見晴らしの村
「くふふ、次の村のそばに次の対象がいるよ。」
「そうなのか?」
「うん、半日ぐらい先に行った処に。」
「解った。」俺は闘気を全開して、次の村に向かった。
「おぉ、流石はムサシ様です、半日の行程が2時間ですみました。」村の入り口に着いた、ハコベが俺に言って来る。
「あぁ、ハコベさん、今からは別行動をとらせていただきます。」俺が言う。
「えぇ、構いませんが。」ハコベは何かを考えながら言う。
「出発は、明日の朝6時に、南門で良いですか?」
「はい、それで結構です。」
「では、明日の6時に!」そう言って、俺とシズカが門の前からその方向に向かって走り出す。
「くふふ、馬車で半日だから、後2時間ぐらいで着くね。」ミロクが話しかけてくる。
「雑魚っぽいなぁ。」
「くふふ、今の君には雑魚かもね。」
「次の相手は何なんだ?」
「くふふ、トロールだよ。」
「トロール?」
「うん、そうだよ。」
「はぁ、ハズレかぁ。」
「え?」
「トロールなんか、食えないし、素材も無いじゃないか。」
「くふふ、そう思われているけど、実はそうでもないんだよ。」
「え?」
「あまり知られていないんだけどね、トロールのアキレス腱は煮込みに最適だよ。」
「両腕も、肘から先は煮込めば珍味だよ。」
「ジュるり、それ以外は?」
「魔石以外はいらないかなぁ。」
そうか、 俺はトロールがいる所に走った。」
1時間半ほど走ったら、トロールの群生地に着いた。
「ミロク?」
「うん、数が多くてよく解らない。」
「あぁ、んじゃ、ここにいる奴らを全部狩れば良いんだな?」
「くふふ、そうだね。」
「ムサシ様!」
「あぁ、シズカは、ここで隠れていていいぞ。」
「はい。」
俺は、天叢雲剣抜いて、その集団に襲い掛かった。
其処にいたトロールは半刻ほどで沈黙した。
「神気はどうなった?」俺がミロクに問う。
「きっちり返してもらったよ。」
「そうか。」
「しかし、こんな物が本当に食えるのか?」俺は、トローㇽの腕や足を切りながら言う。
「疑うなら、幾つかを組合に納品すれば。」ミロクが言う。
「そうするか。」
魔石は、シズカが全部集めてくれた。
「よし、見晴らしの村へ戻ろう。」俺はそう言うと走り出した。
シズカも余裕で着いてきた。
**********
昼過ぎに、見晴らしの村に辿り着いた。
「こんにちは、身分を証明する物は持っているかい?」門番が聞いてきた。
俺とシズカは、組合の証明書を見せる。
「「神の身代わり」様か、ようこそ。」そう言いながら門番は、俺達を通してくれた。
「さて、組合は何処だ?」俺はそう言いながら村に入った。
それは、すぐに見つかった。
「まさか、組合が村のど真ん中にあるとは思わなかった。」
「邪魔するぜぃ。」俺は組合のドアを開けて言った。
「いらっしゃいませ。」組合の受付が普通の対応をしてきた。
「おぉう。」俺は狼狽えて返事をした。
「この度は、どのような御用事で?」
「あぁ、納品に来た。」
「はい、それでは、あちらの方に。」受付の女性にそこを示された。
「あぁ。」
「いらっしゃいませ、今回はどのような納品を?」カウンターの女性が言う。
「あぁ、これだ。」俺は、トロールの足と腕を3体分出した。
「と、トロールですか?」
「あぁ。」
「ちょ、超希少素材です。」カウンターの奥で女性が騒ぎ出す。
「トロールだと?」
「それを3体分?」組合のあちらこちらで喧騒が始まる。
「静まれぃ!」2階から降りて来た男が一喝する。
その一言で、周りの連中が静かになった。
「がははは、俺はこの組合の組合長を務める、オメガ=バーストだ。」その男が言う。
