表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/132

鍛冶師ガキーン

「頼もう!」俺は何回目かの叫びをあげた。


「五月蠅いぞ!」店の奥から、一人のドワーフが出て来た。

「あぁ、始めまして、俺はムサシと言う。」俺は、そのドワーフに挨拶をする。


「あぁ? お前が誰かは知らないが、どうでも良い、ここに何の用で来た?」そのドワーフは不機嫌そうに言う。


「いや、その、防具を頼めないかと思って。」俺が言う。

「あぁ?」そう言いながら、そのドワーフは俺の装備を見て言う。


「紙だな。」

「はう!」(ミロクにも同じことを言われたよ。)


「それを、少しでも強い装備にしたくって。」俺はそのドワーフに言う。

「それなりの装備はくれてやるが、その対価は何だ?」ドワーフが言う。


「これを。」俺は、ミロクが貯めていた魔石をそこに出す。


「なぁ、何だこれは? ワイバーンの魔石、オークキングの魔石にミノタウルスの魔石、それ以外に、オークの尋常ではない数の魔石!」


「オーガの魔石も提供しよう。」俺は、それをそこに置く。


「ふふふ、貴様、俺を試すのか?」

「ん?」


「これだけの魔石を提供して貰い、普通の防具を渡せる訳がないだろう!」ドワーフが叫ぶ。


「え? そんなもんか?」俺が答える。


「おまえ、解っているのか?」

「何が?」


「オークキングの魔石だけで、この店の最上級の装備を渡せる。」

「へ~。」


「しかも、ワイバーンの魔石だと?」

「あ? 忘れてた、これも提供するよ。」俺はワイバーンの皮をミロクから貰う。


「ふふふ、貴様、俺を試しているのか?」

「いや、そんなつもりはない、これで、俺に見合った装備を作ってくれ。」俺はドワーフに言う。


「この野郎、こんな素材を出しやがって。」ドワーフが俺に言う。


「いや、適当に見繕ってくれればいいよ。」俺が言う。

「貴様、いつまでこの町にいる?」

「あぁ、護衛の仕事が有るから、明日の朝6時だ。」


「この野郎、くそぉ、明日の6時だな、見事やり遂げてやるぜ!」ドワーフが宣言する。

「あぁ、朝6時に南門から出発するからな。」俺はドワーフに言う。


「何だと、畜生! 俺は鍛冶屋のガキーンだ、明日の6時に、南門までお前の装備を届けてやるよ!」

「あぁ、それは頼もしい、頼んだ。」

「解った!」


「あぁ、これも渡さないとな。」俺はミロクからそれを貰ってカウンターに置いた。

 ウイスキー5本だ。


「この野郎、解ってるじゃねえか!」ガキーンがにやりと笑いながら言う。


「んじゃ、頼むな!」俺はそう言って店を出る。


「こん畜生、死ぬまでに見られたら幸運な素材を見せつけられたら、命を書けるしかないよな!」ガキーンがそう言いながら、素材を持って工房に入って行った。


**********


「さて、晩飯は何だろう。」宿屋に帰ってきた俺は、ハコベ達と食堂に向かっていた。

「ほほほ、ムサシ様のお口に合うかどうか?」ハコベがすまなそうに言う。

「ん?」


「ここは、普通の宿ですから。」

「解ってるけど。」


「ムサシ様、私の家もそうでしたが、ムサシ様が提供して下さる様な素材を出す宿はありません。」シズカがそっと耳打ちしてくる。


「いや、俺は知ってるけど。」ポーター時代の不遇な経験が甦ってくる。

「くふふ、私を敬え~。」ミロクがふんぞり返る。


「あぁ、美味い物を提供してくれるミロクには感謝してる。」

「くふふ、足を舐めても良いんだよ。」ミロクが足を延ばしてくる。


「だが、俺は、ミロクの神気を取り返すための、協力者だよな。」

「ぐっ!」ミロクがしまったって顔をする。


「ふ~ん、足を舐めろと。」俺は、ジト目でミロクを見ながら言う。

「悪かったよ、冗談だよ。」


「何なら、舐めてやっても良いぞ。」俺は変態顔でミロクに迫る。

「な、何言ってるんだい、君は変態なのかい?」ミロクが慌てる。


「ムサシ様、ハコベ様が固まっていますよ。」シズカが俺に言って来る。



「あ~、やっちまった! ミロクが見えない奴には、俺の一人芝居じゃね~か!」




「ほほほ、ムサシ様は、神様とお話しなさっているのですよね。」フリーズから戻ったハコベが顔を引きつらせて聞いてくる。

「あぁ、そうだぞ、そうは見えないだろうけど、そうだぞ。」俺は挙動不審気味に答える。


