教会
「ハコベと別れ、俺は王都を散策することにした。」
「お兄さん、食べて行かないかい。」屋台のお姉さんが言って来る。
「ここは、何が食えるんだい?」俺は聞く。
「ランナー鶏の串焼きだよ、タレと塩が有るよ。」
「ほう、んじゃ2本ずつくれ、あとラガーもな。」俺は注文する。
「はいよ、60Bだよ。」お姉さんが言う。
俺は、それを屋台のカウンターに置く。
「お待ち!」串焼きが4本と、ラガーが提供される。
「まず、塩からだな。」俺は串を持ち、かぶりつく。
「塩気が良い具合だ。」俺は、そのままラガーを飲む。
「美味いなぁ、シズカも食え。」俺はシズカに言う。
「はい、ムサシ様。」シズカも串を持ってかぶりついた。
「ふむ、美味いな。」俺はタレの串も手に取って口に入れる。
「おぉ、絶品だな。」俺は素直に感想を言う。
「へへへ、うちの自慢のタレだよ。」
「これを金鶏で食ったら美味いだろうな。」俺は感想を漏らした。
「金鶏? ははは、うちみたいな屋台でそんなもの提供できないよ。」
「そうか、残念だな。」俺は諦めて、タレのランナー鶏をラガーで流し込んだ。
「なぁ、タレのレシピを教えてくれないか?」俺はダメ元で聞いてみる。
「企業秘密、と言いたいところだが、醤油と味醂と酒を合わせただけだよ。」お姉さんが答えてくれる。
「なんだ、かば焼きのタレと同じか。」俺が言う。
「だけど、うちのタレは、継ぎ足して使っているからね。」へへへと笑いながらお姉さんが言う。
「そう言う事か、ありがとう、参考になったよ。」俺はチップに50B分の銀貨を置く。
「ごちそうさん。」俺はそう言いながら、屋台を離れる。
「また来ておくれぇ。」屋台のお姉さんが言う。
「おっ、凄く暴力的な匂いがするな。」俺はその屋台をのぞく。
「おぁ、食って行ってくれ、ここはソース焼きそばの店だ!」屋台のお兄さんが言う。
「おぉ、2人前くれ、あとラガーとコーラを一個づつ。」俺が言う。
「あいよ、焼きそば2人前、ラガーとコーラで90Bだよ。」
「あぁ、俺は、90Bをカウンターに置く。」
「毎度!」そう言いながら、皿に盛られた焼きそばが提供される。
俺は、一皿をシズカに渡してやる。
そして、カウンターに合った割り箸を口にくわえると、それを割って焼きそばを喰い始める。
「くぅ、美味いなぁ。」俺は感動する。
「あの、ムサシ様、これはどうやって食べれば?」シズカが俺に聞いてくる。
「あれ? シズカ、箸は?」
「何ですか其れ?」
「そこからか~。」俺は、カウンターに用意してあった、フォークをシズカに渡して、食べ方を説明する。
「こうやって、フォークで手繰って食べるんだ。」
「やってみます。」そう言いながら、シズカはフォークで焼きそばを食べる。
「美味しいです。」シズカが言う。
「そうか、良かったな、どんどん食べて良いぞ。」俺はシズカに答える。
「ほら、コーラも飲め。」俺はシズカにコーラを渡す。
「はい。」コーラを一口飲んで、シズカがむせた。
「げほ、げほ、げほ、甘いけど、刺激が強いです。」
「あ~、シズカはまだお子さま口だったか。」俺は、頭を抱える。
「親父、オレンジジュースはあるか?」
「あぁ、1杯10Bだ。」
「それを頼む。」俺はカウンターに10Bを置いた。
「はいよ。」オレンジジュースが提供された。
「シズカは、これを飲め。」俺は、オレンジジュースをシズカの前に置く。
「はい~。」シズカはオレンジジュースを飲んで幸せそうにしている。
「ムサシ様、美味しいです。」シズカが幸せそうだ。
俺は、シズカが残したコーラを飲み干し、焼きそばを堪能する。
最後にラガーを飲んで仕上げだ。
「ぷはぁ~、美味かった。」俺は皿をカウンターに置いて言う。
「ははは、良い食べっぷりだったぜ、あんちゃん。」店のおやじが言って来る。
「あぁ、美味かった。」俺は答える。
「箸の使い方も見事だったぜ。」そっち方面の人間かい?」親父が聞いてくる。
「いや、元居たギルドの姉御に教わったんだ。」俺が答えると、
「いや~、見事な箸捌きだったから、そうかと思っちまったよ、気にしないでくれ。」へへへと笑いながら親父が言う。
「何かあるのかい?」俺が聞く。
「いや、同郷かなって思っただけだ。」おやじが言う。
「そうか、又食いに来るよ。」そう言って、俺とシズカは屋台を出る。
