謁見?
門の奥には、一人のメイドが控えていた。
「お待ちしておりました、ムサシ様。」メイドがスカートの両端を摘まみながら礼をする。
「おぉ、初めましてだな、案内、宜しく頼むよ。」
「ぷふ!」メイドが噴出した。
「どうした?」俺はメイドに聞く。
「コホン、失礼いたしました、私たちメイドに挨拶する方は殆どいらっしゃらないので。」メイドが言う。
「あぁ、そうなのか? 俺はムサシだ、宜しくな。」
「ぷぷぷ。」その場でメイドが悶絶する。
「大丈夫か?」俺は心配して言う。
「メイドに名乗る方を、初めて見ました。」そのメイドが笑いを堪えながら言う。
「え~、初めて会って、名乗るのは普通だろう。」俺はそう答える。
「ぷぷぷ、いえ、失礼いたしました、私は、メイド長を務めております、カロリーヌと申します、以後お見知りおきを。」カロリーヌが再びスカートの両端を摘まみ上げて礼をする。
「そうか、カロリーヌさん宜しく頼むよ。」
「はい、では、ご案内いたします。」カロリーヌが前に立ち案内を始める。
「そう言えば、聞いて良いか?」俺はカロリーヌさんに問う。
「何でございましょう?」
「国王様の、名前は何て言うんだ?」
「ぶはぁ!」カロリーヌさんが再び噴出した。
「え? おかしなことを聞いたか?」俺は言う。
「こ、国王様に招かれたお方が、国王様のお名前をご存じないとか、ぷぷぷ。」
「え? そんなに変か?」俺が疑問に思う。
「ムサシ様、国王様のお名前は、国民なら誰でも知っていますよ。」シズカがこそっと言う。
「そうなの?」俺は呆ける。
「アルゴン・フォン・アンドロメダ様です。」シズカが言う。
「へぇ。」俺はそのまま答える。
「アルゴン陛下は寛容なお方ですので、多少の無礼が有っても大丈夫です。」カロリーヌが言う。
「それ、俺が無礼を働くって言っているよね。」俺が問い詰める。
「さて、何の事やら。」カロリーヌが目を逸らす。
「まぁ良いや、難癖を付けられたら、国王を狩ろう。」俺が言う。
「はぁ、ムサシ様、其のお言葉は不敬罪に当たります。」カロリーヌが慌てて言う。
「別に良いよ、この国で暮らせないなら、別の国に行くから。」
「くふふ、ムサシ、穏便にいこうか。」ミロクが俺を落ち着かせる。
「あぁ、最初から敵対していちゃだめだな。」
「くふふ、平常心、平常心。」
「あぁ、解った。」
「あの、ご案内しても大丈夫でしょうか?」カロリーヌが聞いてくる。
「あぁ、すみません、案内をして下さい。」俺が答える。
「・・・はい。」カロリーヌは俺を案内してくれる。
「こちらです。」カロリーヌは、部屋の前に二人の騎士が立っている部屋に案内した。
「あぁ、ありがとう。」俺は、カロリーヌに礼を言う。
「ぷぷぷ、メイドに礼。ぷぷぷ。」カロリーヌが笑いながら横に避ける。
「国王に呼ばれてきた。」俺は、組合のカードを見せながら言う。
「はい、国王様より申し付かっております、どうぞ中にお入りください。」二人の騎士が跪きながら言う。
「え?」俺は、騎士の行動に疑問を抱きながら、ドアを開けてその中に入った。
「おぉぉ、ムサシ様。お会いできて光栄です。」一人の男が跪きながら言う。
「お目に掛かれて、恐悦至極。」その隣で若い男も跪いている。
「ほほほ、『神の身代わり』様をこの目で拝めるとは、まさに僥倖。」最初に跪いた男と同じような歳の女が言う。
(ふむ最初に跪いたあれが国王か?)俺が思う
「ムサシ様、ご機嫌麗しゅう。」カリナ様も膝を突いて言う。
おや、カリナ様もそこにいらっしゃった。
それ以外にも、多数の人間が膝を突いていた。
横を見たら、シズカも跪いていた。
(あれ?俺ともう一人以外、立っていない?)俺は焦りながら思う。
(何、この状況?)
