求婚?
俺の前に、いかにも料理人だと言う男と、恰幅の良い男が呼ばれた。
「この者達は、時間停止のアイテム袋を持っている者達です。」国王が言う。
「おぉ、それは良かった、今から、俺が国王への献上品を取り出すので、全部受け取ってくださいね。」俺はその二人に言う。
「承知。」
「心得た。」
「これは、料理法を教えて欲しいんだが。」そう言いながら、トロルの手足を10匹分取り出す。
「なぁ! トロル?」
「それを10匹分?」その男達が慌ててアイテム袋にしまう。
「何だと、トロル?」国王が驚愕する。
「えぇ、ここ数十年、納品が有りませんでした。」トロルを仕舞った男が言う。
「へぇ?」俺は答える。
「ムサシ様、トロルは皮が付いたまま三日三晩煮込んで、その後、皮をむいて更に三日三晩煮込むそうです。」その男が言う。
「うん? 疑問系か?」
「希少食材なので、伝承でしか。」その男が言う。
「成程、ありがとうな。」俺はその男に言う。
「いえいえ、この様な食材を提供いただき、感謝の極みです。」その男が言う。
「それから、ワイバーンも10Kgほど提供しよう。」俺は其処にワイバーンのお肉を取り出す。
「な! ワイバーン?」国王以下数名が驚く。
「私達も、食べたことはありません。」料理人の男が言う。
「ワイバーンのすき焼き、美味しかったです。」カリナ様がうっとりとしながら言う。
「すき焼き?」国王が疑問に思う。
「私達も知りません。」料理人が言う。
「サノア様にお教えしました。」俺が言う。
「なんと。」料理人の一人が驚愕する。
「サノアを調理室に出頭させなさい。」もう一人の料理人も言う。
「あ~、俺が教えますので、穏便に。」
「は! ムサシ様の御心に感謝いたします。」
「ミノタウルスも2匹分。」俺はそれをミロクから受け取る。
「ミノタウルス?」国王が、震えて言う。
「ここ数年、組合への納品が有りません。」料理人が言う。
「ワイバーンの代わりに、すき焼きにすると旨いぞ、あと、ステーキでも良いかもな。」俺が言う。
「ステーキとはどのような?」料理長が質問するが、俺は無視して続けた。
「それと、コカトリスを10羽。」俺はそれをミロクから貰う。
「こ、コカトリスだと。」国王がわなわなと震える。
「それも、ここ十数年、納品が有りません。」料理長が言う。
「あぁ、ナマズも10Kg提供しよう。」
「何と?」
「ここ数年の、ナマズの不漁で、入って来ていなかった物です。」料理人が言う。
「あと、オークキングの良い肉を30Kgも提供しようか。」
「オークキングは、過去数十年、納品記録はありません。」料理人がわなわなしながら言う。
「なら、今納品した、記録をしてくれ。」俺が言う。
「ムサシ様。」国王が俺に言う。
「何か?」俺が国王に問う。
「これだけの物を献上する、対価は何が望みでしょう?」国王が聞いてくる。
「へ? 別に何も。」俺が言う。
「はぁ?」国王が呆ける。
「最後に、金鶏を20羽有れば足りるかな。」俺はそれをそこに出す。
「何と?」其処にいた男が驚愕する。
「カリナ様の望む料理が出来ますよね。」俺は笑いながら言う。
カリナ様は頬を膨らませながら俺を睨んでいる。
「何で睨まれるんだろう?」俺はそう思いながら国王に言う。
「これが全ての献上品です。」
「おぉ、ムサシ殿、この様な献上品に対しては、対価が必要だ。」国王が言う。
「くふふ、其れなら王国に住居を貰えばいいよ。」ミロクが言う。
「何で?」
「くふふ、あとで教える。」
「恐れながら、王国に住居を頂きたく申し上げます。」俺が言う。
「何と、それならば、ファンドーレ男爵の館が丁度良い。」国王が言う。
「それは良いですな。」傍にいた宰相も言う。
その場で、王国の家が決まった。
「では、これにて一件落着だな。」国王が言う。
「いや、待ってくれ、その前に、試させてほしいんだが。」俺が言う。
「何をですか?」国王が言う。
「トロルの煮込みだ。」俺が言う。
「え?」
「三日三晩煮込んで、皮をむいて三日三晩煮込むとか?」俺が聞く。
「はい、そう言い伝えられております。」先程の男が言う。
「成程。」
「国王様、此処で料理をさせていただきます。」俺はそう言うと、国王の了承を得る前に
土魔法で其処に竈を作る。
「その竈に鍋を乗せ、トロルの手足を入れて煮込み始める。」
「時魔法で1分が24時間にする。」俺はそれを実行する。
「3分煮たから、三日三晩煮たのと同じになったので、このトロルの皮を剥げばいいんですかね?」俺はトロルの煮込みを見ながら言う。
「はい、そうです。」さっきの男が言う。
俺は、天叢雲剣でトロルの皮を剥ぎ取る。
「なぁ、それは、天叢雲剣。」国王が驚愕する。
