夢見の町
「次の町は、夢見の町です。」ハコベが言う。
「夢見の町?」俺が疑問に思う。
「はい、サキュバスが村を統治しています。」
「え? それ、大丈夫なのか?」
「はい、ここ十数年、何の問題も起こっていません。」ハコベが言う。
「マジかよ。」
「何でも、とあるお方が、サキュバスと取引をしたそうです」
「へぇ。」
「サキュバスやインキュバスが複数いて、好きな夢を見せる代わりに、少しばかりの生気を吸い取る店があります。」
「へぇ、少し興味があるな。」
「良い店を紹介しましょうか?」
「ふむ、そうですね、お願いします。」
「ふふふ、ムサシ様もお好きなようで。」
「ははは、今まで、碌な事が無かったから。」
「ご苦労なさっていたんですね。」
「ははは、良い思い出です。」
「私も、若いころは色々ありました。」ハコベが遠い目をして言う。
「若いころの苦労は、買ってでもしろと言いますもんね。」
「おや、ムサシ様はお若いのに、よくご存じで。」
「元のギルドのギルド長が、良く言っていました。」
「ほぉ、御立派なお方だったのでしょうね。」
「えぇ、今はどうしているのか?」
その後襲撃もなく、その街に辿り着いた。
町に入る列に並ぶ事30分、やっと俺たちの番になった。
「こんにちは、初めての方だよね。」門番が言って来る。
「あぁ。」俺は答える。
「身分を証明できるものを持っているかい?」
「あぁ。」俺は、組合のカードを見せる。
「へぇ、神の身代わりって君なのか?」
「あぁ、俺だ。」
「300年ぶりに現れたらしいね。」
「あぁ、そうらしいな。」
「他人事みたいに言うね。」
「実際、俺もよく解らん。」
「ははは、ようこそ夢見の町に。」門番がカードを俺に返してきたので受け取った。
暫くすると、門の前で喧騒が起こった。
「身分証のない方は、町に入れません。」
「このお方は、国王様の娘、第3王女殿下に有らせられます。」姫様の侍女が叫んでいる。
姫様は、身分を証明できるものを持っていないらしい。
「あ~、ちょっと良いか?」俺は門番に声を掛ける。
「何でしょうか?」
「彼女たちは、俺の連れだ。」
「へ? 神の身代わり様の?」
「あぁ。」
「そう言う事でしたら、問題ありません、どうぞお通り下さい。」門番が侍女に言う。
姫様の馬車は門を通った。
(神の身代わりの威光は凄いもんだな。)俺は思う。
「ムサシ様、ありがとうございます。」姫様が馬車から降りてきて俺に礼をする。
「いえいえ、困ったときはお互い様ですから。」俺は答える。
「この町の町長にお願いして、身分証を発行してもらうつもりです。」姫様が言う。
「そうですか、宿はどうされますか?」
「この町には、王族用の宿がありますのでそこに泊まります。」
「そうですか、ハコベさん、明日は?」
「はい、ムサシ様、朝6時に南門から出立する予定です。」
「と言う事なので、朝6時に南門に来てください。」
「はい、解りましたわ。」奇麗に礼をして、姫様は馬車に乗り込んだ。
「では、ムサシ様、組合まで行きましょう。」ハコベが言う。
「解りました。」俺は答え、馬車で組合を目指した。
組合は、他の町と大体同じ作りだった。
「頼もう。」俺は盗賊のボスを抱えて組合に入った。
「いらっしゃいませ、今回はどのような?」受付にいたお姉さんが聞いてくる。
俺は、組合のカードを見せて言う。
「盗賊団を壊滅してきた。」
「はっ?」お姉さんが固まった。
「組合長を呼んでください。」ハコベが横に並んで言う。
「はひぃ、ただいま。」受付のお姉さんが、2階に駆け上がって行った。
少しすると、2階から受付のお姉さんと、おそらく組合長だろう男が下りて来た。
「盗賊団を壊滅したって?」その男は俺たちの前に来ると聞いてくる。
「あぁ、こいつがボスらしい。」俺は、抱えていた男をその場に転がす。
「組合のカードは持っているか?」
「あぁ、これだ。」俺はカードを男に渡す。
「おい。」男はカードを横の受付嬢に渡す。
受付嬢は、カードを端末に差し込むと、操作をする。
「盗賊56人の撃破・・。」
「コボルド102匹撃破。」男は端末に表示されたものを見てうなる。
「おぉ、フェンリルやレッサードラゴンも君か。」
「えぇ、まあ。」
「盗品も回収して来ているので、確認をお願いします。」横でハコベが言う。
「ふむ、遅くなったが、俺はここの組合長をしているタスマ・ムラドと言う、宜しく頼む。」
「俺は、ムサシ、神の身代わりだ。」
「何だと、いや、組合のカードにそう書いてあるな。」
「この男は、どうすれば良い?」俺は足元の男を指して言う。
「こちらで、確認する、おい!」タスマは男の組合員に指示をする。
組合員の男は、俺の足元の男を見て言う。
「劣悪党のボス、イルワ・マタアに間違いありません。」
「そうか、では騎士団に差し出せ。」
「は!」組合員の男が、奥に引きずって行った。
「さて、回収した盗品は何処にあるんだ?」タスマは聞いてくる。
「どこに出せば良い?」俺が問う。
「ん?」タスマは、何言ってるんだこいつって顔をして俺を見る。
「ここに出せば良いか、でも置ききれないぞ。」俺は再び言う。
「いや、奥に来てくれ。」そう言ってタスマはギルドの奥の広い部屋に連れて来た。
「ここに頼むよ。」田増が言う。
「ミロク。」
「クフフ、出番がないまま終わるかと思ったよ。」そう言いながら、盗品をその部屋いっぱいに取り出す。
