更に次の町へ
「あぁ、ムサシ様。」ハコベが俺に言う。
「何でしょう?」
「昨日の盗品ですが、3分の2は被害届が出ていたそうです。」
「そうですか。」
「ムサシ様への賞金は凄い金額だとおっしゃっていました。」
「ははは。」
「で、残った3分の1を買い取ったのですが、買取金額の半分をお渡しする、と言う事で宜しいでしょうか?」
「あぁ、それをハコベさんがいくらで売ろうとも、文句は言いません。」
「流石はムサシ様です、では、これをお受け取り下さい。」そう言いながら、ハコベはいつもより大きめの革袋を渡してきた。
俺は、そのずっしりと重い革袋を受け取ると、ミロクに渡した。
「やはり、中身を確認しないのですね。」
「ハコベさんを信用していますから。」
「400G分の金貨です。」ハコベが言う。
「そんなに。」
「はい、800Gで買い取らせていただきました、王都に行ったらそれ以上の金額で売らせていただきます。」ハコベはほくほく顔で言う。
「ははは。」俺は、愛想笑いをした。
「次の町までは、3日ほどかかります。」ハコベが言う。
「では、今日と明日は野宿ですね。」俺が問う。
「そうなります。」ハコベが答える。
「俺たちは平気ですが、姫様は大丈夫なのですかね?」
「さぁ?」
「ははは、他人事ですね。」
「ムサシ様がいらっしゃるなら、問題ないでしょう。」
「ははは。」俺は苦笑いをした。
**********
「は、ハコベさん、またオークキングが出た!」御者が言う。
「本当ですか?」ハコベは御者に聞く。
「はい、200匹ほどのオークとオークキングが襲って来ています。」御者が震えだす。
「やったぁ、お肉の補充が出来るぜ。」俺はそう言いながら、馬車から飛び降りる。
そして、振り返って言う。
「ハコベさん、今回もお肉と魔石の回収をお願いして良いですか?」
「勿論ですとも。」ハコベは笑顔で答える。
「ミロク。」
「くふふ、任せて。」その瞬間に、オークキング以外のオークがその場に倒れ伏す。
「おぉ。」御者が感嘆する。
「流石は、ムサシ様です。」ハコベも嬉しそうだ。
「今回も、オークキングはレジストした、けど、それ以外も残っているね。」ミロクが言う。
「ほぅ。」
「あれは、マスターオークだね。」ミロクが言う。
「何だ、それ?」俺が問う。
「オーク以上、オークキング以下?」
「成程。」俺は納得する。
「行って来る。」
「くふふ、私も行くよ。」
俺は、オークキングと、マスターオークの前に立った。
「ぐもぉ! 我らの敵!」
「殺して、犯して、食べる!」オークキングとマスターオークは声高らかに叫んでした。
「聞きたくないなぁ。」
「くふふ、神の身代わりの使命だよ。」ミロクが言う。
「はぁ。」俺は天叢雲剣を抜き、そいつに肉薄する。」
マスターオークの首を一瞬で落とした。
「くふふ、捕まえた。」ミロクがオークキングを神気で固定して言う。
「あぁ。」俺は、いつもの通り、オークキングの心臓に、天叢雲剣を突き立てた。
「ぐもぉぉぉ!」オークキングが断末魔を上げた。
「はぁ、いつも通りの解体だな。」俺はそう言いながら、マスターオークを解体する。
「あれ?」俺は、疑問に思う。
「マスターオークってお肉無いね。」
「くふふ、マスターオークは食べられるとこは無いよ、魔石だけだよ。」
「そうだったのかぁ、俺はがっかりする。」
「今回は、オークキングだけで満足しろ。」ミロクが言う。
「解ったよ。」俺はそう言いながら、オークキングを解体した。
「そういえばさ。」
「何だい?」
「オークキングも、良い所と、そうでないところがあるんだよな。」
「そうだよ。」
「オークキングのそうでないところって、食べていないよな。」
「そうだね、前回のは全部余っているよ。」
「美味くないの?」
「オークの良い所より、美味しいよ。」
「マジか!」
「うん。」
「今夜は、それを皆に振舞おうか。」
「良いんじゃない?」
「あと、内臓は?」
「掃除がめんどくさい。」
「それだけ?」
「うん。」
「食べたことは?」
「無いよ。」
「んじゃ、俺が掃除してみるよ。」
「物好きだね。」
「鶏でも美味しく食べられるから、ひょっとしたらと思ってね。」
「ふ~ん。」
オークキングをミロクに持ってもらい、ハコベさんの所に戻る。
「ムサシ様、全部終わっておりますぞ。」ハコベが誇らしげに言う。
「ありがとうございます、ミロク。」
「くふふ、全部持ったよ。」
そして、残った不要な部分が塵になった。
「ほほほ、いつ見ても凄い御業ですなぁ。」
「今晩は、オークキングのお肉を使った料理を提供しますね。」俺が言う。
「なんと、オークキングの料理ですか?」ハコベさんが怖い程食いついてきた。