「ほほほ、いえいえ、大丈夫です!」ハコベが言う。

「何が大丈夫なのかな?」


「ほほほ、気にせず、食事にしましょう。」ハコベは何事もなかったように席に着く。

「はぁ。」俺は、ため息をつきながら席に着いた。

 シズカも、俺の対面に座る。


「これは?」俺は、提供された料理に驚く。


(オークの並肉を使った丼料理!)俺は心で叫ぶ。


「オーク丼かぁ!」俺は言う。

「おや、ケイジ様はご存じで?」


「あぁ、ギルド時代に、姉御たちがこっそりくれた端肉で良く作った。」

「そうなのですか?」ハコベが驚きながら聞いてくる。


「あぁ、七味唐辛子を振りかけて、溶き卵をかけて良く混ぜて食うと旨いんだよな。」

「ごくり、これ、主人。」ハコベは、宿の主人に声を掛ける。


「はい、何でしょう?」宿の主人が、揉み手をしながら近づいてくる。

「聞きましたね、七味唐辛子と生卵を提供して下さい、料金は払います。」


「え~っと、どの位でしょう?」宿の主人が聞いてくる。

「欲しい人は、挙手なさい!」


 ハコベの部下は、全員手を挙げている。

 勿論、俺もシズカも上げている。


 奢りなら、貰えるものは貰っておくさ。


「9人前、用意してください!」ハコベが宿の主人に言う。

「は、はい、お待ちください。」そう言って、宿の主人は厨房に入って行った。


「ミノタウルスや、ワイバーンで作ったら美味いかな?」俺がぼそりと呟く。


「なんと、そんな物で丼を作ったら、取り合いをして暴動が起きます。」ハコベが言う。

「そうか?」俺は、気楽に答える。


「たかがミノタウルスやワイバーンで、丼を作ったからどうだって言うんだろう?」俺は思う。


 卵と七味唐辛子が提供されたので、俺は卵を溶いて、七味唐辛子をたっぷりとかけたオーク丼に入れて、よくかき混ぜた。

 そして、豪快に口に入れる。

「ふほほ、これだよこれ。」俺は、飯を掻き込む。


「おぉ、本当ですな。」ハコベもオーク丼を掻き込んでいる。

「これは旨い!」

「おぉ、お替りが欲しいぜ。」ハコベの部下たちもがっついている。


「ムサシ様、本当に美味しいです。」シズカがにっこりとほほ笑んでくる。

「良かったな。」俺はそう言いながら、家に帰ったらミノタウルス丼を作ってやろうと考えた。


 俺達が、オーク丼にむしゃぶりついているのを見て、宿の主人は厨房に入って行く。


「あぁ、本当だ!」宿の主人が、厨房で味見をして叫んでいる。


「くそぉ、早く気が付けばよかったぜ。」宿の主人が厨房で叫んでいた。


**********


 食事を終えた俺たちは、風呂に入ることにした。

 そして、いつものようにシズカを撃沈させて、俺は風呂を満喫した。


「さぁ、明日も早いから、もう寝るぞ。」俺はそう言って布団に潜り込む。

 当然のように、シズカが俺の布団に潜り込んで来た。


「こいつ、本当に温かいんだよな。」俺は、シズカを抱きしめて意識を飛ばした。


**********


「ふわぁ、良い朝だ。」俺は伸びをしながら言う。

「ムサシ様、お早うございます。」シズカが俺に言って来る。


「あぁ、お早うシズカ。」

「はい、ムサシ様。」


「さて、支度をして、南門に向かうか、あ~、今回は、ハコベも一緒か、なら、急がなくても良いかな。」俺はそう言いながら身支度をする。

 シズカも、旅装束を装備した。


 俺達は、一階に降りて、朝御飯を堪能した。

「マジで、美味かった。」


 そして、俺はシズカと一緒に南門に向かった。


**********


「がはは、やっと来たか!」その男は、俺を見てそう言った。

「おぉ、ガキーンじゃないか!」俺は手を上げて答える。


「やってやったぜ!」ガキーンは俺に皮鎧を差し出してきた。

「おぉ、凄いな!」


「おう、ワイバーンの皮を3重にして、強度を高めてある。」へへへと笑いながら、ガキーンが言う。

「ほぉ、それは凄い!」俺は素直に感心する。


「着て見ろ!」ガキーンが言う。

「あぁ。」俺は、今まで着ていた紙装甲を脱いで、皮鎧を着る。

「軽いな。」俺は感想を言う。


「あぁ、だが、普通の剣や槍は刃を通さないぜ!」

「ほぉ、それは凄い。」


「そして、これはおまけだ。」そう言いながら、ガキーンは籠手を出してくる。

「右手用は、鎧と同じで皮を3重にしてある、左手用は皮を6重にして強度を高めてある。」

