狩る獲物だよ。」
「へぇ~。」
「ムサシ、何か、色々壊れているね?」ミロクが言う。
「え? そうかな?」俺はミロクに聞く。
「くふふ、くふふ。」ミロクは答えてくれなかった。
「?」
**********
走っていたら、ワイバーンが上空を飛んでいるのに気が付いた。
「おっ、ワイバーンだ。」
「くふふ、そうだね。」
「国王のお土産に狩ろう。」
「え?」
「ムサシ、何を言っているんだい?」
俺は、ミロクを無視して、近くにあった俺の頭位の大きさの岩を手に持った。
「てい!」俺は、それをワイバーンの頭目掛けて投げた。
「ぐぎゃぁぁぁ。」それは見事にワイバーンの頭に当たり、頭を無くしたワイバーンが落ちて来た。
「おっと、叩きつけられると、値段が下がるな。」俺はそう言いながらワイバーンを受け止めた。
「くふふ、ムサシ、人外になって来たね。」ミロクが若干引きながら言う。
「普通だろ?」俺はそう答える。
「くふふ、落下してきた推定400Kgの物を受け止めるのが普通? くふふ、くふふ。」ミロクがくねくねしながら言う。
「んで、これは前と同じで良いんだろ?」俺が聞く。
「何が?」ミロクが答える。
「解体。」
「あぁ、そうだね。」
「んで、思ったんだが。」俺が言う。
「なに?」ミロクが答える。
「ワイバーンの内蔵も食えないかな?」
「あ?」ミロクが固まる。
「どうかな?」俺が重ねて問う。
「試した事無いや。」ミロクが言う。
「んじゃ、試そう。」俺はワイバーンを解体する。
「まず、全体の皮を剥いでいく。」俺はそれを実行し、すべてミロクに持って貰う。
「次に、心臓横の魔石を抜く。」俺は同じように実行してミロクに魔石を渡す。
そして、翼の膜を丁寧に切り取って、ミロクに持って貰う。
「そう言えば、バジリスクの目は珍味だったけど、ワイバーンの目はどうなんだろう?」
「くふふ、誰も食べた事が無いね。」ミロクが言う。
「んじゃ、これも持って行こう。」俺は、ワイバーンの目を切り取ってミロクに持って貰う。
「よく見たら、ワイバーンって、色々な肉があるよな。」俺がワイバーンを見て言う。
「くふふ、前回は胸肉だけ持って行ったからね。」
「成程、んじゃ、納品はしないけど、自分用のお肉を切り分けようか。」俺は言う。
「まず、首の所、鶏で言うせせり肉。」俺はそれを切り出す。
「くふふ、初めての経験だよ。」ミロクが楽しそうだ。
「そして、前回と同じ胸肉。」俺はそれを切り出す。
「くふふ。」
「そして、前回は見逃したバラ肉ともも肉!」俺はそれを切り分ける。
「くふふ。」
「最後に、手と足。」俺はそれを切り出した。
「くふふ、持つよ。」ミロクがそれを持ってくれた。
「其れとモツ。」
其れもミロクが持ってくれた。
「ふぅ、こんなもんか。」俺は額の汗を拭きながら言う。
「ミロク。」
「うん、塵になれ!」ミロクの言葉でワイバーンの残骸が塵になる。
んで、組合に納品する前に色々試す事にした。
「まず、ワイバーンの目だ。」
「くふふ、バジリスクの目と違って、殻が薄いね。」ミロクが言う。
「そうだな。」俺はそう言いながら、ワイバーンの目を、生姜と葱の青い処と煮こぼす。
「うげぇ。」俺はえずく。
「酷い匂いだ。」俺はワイバーンの目を煮ていた鍋の中身を捨てた。
「くふふ、失敗っと。」
「次だ!」俺はワイバーンの首肉を切り取って、フライパンに油をひいて炒める。
「じゅわ~。」ワイバーンの首肉から良い匂いが漂う。
良い焦げ色が付いた肉を俺は口に入れる。
「ぐ!」噛み切れないほど固い。
「これは、煮込み料理用だな。」俺が言う。
俺は、ワイバーンの首肉を生姜と大蒜、砂糖を入れた鍋に入れ、空間魔法と時魔法を使って圧力鍋で1日煮た状態にする。
「どれ?」俺はそれを口にする。
「おぉ、良い歯ごたえだ、これを甘辛く煮つければ至極の一品になるな。」俺が言う。
「くふふ、今まで損をしてきたことを実感するよ。」
「なに、これから取り戻せばいいんだ。」俺はミロクに言う。
「くふふ。」
「手と足も、トロルと同じ料理法が合うんじゃないか?」俺が言う。
「そうかもね。」
