鍛冶の町
「ムサシ様、ムサシ様。」シズカの声が聞こえる。
「ムサシ様。」俺は目話覚ました。
「あぁ、大丈夫だ。」俺は起きながら言う。
「ご飯が炊けたそうです。」シズカが言う。
「あぁ、解った。」俺は欠伸をしながら、調理を再開する。
「フライパンに、油をひいて火にかける。」俺はそれをする。
「油が温まったら、大蒜を入れて油に香りを移す。」俺はフライパンに大蒜を入れる。
「ジュワアァ~」大蒜が良い音を立てる。
「油に、大蒜の香りが付いたら、オーク肉を投入する。」俺はフライパンにオーク肉を入れる。
「じゅわわわぁ。」オーク肉が良い音を立てる。
「良い焦げ色がつくまで、何もしない。」
「ほぉ。」リョリが頷く。
「何故ですか?」サノアさんが聞いてくる。
「焦げ色を付けるためです。」
「何故ですか?」
「肉に触ったら、焦げ色が付くまで時間がかかるからです。」
「あぁ、成程。」サノアさんが納得する。
俺はそれを待った。
肉の状態を見極めた俺は、肉を裏返す。
「良い色だ。」俺が言う。
「おぉ、その色が。」
「成程。」サノアさんとリョリさんが納得して声を上げる。
「良い具合に焼けたら、先程作ったタレを投入して、タレが煮詰まるまで弱火で焼き続ける。」俺はそれを実行する。
「ふふふ、何やら美味しそうな臭いがします。」姫様が、俺が調理している処にやってきて言う。
「ひ、姫様、お気を確かに!」サノアさんが姫様をなだめている。
「まぁ、大蒜を油で炒めるのは暴力的な匂いが発生するよなぁ。」俺は思いながら、調理を続けた。
「皿に、キャベツの千切りを山盛りにして、トンテキを乗せて、煮詰めたタレを肉とキャベツにかけて完成だ。」俺は、地魔法で作った机にトンテキを乗せた皿と、ご飯とみそ汁を配膳する。
「姫様、お待たせしました。」俺は、箸を用意しながら言う。
「ふふふ、待ちわびました。」姫様が箸を器用に使って食べ始める。
「おぉ、姫様は箸を使えるのか。」俺は少しだけ驚いた。
「ふおぉ!」姫様が声を上げる。
「え? 何か問題でも?」俺は心配して聞く。
「う。」姫様が言う。
「う?」俺が聞き返す。
「美味いです。こんなに白米に合う料理は知りませんでした。」姫様が叫ぶ。
「はぁ、お口に合ってよかったです。」俺はそう言って、皆の所に戻った。
「さぁ、サノアとリョリには食材を提供するから、皆の分を作ってくれ。」俺はそう言いながら材料をそこに出した。(ミロクから貰った。)
「はい。」
「承りました。」
二人が料理を始めたので、俺も俺とシズカの分を焼き始める。
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それが出来上がったときに、姫様からお代わりを要求された。
「トンテキを、私に!」姫様が俺に突進してくる。
「はぁ。」俺はため息をついて、姫様に言う。
「サノアさんに言ってください。」
「はっ、そうでした。」姫様が我に返った。
「サノア。」
「はい、姫様、出来ていますよ。」サノアさんが答える。
「下さい!」姫様がそれを引っ手繰るように持って行く。
サノアさんは、ため息をついて、自分の分を焼き始めた。
あれ? 二人分焼いているような。
「ははは、気にしないでおこう。」俺はそれを無視した。
「サノア、お替りを下さい。」姫様がサノアさんに突進する。
「これが最後ですからね。」サノアさんはそう言いながら、焼いていたトンテキの一つを姫様に渡す。
「はぁぁあぁ。」姫様はトンテキを持って食事に戻った。
「私も、急いで食べましょう。」サノアさんは、焼き上げたトンテキをナイフで切って口にする。
「あぁ、これは、美味しい。」サノアさんがうっとりとする。
「本当に、白米に合います。」サノアさんは、トンテキを食べ進める。
「あぁ、タレを含んだ、千切りキャベツも絶品です。」サノアさんが千切りキャベツを口にして言う。
「ははは、これは美味しい。」俺はトンテキを食べてそう思う。
「ほほほ、サノア、お替りを下さい!」姫様がサノアに皿を突き出す。
「姫様、申し訳ありません、ムサシ様から提供されたお肉は、もう有りません。」サノアが言う。
「何と!」
「ですから、これ以降の提供は無理です。」サノアが言う。
「でも、其処に、お肉があるじゃないですか!」姫様はフライパンを指さして言う。
「あぁ、これは、俺の肉です。」俺はそう言いながら、肉を俺の皿に移す。
そして、其のお肉をナイフで切って口に入れる。
「あぁ、美味いなぁ。」
「くぅぅ、ムサシ様、其のお肉を私に下さい。」姫様が言う。
「嫌です、この肉は、姫様に提供する肉ではありませんから。」俺が答える。
「ぐぬぬ。」およそ姫様と呼ぶのにふさわしくない声を出しながら、ハコベの所に突進していく。
そして。
「ハコベ! 今日の事を不問にしますから、お肉を下さい!」と宣言した。
「はひぃ、喜んで!」ハコベはそう言いながら、おそらく自分の分だろうお肉を、姫様に渡した。
(肉一枚で、今日のあれが不問か、ハコベ、良かったな。)俺はそう思いながら、肉を食べた。
「凄く美味しかったです。」シズカが嬉しそうに言う。
「くぅ~、何という飯テロ、くふふ、覚えておけよ!」ミロクが何か怖い。
そして、前回と同じようなお風呂タイムが有り、その日は就寝となった。
