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カリナ姫の野望

残酷な表現が有ります。

苦手な方は飛ばして下さい。

 少し時間が戻って。


「サノア、今何といいましたか?」カリナ姫が言う。

「ムサシ様が、風呂を用意しても良いかと。」サノアが言う。


「お風呂? お風呂ですか?」カリナ姫が食い気味に言う。

「はい。」サノアが少し引きながら言う。


「是非にと、お願いしてください。」カリナ姫が言う。

「はい、ではお願いしてきます。」


「お風呂、どの様な物でしょう?」

「まさか、ドラム缶風呂ではありませんよね。」


「これで、素敵なお風呂だったら、惚れちゃいます。」

「昨日の、オークキングの並肉を使った、オークキングカツと、オークキングの生姜焼きは、心を奪われるほど美味しかった。」


「そして、今日のナマズ肉はかば焼き、金鶏のから揚げ、むね肉の照り焼き、手羽先や手羽元とモツの煮込みも、王城でも食べられない料理でした。」


「サノア、お風呂の用意をお願いします。」

「はい、姫様。」サノアが駆け出していく。



「姫様、用意が出来たようです。」サノアが言って来る。


「さて、どの様な物でしょうか?」少しだけ期待しながらお風呂に向かいます。



「これは?」

 そこに有ったのは、四方を土壁で囲まれたお風呂。

 中に入ると、脱衣所が有り、ドアを開けるとタイル張りの床の向こうに、大きなお風呂が。

「何ですかこれは?」

 湯船には並々と張られたお湯。


 湯壺には、身体を洗うためのお湯が並々と。

 思わず、湯をすくって頭からかぶりました。

 旅の垢を落とすためです。


 自前の石鹸を使って、全身を洗いました。

 久しぶりに、人心地つきました。


「はぁ、旅の途中で、この様なお風呂に入れるなど至極です。」

 私が、ムサシ様に惚れるのは仕方がない事でしょう。

「お風呂と胃袋を掴まれて、私の完敗です。」


「どうやって、結婚に持ち込みましょうか?」

「そうですね、ムサシ様が父である国王に料理を振舞うときに、間接キスを狙いましょうか。」

「王族に伝わる、王族との間接キスによる求婚。」


「ムサシ様、お慕いしています。」カリナ姫がそう言うが、ムサシはこのことを知らない。


 因みに、サノアもムサシを慕っている。

 ムサシ、ファイト!