「こ、こんなに、どんな魔法を、いや、今は良いな。」タスマが青い顔をして言う。
「これ程とは、鑑定に1日、いや半日くれ。」
「届け出がなかった場合は、私が買い取らせていただきます。」ハコベが何かのカードを渡しながら言う。
「あぁ、商人組合の、解りました。」タスマがカードを返しながら言う。
「私は、簡易宿に泊まりますので、そちらにご連絡を。」ハコベが言う。
「解った、ムサシへの報酬は、カードに振り込んでおく、どこかの組合で確認してくれ。」タスマが俺にカードを渡してくる。
「あぁ、解った。」俺はカードをミロクに渡した。
俺たちは組合を出た。
「ムサシ様、宿はどうされますか? 宜しければ私達と同じ宿で。」ハコベが聞いてくる。
「そうですね、その宿に風呂はありますか?」
「いえ、簡易宿なので、ございません。」
「今日は風呂に入りたいので、風呂付の宿を探します。」
「そうですか、それでは、明日もよろしくお願いいたします。」そう言うと、ハコベは俺にお辞儀をして町中に消えて言った。
「さて、そうは言ったがどうしたもんか、こういう時は決まって声を掛けてくる娘がいるもんだが。」俺が独り言を言うと、声を掛けられた。
「兄ちゃん、宿を探してるのかい?」少年が声を掛けて来た。
(男だった。)そう思いながら答える。
「あぁ、風呂有で、1泊2食付きの宿をな。」
「一人800Bでどう?」
「決めた。」俺は即決した。
「てへへ、案内するよ。」少年は歩き出す。
俺とシズカは、少年に続いた。
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「おぉ、これは。」俺はそれを見て声を上げる。
「てへへ、凄いだろう。」少年は誇らしげだ。
そこに有ったのは、城のような建物。
「これは、凄いな。」
「てへへ、そうだろう、こっちだよ。」少年がそう言いながら建物に入っていく。
俺はその後を追った。
「お客さん連れて来たよ。」少年がカウンターの奥に声を掛ける。
「あらあら、いらっしゃいませ。」小太りの女がカウンターの奥の部屋から出て来た、多分この宿のおかみだろう。
「1泊2食で800B。」少年が言う。
「あぁ、宜しく頼む。」俺はカウンターに料金を置く。
「はい、こちらにご記入を。」おかみが宿帳を出してくる。
(この宿帳も意味は無いな。)俺は思う。
名前:ムサシ
職業:神の身代わり
住所:城塞都市の戸建て
「これが部屋の鍵だよ、風呂は24時間いつでも入れるよ、晩御飯は18時から20時まで。」そう言いながらおかみがカウンターに鍵を置いた。
「201号室だから、2階だよ。」
「あぁ、解った。」俺は鍵を受け取り2階に向かった。
部屋に入った俺は、シズカに言う。
「風呂に入ってこい。」
「ムサシ様と一緒に入りたい。」シズカが顔を赤くして言う。
俺は、ため息をつきながら、シズカを風呂に連れて行く。
そして、前回と同じ作業が繰り返された。
撃沈したシズカ。
俺は風呂を堪能した。
「もう、ムサシ様がいない世界は考えられません。」シズカが顔を赤くして言う。
「たかが風呂に一緒に入っただけだ。」俺はそっけなく答える。
「ムサシ様のいけず。」シズカが頬を膨らませる。
「?」俺は何だろうと疑問に思った。
「晩御飯食べられますよ。」少年が言いに来た。
俺はシズカと一階の食堂に行く。
「お好きな席にどうぞ。」宿のおかみが言う。
俺は手近な席に座った。
テーブルには、籠に入ったパンが有った。
「お待ちどうさま。」少年がシチューの入った皿を俺たちの前に置いた。
「飲み物はどうする?」少年が聞いてきた。
「俺はラガーを、彼女には果物のジュースを。」俺がそう言うと少年はカウンターの奥に言う。
「ラガー1、フルジュウ1.」
「あいよ。」カウンターの奥から声が返ってくる。
「食べようか。」俺はシズカに言う。
「はい。」シズカが返事をする。
俺は、パンを手に取り、半分に割ると、シチューに漬けて口に入れた。
「あぁ、美味いなぁ。」
シズカは、俺の行動を真似て、パンをシチューに漬けて口に入れた。
「美味しいです。」
「本当は、行儀が悪い食い方だけどな。」俺はそう言いながら、同じようにパンをシチューに漬けて口に入れた。
「そうなんですか?」シズカはそう言いながら、俺と同じように食べる。
咎める者はいなかった。
俺たちは食事を堪能し、部屋に戻った。
「今日も別段疲れなかったが、早々と寝ることにする。」俺はそう言ってベットに潜った。
今日もシズカが俺のベットに潜って来た。
「寒いので、抱いてください。」
「はぁ。」俺はため息を吐きながら、シズカを抱き枕にした。
(くそう、こいつ、暖かいなぁ。)俺はそう思った。
(あ、サキュバスの店に行くのを忘れたな、まぁ良いか、又来る事も有るだろう。)
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翌朝、朝食を食べて、定時に南門に行く。
「お早うございます、ムサシ様。」ハコベが笑顔で俺に言って来る。
「あぁ、お早うございます。」俺は答える。
「遅れました、お早うございます。」姫様が馬車から出てきて言う。
「いえいえ、時間前です。」ハコベが揉み手をしながら言う。
「さぁ、出発しましょう。」俺が言うと、馬車隊は出発する。




