やらかしたハコベ
晩御飯は、普通にランナー鶏のから揚げと、オーク肉のソテーだった。
(ふむ、金鶏は自分たちで食べるのか、それも良いだろう。)俺は思う。
「金鶏の特別料理は、2Gで提供します。」レモンが発表する。
「何? 金鶏だと?」
「本物か?」
「たった2Gでか?」客が騒ぎ出す。
「はい、こちらにいる、『神の身代わり』のムサシ様が、当宿にご提供してくださいました。」レモンが俺を指して言う。
「神の身代わり?」
「最近、レッサードラゴンや、バジリスクをオークションに出した?」
「フェンリルの皮もオークションに出したとか。」
レモンのやろう、俺を広告塔にしやがった。
「あぁ、俺が神の身代わりのムサシだ。」俺は、仕方がなく立ち上がって言う。
「なぁ、トロールの手足を、組合に納品したのは本当なのか?」男が俺に聞いてくる。
「あぁ、本当だ、国王にも献上するつもりだ。」俺はため息をつきながら言う。
「「「「「おぉぉぉ、注文するぞ!」」」」」そこにいた、全員が注文をした。
俺が渡した金鶏3羽分が、60Gになったようだ。
レモンたちは、もつ煮で満足したそうだ。
「ムサシ様、夜伽が必要なら、いつでも言ってください。」レモンが頬を染めながら言って来る。
「要らないから!」俺がそう言うと、レモンは寂しそうな顔をしながら「そうですか、いつでも大丈夫です。」と言って、カウンターの奥に入って行った。
「何だろう、誰もかれもが俺を陥れようとしてないか?」
「くふふ、気のせいだよ。」
「そうかなぁ?」
「くふふ、考えすぎだよ。」
「はぁ。」俺は、ため息をつきながら晩御飯を食べた。
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「もう寝よう。」俺はそう言うと、シズカを抱いて寝ることにした。
(本当に、シズカは温かいなぁ。)俺は、そう思いながら意識を飛ばした。
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「ん、もう朝か。」俺は目を覚まして言う。
「お早うございます、ムサシ様。」シズカが俺の手の中で言う。
「あぁ、お早う。」俺はシズカを開放して、着替えをする。
シズカも、寝間着から旅装束に着替えた。
「朝御飯食べられますよ。」レモンの声がする。
俺たちは、荷物をミロクに持って貰い、朝食を食べに行く。
「お好きな席にどうぞ。」レモンが言う。
俺たちは、直ぐそばの席に腰かけた。
其処には、朝食が用意されていた。
ベーコンエッグと、ポテトサラダが乗った皿があった。
カップには、コンソメスープが並々と注がれている。
机の上の籠には、白パンが置かれている。
「いただきます。」俺はそう言いながら、白パンを手にして口に入れる。
シズカも俺に倣って、白パンを口に入れた。
「美味いなぁ。」俺は誰に言うともなく口にする。
「はい、美味しいです。」シズカが答える。
「じゃんじゃん食べよう。」俺が言う。
「はい、ムサシ様。」そう言いながら、シズカもパンを食べ始める。
一通り堪能した、俺たちは、弁当を貰い、宿を後にする。
「ムサシ様、また来てくださいね。」レモンが何かを抑えながら言う。
「あぁ、またな。」俺はそう言うと、待ち合わせ場所に向かう。
俺は南門に向かった。
「ムサシ様、お待ちしておりました。」ハコベが満面の笑みで言う。
「はい、今回もよろしくお願いします。」俺は、少しだけ礼をする。
「宜しく。」シズカも少しだけ頭を下げる。
「ほほほ、準備は大丈夫ですか?」ハコベが聞いてくる。
「問題ありません。」俺とシズカは、先頭の馬車の屋根に登る。
「では、出発しましょう。」ハコベが言うが、俺は待ったをかける。
「待て。」俺が大声を上げる。
「何でしょう?」ハコベが振り返る。
「姫様は?」
「おや?」ハコベは当たりを見回す。
「あれぇ、いませんね。」
「どうなっているんだ?」俺はハコベに聞く。
「時間に間に合わなかったので、置いていこうかと。」ハコベが言う。
「王族に対して其れで良いのか?」
「申し訳ありませんが、第三王女様なので。」ハコベが言う。
「影響は無いと?」俺が聞く。
「はい。」ハコベが答える。
「と、言う事らしいですよ、姫様。」俺は、今着いた姫様に向かって言う。
「そうなのですか?」姫様がハコベに問う。
「げぇ。」ハコベが狼狽える。
「いえ、違うのです、そうではなくて、いえ、あの。」
「ハコベ、俺の中で、お前のランクが2個ほど下がったぞ。」
「そんなムサシ様。」
「因みに、後1つ下がったら、もうお前とは縁を切るからな。」
「ぐはぁ、ひ、姫様、違うのです、私は、品物を優先して・・。」
「その品物に、私は含まれていないのですね。」姫が言う。
「そ、それは。」ハコベはだらだらと汗をかき始めた。
「ムサシ様。」姫様が、俺に向き直って言う。
「はい、何でしょう?」
「このキャラバンとは別に、私を王都迄護衛して頂けませんか?」
「ついでなので、大丈夫です。」俺は答える。
「ほほほ、では、宜しくお願い申し上げますわ。」
「はい、承りました。」俺は恭しく礼をする。
「あぁぁ、何という失態を。」ハコベが狼狽えるが俺の知った事か。
(俺は、ハコベの商隊と、第3姫を、王都まで送り届ければいいんだな。)俺は思う.。