「父上、何故、平民風情に膝を突いているのですか。」その横で跪いていないもう一人の男の子が叫ぶ。
「なぁ! トリウム、控えよ、『神の身代わり様』の御前であるぞ。」最初に跪いた男が言う。
「解りません、其処にいるのはたかが平民、何故私たち王族が膝を突かねばならないのですか。」トリウムと呼ばれた王子が叫ぶ。
「トリウム、其処にいるお方の力(能力)が解らないのか?」最初に言葉を発した男、国王が言う。
「解りません、たかが平民なのですよね。」トリウム王子が言う。
「トリウム。この愚か者!」国王が言う。
「その者を捕らえ、その者の部屋に隔離せよ。国王が叫ぶ。
その声で、数人の衛兵が動き出す。
「トリウム様、失礼いたします。」
「国王様のご命令なので。」複数の騎士が、トリウムと呼ばれた王子を拘束して部屋から出ていく。
「大変失礼いたしました、ムサシ様、私は、この国の国王を務めさせて頂いております、『アルゴン・フォン・アンドロメダ』でございます、以後お見知りおきを。」平伏しながら国王が言う。
「あぁ、俺は、ムサシだ、いや、です、宜しくお願いします。」俺が言う。
「ムサシ様、我らに謙譲語は不要です、普段通りお話しください。」国王がひれ伏して言う。
「んじゃ、ひれ伏すの止めて、普通に話したい。」俺はそう言った。
「いえ、『神の身代わり』様にその様な。」国王が言う。
「ふ~ん、俺に逆らうんだ?」俺は少しだけ威圧を込めて言う。
「いえ、滅相もございません。」そう言いながら、国王以下、ひれ伏していた者が立ち上がった。
「やっと顔を見れたな。」俺が言う。
「おぉ、恐れ多い。」国王が、又ひれ伏そうとする。
「ひれ伏したら、潰すよ。」俺が冷たく言う。
国王が、その場で止まる。
「失礼いたしました。」国王が頭を下げる。
(やべぇ、一国の国王に謝らせちゃったよ。)
「くふふ、国王達にも私を見せてやれば?」ミロクが俺の横で黒い笑顔で言う。
「そうしよう。」
「こほん、不敬ですが、俺の手に触れてください。」俺が手を前に差し出して言う。
「え? どう言う?」国王以下、其処にいた全員がポカンとする。
そんな中、最初に動いたのはカリナ様だった。
しずしずと俺の前に来ると、俺の手をそっと握った。
「手を取りました。」カリナ様が言う。
「右をご覧ください。」俺はにっこりとほほ笑んで言う。
「右?」カリナ様は顔を右に向けて固まる。
「どうしたのだ、カリナ?」国王が聞いてくる。
「み。」カリナ様が声を出す。
「み?」国王がカリナ様に聞く。
「ミロク神様が・・。」カリナはその場で跪き、祈るポーズをとる。
「何と?」国王も俺の前に着て、俺の手を取り、カリナと同じ方向を見る。
「国を治める事、大儀です。」ミロクがほほ笑みながら言う。
「おぉ、おおぉぉぉ。」国王もその場で跪き祈るポーズをとる。
俺は祈る二人を邪魔しない様に、少しずつ動いて手を差し出す。
「私は、この国の第一王子の『レニウム・フォン・アンドロメダ』だ。」そう言いながら王子も俺の手を持ち、国王達と同じ状態になる。
「私は、王妃を務める、『セレン・フォン・アンドロメダ』でございます。」その女性はそう言いながら俺の手を取り、やはり、国王達と同じ状態になった。
その場にいた、騎士たち以外全員が、その場で祈っている。
「君達は来ないのか?」俺は騎士たちに向かって言う。
「わ、私達も宜しいのでしょうか?」騎士の一人が聞いてくる。
「ミロク神は、すべての人間に平等ではなかったのですか?」俺はミロクに言われた通りに言う。
「おぉ! 何と慈悲深いお言葉。」その騎士が俺の前に来て俺の手を取る。
「あぁ、ミロク神様の御尊顔を・・。」その騎士もその場で跪く。
そして、ドアの前にいた騎士や、カロリーヌも含め、全員がそこで跪き、祈りのポーズになった。
(成程、やっぱり、俺じゃなく、ミロクに平伏していたんだな。)俺は理解した。
「あ~、そろそろ良いか?」俺は声を掛ける。