**********


 その部屋では、トリウム王子が憤っていた。

「父上も、母上も、兄上も、いったいどうしたと言うのだ、何故たかが平民に遜る!」


「まったくその通りでございます。」部屋の隅から声が聞こえた。

 トリウム王子は、その声を聞いて驚く。

「なっ、誰だ貴様は!」トリウム王子が叫ぶ。


 其処にいた男の目が怪しく光る。

「私です、ダルメシアです。」その男が答える。


「あぁ、そうだった、ダルメシアだな。」トリウム王子が普通・・に答える。


「トリウム様、今こそ、その平民に鉄槌を下す時で御座います。」ダルメシアが平伏して言う。

「あぁ、そうだな、鉄槌を下す時だ。」トリウム王子が棒読みで答える。


「この武器をお使いください。」ダルメシアが懐から禍々しい短刀を取り出して言う。

「あぁ。」トリウム王子がそれを受け取る。


「この短刀には、防御無効の効果と、猛毒の効果が付与されております。」ダルメシアが言う。

「そうか、それなら、たかが平民に鉄槌を下せるな。」トリウム王子が言う。


「では、さっそく行きましょう。」ダルメシアが言う。

「あぁ、平民に鉄槌を下しに行こう。」トリウム王子が言う。


 ダルメシアは、部屋のドアを開ける。

「トリウム王子、国王からこの部屋で謹慎をしろと。」騎士が言うが、ダルメシアの目が光る。


「どきなさい。」ダルメシアが言う。

「はい、失礼いたしました。」そこにいた二人の騎士が呆けて言う。


「さぁ、鉄槌を下しに参りましょう。」ダルメシアが言う。

「おぉ、そうだな。」トリウム王子は、ダルメシアから受け取った短刀を握りしめながら、応接室に向かって行った。


**********


「なぁ、トリウム王子、貴方は国王より謹慎を言いつけられた筈です。」応接室の前にいた騎士が言う。

「控えなさい。」ダルメシアの目が光る。

「はっ、失礼いたしました。」その騎士がドアの前からどく。


 ドアを開けた先には、先程の平民ムサシがいる。

 トリウム王子は、短刀を抜き去り、ムサシに向かって走る。

「天誅!」トリウム王子が叫ぶ。

 俺は、その攻撃に反応した。

 しかし、横から誰かが飛び出した。

「ムサシ様、危ない!」そう言いながらシズカが俺とトリウム王子の間に割り込んだ。


 トリウム王子の攻撃は、シズカの胸に刺さった。


 スローモーションのように、その刃がシズカの胸に消えていく。

 俺は、トリウムを弾き飛ばした。

 トリウムはその場で気を失った。


 シズカの胸に刺さる短刀。

 俺は、シズカを抱きしめた。

「ミロク、回復を。」俺が言う。


「ムサシ、残念だけど、シズカの胸に刺さった短刀は私の力を超えている。」

「え?」


「呪いの力、それに合わせた猛毒、私でも助けられない。」ミロクが言う。

「そんな。」


「ムサシ様。」シズカが言う。

「あぁ。」俺が答える。


 シズカが俺の頭を抱いて、俺:に口付けをしてくる。


 錆の味がした。


「ムサシ様、大好きです。」そう言ってにっこりとほほ笑むとシズカは動かなくなった。


 俺は、シズカを抱きしめた。

 暖かかったシズカの身体がだんだんと冷たくなっていった。

 完全に冷たくなったシズカの遺体を抱きながら言う。

「ミロク、シズカを天に返してやってくれ。」

「うん。」

 俺の手の中で、塵になってシズカは消えた。


 その場には、組合のカードと、シズカの胸に刺さっていた短刀だけが残っていた。

「意外に涙は出ないもんだな。」俺は言う。


 俺は、そこに有った短刀を手にとって、ゆらりと立ち上がった。

「ひっ!」国王以下そこにいた者達が一歩後ずさる。


「む、ムサシ様、お許しください」国王が震えながら平伏する。

 俺は国王を無視して言う。


「そいつを俺の前に出せ!」俺がミロクに言う。

 トリウムの後ろにいたダルメシアは、ミロクが捕まえていた。


「良くもやってくれたな。」俺はダルメシアに近づいていく。

「ひっ。」ダルメシアの目が光る。


「洗脳の呪いだね。」ミロクが言う。

「あぁ、俺には効かないよ。」そう言いながら、俺はダルメシアの両眼を持っていた短刀で潰す。

「うぎゃぁぁ。」ダルメシアが叫ぶ。


 俺は、ダルメシアの胸元を掴むと、そのまま力任せに床に叩きつけた。

 少し顔が変形したようだが、俺は気にしない。


「誰の命令だ? それともお前の独断か?」俺は冷たく聞く。

「ひひひ、神の身代わりを殺せば、俺を貴族に取り上げてくれる。」ダルメシアが言う。

「ほぉ、誰がだ?」

「辺境伯様だ。」ダルメシアが言う。


「国王。」俺は振り返って国王に聞く。