「くふふ、ハコベはやっちゃったねぇ。」ミロクが楽しそうに笑っている。
「さぁ、行きましょう!」俺の言葉で、馬車が移動を始めた。
「でも、姫様も時間を守ってくださいね。」
「解りましたわ。」姫様は横を向きながら言う。
(遅れて悪いとは思っているんだな。)
**********
俺は闘気を抑え気味にした。
お肉の調達のためだ。
そのおかげで、金鶏18羽、コカトリス3羽をゲットできた。
「くふふ、食用のお肉だけを呼び寄せるとか、器用だね。」
「あぁ、何となく解って来たよ、この強さならコボルトやゴブリンは襲ってこないって。」
「くふふ、凄いな。」
旅は、まったりと続
「オークの群れだ!」御者が叫ぶ。
続かなかったぁ。
「やったぁ、お肉の補給だ、キングはいるかな?」
「くふふ。いるよ。」
「ハコベさん、お肉の補給です!」俺は叫びながら馬車から飛び降りる。
「はい、ムサシ様、仰せの通りに。」
何だろう、ハコベさんが元気がない。
「くふふ、姫様を蔑ろにしたことを悔やんでいるんだよ。」
「はぁ、どうすれば良い?」
「放っておけば。」
「其れで良いの?」
「後は、ハコベ次第だね。」
「そうか、んじゃ、ミロク、頼む!」
「くふふ、任された!」
今回は、数が少なかったが、百数十頭のオークが倒れた。
「ハコベさん、お肉と魔石をお願いします!」俺はハコベに言う。
「はい、任されました。」ハコベが力なく言うが、ハコベの部下たちはきびきびとオークを解体していく。
「くふふ、お待ちかねのキングがいるよ。」
「おぉ、今回こそ、モツを喰うぞ!」俺は勇んでそこに行く。
「ぶきぃぃぃぃ!」オークキングが、俺に向かって叫ぶ。
「いつものように、麻痺の効果がある叫びだよ。」
「効かないなぁ。」俺は、天叢雲剣を抜きながらオークキングに突っ込む。
「ちょ、まだ抑えていないよ!」ミロクが叫ぶが、気にしない。
「楽勝!」俺は、オークキングの心臓に、天叢雲剣を突き立てた。
「ぶもぉぉぉぉっぉ!」オークキングの断末魔が響く。
「くふふ、成長したね、ムサシ。」
「おぉ、ミロクのおかげだ。」
「くふふ、ジゴロだね。」
「?」俺は、ミロクの言葉に疑問を持ちながら、オークキングを解体した。
オークキングの良いお肉と、それなりのお肉、そしてモツと魔石をミロクに持って貰い、ハコベの所に戻った。
「ムサシ様、オークの処理は終わっています。」ハコベが元気なく言う。
「ミロク。」
「はいよ。」そこに有った、オークの素材が一瞬で消えた。
「残りは、塵になれ!」ミロクが端材や残骸を塵にする。
「今日の晩御飯は、オークの良い肉を提供します。」俺は、明るく言う。
「本当ですか?」姫様が食い気味に聞いてくる。
「はい、組合に納品しても、飽和状態なので値段がつきません、好きなだけ提供しますよ。」俺が言う。
「それでしたら、今まで食べた事が無い調理法で食べたいです。」姫様が言う。
「え? 今まで食べた事が無い?」俺が言う。
「はい。」姫様はにこにこしながら言う。
「オークの良いお肉の新しい食い方、そんなの知らんわ。」俺は叫ぶ。
いや、待てよ、厚切りにして、オークの良いお肉のソテーとか良いな。
野営する場所に着いたので、俺は、それを実行する。
「オーク肉の良い所を、2cm厚に切る。」俺が調理を始めると、サノアさんとリョリさんが近寄って来た。
「お手伝いすることはありますか?」サノアさんが言う。
「では、キャベツの千切りと、米を炊いてください。」俺が言うと、二人はそれぞれやってくれるみたいだ。
リョリさんが、米を研いで、ご飯を作ってくれるようだ。
俺は、土魔法で竈と調理台を作った。
そして、竈には炭を入れて火魔法で火をつけた。
俺は、調理を再開する。
「切ったオーク肉は、筋を切って、火の通りを良くするために五か所を切る。」俺は肉の半分ぐらいを、3cmぐらいの間隔で切っていく。
「更に、包丁の背で良く叩く。」俺はそれを実行する。
「ムサシ様。」サノアが俺に聞いてくる。
「何でしょう?」
「何をしているのですか?」
「肉を叩いて、柔らかくしています。」
「え? そんな方法が?」サノアは驚いている。
(嘘だろう、こんな事も知らないのか?)と、俺は思うが、これも、余熱で火を通すことも、元にいたギルドの姐さんたちに仕込まれたことだった。
(ふむ、一般的ではないのかもな。)俺はそう理解した。
「肉の繊維を叩いて切っているんです。」そうサノアさんに説明する。
「成程。」
「そうだったんですね。」サノアさんとリョリさんが考え込んだ。
俺は、調理を進めた。
「肉の用意が終わったら、他の材料を用意する。」俺は、ボールに生姜1かけをを摩り下ろし、醤油と味醂と酒を100ccずつ入れ、砂糖を大匙10杯入れて良く混ぜた。
「大蒜を薄く切って。」俺は大蒜の塊を10個ほど薄切りにする。
「米が炊けたら、調理を再開します。」俺はそう言って、シズカの所に戻った。
「お帰りなさい、ムサシ様。」
「あぁ、少し疲れたから、膝枕をお願いしても良いか?」俺はシズカに聞く。
「勿論です。」シズカはそう言いながら、正座をして俺に両手を広げる。
「飯が炊けるまで、頼むな。」俺はシズカの膝枕に頭を預けて言う。
「はい、ムサシ様。」シズカはそう言いながら、俺の頭を優しくなぜてくれる。
俺は、意識を手放した。