「あぁ、待ってるぜ。」後ろから親父の声が聞こえた。
「くふふ、飯テロ、くふふ。」ミロクが悶えている。
お腹がくちくなった、俺とシズカは、大通りを歩いていった。
そして、目に入ったのは。
「ミロク神聖教会王国本部」という看板だった。
「ミロク神聖教会?」俺はそれを棒読みした。
「くふふ、まだ在ったんだねぇ。」ミロクが言う。
「どういう事?」俺はミロクに聞く。
「300年前は、私も受肉していたんだよ。」
「受肉?」
「ムサシ達と同じ身体で、其処にいたんだよ。」
「へぇ~。」
「何だい、その反応。」ミロクが吠える。
「いや、300年前は、神々が人間と共にあったのか。」
「あぁ、そうだよ、良い時代だったね。」ミロクが何かを思い出しながら言う。
「何で、今は神々がこの世に居ないんだ?」俺はミロクに聞く。
「それは。」ミロクが辛そうに答える。
「それは?」俺が聞く。
「皆、天に帰っちゃった。」
「何で?」
「信仰が減ったのと、戦い(いくさ)の道具にされたから・・。」
「うわぁ、それは、なんとも。」
「くふふ。」ミロクが悲しそうに笑う。
「何でミロクは帰らなかったんだ?」俺は普通に聞いた。
「な、君はそれを聞くのかい?」ミロクがワキワキしながら言う。
「うん?」
「神気を食べられて、帰れなかったんだよぅ!」ミロクが叫ぶ。
「おぉぉぅ、悪かった、謝るわ。」俺はミロクに頭を下げる。
「謝るなぁぁ!」ミロクが叫ぶ。
「ムサシ様、漫才は其処までにして下さい、周りの人が見ています。」シズカが冷静に言う。
そうだった、ミロクは俺たち以外には見えないのに、俺は普通に反応していた。
俺は、周りを見る。
そこにいた者達は、大道芸を見る目で、俺を見ている。
「以上、ミロク紳様とのやり取りでしたぁ!」俺は、大げさに腰を折って礼をした。
「兄ちゃん、ミロク神様への愛を感じたぜぃ!」そう言いながらそこにいた男が50B銀貨を投げてくる。
「ミロク神様への思いが伝わったよ。」老婆も50B銀貨を投げてくる。
「ははは、どうも、 どうも。」俺は営業スマイルで、その場を乗り切った。
「ほほほ、ここで営業をしている貴方はどちら様ですかな?」教会から出て来た男が言う。
「あぁ、すみません、怪しい者ではありません。」俺は頭を下げながら言う。
「ほほほ、此処はミロク神聖教会の門前です。」その男がにこやかに言うが、目は笑っていない。
「はい、私も関係者なので。」俺は組合のカードを見せる。
多分、これが一番手っ取り早い。
「お、おぉぉ、か、神の身代わり様!」その男は一歩後ずさる。
「はい、俺が神の身代わり、そして、横にいるのは神の身代わりの付き人です。」俺が言う。
御捻りを集めて来たシズカがぺこりとお辞儀をする。
「おぉ、おぉ、失礼いたしました、どうぞ此方へ。」その男が俺達を案内する。
其処は、ミロク神聖教会の中だ。
「あぁ、ミロク様の像は成長されたお姿なのですね。」
其処の中央にあった、ミロクの像を見てシズカが言う。
「何と?」案内した男が振り返る。
「今、何とおっしゃいました?」その男がシズカに迫る。
「姿が歳をとっていると言ったんだ。」俺は男とシズカの間にり割り込んで言う。
「何と?」その男が驚愕する。
「さっきから『何と』とか言ってないぜ、あんた。」俺が指摘する。
「おぉぉ、し、失礼いたしました、私はこのミロク神聖教会の司祭を申し付かっております、ファイン・コールと申します、以後お見知りおきを。」ファイン・コールが腰を折る。
「あぁ、俺はムサシ、こっちはシズカだ。」俺は簡単に自己紹介をする。
「勿体無いお言葉です。」その場でファイン・コールが平伏する。
「それで、何だって?」俺はファイン・コールに質問する。
「ミロク様のお姿が年を取っているというのは?」ファイン・コールが聞いてくる。
「今、此処にいるミロクと比べてって事だよ。」俺が答える。
「え?」ファイン・コールがその場で固まる。
「あぁ、お姿は見えませんが、其処にいらっしゃることは解ります。」遠巻きに見ていたシスターが言う。
「私も感じます。」
「私も。」何人かのシスターが、よろよろと集まって来て、ミロクの前で跪く。
「くふふ。」
「いや、ミロク、何かやってやれないのかよ?」俺はミロクに聞いた。