「あぁ、俺はムサシ、こいつはシズカだ。」俺は、平静を装って言う。
「トロールの納品だと?」オメガが言う。
「あぁ。」俺が答える。
「トロールは、群れる奴だ、たった3匹分だけか?」オメガが凄んで言う。
「いや、25匹いた。」俺が言う。
「何だと、残りはどうした?」オメガが俺に詰め寄って来た。
「全部持っている。」俺が答えると、オメガが俺に向って土下座した。
「なぁ、後7体分納品してくれないか?」オメガが地面に頭をこすりつけながら言う。
「はぁ、何でだ?」俺が聞く。
「トロールの手足だぞ、珍味中の珍味、しかも手も足も揃っているなら、手と足で100Gだ。」オメガが叫ぶ。
「はぁ?」俺は、脱力する。
「くふふ、解った?」ミロクが勝ち誇ったように言う。
「解ったよ。」俺は、トロールの手と足を7匹分取り出した(ミロクから貰った)。
「おぉぉぉ。」オメガは俺のカードを引っ手繰ると、端末を操作した。
「1000Gを振り込んだから、確認してくれ。」オメガがそう言いながら、カードを俺に返してくる。
「あぁ、後で確認しておくよ。」俺はそう言いながら、カードを受け取った。
「ぐふふふ、貴族連中に150Gで転売して、久々に大儲けが出来るぞ。」オメガが楽しそうだ。
俺は、組合を出た。
「さて、何処に泊まろうか。」そう思いながら街を歩いていると、懐かしい声に呼び止められた。
「ムサシ様!」
「ん?」俺は、振り返る。
其処には、レモンがいた。
「あれ? レモン、何でここにいるんだ?」俺は、レモンに聞く。
「ここは、私の親戚がやっている宿が有るので、手伝いに来ています。」レモンが笑顔で言う。
「そうか、では、今日はそこに泊まろうか。」
「嬉しいです。」レモンが破顔する。
「行くぞ、シズカ。」俺はシズカに声を掛ける。
「はい、ムサシ様。」シズカは答える。
レモンは、シズカを見て固まった。
「あの、ムサシ様。」レモンが俺に問う。
「何だ?」俺が答える。
「その人は?」レモンがシズカを指さして言う。
「あぁ、俺の付き人だ。」俺は、設定通りに答える。
「ムサシ様の付き人・・・。」レモンが凍り付く。
「ん? どうしたんだ?」俺はレモンに聞く。
「か、」
「あ?」
「身体の関係は、もう有るのですか?」レモンが叫ぶ。
「はぁ?」俺は、訝しげにレモンを見る。
「何だそれ?」俺はレモンに聞く。
「いえ、あの、そうじゃなくて。」レモンが狼狽える。
「何を言っているのか、よく解らん。」俺が答える。
「裸のお付き合いをしているのですか?」レモンが叫ぶ。
「はぁ?」
「ムサシ様は、お風呂で、私を洗ってくださいます。」シズカが言う。
「そんな、羨ましい。」レモンが身もだえする。
「そんなことは、どうでも良いから、宿に案内してくれ。」俺は、レモンに言う。
「はぅ、そうでした、ご案内いたします。」レモンは、俺達を宿まで案内してくれた。
**********
「ただいまぁ、お客さん連れて来た。」レモンがカウンターの奥に向かって叫ぶ。
「は~い、いらっしゃいませぇ。」カウンターの奥からおそらくこの宿のおかみだろう女性が表れた。
「お部屋の希望はありますか? 精一杯、お答えします!」おかみが言う。
俺は、少し狼狽えたが、堪えて言う。
「あぁ、2食と弁当、風呂も頼む。」俺は言う。
「お弁当付きで、お一人様900Bですが、お風呂は共同です。」
「ふむ、風呂を一時間だけ、貸し切りにしてくれないか。」
「貸し切りは一時間、200Bです。」レモンが答える。
「あぁ、其れで良い。」俺は2Gをカウンターに置く。
「それでは、お部屋にご案内を。」レモンが言う。
「いや、買い出しに行って来る。」俺は踵を返しながら言う。
