王城
ミロク神聖教会を出た俺は、定められた宿に向う事にした。
「『帝都ホテル』って言っていたよな?」俺はシズカに聞く。
「はい、ムサシ様。」シズカが答える。
「それって、何処にあるんだ?」俺が疑問に思う。
「さぁ?」シズカが答える。
「まぁ、人に聞けばわかるか。」俺はそう思いながら、そこに有った屋台に入る。
「此処は、何が食えるんだ?」俺は店のおやじに声を掛ける。
「おぉ、オークのモツ煮だ。」店のおやじが言う。
「おぉ、んじゃ2人前と、ラガーとオレンジジュースを一個ずつな。」俺は注文する。
「80Bだ。」店のおやじが言う。
「ここに置くぞ。」俺は80Bをカウンターに置いた。
「お待ち!」親父がオークのもつ煮2皿と、ラガーとオレンジジュースをカウンターに提供する。
「おぉ、どれどれ?」俺は其処に有った割り箸を手に取って、モツ煮を口に入れる。
「ぶほぉ!」俺は口に入れたもつ煮を吐き出した。
「どうした? むせたのか?」親父が聞いてくる。
「糞不味い!」俺は、口にしたモツを吐き出しながら言う。
「何だと?」店のおやじが身構えるが、俺はオヤジに言い放つ。
「モツの掃除が不十分だ、しかも味付けが酷い!」俺は言い放つ。
「何だと貴様!」店のおやじが俺の胸ぐらをつかもうとしたので、俺はその手をひねり上げた。
「ぐぎゃぁぁ。」店のおやじが悲鳴を上げる。
「これで金を取るとか、有り得ないぞ。」俺は店のおやじに冷たく言う。
「たかがモツ煮じゃないか、充分だろう!」おやじが言う。
「これは、俺が作ったモツ煮だ、食ってからもう一度聞こう。」俺はそう言いながら、おやじを開放して、オークキングのモツ煮を其処に出す。」
オークじゃなくて、オークキングなのは反則だと思うが、味付けは変らないよな。
「これは。」店のおやじが固まる。
「オークのモツは、小麦粉を使って掃除をすればこれだけ美味くなるんだ。」俺が言う。
「あぁ、これ程とは。」
「あんたのモツ煮の酷さが判るだろう?」俺が言う。
「すまなかった、お代は全部返す。」そう言いながらおやじが80Bをカウンターに置いた。
「あぁ、精進しろよ。」俺は80Bを受け取りながら言う。
「解った。」おやじが答える。
「いや、そうじゃない。」俺は目的を思い出す。
「?」おやじが怪訝な顔をする。
「『帝都ホテル』って、何処にあるんだ?」俺は、本題を思い出しておやじに聞いた。
おやじは。俺の後ろを指さして言う。
「あれが、『帝都ホテル』だ。」その指さす方向には、巨大な建物が聳え立っていた。
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「ふえ~、凄いです。」シズカが素っ頓狂な声を上げる。
「こんな処に俺達が泊まって良いのかな?」疑問に思いながらその場所に向かった。
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「失礼ですが、身分を証明する物をお持ちですか?」ホテルの前にいた門番の一人が俺に聞いてくる。
「身分を証明する物?」俺はその男に聞く。
「はい、御前の身分を証明する物を。」
「あぁ、それなら。」俺は組合のカードを出そうとする。
「その前に、其のお召し物は、当店のドレスコードに・・。」門番が固まった。
「どうした?」俺は門番に聞く。
「その様なお召し物、お召し物、おぉぉ。」俺の装備を見た門番が震える。
「何だよ?」俺は門番にやさしく声を掛けた。
「一目でわかります、お客様が装備しているその皮鎧、ガキーン様のお手製、しかも、わ、ワイバーンですか。」その門番がへたり込む。
「おぉ、よく解ったな。」俺は門番に言う。
「はい、左胸に『ガキーン工房』のマークが有ります。」
「なんだよ、どうしたんだお前?」もう一人の門番がその男に言って来る。
「み、身分の証明なんか要らないお人だ。」その門番が震えながら言う。
「え~、規則は規則だろう。」そう言いながらもう一人の門番が俺に身分証の提示を求めた。
「あぁ、お仕事ご苦労様だな。」俺はそう言いながら、組合のカードを見せる。
「なぁ! か、『神の身代わり』様!」もう一人の門番がその場でへたり込んだ。
「通っても良いかな?」俺は優しく聞く。
「「はい、どうぞお通り下さい!」」二人の門番がはもる。
「あぁ、ありがとうな。」俺はそう言いながら、宿の受付に向かった。
因みに。受付でも同じような事があった。
若い兄ちゃんが、俺の格好をドレスコードがどうのこうのと。
後ろに控えていた偉そうな男が、その若い兄ちゃんの首根っこを掴んで俺に平謝りしてきた。
若い兄ちゃんも、俺が組合のカードを見せたら、顔を青くして俺の前で土下座した。
解る奴には解るんだな。
「くふふ、それが解らないのは2流だよ。」ミロクがどや顔で言う。
「そう言うもんか?」
「くふふ、そう言うもん。」
帝都ホテルの料理は素晴らしかったか?