「君が手伝ってくれるのなら。」ミロクがにっこりとほほ笑んで言う。
「何をすれば良いんだよ。」
「手をつないで。」
「はぁ?」
「そこにいる、全員で手をつないで。」ミロクが真剣な顔で言う。
「あ~、俺は神の身代わりだ、今から奇跡を起こす、俺の手を取り、ミロク神に祈れ。」俺はそう言いながら手を差し出す。
(うわぁ、恥ずかしい、俺、何やってるの?)俺は思う。
しかし、其処にいた全員が、俺に傅き、俺の手を握った。
「くふふ、子供たちよ。」ミロクの顔つきが違う。
「誰?」俺が言う。
「黙れ!」ミロクが俺に言う。
「おぉぉぉ、ミロク神様!」司祭のおっさんが、その場で平伏する。
「あぁ、神々しいお姿が。」
「おぉぉ、何とお美しい。」そこにいた信者たちが、その場で恍惚の表情を浮かべる。
「くふふふ、敬え!」ミロクの声が聞こえる。
だけど、それだけだ。
「皆さん、聞こえましたか?」俺が皆に聞く。
「はい、ムサシ様、ミロク神様の御尊顔を拝謁し、そのお言葉も聞こえました。」司祭を名乗った男が平伏して言って来る。
その周りで、シスターたちも平伏している。
教会内が、ざわついた。
「今、ミロク伸様のお姿が見えたと・・。」
「あぁ、俺も聞いた。」
「あたしも聞いたわ。」
信者たちが、群がって来た。
「お、お願いします。」老婆が手を差し出してくる。
「私も。」
「俺も。」
「あ~、押すなよ、順番だ!」俺は声を上げる。
「両手に、指が5本あるから、一度に10人な、一人1分だ。」俺はそう言いながら、其処にいた信者たちに指を握らせる。
「あぁぁ、言い伝え通りのお姿が!」
「おぉ、尊い!」
「ありがたや。ありがたや。」
「おぉ、本当にお美しい。」
俺の周りで、平伏する物が増えていく。
「ははは、凄い騒ぎになっているな。」
「くふふ、あたしの人気に驚いたか。」
「ははは。」
********
小一時間が過ぎた頃、偉そうなやつらがやって来た。
「ここか、ミロク神の顔を拝めるという場所は?」その男が言い放つ。
「旦那様、国王様から、『神の身代わり』様には、絶対に逆らうな、口答えするな、敵対するなとお触れが出ております。」その男の付き人が言う。
「はぁ? 平民風情にか? 国王も耄碌したものだな。」その男はそう言い放ちながら、俺に近づいてきた。
「お前が『神の身代わり』か?」その男が聞いてくる。
「あぁ、そうだ。」俺は答える。
「では、命じる、俺にミロク神を見せよ。」その男が、並んでいた民衆を蹴散らして、俺の前に来た。
「くふふ、こいつ嫌い。」ミロクが手を動かすと、その男の首が閉まる。
「なぁ、ガハ! 貴様、何をする?」その男が言う。
「俺は何もしてないぞ、ミロク様がお前は嫌いだってさ。」俺は冷たく言う。
「何だと、貴様、いや、神の身代わり様、ミロク神様に、がはぁ!」その男の首が折れた。
「おぉぉ、ミロク神様がお怒りだ。」
「あの貴族め、なんて馬鹿な事を。」
「か、神の身代わり様、ミロク神様にお慈悲をお願いします。」
「我々は、ミロク神様と共に。」信者たちが祈りを始める。
その場で死んだ貴族の付き人も一緒に祈っている。
「はぁ、この貴族は馬鹿か?」俺は言う。
その貴族は、数人の信者が表に引きずって行った。
その後も、信者たちはミロクを見るために集まった。
********
さらに小一時間が過ぎたので、俺は終了を宣言する。
「これで、ミロク神様の御尊顔を拝めるイベントは終わりだ。」
「えぇ、そんな。」
「まだ見れていません。」多くの信者が文句を言う。
「ミロク神様がお疲れだ。」俺は言う。
実際には、俺が疲れたんだがな。
「あぁ、それなら。」
「仕方がない。」
「諦めるか。」信者がそれでもそこを離れがたそうにしている。
「解った、何か月かに1回、この教会に来てやるよ。」俺が言う。
「おぉぉ。」信者が騒ぐ。
「司祭。」
「は、はい。」先ほどの男がやって来て平伏する。
「俺が来た時に、ミロク神に会いたい奴は、お前が決めろ。」俺は言う。
「はぁ?」
「寄付額でも、抽選でも、お前の裁量で決めて良い。」俺が言う。
「え? えぇ?」司祭が狼狽える。
「1日、上限100人な。」俺が宣言する。
「しっかりと、儲けろ。」俺は司祭の肩を叩いて言う。
「ははぁ。」司祭が膝をついた。




