南の森で
次の日、俺は朝から南門に向かった。
「この門を出るのは良いが、半日ほど行った森には入るなよ。」門番が言う。
「何でだ?」
「やばい魔物が巣くっているんだ。」門番が教えてくれる。
「何が?」
「あぁ、ラージトレントって言う、木の化け物さ。」門番が言う。
「ラージトレント?」
「あぁ、ツルで動きを封じて、その後養分として吸われるんだ。」門番が言う。
「最悪だな。」
「あぁ、だから絶対に行くなよ。」門番の男が俺に言う。
「北の門でも言われたが、振りか?」俺が聞く。
「冗談で言ってるんじゃない、マジで言ってるんだ。」門番の男が言う。
「あぁ、ありがとう、俺が解決してくるよ。」俺はニカっと笑って答え、森に向かって走る。
「おい! 止めとけ! って、もう聞こえないか。」門番の男は、走り去る俺を見てため息をつく。
「無事なら良いけどな。」門番の男が言う。
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「此処が南の森か?」俺は森の前で言う。
「くふふ、森全体が敵のようだね?」ミロクが言う。
「え?」
「くふふ、ラージトレントの根が森の中に張り巡らされているね。」
「何だよ、其れ。」
「くふふ、森に入らない方が良いね。」
「だったら、どうやって倒すんだ?」
「くふふ、相手は木の化け物だよ。」ミロクが言う。
「あぁ、そうか。」
「くふふ、燃やしちゃえ。」
「其れで良いのか?」
「問題ない。」
「よし、んじゃ、インフェルノ!」俺は炎系の魔法の上位魔法を唱える。
(唱えてから気づいた、森に人がいたらアウトじゃん。)
「くふふ、森には誰もいなかったよ。」ミロクが目を逸らしながら言う。
「ラージトレントに吸われた奴は?」俺はミロクに聞く。
「遺骨になった?」ミロクが言う
「あぁ、死んでいたんだな。」俺はそう納得することにした。
火は1時間ほどで鎮火させた。
「死んだのかな?」
「くふふ、それがフラグ。」
生き残った根が再生して襲って来た。
「うをぉ、死んでなかった?」
「くふふ、根が生き残ったみたいだね。」
「つまり、土の中まで討伐するんだな。」
「くふふ、正解!」
「ふぅ。」俺は深呼をする。
「んじゃ、この辺り一帯を殲滅する!」
「くふふ、やっちゃえ!」
「エクスプロージョン!」俺は、爆炎系の上級呪文を唱える。
「ドバ~ン!」森の有った処が爆裂魔法で消滅する。
「ぐぎゃぁぁぁ。」ラージトレントの悲鳴が聞こえる。
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「討伐できたのかな?」俺が思う。
「くふふ、いっぱい戻って来たよ。」ミロクが恍惚の表情で言う。
「あっ、そう。」俺は答えて森に入る。
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「残っていたか。」俺はそう思いながら、ラージトレントの魔石を拾う。
気が付くと、周りに十数枚のギルドカードが落ちていた。
俺はそれを拾い集めた。
「この森を再生しないとな。」俺は言う。
「くふふ、放って置いても良いと思うけど。」
「あぁ、それだと、冒険者が食い扶持を失うだろう。」
「くふふ、君は聖人かい?」ミロクが聞いてくる。
「俺は、神の身代わりだ。」そう言いながら、土魔法で削られた土地を再生していく。
そして、『グロウ』の魔法で、木々を再生していく。
「うっぷ、魔力が吸われる。」
「くふふ、森の再生なんかをすれば、そうなるよ。」
「もう少しなんだよ。」
「くふふ、仕方がないねぇ、私が協力してあげるよ。」そう言ってミロクが俺に魔力を供給した。
「おぉぉ、これは凄い!」
「くふふ、私を敬え~。」ミロクが小さい胸を張る。
「あぁ、ミロク、ありがとうな。」俺はミロクを抱きしめる。
「ひ!」ミロクが固まる。
「あれ?」俺は疑問に思う。
「何で、実体がないミロクを抱けるんだろう?」俺が言う。
「だいぶ神気が戻って来たからね、もうすぐ抱かせてあげられるよ。」
「てい!」俺はミロクの腹に拳骨を叩き込む。
「ふぎゅ!」
「寝かせてくれ。」俺はそう言って森の中で眠りについた。
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「あぁ、気持ちの良い朝だ。」俺は起き上がって言う。
「ねえ、最近、私の扱いが更に酷くなってない?」ミロクが涙目で言って来る。
「そんなことは無いぞ、普通だぞ。」俺が答える。
「ムサシの普通は、女の子のお腹に拳骨を叩き込むんだ?」ミロクが言って来る。
「やだなぁ、それが愛情表現だぞ。」俺はそっぽを向いて答える。