俺もシズカも満足したか?
いや、満足できなかった。
味付けはまあまあだが、素材がなぁ。
出て来たのは、オークの並肉料理。
「うわぁ、1日10Gの宿の料理が、オークの並肉かぁ。」
「くふふ、素材が味付けに負けるはずはないよ。」ミロクが勝ち誇ったように言う。
否定できないな、素材が良ければ味付けはどうでも良い、いや、素材も味付けも良くないと駄目だ。
俺は、強く思った。
このホテルはぼったくりだ。
金だけとって、料理の素材が3流とか有り得ない。
「国王に、文句を言ってやろう。」俺が言う。
「くふふ、君の言葉でこのホテルは潰れるね。」ミロクが言う。
「別に潰れても良い、こんな糞ホテル。」俺が言う。
「くふふ、御愁傷様。」ミロクが楽しそうに言う。
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「ファンドーレ男爵が、『神の身代わり』様にちょっかいを出して、死にました。」宰相が国王に報告する。
「はぁ、馬鹿なのか?」国王が怒りに任せて言う。
「300年経っているので、貴族連中はその事が理解できないようです。」宰相が言う。
「貴族連中は、私の触れを何だと思っているのだ!」国王が怒る。
「膿を出す良い機会かと。」宰相が悪い顔で言う。
「むぅ、お主も悪よのう。」国王が言う。
「いえ、いえ、それもこれも、国王様のお仕込みの賜物です。」宰相がニカっと笑う。
「何をやっているのですか?」大臣の一人が言って来る。
「いや、何でもないぞ。」国王が狼狽える。
「そうです、何事も有りません。」宰相も答える。
「国王様。」大臣が言う。
「神の身代わり様を、甘く考えておりませんか?」
「いや、そんな事は無いぞ、多分。」国王が目をそらして言う。
「本当に解っていらっしゃいますか? 平民が貴族を殺したのですよ?」大臣が言う。
「おぉ。」国王が答える。
「本来ならば、拷問、磔の上、晒し首です。」大臣が言う。
「しかし、『神の身代わり』様は、一切動かなかったと聞いているぞ。」宰相が言う。
「はい、何人もの目撃者がおりますので、それは本当の事かと。」大臣が答える。
「では、何が問題なのだ? ファンドーレは勝手に自滅をしたと言う事であろう。」国王が言う。
「それを、今の腐った貴族連中に証明する方法が有りません。」大臣が叫ぶ。
「ではどうしろと?」国王が問う。
「『神の身代わり』様にお力を示していただければ。」大臣が言う。
「『神の身代わり』様にその様な事をお頼みするのは無理だ。」国王が言う。
「そうなのです、ですから、一刻も早く、『神の身代わり』様を王城にご招待し、貴族どもにかのお方に敵対するなと広めないと王国が滅びます。」大臣が叫ぶ。
「確かに、ファンドーレのような馬鹿が、何人もいたらかのお方が、うぅ、考えたくもない。」
「国王様、考えるまでも有りません、組合に依頼を出しましょう。」宰相が震えながら言う。
「あぁ、『神の身代わり』様に緊急に王城に来ていただくように!」国王が言う。
「心得ました。」大臣が走り出す。
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そんな事を知らない俺は、王都の町を散策していた。
「ムサシ様、これは何ですか?」シズカが店の品物を見て、俺に聞いてくる。
「くふふ、それは食べればお肌がつるつるになるスッポンだよ!」しかし、その殆どをミロクが答える。
「俺の存在、要らなくね?」俺が疑問に思っていると、俺の前に一人の男がやってくる。
「ムサシって言うのは君か?」その男が言う。
「あぁ、俺がムサシだ。」俺は答える。
「あぁ、良かった、組合から通達だ、直ぐに組合まで来いと言う事だ。」その男が言う。
「はぁ?」俺は呆けながら答える。
「確かに伝えたぞ。」男はその場から、一瞬で姿を消す。
「何だったんだ?」俺は疑問に思う。
「くふふ、きっと王様からの出頭命令だよ。」ミロクが楽しそうに言う。
