姉御
それは、王都迄あと1日と言う日に、野営地で起こった。
流石に、王都に近い事も有って、数組のキャラバンがその場所にいた。
それ以外にも、何組かの冒険者が野営の準備をしていた。
俺はいつものように晩御飯の用意をしていると、シズカと誰かの声が聞こえた。
「なぁ、なぁ、俺達と良いことしようぜ。」一人の男が、シズカの手を持って言う。
「放して下さい!」シズカは拒絶しているようだ。
「無礼者!」サノアさんの声も聞こえる。
「何だよ、俺はその人に声を掛けただけだろう。」その男は、姫様に声を掛けたようだ。
「はぁ、行って来るか。」俺はまずシズカの所に行く。
「おい、俺の連れに何か用か?」俺はシズカの手を持っている男に言う。
「ムサシ様!」シズカが俺を見て、ほっとしながら言う。
「あぁ、手前に用はない、引っ込んでいろ!」その男が俺に向かって言う。
「お前になくても、俺にはあるんだよ、お前の汚い手をシズカから放せ。」
「あぁん、貴様には関係ないだろう、俺とこの娘の問題だろうが。」その男が言い捨てる。
「はぁ、お前、馬鹿だろう、俺の連れだと言ってるだろう。」俺は、少しだけ威圧を込めて言う。
「な、何と言われようが、俺がこの娘を気に入ったんだ、だから俺の物にする。」その男が言い放つ。
「本当の馬鹿だったか。」俺はシズカの腕を持っている男の手を持ち、3割の力で握りしめる。
「ボキッ!」良い音がした。
「ぎゃぁぁぁぁ!」その男が、悲鳴を上げながら、その場でのたうつ。
シズカは、そのすきに俺の後ろに隠れた。
俺はシズカに、鍋の様子を見ていてくれと言って、姫様の方に行く。
「おい、お前。」俺は、姫様に声をかけていた男に言う。
「何だ、お前?」その男は、俺を見て言う。
「そのお方は、この国の第3王女殿下だ、お前ごときが気安く声を掛けて良いお方ではないぞ。」俺は優しく言う。
「はぁ? 第3王女? そんな奴が、こんなところで碌な護衛も付けずにいるわけないだろう、はったりもいい加減にしろ!」
「はぁ、多分お前の仲間も、あそこでのたうっているぞ。」俺は、先程腕を粉砕した男を指さして言う。
「何だと?」その男は、仲間の男を見て驚愕した。
「貴様、何をした?」その男が俺に詰め寄る。
「何って、俺の連れにちょっかい出していたのを止めろと言ったのに、止めないからお仕置きした。」
「はぁ? 貴様、良くもやってくれたな。」その男が凄みながら剣を抜いた。
「あ~ぁ、お前、やっちまったな。」俺はその男に言う。
「何がだ?」その男が、俺に聞いてくる。
「さっき、其処にいるお方は、この国の第3王女様だと言っただろう。」
「それがどうした?」
「王族の前で、許可なく抜刀したらどうなるか知っているか?」俺は、やれやれと肩を窄めながら言う。
「何だと?」その男が姫様を見る。
こめかみをぴくぴくとさせていた姫様が、俺に言う。
「ムサシ様、不敬罪です! その二人を処分してください!」
「だってさ。」俺は、その男に言う。
「この野郎!」その男は、俺に剣を振り下ろす。
その剣筋は、俺にはスローモーションのようにしか見えない。
俺は、その手を持って、その男の足に剣を突き刺した。
「ぎゃぁぁぁ!」その男が叫ぶ。
「おぉ、器用だな、自分の足を刺すなんて。」俺は笑いながら言う。
「き、貴様ぁ!」その男が、俺に向かって言う。
俺は、その男を野営地から離れた場所に蹴り飛ばした。
そして、腕を潰してのたうっていた男も、同じように蹴り飛ばした。
俺はその二人に近づいていく。
「ちょっと待って!」そんな俺に声を掛ける者がいた。
「あぁ?」俺は、その声の主を見る。
「姉御?」俺はぽかんとする。
「え? アンタ、ムサシかい?」その女性が俺に言う。
「姉御、久しぶりだな、まさかと思うが、こいつらの関係者か?」
「あ~、関係者と言うか、今回の依頼を共同で受けただけなんだけどね。」てへへと笑いながら姉御が言う。
「悪いけど、姫様から不敬罪認定されているから、助けられないよ。」俺は冷たく言う。
「いや、それは問題ない、ただ、そいつらが持っている依頼書を回収させてほしい。」
「何だそんな事か、だったらご存分に。」俺は道を開ける。
「おい、頼む、助けてくれ。」
「俺たちは、仲間だろう!」男達が姉御に懇願する。
「ふん、事あるごとに、あたいの身体を触ろうとする奴が何言ってるんだい!」
「いや、俺はお前の事が好きだから。」
「そう言いながら、他の女にちょっかい出すんだね?」
「いや、そんなことは無いぞ、俺はお前一筋だ!」
「ふん!」そう言った男の顔を、姉御は蹴った。
「ふぎゃ!」その男が倒れ込む。
そして、その男の懐をまさぐった姉御は、何かの書類を手にして俺に言う。
「ムサシ、終わったから好きにして良いよ。」
「あぁ、アイスジャベリン!」俺は氷魔法で氷の槍を作り、二人の心臓に打ち込んだ!