「女の子のお腹に、鉄拳をめり込ませる愛情表現がどこにあるのよ!」ミロクが俺の両肩を持って揺さぶる。
「酔うからやめてくれ。」俺はミロクの手を外して言う。
「悪かった、これからはミロクに鉄拳は振るわない事を誓う。」俺は言う。
「え?」
「その代わり、俺のプライバシーを覗き見る事を禁止する。」俺が宣言する。
「えぇ~?」
「今までも見ていたのかよ。」
「だって、繋がっているから。」ミロクが顔をそむける。
「はぁ、別に良いけどな。」俺はそう言う。
「ムサシ。」ミロクが良い顔で俺に言う。
「今後は禁止な。」俺が宣言する。
「なぁ。」ミロクが絶望する。
「見なければ良いだけだろう?」俺が言う。
「あぁ、そうだね。」ミロクが納得する。
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「戻ったのか、森はどうなった?」門番が聞いてくる。
「あぁ、ラージトレントは討伐した、森は安全になったぞ。」俺が答える。
「本当か」門番が言う。
「あぁ、確実に討伐した。」俺が答える。
「ありがとう、感謝する。」門番が俺に頭を下げる。
「仕事だ。」俺はそう言って門を潜った。
その足で俺は組合に向かった。
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「南の森のラージトレントを討伐してきた。」俺は組合のカードを出しながら言う。
「お預かりします。」受付のお姉さんが、カードを受け取って端末を操作する。
「確認しました、ラージトレント討伐、100Gです。」受付のお姉さんが言う。
「それと、ギルドカードも回収してきた。」俺はカウンターにカードを並べる。
「あぁ、アラン、死んでしまったのね。」受付のお姉さんがその場でカードを持って泣き崩れる。
「おぉ、知り合いだったのか。」俺は、その場で固まる。
「失礼いたしました、カードを確認しました、18枚、18Gです。」別のお姉さんが対応してくれた。
「今回は、遺品は回収できなかった。」俺は悔しそうに言う。
「冒険者は、自己責任です、問題ありません。」組合のお姉さんが言ってくれる。
「あぁ。」俺は、色々な物を堪え乍ら納得した。
そのまま組合を出て、俺は王都の家に帰った。
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「ムサシ様!」家に帰った俺を、カロリーヌさんが出迎えた。
「どうしたんですか?」俺が聞く。
「頂いたオークキングのモツを調理したのですが、ムサシ様が提供して頂いた物の味になりません!」カロリーヌさんが泣きながら言う。
「モツの掃除が駄目なんじゃないですか?」俺が言う。
「教えてください、このままじゃ、本当にハブにされます!」カロリーヌさんが縋り付いてくる。
ここで、「知った事か。」と言って、カロリーヌさんを足蹴にすれば、違ったストーリーに行くかもしれないけど、俺は其処迄鬼畜ではないので、教えることにする。
「カロリーヌさん、モツの処理はどうしました?」
「モツの処理?」
「ちゃんと掃除をしないと、食べられた物じゃないんですよ。」
「解りません。」
「はぁ。」俺は溜め息をついて説明する。
「今から行いますので、覚えてください。」
「はい。」
「腸全体を30cm位に切って、縦に半分にして、流水で洗う。」俺はそれを実行する。
小麦粉を、腸の内側に振りかけて、丁寧にヒダの間を洗っていく。
5分ほど揉み洗いをして、水で流して臭いをかぐ。
「うん、臭みは消えているな。」そう言うと、残りの腸も同じように小麦粉を振りかけて洗っていく。
「最後に食べやすい大きさに切って、一度下茹でする。」俺は台所に行くと、ミロクに持ってもらっていた大鍋に水を張って、オークキングの腸を入れる。
そして、ネギの青いところ、生姜を大量に入れ、砂糖もこれでもかと入れて煮始める。
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一刻程煮たら、モツ以外を捨てて、酒、砂糖、味醂、生姜を適量入れて、水をひたひたにになるまで入れて煮る。
「最後に、味噌と葱の白い所を入れて煮れば完成です。」
「あぁぁ、モツの掃除は知りませんでした。」カロリーヌさんが言う。
「どうですか?」俺はモツの煮込みをカロリーヌさんに渡して言う。
カロリーヌさんはモツの煮込みを口に入れて感激する。
「この味です!」カロリーヌさんが言う。
「良かったです。」俺は言う。
「ムサシ様!」感極まったカロリーヌさんが俺を抱きしめる。
「何を?」
「大好きです!」そう言ってカロリーヌさんが俺の唇を奪う。
セカンドキッスも奪われた。
因みに、もつ煮込みの味がした。
キスはレモンの味?
嘘じゃん。