「ほぉ、出頭命令?」俺は口元を歪めながら言う。
「本当にそうなら、国王に会いたくなくなるな。」俺が言う。
「くふふ、冗談に聞こえないよ。」
「勿論、冗談じゃない、俺に出頭を要求するならな。」
「でも少しだけ落ち着け。」ミロクが俺を落ち着かせる。
「何だよ?」
「私の言い方が悪かったよ、今の国王はムサシにそんな命令を出さないと思うよ。」
「何でそう思う?」
「わざわざ冒険者を使って伝言をしてきたからね。」
「うん?」
「もし、国王が君に出頭命令を出しているなら、王国軍が派遣されるよ。」
「そうなの?」
「王命だよ、指名手配だよ。」
「あぁ、そう言う事か。」俺は大人しく組合に向かった。
組合に入ると受付嬢が俺を見て近寄ってくる。
「あの、ムサシ様ですよね。」受付嬢が聞いてくる。
「一応聞いて良いかな、何で俺をムサシだと思った?」
「ワイバーンの皮鎧を着て、傍に少女を侍らせているので。」受付嬢が言う。
「俺のアイデンティティは、皮鎧とシズカかよ!」俺が叫ぶ。
「いえ、そんなことはありませんよ。」受付嬢が目を逸らしながら言う。
「ムサシ、諦めろ。」ミロクの声が聞こえる。
「はぁ!」俺は溜め息をはいて、受付嬢に聞く。
「国王様が、俺に城まで来いって事で良いか?」俺は受付嬢に聞く。
「いえ、国王様が、是非にムサシ様とお会いしたいという内容です。」受付嬢が言う。
(どう違うんだよ。)俺が思うがその場はやり過ごした。
「んじゃ、明日の朝9時に王城に向かうと連絡してくれ。」俺は受付嬢に言う。
「はい、申しつかわりました。」受付嬢が最敬礼をして言う。
「何か、大げさじゃないか?」俺はミロクに聞く。
「くふふ、国王が、君に謁見したいって言ってるんだよ。」
「いや、だから、逆だよな、其れ。」
「くふふ、それだけ、今の国王が、君を恐れているって事だよ。」
「俺を恐れる?」
「くふふ、私もついカッとなって、貴族(馬鹿)の首を折っちゃったからね。
「あぁ。」
「それもムサシの能力だと思っているんじゃないかな?」
「いや、もし俺ならその男を呼び寄せたいとは思わないぞ。」
「だよねぇ。」ミロクがけらけらと笑う。
「でも、呼び寄せないと駄目になった。」ミロクがニヤニヤしながら言う。
「何でだよ。」
「くふふ、教会であたしが姿を見せたから。」
「あぁ~。」俺は頭を抱えてうずくまる。
「ムサシ様、大丈夫ですか?」シズカが俺に声を掛けてくる。
「ミロク、確信犯か?」俺が言う。
「さて、何の事やら?」ミロクがそっぽを向いて言う。
「くそ!」俺は悪態をついて、宿に泊まり、シズカを風呂に入れると、自分の身体も洗い、シズカ共々乾燥魔法で乾燥して、布団に潜った。
こんなに心がざわついても、シズカの身体は暖かかった。
俺は、シズカを抱っこして、意識を飛ばした。
シズカ、マジ神だな。
俺は思う。
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次の日、ホテルで朝飯を食べた俺たちは、王城に向かった。
え? 勿論徒歩でだよ。
後で国王が馬車を手配していたと聞いて、失敗したと後悔したがどうでも良いや。
ホテルから、王城までは歩いて10分ほどだった。
「止まれ!」王城の門番に止められる。
「あぁ、そうだよな、徒歩で王城に入る奴、滅茶苦茶怪しいよな。」俺は思いながら対応する。
「此処は王城だ、この先にどんな用があるか説明せよ。」門番が言う。
俺は、組合のカードを見せながら言う。
「国王に呼ばれた。」
「なぁ、『神の身代わり』様! 失礼いたしました、国王様がお待ちです。」門番が言う。
「通っても良いの?」俺は念のため聞く。
「是非お通り下さい。」門番が腰を90度に折って言う。
「開門!」その男が叫ぶ。
目の前の巨大な門が、音もなく開いた。
うわぁ、書き溜めていた分が消えた!!
書いたのは夢だったのか?
マジでどこに行ったんだ?
・・・大人しくもう一度書くしかないか・・・くすん。




