鍋
「あの、ムサシ様、その皮鎧は、ガキーン様が作られたのですか?」ハコベが俺に聞いてくる。
「あぁ、そうだ、軽くて使いやすいぞ。」俺が答える。
「何と、しかも、その素材は、わ、わ、わ、ワイバーンですか?」
「あぁ、俺が提供したからな。」
「む、ムサシ様は、ワイバーンの素材を持っていらっしゃるのですか?」
「ん? 皮は、ガキーンにやったから、翼の膜だけだな。」
「なんと!」ハコベが驚愕する。
「前回は、オークションで1500Gとか言っていたな。」俺は、思い出しながら言う。
「それを、売っていただけないでしょうか?」ハコベが恐る恐る聞いてくる。
「別に良いけど。」俺が答える。
「では、帝都に着きましたら、1500Gで買い取らせていただきます。」ハコベが平伏しながら言う。
「はいよ。」俺はそっけなく答える。
「しかし、ガキーン様の作られた、ワイバーンの皮鎧ですか、しかも籠手付き。」ハコベが考え込む。
「どうしました?」俺はハコベに聞く。
「ガキーン様の作られる、しかもワイバーンの皮鎧! 付与が無くても3000Gは・・・。」
「付与?」俺が聞く。
「はい、魔石を使って、色々な効果をつけるそうです。」ハコベが言う。
「あぁ、自動修復と、温度調節と、自動防御が付いていると言っていたな。」俺が答える。
「なんと、それは、10000G以上の価値が・・。」ハコベが固まる。
「そんなに凄いの?」俺が答える。
「国宝級、いえ、それ以上です。」ハコベは息を荒くしながら言う。
「へぇ。」俺はそっけなく言う。
「ほほほ、流石は『神の身代わり』様だと言う事ですね。」ハコベが何かを納得する。
「ムサシ様。」
「何だ。」
「因みにですが、どの様な物を提供したのですか?」
「あぁ、ワイバーンの皮とワイバーンの魔石、オークキングの魔石を数個、ミノタウルスの魔石十数個、オーガの魔石数個、オークの魔石数十個だな。」俺が答える。
「かはっ。」ハコベがその場に倒れる。
「おいおい、大丈夫か?」俺が言う。
「解りました、はい、解りました。」ハコベがその場で悶絶している。
「大丈夫かよ?」
「ふふふ、ガキーン様に何かを頼むには、10000Gが必要なのですね。」ハコベが笑いながら言う。
「違うと思うぞ。」俺が言う。
「何故そのように?」
「そういう感じじゃ、無かったんだよな。」俺が言う。
「はぁ?」ハコベは思案顔だ。
「何と言うか、男気?」俺が言う。
「男気? ですか?」
「あぁ、金とか、そう言う物じゃなくて、心じゃないか?」俺が言う。
「心ですか。」ハコベが何かを感じながら言う。
「あぁ。」
「何かが解ったような気がします。」ハコベが顔を上げて言う。
「そろそろ出発しませんか?」サノアさんが声を掛けてくる。
「は! そうでしたね。」ハコベが正気に戻った。
「では、出発しましょう!」ハコベの声で、馬車隊が動き出す。
当然、俺とシズカは先頭の馬車の上だ。
「くふふ、ここからの街道には、美味しい食材はいないよ。」
「そうなのか?」
「うん。」
「なら、闘気を全開にして!」俺はそれを実行する。
「くふふ、帝都までは楽勝になったね。」ミロクが言う。
「あぁ、それなら楽勝だな。」俺が言う。
「くふふ、フラグ?」
「違うよ!」
「くふふ、そうだと良いねぇ。」
「ミロク、フラグを立てないでくれ。」俺はミロクに言う。
「くふふ。」
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「流石に、魔物の襲撃は無いな。」俺は屋根の上で言う。
「くふふ、そうでもないんだよ。」
「え?」
「闘気を感じない、下等な魔物の襲撃が有るかもね?」
「ミロク。」
「何だい?」
「思いっきりフラグじゃねーか!」俺が叫ぶ。
「え? そうなのかい?」ミロクがあっけらかんと答える。
「灰色鼠が襲撃してきた!」御者が叫ぶ。
「灰色鼠が襲撃?」俺は疑問に思う。
灰色鼠は、凄く温厚な動物で、ペットとして飼われることもある。
体長は50cmぐらいで、群れで行動する。
「灰色鼠は、人を襲わないはずだ。」俺が叫ぶ。
「普通ならそうです。」
「では、やり過ごせば。」
「明確に、馬車を狙って来ています。」御者が叫ぶ。
「はぁ?」
「くふふ、発情期みたいだね。」
「発情期?」
「灰色鼠は、発情期になると、子供を産む準備のために肉を食べようとするんだよ。」
「へぇ?」
「好物は、馬肉なんだ。」
「そう言う事か。」俺は、馬車を飛び降りる。
「数は、100匹ぐらいか、よくそんな数で馬を襲おうと思ったな。」俺は地魔法で灰色鼠の進路を変えるために、土の壁を作る。
「進む先には、深い穴。」俺は地魔法で、直径5m、深さ30m位の穴を作った。
「ははは、面白いように落ちていくな。」
「で、穴に熱湯を入れる!」
「くふふ、酷いことを。」
「仕方が無いじゃないか、退治しないと馬車が襲われるし。」
