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南の森で

 次の日、俺は朝から南門に向かった。


「この門を出るのは良いが、半日ほど行った森には入るなよ。」門番が言う。

「何でだ?」


「やばい魔物が巣くっているんだ。」門番が教えてくれる。

「何が?」


「あぁ、ラージトレントって言う、木の化け物さ。」門番が言う。

「ラージトレント?」

「あぁ、ツルで動きを封じて、その後養分として吸われるんだ。」門番が言う。

「最悪だな。」


「あぁ、だから絶対に行くなよ。」門番の男が俺に言う。

「北の門でも言われたが、振りか?」俺が聞く。


「冗談で言ってるんじゃない、マジで言ってるんだ。」門番の男が言う。


「あぁ、ありがとう、俺が解決してくるよ。」俺はニカっと笑って答え、森に向かって走る。

「おい! 止めとけ! って、もう聞こえないか。」門番の男は、走り去る俺を見てため息をつく。


「無事なら良いけどな。」門番の男が言う。


**********


「此処が南の森か?」俺は森の前で言う。

「くふふ、森全体が敵のようだね?」ミロクが言う。


「え?」


「くふふ、ラージトレントの根が森の中に張り巡らされているね。」

「何だよ、其れ。」

「くふふ、森に入らない方が良いね。」


「だったら、どうやって倒すんだ?」

「くふふ、相手は木の化け物だよ。」ミロクが言う。


「あぁ、そうか。」

「くふふ、燃やしちゃえ。」

「其れで良いのか?」


「問題ない。」

「よし、んじゃ、インフェルノ!」俺は炎系の魔法の上位魔法を唱える。


(唱えてから気づいた、森に人がいたらアウトじゃん。)