その男達はその場で絶命した。
「姉御、そいつらの装備はどうするんだ?」俺は姉御に聞く。
「大した装備じゃないから、その辺に捨て、いや、売れば金になるか。」姉御は、その男達の装備や、持ち物を物色して手に入れた。
「そいつらのギルドカードは、姉御がギルドに提出してくれよ。」俺は姉御に言う。
「あぁ、今回の依頼が不履行にならないためにな。」
「え?」
「王都迄行くんだろう? あたいが護衛しているキャラバンも同行して良いだろう?」
「姉御?」
「頼むよ、ムサシの雇い主に頼んでくれよ、昔一緒に風呂に入って洗ってやった仲じゃないか。」
「ああ、姉御、その話は、また後で。」俺は狼狽えながら言う。
「ほほほ、ムサシ様、良いではないですか。」一部始終を見ていたハコベが俺に言う。
「おぉ、あんた、話が分かるな!」姉御はハコベの肩を抱いて言う。
「ほほほ、旅は道連れ、世は情けと言いますからね。」ハコベがニコニコしながら言う。
「おっ! お前、解ってるじゃねーか。」姉御はハコベの肩をバンバンと叩く。
「ほほほ、痛いので止めてください。」ハコベが迷惑そうに言う。
「お! 悪い、悪い、いつもの癖でな。」姉御がへへへと笑う。
「はぁ。」俺はため息をつきながら、ミロクに二人の始末を頼んだ。
「くふふ、塵になれ。」
二人の男が、塵になった。
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「姉御、何を当然のように、ここで飯を食っているんだ?」俺が言う。
「何だよ、ケチ臭いな、あたいが護衛しているキャラバンは飯がしょぼいんだよ。」
「だから、何でここで食っているんだよ。」
「あたいとムサシの仲だろう、おっ、これ美味いな。」姉御は、俺とシズカに用意した晩飯を横から食っていく。
「仕方ないなぁ。」俺はそう言いながら、晩飯のおかずを追加していく。
「ふふふ、ムサシ様、仲が宜しいんですね。」シズカが目の光を無くしながら言う。
「おい、シズカ、勘違いするな、姉御は只の姉御だ。」
「風呂で身体を洗いあう仲だよな。」姉御が言う。
「お風呂で、身体を洗いあう。」シズカが更に目の光を失う。
「おいおい、シズカ、気をしっかり持て!」俺は、シズカの肩を持ってゆすりながら言う。
「何だよ、ムサシ、つれないなぁ。」姉御が言う。
「姉御、それ以上言ったら、飯を取り上げますよ。」俺は真顔で言う。
「ははは、解ってるよムサシ、冗談だよ、冗談!」姉御がニカって笑いながら言う。
「不安だ!」俺は思う。
しかし、そう言いながら晩御飯が終わった。
「ムサシ様、姫様から風呂の所望が。」サノアさんが言って来る。
「解りました。」俺はそう言いながら、地魔法で、前回と同じように風呂を作る。
「ほえ~、ムサシ、あんたいつの間に魔法が使えるようになったんだい?」姉御が驚愕する。
「あれから、色々あったんだよ。」俺は姉御に答える。
「はぁ、ムサシも苦労したんだねぇ。」姉御が言う。
「ははは。」俺は、苦笑する。
姫様が終わり、サノアさんの分も終わり、ハコベさん一行の風呂も終わったので、俺はシズカと風呂に入った。
そして、俺はシズカを撃沈させ、ゆっくりと風呂を堪能していたら、姉御が風呂に襲撃してきた。
「おぉ、なかなか良い風呂じゃねえか。」姉御が真っ裸で入ってくる。
「あ、あ、あ、あ、姉御、何考えているんだ?」俺は狼狽えながら叫ぶ。
「わははは、ムサシとあたいの仲だろう、何をいまさら。」姉御が言う。
「あぁ、そうだな。」考えてみたら、俺は姉御と何回風呂に入った事か。
「姉御、久方ぶりに、俺が洗おうか?」俺は姉御に声をかけた。
「おぉ、頼むぜ。」そう言いながら、姉御はシャワーの前の椅子に座った。
「んじゃ。」俺は石鹸を両手に泡立てて、姉御を洗う。
「はぅ、のぁ、ひえ、む、ムサシ、腕を上げたね。」姉御が顔を上気させながら言う。
「姉御の御指導の賜物さ。」俺はそう言いながら、姉御の全身を洗う。
シズカと同じように、変な声を上げていた姉御の身体を洗い終わり、髪の毛もゆっくりと洗って行ったら、姉御もシズカと同じように撃沈した。
俺は、姉御もシズカの隣に沈めて、再び風呂を堪能した。
え? 姉御とシズカの裸を見ても、何も思わないのかって?