「勿論、姫様や御者の方たちにもです。」
「ムサシ様、貴方は神ですか?」ハコベさんが言う。
「いえ、神の身代わりです。」
「あぁ、そうでしたな、これは失礼をば。」
「姫様にも話を通しておいてください。」俺はハコベさんに言う。
「承りましたぁ。」ハコベはそう言うと、姫様の馬車に走っていく。
「姫様の護衛少なくないか?」俺はそう思うが、どうでも良いやと思った俺は気にしない事にした。
日が落ちた頃、今日の野宿をする場所に着いた。
ハコベさんたちは、テントの用意をしている。
姫様たちは、馬車で寝るそうだ。
俺は水場に行き、オークキングの内臓を掃除することにした。
「腸全体を30cm位に切って、縦に半分にして、流水で洗う。」俺はそれを実行する。
「う~ん、臭みがあるな。」洗った腸の臭いをかいで俺は言う。
「うん、腸のヒダの間に汚れがあるな。」俺は、カバンから小麦粉を取り出した。
小麦粉を、腸の内側に振りかけて、丁寧にヒダの間を洗っていく。
5分ほど揉み洗いをして、水で流して臭いをかぐ。
「うん、臭みは消えているな。」そう言うと、残りの腸も同じように小麦粉を振りかけて洗っていく。
「最後に食べやすい大きさに切って、一度下茹でする。」俺はかまどの所に行くと、ミロクに持ってもらっていた大鍋に水を張って、オークキングの腸を入れる。
そして、ネギの青いところ、生姜を大量に入れ、砂糖もこれでもかと入れて煮始める。
煮始めたら、別の鍋を出してもらい、油を入れる。
土魔法で簡易の台を作り、その上でオークキングの並肉の下ごしらえを始める。
姫様や、ハコベとその部下たちが、俺のやることを見ている。
オークキングの並肉は40Kgあった。
「ふむ。」俺は、人数分の厚さ2cmの塊肉を切り出し、2kgぐらいを薄切りにした。
肉の残りは、ミロクに持ってもらった。
そして、ミロクに材料を出してもらう。
生姜焼きの付けダレ。
卵。
パン粉。
キャベツ。
玉ねぎ。
「最初に、キャベツの千切りを作る。」俺は、キャベツ2玉を千切りにする。
「おぉ、凄いですな。」ハコベさんが驚いている。
「そして、薄切りにした肉を、生姜焼きのたれに漬け込む。」俺は大きな鍋にタレを入れて、薄切りにした肉を入れて揉みこんだ。
「何かお手伝いすることはありませんか?」姫様の従者の女の人と、ハコベさんの部下の料理担当が聞いてくる。
「それなら、この厚く切った肉の筋の所、ここと、ここと、ここに、包丁で切れ目を入れて頂き、小麦粉をまぶして、溶き卵に漬け、パン粉をまぶして余計なパン粉を落としてください。
俺は、それを実演する。
「パン粉をまぶした物は、この入れ物に立てておいてください。」俺は実演する。
「解りましたわ。」姫様の従者の女の人がそれをやってくれるそうだ。
「玉ねぎを10個ほど、くし切りにしてくれますか?」ハコベの部下に言う。
「はい、喜んで。」ハコベの部下も其れをやってくれるようだ。
俺は、モツの鍋の所に行く。
「うん、こんなもんか。」俺は、鍋の中のモツを魔法で浮かせると、残っていたネギや生姜、煮汁を捨てる。
そして、鍋を軽くゆすいで、モツを入れ、酒、砂糖を適量入れて、水をひたひたにになるまで入れた。
そして、醤油と生姜の薄切りを入れ、かまどに火をつけた。
「準備が終わりました。」姫様の従者のお姉さんと、ハコベの部下が言って来る。
「では、今日の料理を作ります。」俺は宣言する。
「オークキングの並肉を使った、オークキングカツと、オークキングの生姜焼きです。」
「む、ムサシ様、聞いた事が無い料理です。」ハコベが言う。
「ははは、俺が、ポーターをやっていた時に、先輩から習った料理です。」
「もう一品作っているようですが?」ハコベが言う。
「あぁ、申し訳ありません、食べられるかどうか、解りません。」
「何故ですか?」
「今まで、食べた者がいないからです。」
「オークキングですからね、解ります。」ハコベが言う。
「では、作っていきますね。」俺が言う。
「姫様の従者さんとハコベさんの部下の方はもう一度手伝ってください。」
「はい。」
「解りました。」
「姫様の従者さんは、「私は、サノアと申します。」
「失礼しました、サノアさんは、皿に先程作ったキャベツの千切りを盛りつけて、私が揚げるオークキングカツを、切り分けて乗せてください。」
「はい、解りました。」
「ハコベさんの部下の方は、「リョリと申します。」
「リョリさんは、同じように、キャベツの千切りを皿に盛りつけたら、付けダレに漬け込んだオークキングの肉を、さっき切ってもらった玉ねぎと合わせてフライパンで炒めて皿に盛りつけてください。」
「了解です。」