「おぉ、ムサシ様、ミロク神様の御姿を拝見出来、恐悦至極にございます。」国王が立ち上がって言う。
「トリウムも、ミロク神様の御姿を見れば、何故私達が平伏していたのかを理解する事でしょう。」レニウム王子が言う。
「いや、あ奴には、王族がどういう物かを、最初から教育せねばならぬ。」国王が渋い顔で言う。
「そうですか。」レニウム王子が俯く。
「うむ、王族が平民の上にいる意味を解っておらん。」国王が言いきる。
「やっと、まともに話が出来るかな?」俺は国王に声を掛ける。
「おぉ、ムサシ様、失礼いたしました、どうぞこちらに。」国王が俺を案内する。
その部屋にいた人間は、誰も其れを不敬とは思っていないようだ。
それもそうだ、神様を見せられたのだから。
「こちらにどうぞ。」国王が、その部屋に案内する。」
其処は、普通の応接室のような、いや、応接室だった。
「どうぞそちらにお掛け下さい。」国王がその席を差して言う。
「あぁ。」俺はその通りにその席に着く。
シズカも俺の横に座った。
テーブルを挟んで、国王と王妃、そして第一王子が対面に座った。
カリナ様はその後ろで控えている。
「改めて、ムサシだ、横にいるのはシズカ、二人とも『神の身代わり』だ。」俺が言う。
「おぉ、恐れ多い、私が先ほども言いました通り、国王の「あぁ、解ったからもういいよ。」普通なら不敬罪になる、国王の言葉を遮る。
「おぉ、失礼いたしました。」その場で国王が頭を下げる。
「いえ、それで、俺に王国に来いと言う依頼は達成したと言う事で良いですか?」俺が国王に聞く。
「おぉ、はい、勿論でございます、直ぐに組合に達成完了の連絡をいたします。」国王が嬉しそうに言う。
「ムサシ様は、我が娘、『カリナ』にキャラバン中、食材を提供して頂いたと聞きました。」国王が言う。
「あぁ、そうですね。」俺は普通に答える。
「お父様、王城でも味わえない数々の品を私に提供して下さいました。」カリナ様が暴走気味に言う。
「カリナは、夢のようだった、王城の食事は味気ないとしか言わないのです、いったい何をカリナに提供したのですか?」国王が聞いてくる。
「いや、普通の物ですよ。」俺は考えながら言う。
「まず、オークの良いところのお肉でしたっけ?」俺は思い出しながら言う。
「なんと、我ら王族でも、何か祝い事でもなければ食べられない物を?」国王が聞いてくる。
「あぁ、だからか。」俺が思う。
「なにを?」国王が聞いてくる。
「今回、国王様が手配して頂いた宿の料理が、オークの並肉だったので、不満に思っていました。」
「なんと、それは失礼した。」国王が頭を下げる。
「オーク肉が流通していないんですね。」俺が言う。
「恥ずかしいが、そうだ。」国王が、苦虫を噛み潰した顔で言う。
「では、少しばかり、組合に納品しておきます。」俺は答える。
「何と?」国王が驚愕する。
「それと、ナマズとワイバーンでしたっけ?」俺が答える。
「ワイバーン?」国王が驚く。
「私も食べたことは無い。」国王が言う。
「ワイバーンのすき焼きは至福でした。」カリナがうっとりとして言う。
「父上、ワイバーンのインパクトに隠れていますが、ナマズも超高級食材です!」レニウム王子も反応する。
「そして、金鶏のから揚げとお鍋。」カリナ様が思い出しながら言う。
「ぐぬぬ、我々でもめったに食えぬものを。」国王が震えている。
「あと、オークキングの並肉とモツだったっけ。」俺が言う。
「はい、至福の時でした。」カリナがうっとりして言う。
「なんと。」国王がわなわなして言う。
「んで、国王様。」俺は居住まいを正して言う。
「何でしょうか、ムサシ様。」国王が聞いてくる。
「献上したいものが有ります。」俺は、礼をして言う。
「なぁ、ムサシ様、その礼は不要です。」国王が慌てて言う。
「時間が止まった、マジックバックを持っている者をここに来させてください、」俺が言う。
「あい解った、聞いていたな、速やかに用意せよ。」国王が側近に言う。
「仰せのままに。」そこにいた側近が駆け出していく。