「くふふ、森には誰もいなかったよ。」ミロクが目を逸らしながら言う。


「ラージトレントに吸われた奴は?」俺はミロクに聞く。

「遺骨になった?」ミロクが言う


「あぁ、死んでいたんだな。」俺はそう納得することにした。


 火は1時間ほどで鎮火させた。


「死んだのかな?」

「くふふ、それがフラグ。」

 生き残った根が再生して襲って来た。


「うをぉ、死んでなかった?」

「くふふ、根が生き残ったみたいだね。」


「つまり、土の中まで討伐するんだな。」

「くふふ、正解!」


「ふぅ。」俺は深呼をする。


「んじゃ、この辺り一帯を殲滅する!」

「くふふ、やっちゃえ!」


「エクスプロージョン!」俺は、爆炎系の上級呪文を唱える。


「ドバ~ン!」森の有った処が爆裂魔法で消滅する。


「ぐぎゃぁぁぁ。」ラージトレントの悲鳴が聞こえる。


**********


「討伐できたのかな?」俺が思う。


「くふふ、いっぱい戻って来たよ。」ミロクが恍惚の表情で言う。

「あっ、そう。」俺は答えて森に入る。


**********


「残っていたか。」俺はそう思いながら、ラージトレントの魔石を拾う。


 気が付くと、周りに十数枚のギルドカードが落ちていた。


 俺はそれを拾い集めた。


「この森を再生しないとな。」俺は言う。

「くふふ、放って置いても良いと思うけど。」


「あぁ、それだと、冒険者が食い扶持を失うだろう。」

「くふふ、君は聖人かい?」ミロクが聞いてくる。


「俺は、神の身代わりだ。」そう言いながら、土魔法で削られた土地を再生していく。


そして、『グロウ』の魔法で、木々を再生していく。


「うっぷ、魔力が吸われる。」

「くふふ、森の再生なんかをすれば、そうなるよ。」


「もう少しなんだよ。」

「くふふ、仕方がないねぇ、私が協力してあげるよ。」そう言ってミロクが俺に魔力を供給した。


「おぉぉ、これは凄い!」

「くふふ、私を敬え~。」ミロクが小さい胸を張る。


「あぁ、ミロク、ありがとうな。」俺はミロクを抱きしめる。

「ひ!」ミロクが固まる。

「あれ?」俺は疑問に思う。

「何で、実体がないミロクを抱けるんだろう?」俺が言う。

「だいぶ神気が戻って来たからね、もうすぐ抱かせてあげられるよ。」

「てい!」俺はミロクの腹に拳骨を叩き込む。


「ふぎゅ!」


「寝かせてくれ。」俺はそう言って森の中で眠りについた。


**********


「あぁ、気持ちの良い朝だ。」俺は起き上がって言う。

「ねえ、最近、私の扱いが更に酷くなってない?」ミロクが涙目で言って来る。


「そんなことは無いぞ、普通だぞ。」俺が答える。


「ムサシの普通は、女の子のお腹に拳骨を叩き込むんだ?」ミロクが言って来る。


「やだなぁ、それが愛情表現だぞ。」俺はそっぽを向いて答える。


「女の子のお腹に、鉄拳をめり込ませる愛情表現がどこにあるのよ!」ミロクが俺の両肩を持って揺さぶる。


「酔うからやめてくれ。」俺はミロクの手を外して言う。


「悪かった、これからはミロクに鉄拳は振るわない事を誓う。」俺は言う。

「え?」


「その代わり、俺のプライバシーを覗き見る事を禁止する。」俺が宣言する。

「えぇ~?」


「今までも見ていたのかよ。」

「だって、繋がっているから。」ミロクが顔をそむける。


「はぁ、別に良いけどな。」俺はそう言う。

「ムサシ。」ミロクが良い顔で俺に言う。


「今後は禁止な。」俺が宣言する。

「なぁ。」ミロクが絶望する。


「見なければ良いだけだろう?」俺が言う。

「あぁ、そうだね。」ミロクが納得する。


**********


「戻ったのか、森はどうなった?」門番が聞いてくる。


「あぁ、ラージトレントは討伐した、森は安全になったぞ。」俺が答える。

「本当か」門番が言う。

「あぁ、確実に討伐した。」俺が答える。


「ありがとう、感謝する。」門番が俺に頭を下げる。

「仕事だ。」俺はそう言って門を潜った。


 その足で俺は組合に向かった。


**********


「南の森のラージトレントを討伐してきた。」俺は組合のカードを出しながら言う。

「お預かりします。」受付のお姉さんが、カードを受け取って端末を操作する。


「確認しました、ラージトレント討伐、100Gです。」受付のお姉さんが言う。

「それと、ギルドカードも回収してきた。」俺はカウンターにカードを並べる。


「あぁ、アラン、死んでしまったのね。」受付のお姉さんがその場でカードを持って泣き崩れる。

「おぉ、知り合いだったのか。」俺は、その場で固まる。


「失礼いたしました、カードを確認しました、18枚、18Gです。」別のお姉さんが対応してくれた。


「今回は、遺品は回収できなかった。」俺は悔しそうに言う。

「冒険者は、自己責任です、問題ありません。」組合のお姉さんが言ってくれる。


「あぁ。」俺は、色々な物を堪え乍ら納得した。

 そのまま組合を出て、俺は王都の家に帰った。


**********


「ムサシ様!」家に帰った俺を、カロリーヌさんが出迎えた。

「どうしたんですか?」俺が聞く。


「頂いたオークキングのモツを調理したのですが、ムサシ様が提供して頂いた物の味になりません!」カロリーヌさんが泣きながら言う。


「モツの掃除が駄目なんじゃないですか?」俺が言う。

「教えてください、このままじゃ、本当にハブにされます!」カロリーヌさんが縋り付いてくる。


 ここで、「知った事か。」と言って、カロリーヌさんを足蹴にすれば、違ったストーリーに行くかもしれないけど、俺は其処迄鬼畜ではないので、教えることにする。


「カロリーヌさん、モツの処理はどうしました?」

「モツの処理?」


「ちゃんと掃除をしないと、食べられた物じゃないんですよ。」

「解りません。」


「はぁ。」俺は溜め息をついて説明する。


「今から行いますので、覚えてください。」

「はい。」


「腸全体を30cm位に切って、縦に半分にして、流水で洗う。」俺はそれを実行する。


 小麦粉を、腸の内側に振りかけて、丁寧にヒダの間を洗っていく。

 5分ほど揉み洗いをして、水で流して臭いをかぐ。


「うん、臭みは消えているな。」そう言うと、残りの腸も同じように小麦粉を振りかけて洗っていく。


「最後に食べやすい大きさに切って、一度下茹でする。」俺は台所に行くと、ミロクに持ってもらっていた大鍋に水を張って、オークキングのモツを入れる。

 そして、ネギの青いところ、生姜を大量に入れ、砂糖もこれでもかと入れて煮始める。


**********

一刻程煮たら、モツ以外を捨てて、酒、砂糖、味醂、生姜を適量入れて、水をひたひたにになるまで入れて煮る。

 

「最後に、味噌と葱の白い所を入れて煮れば完成です。」

「あぁぁ、モツの掃除は知りませんでした。」カロリーヌさんが言う。


「どうですか?」俺はモツの煮込みをカロリーヌさんに渡して言う。

 カロリーヌさんはモツの煮込みを口に入れて感激する。


「この味です!」カロリーヌさんが言う。

「良かったです。」俺は言う。


「ムサシ様!」感極まったカロリーヌさんが俺を抱きしめる。

「何を?」

「大好きです!」そう言ってカロリーヌさんが俺の唇を奪う。


 セカンドキッスも奪われた。


 因みに、もつ煮込みの味がした。


 キスはレモンの味?

 嘘じゃん。

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