慣れたよ。
そして、姉御とシズカを蘇生して、風呂を上がった俺は、魔法で二人の髪を乾かして着替えをさせたよ。
勿論、姉御とシズカの装備は、ミロクに浄化してもらっている。
「な、何であたいの装備が奇麗になっているんだい?」姉御が騒いでいるが、それは俺が磨いたと言ったら、姉御は何かを考え始めた。
シズカは大人しく着替えている。
俺も着替えて、風呂を消したら、姉御が固まっていた。
「む、ムサシ、あんた、いつもこんな旅をしているのかい?」姉御が聞いてくる。
「え? だいたいそうかな。」俺は普通に答える。
「ムサシ! いや、何でもない!」そう言いながら、姉御は自分が護衛するキャラバンに戻って行った。
「?」俺は、姉御の態度を疑問に思ったが、深く考えずに、シズカを抱いて寝た。
襲撃が有ったら、ミロクが起こしてくれる。
そう思ったら、俺は夜営中にも係わらず、爆睡してしまった。
翌朝、シズカに起こされた。
「ムサシ様、朝御飯が出来たそうです。」シズカが言う。
「え? 俺は其処迄爆睡していたのか?」俺はそう思いながら寝床を出る。
其処には、各キャラバンが朝食を用意する姿があった。
「うわ、朝飯を用意しないと。」俺は、慌てて用意をしようとする。
「おぉ、ムサシ、起きたのかい。」そこにいたのは、朝飯を用意している姉御だった。
「姉御?」
「昨日は御馳走になったからな、朝飯はあたいが作るよ。」姉御がニカって笑いながら言う。
「おぉ。」俺は、その場で呆けた。
「今日は、王都に着くんだろう? 襲撃は無いと思うが、気を引き締めないとな。」俺は姉御に言う。
「あぁ、解っているよ。」姉御が答える。
何だろう、姉御とのやり取り、凄く気持良いな。俺は思う。
「くふふ、妬けるねぇ。」ミロクが言う。
「そんなんじゃねーよ。」俺が答える。
「出来たよ。」姉御が朝飯を俺に渡してくる。
俺はそれを受け取って、キャンプの端っこに座って、口に入れる。
「美味いなぁ。」俺は口にする。
姉御が作ってくれた朝飯は美味かった。
「姉御、美味いな。」俺は、普通に感想を言う。
「お! あたいに対するプロポーズか、ムサシなら受けても良いぞ。」姉御が言う。
「違うよ。」俺が言う。
「何だよ、つれないねぇ。」姉御が残念そうに言う。
「そんなんじゃないけど、マジで美味い。」
「おっ、ムサシ、解ってるじゃないか、あたいを嫁にすれば、毎日作ってやるぞ。」姉御が俺に言う。
「うっ。」俺は、一瞬躊躇した。
姉御の事は嫌いじゃない、むしろ大好きだ。
「うぅ、保留で。」俺は答える。
「優柔不断だねぇ。」姉御があきれる。
「五月蠅いな!」俺は不貞腐れて横を向く。
「くふふ、お似合いだと思うけど。」ミロクが言って来る。
「俺もそう思うよ。」
「あれぇ、其れなら。」
「俺は、まだ未熟だ。」俺は手を握りしめながら言う。
「姉御には、相応しくない。」
「くふふ、本当に、もう。」ミロクが身体をくねくねさせる。
「?」俺は、不思議なものを見るような目でミロクを見る。
「くふふ、姉御さんも大変だね。」ミロクが肩をすくめる。