「部屋へは、買い出しが終わったら案内してくれ。」俺はドアを出て、商店の方に歩いていった。
「おっ、白菜が有るな、大根も、人参も、葱も。」俺は八百屋の前でぼそりと言う。
「へへへ、良い品揃えだろう。」店のおやじが言って来る。
「椎茸に、えのきもあるな、おぉ、春菊も。」
「ムサシ様?」
「おやじ、今台に有る奴、全部買うぞ!」
「え? ありがたいですが、全部で3Gちょっとになりますぜ。」
「あぁ、3Gと何Bだ?」
「へへへ、気に入った、きっかり3Gで良いですぜ。」
「あぁ、ほれ、3Gだ。」俺はその分の金貨を出す(ミロクから貰う)。
「くふふ、全部持つよ。」ミロクはそう言いながら、台の上の物を一瞬で持った。
「おぉ、一瞬で無くなった、兄ちゃん何者だい?」
「ははは、しがない一般人さ。」
「へへへ、おっと、余計な詮索は無しだ、毎度ありがとうよ。」
「ムサシ様。大量に買うのですね。」
「あぁ、シズカ、次の道中は鍋でもやろうかと思ってな。」
「鍋、ですか?」
「あぁ、温まって、美味いぞ。」
「楽しみです。」
いろいろ買った俺は、満足して宿に帰った。
「お帰りなさいませ、ムサシ様。」レモンに迎えられた。
「おう、ただいま、そうだ、レモンに頼みがある。」
「何でしょうか?」
「台所を、少しの間、貸してくれないかと聞いて欲しい。」
「今なら、まだ大丈夫だと思います。」
「そうか、シズカも来い。」
「はい、ムサシ様。」俺とシズカは、宿の厨房に入った。
「シズカも、金鶏は捌けるな。」
「はい、2回見ましたから、大丈夫です。」
「金鶏?」レモンが固まっている。
「明日からの、キャラバン用に、下ごしらえをするぞ。」
「はい、ムサシ様。」
俺とシズカは、金鶏を処理していく。
から揚げ用のもも肉。
照り焼き用のむね肉。
内臓は、もつ煮に。
皮は焼き鳥にしよう。
更に、もも肉とむね肉とヤゲンをミンチにして、塩胡椒したら、隠し味にオイスターソースを混ぜて、生姜のみじん切りを加えてこね合わせる。
「これは、鍋に入れるつみれ用だ。」俺は、こねた肉をボールに入れて、ミロクに渡す。
「くふふ、立派な飯テロだよ。」
20羽ほどを処理し終えたら、3羽を同じように処理してレモンに渡す。
「使用料だ。」俺が言う。
「ちょ、ムサシ様、こんな高級食材を!」レモンは前と同じように狼狽える。
後ろで、おかみさんも震えている。
「ははは、ちょっと心が持って行かれるだけの、ただの(・・・)食材さ、別料金で客に振舞うもよし、自分たちで食べるのも良し。」俺は、ウインクして言う。
処理した、20羽分の材料をミロクに持ってもらった俺たちは、風呂に入ることにした。
「今から1時間、風呂を借りるぞ。」俺が言う。
「は、はひい、どうぞ!」レモンが噛みながら答えたので、俺はシズカと一緒に風呂に向かった。
そして、俺が洗う事でもだえるシズカを撃沈させて、自分の身を清めた俺は、湯を堪能する。
「ふひぃ、たまらんな。」俺は湯船に浸かりながら、息を吐く。
「明日から、何日で次の町に着くんだ?」俺はミロクに聞く。
「順調なら、4日程さ。」
「順調なら、ねぇ。」
「くふふ、自分でフラグを作るのかい?」
「違げーよ!」俺が言う。
「王都迄、後どの位だ?」俺はミロクに聞く。
「何もなければ、16日だね。」
「前に言っていた、30日かかるのは、王都か?」
「くふふ、そうだよ。」
「なら、王都の周りに、色々いるんだな。」
「くふふ、そうだよ。」
「そうか。」俺は、にやりとほほ笑んだ。
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