夜の見張りは、ハコベの部下がやってくれるそうなので、俺は闘気を全開にして眠ることにした。
「くふふ、相当な力を持った魔物以外は、絶対に近寄ってこないね。」ミロクのお墨付きをもらったので、いつものようにシズカを湯たんぽ代わりにして寝た。
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その後何体かの食材を確保して、2日後に、王都入口の町、「鍛冶の町」に着いた。
ここから王都迄は、整備された街道を進み、3日程らしい。
俺たちは、鍛冶の町の門に並んだ。
「ここは、ドワーフが治めている町です。」ハコベが俺に説明してくる。
「ほぉ。」
「装備をそろえるなら、王都よりも此処の方が宜しいと思います。」ハコベが言う。
「だってさ、ミロク。」
「くふふ、そう言う事なら、この町でムサシの装備を新調しようか。」ミロクが答える。
「あの、ムサシ様、何方と話されているのでしょうか?」ハコベが不思議なものを見る目で聞いてくる。
「ん~? 神様?」俺は答える。
「はぁ?」ハコベは合点がいかないって顔で俺を見る。
「俺は何だ?」俺はハコベに聞く。
「神の身代わり様で、あ! そう言う事ですか。」ハコベは何かを納得して頷いている。
と、言ってるうちに、俺たちの順番が来た。
「がははは、身分を証明せい!」明らかにドワーフの男が言って来る。
「こちらを。」ハコベは商業組合のカードを見せる。
「商人・ハコベ及び従業員6人か、良し、通ってよし。」
「ありがとうございます。」そう言いながら、ハコベ達が門を通過する。
「次!」
「はい、こちらを。」サノアが夢見の町で発行してもらった証明書を見せる。
「おぉ、王族か、お通り下さい。」ドワーフの男は門を指し示す。
姫様たちも、門を通った。
「次は、俺たちの番か。」そう言いながら、俺とシズカは組合のカードを見せる。
「げぇ、『神の身代わり』様とその『付き人』様ですか? どうぞお通り下さい。」ドワーフが言う。
「あぁ、ミロク。」俺はミロクに合図する。
「くふふ、これだろう。」ミロクはそれを俺に渡す。
「あぁ、お勤めご苦労様。」俺はそう言って、ウイスキーの瓶をドワーフに渡した。
「がははは、流石は『神の身代わり』様だ!」酒を受け取ったドワーフは、その場で蓋を開けてラッパ飲みした。
「ははは、ドワーフはこうだよな。」俺は笑いながら門を潜った。
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「ムサシ様、宿はいかがいたしましょう?」ハコベが聞いてくる。
「風呂のある所なら、一緒でも良いですよ。」俺が言う。
「この町の宿は、何処も風呂完備です。」ハコベが言う。
「んじゃ、ご一緒します。」俺は答える。
「私達は、王族専用の宿に泊まります。」サノアさんが言う。
「出発は、明日の朝6時です、厳守してくださいね。」ハコベがサノアに言う。
「承知!」サノアさんはそう言うと、馬車に乗り込み、町に消えて行った。
「では、取り合えずチェックインをしますか。」ハコベが馬車を移動させる。
その宿は本当に普通の宿だった。
ハコベと一緒にチェックインした俺は、ミロクに言われて、装備を整える事にした。
俺はシズカと一緒に街に繰り出した。
「くふふ、装備を整えるなら、この町一番の店に行かないとね。」ミロクが言う。
「そんな店は知らないぞ。」俺が言う。
「くふふ、聞き込み開始!」ミロクが楽しそうに言う。
「はぁ。」俺はため息を吐きながら町の住民に聞き込みを始める。
と思ったが、町の住民に聞いてもらちが明かないと思った俺は、近くに合った道具屋に入った。
「いらっしゃい、何が必要だい?」店の奥さんが聞いてくる。
「調味料はあるかい?」俺は奥さんに言う。
「あぁ、調味料なら、そっちの棚に有るよ。」奥さんがその棚を指さして言う。
俺は、その棚を見る。
「おほ、これは、これは。」俺はほほ笑んだ。
「クミン、コリアンダー、ターメリック(ウコン)、ジンジャー、シナモン、スターアニス、カルダモン、花椒。」
「ははは、カレーが出来るな。」俺が思う。
「あのさ。」俺は奥さんに聞く。
「どの位買える?」
「おや、買ってくれるのかい?」
「あぁ。」
「いくらでも、いや、5kg位ずつなら良いよ。」
「全部その位買ったらいくらだ?」俺は聞く。
「そうだね、8Gで良いよ。」
「買った。」俺は8000B分の金貨をカウンターに置く。
「毎度!」奥さんが答える。
俺は、そこに有ったスパイスをミロクに持って貰いながら奥さんに聞く。
「この辺で、良い防具屋は有るかな」
「防具かい? あぁ、其れなら此処から3軒隣の店が良いと思うよ。」奥さんが言う。
「あぁ、それじゃ、行ってみるよ。」俺はそう言いながら店を出た。
「此処かな?」俺はその店を見ながら言う。
店構えは、いかにもって感じの店だ。
看板には偏屈屋と書いてある。
「偏屈屋って言うのか? 大丈夫かな?」俺はそう思いながらドアに入る、
「こんにちは~。」俺は、店の奥に声を掛ける。
「・・・。」返事は無い。
何だろう、偏屈屋と言う言葉がその通りのような気がする。
俺は覚悟した。
どんな偏屈オヤジでも、俺の要求を聞いてもらう!
俺は、其処に集中した。