「む、ムサシ様、その灰色鼠をお譲りいただけませんか?」ハコベが聞いてくる。
「はぁ? 全然問題ありませんが。」
「おぉ、それはありがたい、実は、灰色鼠の皮で作ったマフラーが、王都では人気でして。」
「へぇ。」
俺は、穴の中で静かになった灰色鼠を魔法で持ち上げて、魔法で乾かし、ハコベの前に置いた。
「お前達。」ハコベが指示すると、
「はっ!」部下たちが、皮を剥ぎ始める。
「おぉ、見事なものだな。」
「ほほほ、いつもやっている事ですので。」
「へぇ、そうなのか?」
「発情期の灰色鼠の皮は、特に柔らかくて、引く手あまたなのですよ。」ハコベはニコニコ笑いながら言う。
「へぇ、そうなんですね。」俺は、俺が作った土の壁と穴を魔法で元に戻しながら言う。
「終わりました。」ハコベの部下が言う。
「ほほほ、ご苦労様です。」ハコベがニコニコしながら言う。
其処には、灰色鼠の皮を剥がれた物が残っていた。
「ミロク。」
「くふふ、解っているよ。」そこに有ったものが塵になる。
「ほほほ、お待たせしました、では、進みましょう。」馬車が進み始める。
そして、今日の野営の場所に着いた。
「さぁ、野営の準備です!」ハコベさんが部下に指示を出す。
ハコベの部下たちは、各々別れ、テントを張り、竈の用意をした。
俺は、それとは別に、複数の竈と調理台を地魔法で作り出し、料理の用意をし始める。
俺は、俺の作った竈に、ミロクに持って貰っていた鍋をセットする。
俺とシズカ用、姫様とサノア用(かなり大きめ)、ハコベ達用(すごく大きい)。
俺は、それぞれの鍋に、昆布と俺特製の出汁袋を入れ、水魔法で水を張る。
そこに、リョリとサノアさんがやって来た。
「今から、鍋の具材を提供します、が、お肉はもう用意しています。」
「え?」
「そんな。」リョリとサノアが落胆する。
「知りたければ、あとで教えます。」
「「はい。」」二人の声がハモル。
「竈に火を入れたら、鍋が煮た立つ前に、昆布を取り出してください。」
「何でですか?」サノアさんが俺に聞いてくる。
「あれ? 昆布は煮立たせると、苦みが出ますよね?」俺が質問する。
「そうなのですか?」サノアさんが言う。
「あれぇ?」俺は疑問に思う。
ギルドの姉御たちは、普通にそれを実行していた。
(何で、料理な得意な人が、俺が知ってる技術を知らないんだろう?)俺は思う。
「とりあえず、俺が言った通りに行動してください。」
「はい。」
「解りましたわ。」
「鍋が煮たつ前に、白菜、大根、人参、椎茸を食べやすい大きさに切って、鍋に入れます。」
「「解りました。」」
「そして、事前に用意した、金鶏のもも肉とつみれを鍋に投入!」俺はそれを実行する。
「取り出した昆布は、細く切って佃煮にします。」俺は昆布を切りながら言う。
細切りにした昆布を鍋に入れ、砂糖と酒、味醂と醤油を入れて、さらに出汁を入れ煮込む。
「数分煮込んで、汁けがなくなったら昆布の佃煮の完成だ。」俺は言う。
「成程。」
「解りました。」リョリとサノアが言う。
「何だろう、この二人の料理知識、低い!」俺は思う。
とりあえず、今日の夜食は、金鶏の鍋だ。
俺は、自家製のポン酢を取り出して、其処にいる皆に言う。
「これに食材を浸して食べると最高ですよ。」俺はそう言いながら、自家製のポン酢を提供する。
カボスとスダチが手に入った俺は、速攻でポン酢を作った。
色々なんちゃってだが、ポン酢は美味しかった。
「ほほほ、毎回食材を提供いただき、ありがとうございます。」ハコベが良い笑顔で言う。
「ははは、美味い物が食べたいだけですよ。」
「ムサシ様、ありがとうございます。」姫様もお礼を言ってくれる。
「いえいえ、姫様のお口に合えば良いのですが。」
「ふふふ、城でもなかなか食べられないものばかりです。」そう言いながら、パクパクと食べている。
「ほほほ、この肉団子は、コリコリとして美味いですな。」
「本当に。」
「ははは、金鶏のお肉をミンチにして、軟骨を入れています。」
「成程。」
「美味しい。」
「具が無くなったら、締めです。」俺は鍋に醤油を入れて味を調節し、ご飯を投入した。
「少し煮込んだら、卵を溶いてどばーっと入れる。」俺は溶き卵を回し入れた。
「卵が半熟になったら完成。」
俺がやったことを、サノアさんとリョリさんもそれぞれの鍋で行った。
「さぁ、お玉ですくって椀に入れてスプーンですくって食べてください。」俺はシズカの椀におじやを入れながら言う。
「ほれ。」俺は、椀をシズカに渡す。
「ありがとうございます。」シズカは椀を受け取ると、スプーンですくってふうふうと息をかけて口に入れる。
「美味しい。」
「ふふふ、そうだろう、そうだろう。」
「ほほほ、これは何とも。」
「温まりますね。」
其処にいた、全員が鍋を堪能したようだ。
「くふふ、酷い飯テロだったよ。」ミロクが言う。
「実態が戻るまで、頑張れ。」俺はミロクに言う。
「くふふ、解っているよ。」