「帰ったら、国王の料理番に丸投げしよう。」
「くふふ。」
「そして、バラ肉ともも肉か。」俺はそれを前にして唸る。
「脂身が凄そうだな。」
「くふふ、そうでもないかも。」
俺は、もも肉を削いでフライパンで炒める。
「じゅわ~。」良い音を上げて肉が焼けていく。
「どれ?」俺はその肉に塩と胡椒を振りかけて口に入れる。
「ふわぁ!」俺は肉汁の美味さに声を上げる。
「今までのお肉が勿体無い!」俺はその場で膝を着いた。
「まさかと思うが、バラ肉も同じか?」俺はそう思いながら、バラ肉を削いでフライパンに入れる。
「じゅわ~。」やっぱり良い音がする。
俺はそれを口にして、同じように膝を着く。
「何だよ、この美味しい物!」俺は、自分の見識の甘さを痛感する。
「ワイバーンのお肉の評価低すぎる!」俺が口にする。
「本当だね、今までどれだけ損をしてきたのか。」ミロクが言う。
「俺以外に、単独でワイバーンを狩れる奴がいたのか?」俺がミロクに聞く。
「いなかったよ。」
「んじゃ、提供できなかったから、知らなかったで良いじゃん。」
「くふふ、そうだね。」
「これを王様に提供したら、革命が起きるんじゃね?」俺が言う。
「革命は起きないけど、組合で騒ぎは起きるかな?」
「やっぱり、ワイバーンを狩れる奴がいたって事だよな?」俺が言う。
{単独では無理だったけど、パーティーでなら狩れるかもね。」ミロクが言う。
「はぁ、面倒くさそうなので、全部パス。」俺が言う。
「くふふ、見逃してくれればいいねぇ。」ミロクが言う。
「フラグかよ!」俺が言う。
**********
「ムサシ殿、ワイバーンの肉の新しい食べ方をお教えいただけるのか?」国王が言う。
「はい、今まで捨てていた部分を美味しく食べる料理法です。」俺が答える。
「何と?」
「そんな事が?」貴族連中が五月蠅い。
「では、ワイバーンの首肉の煮込みを提供しましょう。」俺は内心でほほ笑みながら言う。
「ほほほ、楽しみですな。」国王が言う。
俺は、魔法で調理したワイバーンの首肉料理を提供する。
「おぉ、では。」国王がそれを口にして固まる。
「国王様?」宰相が国王に声を掛ける。
「ほほほ、恐悦至極。」国王が呆ける。
「おぉ、国王様が呆けた。」
「それ程の物が?」周りにいた貴族がそれを口にする。
「はぅ!」
「何と!」複数の貴族が固まった。
「すべて、組合に報告してありますので、そちらでご確認ください。」俺は面倒な事を組合に丸投げした。
「そして、今まで組合に提供していたのは、ワイバーンの胸肉だけでした。」俺が言う。
「何と?」
「どういう事だ?」貴族連中が騒ぐ。
「今回は、ワイバーンのモモ肉とバラ肉を提供します。」俺が高らかに宣言する。
「さぁ、ご堪能下さい。」俺の言葉でメイド達がその肉を提供する。
「おぉぉ、これが?」国王がその肉をフォークで口に入れる。
「むほぉ!」国王が膝から崩れる。
「はぅう!」
「むはぁ!」
「ふひぃ!」食べた貴族たちが国王と同じようにその場で崩れていく。
「む、ムサシ様。」国王が俺に声を掛ける。
「ん?」俺は国王に答える。
「このような、物があったのですね?」国王が言う。
「あぁ、俺も初めて知ったよ。」俺はニカっと笑いながら言う。
「流石は、ムサシ様です。」国王が涙を流しながら言う。
「いや、偶然だよ。」俺は答える。
「皆の者、良い機会だから宣言する。」国王が周りの貴族達に言う。
「此処にいる、ムサシ殿に公爵の地位を陞爵し、我が娘カリナとの婚約をこの場で発表する!」
「おぉ、それはめでたい。」
「国王様のご慧眼に感服いたします。」
「ははは、私は解っていました。」
大多数の貴族は、好意的に受け入れてくれたようだ。
「ちっ、新参者のどこの馬の骨とも判らぬ男が公爵だと。」
「むぅ、カリナ嬢は俺の嫁こそが相応しい。」
「たかがワイバーンの食い方だけでその扱いか!」
その他の反対意見の貴族がいるようだ。
「くふふ、君に悪意を向ける者達を記憶したよ。」ミロクが良い顔で言う。
「直接仕掛けてこない限り、穏便にな。」俺が言う。
「くふふ、解ったよ。」
食べてみたいな。