「はい、ムサシ様。」国王が直立不動で答える。

「見た所、こいつは魔族だろう?」

「はい、その様です。」国王は真剣そのものだ。


「魔族の辺境伯領との、国交はどうなっているんだ?」

「いえ、その近隣の村では、些細な取引をしているようですが、国としては国交は樹立しておりません。」国王が直立したまま答える。


「はぁ、ダルメシアと言ったか?」俺は両目が潰れた男に言う。

「くそう!」ダルメシアがその場でもがく。


 俺は、持っていた短刀を、ダルメシアの両肩と、足の付け根に突き刺した。


「ひぎゃぁぁぁ。」ダルメシアが叫ぶ。

「毒の効果が付与されているんだろう? 死ぬ前に俺の役に立て。」俺はそう言うと、ダルメシアをミロクに渡す。


 そして、トリウム王子が落とした鞘を拾うと、持っていた短刀を鞘に納めた。


「ムサシ様、お連れ様に害をなした事、お詫び申し上げます。」国王が俺の前で土下座する。

「あぁ、こいつが、さっきの魔眼で洗脳したんだろう?」俺はあっけらかんと言う。


「おぉ。慈悲深い。」国王は土下座をして頭を上げない。

「誰か、トリウムを地下牢に放り込んでおけ!」国王が言う。

 その声で、数人の騎士が動いた。


「シズカの事は、残念だったが今はやることができた。」おれはそう言って、踵を返す。


「ムサシ様、どちらに?」国王が聞いてくる。

「魔族の辺境伯に会ってくる。」俺はそう言いながら城の出口に向かう。


「お待ちください、ムサシ様、魔族と戦争をするおつもりですか?」国王が俺の足にすがって聞いてくる。

「戦争? そんな物しないよ。」俺が言う。

「おぉ。」国王が嬉しそうに言う。


「辺境伯の返事次第では、魔族の国を滅ぼしてくる。」

「ひぃ。」国王が腰を抜かす。


 その場にいた誰もが俺を止めれなかった。



「その辺境伯との国境まではどの位だ?」俺はミロクに聞く。

「う~ん、今のムサシが全力で走れば1時間ぐらいかな?」ミロクが答える。


「そうか、んじゃ、全力で走る。」俺は、国境に向かって走った。


**********


 魔族の国との国境の町に着いた。

 町の中には、魔族と思われる者達が普通に歩いていた。


「ふ~ん、意外に普通に接しているんだな。」俺はそう言いながら、魔族の国の国境に向かった。


「身分を証明する物はあるか?」国境の門にいた魔族が聞いてくる。

「あぁ。」俺は、組合のカードを見せた。


「なぁ? 『神の身代わり』?」その魔族が驚愕する。

「何だと、300年前に居なくなった『神の身代わり』だと?」もう一人の魔族も驚いている。


「あぁ、300年ぶりに復活した。」俺が言う。

「おぉ、そうか、300年前に魔族の膿を消してくれた存在か。」

「また復活してくれたんだな。」門番の男達は友好的に言う。


「おや? 俺に文句はないのか?」

「まさかぁ、『神の身代わり』様には、文句どころか、頭を下げる事しかできないよ。」その魔族が言う。

「何でだ?」俺がその魔族に聞く。


「あぁ、良く聞いてくれた、300年程前に、今の領主の祖父の不正を暴いて、この国を良くしてくれたと伝わっている。」門番の男が言う。


「そんな不正をした男の孫が、辺境伯をやっているのか?」俺は少し驚いて聞く。


「魔王様のお考えだ、俺達には解らないよ。」門番の男が言う

「そうか。」

「あぁ。」


「その辺境伯に、謁見できないかな?」俺が聞く。


「なんと、そうですか、今、辺境伯様に使いを出します、しばらくここでお待ちください。」門番の男が詰め所に俺を案内する。



「粗茶ですみません。」そう言いながら門番の男は俺に紅茶を出してくる。

「あぁ、頂こう。」俺は、その紅茶を口にする。


「おぉ、旨い。」俺は普通に感想を言う。

「ありがとうございます。」門番の男が俺に礼をする。


「どうしたんだ、畏まって。」俺はその男に聞く。

「はい、伝説の『神の身代わり』様に煎れた紅茶をほめていただき恐悦至極です。」


「大げさだよ。」俺が言う。

「いえ、滅相もない。」門番の男が恐縮する。



 暫くすると、使いに出した男が息を切らせながら帰って来た。

 その後ろには、豪華な馬車が続いていた。

「お待たせいたしました、辺境伯様がお待ちです。」息を切らせながら、その男が馬車の扉を開ける。


「あぁ、ありがとう。」俺は馬車に乗り込んだ。


「辺境伯って良い奴じゃねーの?」俺はミロクに聞く。

「くふふ、まだ解らないよ。」ミロクが言う。


「そうなのか?」


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