「ハコベさん。」俺はハコベに言う。
「本当は、ご飯が良いんですが、人数分のパンを用意して頂けませんか?」
「ほっほっほ、喜んで。」
先程、油を張った鍋の竈に火を入れる。
適温になったので、俺は、オークキングカツを揚げていく。
「そこに置いてから、5分ほど待ってから、切り分けてください。」俺はサノアさんに言う。
「何で、ですか?」
「余熱で火を通します。」
「余熱?」サノアさんが怪訝な顔をする。
(はぁ、認知されていないのか。)俺はそう思いながら、実演することにした。
「オークキングカツを揚げますよ。」
「はい。」
「揚げ終わりました、切ってみてください。」俺はサノアさんに言う。
「はい。」サノアはオークキングカツを切って固まる。
「中が生です。」
「もう一度揚げますから、5分待ってから切ってください。」俺はオークキングカツをもう一度揚げて、サノアさんの前に置く。
そして、5分後、サノアが理解する。
「火が通っています。」
「それが、余熱で火を通すと言う事です。」
「解りましたわ。」
「ほぉ。」リョリも何かを納得する。
俺は、オークカツキングカツを揚げ続けた。
サノアも、オークキングの生姜焼きを作り続けたようだ。
「こんな料理は初めて知りました。」サノアは俺に跪いて言う。
「どうしたんだ?」
「このサノア、感服いたしました、是非、弟子にしてください。」
「間に合っているかなぁ。」
「そんな。」
「俺が、ハコベさんの行程に付き合っている時なら、教えても良いですよ?」
「解りました、主人に直訴します。」
「ははは、頑張って。」
「オークキングかつも、オークキングの生姜焼きも行き渡ったら、好きに食べてくださいね。」俺が言う。
「ほっほっほ、頂きましょう。」ハコベがそう言うと、全員食べ始めた。
「オークキングカツは、塩か、辛子とソースか、醤油で食べてください。」俺は叫ぶ。
「おぉ、それは、それは。」ハコベが、カツに塩を振りかけて口に入れる。
「はう!」ハコベが固まった。
それを見て、俺は姫様の所に走る。
「姫様、お口に合いますでしょうか?」俺は姫様に聞く。
「はいムサシ様、初めて食しましたが、これは心を奪われる。」おそらくオークカツを食べた姫様が俺に言う。
「もったいないお言葉です。」俺が畏まる。
「私付きの料理人になりませんか?」
「申し訳ございません、まだやることが残っておりますので。」
「いつでも、気が変わったら、私の所に来てくださいね。」姫様が俺に声を掛けてくれる。
「ありがとうございます。」俺は答える。
俺は、もつ鍋の所に戻って様子を見る。
「ふむ、良さげに煮えているな。」俺はお玉で汁をすくい、口に入れる。
「う~ん、何かが足りない。」そう思い、味噌を少し入れて、ネギの白い所も入れた。
「どれ?」俺は恐る恐る、モツを箸でつかんで口に入れる。
「うほ!」口の中に広がる脂。
編むほどに、ぷりぷりした弾力。
「美味い。」俺はガッツポーズをする。
「くふふ、美味しかったのかい?」
「あぁ、少しだけ癖があるが、美味い。」
「くふふ、今まで損をしてきたかな?」
「あの、ムサシ様、それは食べられないのでしょうか?」ハコベがおずおずと聞いてくる。
「いえ、どうぞ、どうぞ。」俺はお椀にモツをお玉でよそい、ハコベに手渡す。
「これを振りかけると良いと思います。」俺はカバンから七味を取り出して、そこに置いた。
「これは?」
「辛みを足すものです、入れすぎないように。」
「どれ。」ハコベは七味を少し振りかけると、モツを箸で摘まんで口に入れた。
「美味い!」ハコベはどんどん食べ進める。
「皆さんも、良かったらどうぞ。」
途端に、皆が群がった。
姫様も、食べたそうにしていたので、サノアさんの分もよそって持って行った。
姫様も、サノアさんも美味しそうに食べてくれた。
俺もモツを食べようと、鍋に戻ったら、全部無くなっていた。
「うそん。」俺は、がっくりと肩を落とした。
「あの、これをどうぞ。」シズカが、自分の食べていたお椀を俺に差し出してくる。
「ん。」俺はモツを一切れだけ貰って、お椀をシズカに返した。
「え? 良いんですか?」
「あぁ、食べて良いぞ。」そう言いながら、一切れのモツを大事に食べた。
片づけは、サノアさんと、リョリさんが全部やってくれたので、俺は寝ることにする。
「闘気を全開にしたので、魔物は襲ってこないだろう。」俺はミロクに聞く。
「くふふ、盗賊が来たら起こしてあげるよ。」
俺は、シズカを抱き枕にして毛布をかぶった。
稚作をお読みいただき、ありがとうございます。
今年最後の投稿です。
次回は1月2日に投稿いたします。
良いお年をお迎えください。
超月 聖 拝