「あぁ、俺がミロク神から借りている。」俺が言う。
「何と!」国王が驚愕する。
「味付けは?」俺はさっきの男に聞く。
「知りません。」その男が言う。
「はぁ、アキレス腱の煮込みなら、オークの角煮と同じで良いか?」俺は思う。
俺は、生姜と葱、酒、醤油、砂糖を入れて、さっきと同じ魔法を唱える。
「時魔法で1分が24時間にする。」
「これで、三日三晩煮たトロルと同じになったはずだ。」俺が言う。
そこに有った物は、トロルの手足の煮込み。
「おぉぉ。」国王が感嘆する。
「どれ?」俺はトロルのお肉の一つをナイフとフォークで切り取り、口に入れる。
途端に口に広がる、脂と香り。
「豚の角煮を数十倍美味くした奴だ・・。」俺は感動しながら思う。
「ゴクリ。」よだれを飲み込んだカリナ様がふらふらと近づいてくる。
「私にも一口。」俺はナイフとフォークでトロルを切ると、そのままカリナ様の口の前に差し出す。
「パクリ。」カリナ様が何の躊躇もせずに口に入れる。
(あっ、間接キスだ。)と思ったが、気にしないことにした。
「ふわぁぁぁ。」カリナ様が、変な声を上げる。
「ムサシ様、私にも味見を。」国王以下、其処にいた全員が集まってくる。
俺は、土魔法で皿を作り、トロルを切り分けて全員に渡した。
「これは!」
「なんと!」
「おぉぉ!」
「素晴らしい。」
「あぁ、心が持って行かれる。」国王以下、王妃、第一王子、宰相達が幸福感で恍惚としている。
「成程、100Gで買い取るのが解る味だ。」
「くふふ、マジで飯テロ・・。」
俺はもう一度トロルを口に入れる。
「美味いなぁ。」俺は意識を飛ばしそうになる。
「ムサシ様、私と間接キスをしましたね。」カリナ様が言う。
「うぇ?」俺が変な声を上げる。
「ムサシ様がくわえたフォークを私もくわえました、そしてそのフォークをムサシ様が今くわえています。」カリナ様が言う。
「何と、王族と間接キス?」国王が言う。
「おぉぉ、これは、婚礼の予約をせねば。」宰相が言う。
「え?」俺が途惑う。
「ムサシ様、責任取ってくださいましね。」カリナ様がにっこりと笑う。
「カリナ様、何故ですか?」俺が聞く。
「私が食べたことのない、美味しい物が食べられそうなので。」そう言いながら、カリナ様が微笑む。
「謀ったなぁ!」俺が言うが、カリナ様はどこ吹く風だ。
「くふふ、王族と同じ食器で食を共にする行為は、王族への求婚だねぇ。」ミロクが笑いながら言う。
「そんなの知らんわ!」俺が叫ぶ。
「くふふ、でも、もう逃げられないかな。」ミロクが言う。
「なんで?」
「周りの貴族が周知しちゃったからね。」ミロクが笑いながら言う。
「死刑宣告だよ。」俺が言う。
「本当にそうかい?」ミロクが言う。
「え?」
「カリナ姫は、良い女じゃないかい?」ミロクが言う。
「そうだけど、帰ったらリーンさんがいるんだよ。」俺が言う。
「なんだ、リーンなら大丈夫だよ、長命種だから重婚には寛容さ。」
「そうなの?」
「くふふ、良かったね。」
「良くありません!」シズカが怖い顔をして言う。
「私の居場所が有りません!」シズカがぷりぷりしながら言う。
「え?」俺は呆ける。
「私も娶ってください。」シズカが怖い顔で言う。
「え?」俺が更に呆ける。
「あの場所から、救って頂いたので、私の居場所を下さい!」シズカが必死になって言う。
「あぁ、シズカが良かったら、俺の嫁さんになってくれ。」俺は観念して言う。
「本当ですか?」シズカが言う。
「あぁ、シズカは温かいからな。」俺が言う。
「もう、あたしは懐炉替わりですか?」そう言いながら、シズカは嬉しそうだ。
「おぉ、神の身代わり様との婚礼。」国王がわなわなして言う。
「陞爵しないとなりませんね。」宰相が言う。
「おぉ、これほどの食材を献上し、更にレッサードラゴンや、フェンリルの素材を納品出来るお方だ。」
「では、男爵で?」宰相が言う。
「私の娘が嫁ぐのだぞ、それでは釣り合わないだろう。」国王が言う。
「では、どのような?」
「私の娘を娶るのだ、公爵で良いのではないか?」国王が言う。
「はぁ? 公爵ですか?」宰相が言う。
「我が娘の婿だ、公爵が相応しかろう。」国王が言う。
「確かにそうですが。」宰相が不満気だ。
「『神の身代わり様』と我が娘が結婚をするのだぞ、これ程目出たいことはない。」国王が言う。
「解りました、公爵として陞爵致します。」宰相が言う。
「よし、ムサシ様に伝えるのだ。」国王が言う。
「御意、仰せのままに。」国王に付き従う暗部が国王だけに聞こえる返事をする。
ムサシの居ないところで、話がどんどん進んでいった。
昨日3回目のワクチンを打ってきました。
うぅ、身体中が痛い・・・。