「おぉ、これも軽い。」


「しかも、鎧も籠手も、お前が持ってきた魔石で、色々な効果を付けたぞ。」

「ほぅ。」


「最初に、自動修復だ。」

「自動修復?」


「あぁ、もし破損や、破れが出来ても、一晩で元に戻る。」

「それは凄いな。」


「次に、温度調節だ。」

「温度調節?」

「あぁ、その鎧の半径1m位を、いつでも快適な温度にする。」

「おぉ、良いな!」

「そうだろう。」

「あぁ。」


「そして、自動防御だ。」

「自動防御?」


「一定以上の速さで向かって来る物や、魔法を打ち落とす。」

「マジで凄いな!」俺は興奮する。


「がははは、その顔を見れただけで俺は満足だ!」ガキーンは、うんうんと頷いている。


「ありがとうな。」俺は、ガキーンに礼を言う。

「良いって事よ、あと、これは返すぜ。」そう言いながら、袋を渡してくる。


「何だ、これ?」俺はその袋を見て言う。

「余った、ワイバーンの皮と魔石だ。」


「いや、全部取っておいてくれ。」

「いやいや、そう言う訳にはいかねえよ。」ガキーンは、袋を俺に渡そうとする。


「いや、本当に要らないから。」俺はそれを突き返す。


「おいおい、換金すれば1000G以上になる物だぞ。」ガキーンが言う。

「こんな鎧を作ってくれた礼だ、受け取ってくれ。」俺が言う。


「そうか、んじゃ、有難く貰っておくぜ。」

「あぁ。」


「その代わり、俺に頼みたいことが有れば、優先的に便宜を図ってやるからな。」ガキーンは、そう言いながら、俺の肩を叩いてくる。


「あぁ、その時は頼む!」俺はガキーンの目を見て言う。

 そして、気が付く。


「隈が出来ているな。」

「がははは、久々に徹夜をしたからな。」

「そうか、それじゃぁ、栄養ドリンクでも飲んで、英気を養ってくれ。」そう言いながら、ミロクからウイスキーを受け取り、差し出す。


「がははは、解ってるじゃねぇか!」そう言って、ウイスキーを受け取ると蓋を開けてラッパ飲みをする。


「くはぁ~、効くぜ!」ガキーンが言う。



「お待たせしました、ムサシ様。」後ろから声を掛けられる。

「ん?」俺が振り向くと、ハコベと姫様の馬車隊が近づいて来た。


「あぁ、お早うございます、ハコベさん。」

「ほほほ、お待たせしました、おや、装備が変わりましたか?」ハコベが俺に近づいてきて言う。


「あぁ、この人に作って貰った。」俺は、ガキーンを指して言う。

「何と、が、が、が、ガキーン様ではないですか。」ハコベが取り乱す。


「ん? 誰だ?」ガキーンが首をかしげる。

「行商人のハコベでございます。」ハコベはペコペコとお辞儀をする。


「ハコベ? あぁ、俺に鎧を作れと言ってきた奴か。」

「はい、その節は、お世話になりまして。」


「世話なんかしてねーよ。」ガキーンは不貞腐れて言う。

「いえいえ、ガキーン様の造られた装備は、引く手あまた、即完売いたしました。」


「そりゃ良かったな。」ガキーンは興味なさそうに言う。


「できましたら、今一度仕入れをお願いしたいのですが。」ハコベが揉み手をしながら言う。

「あぁ、気が向いたらな。」ガキーンは取り合わない。


「是非に、是非に。」ハコベは空気を読んで、引き下がる。


 そして、ガキーンは俺を見ると、口を開く。

「んじゃ、ん? そう言えば、名前を聞いていなかったな?」ガキーンが言う。


「あれ? 最初に名乗ったんだが、俺はムサシだ。」

「あれ? そうだったか? 俺は物覚えが悪いからな、ムサシ、またな。」ガキーンが右手を差し出してくる。


「あぁ。」俺は、その手にウイスキーを握らせる。


 ガキーンは、一瞬きょとんとしたが、豪快に笑いだす。


「がはははは、ムサシ、マジで気に入ったぜぃ!」ガキーンはそう言いながら、俺の肩をバシバシと叩く。


「痛い、痛い、何なの?」俺は、避けながら言う。


「がははは、またな。」そう言いながら、ガキーンは去って行った。


「何だったんだ?」

「くふふ、最後は、握手をしようとしたんじゃないの?」

「え? そうだったのか、てっきりもう一本よこせと・・。」

「くふふ、君らしいね。」


「俺、やらかした?」

「くふふ、くふふ。」


 ミロクは、答えてくれなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