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「あっけなかったな。」俺はコボルドの襲撃を退けて言う。
「いやいや、ムサシ様、普通は死んでいます。」ハコベが言う。
「そうなの?」
「コボルドとは言え、100体もいれば脅威です。」
「え? あんなのが?」
「流石はムサシ様ですな、コボルド100体をあんなのが呼ばわりですか。」
「え~、だって、なぁ。」俺はミロクを見る。
ミロクは、笑って答えない。
「とりあえず、先に進みましょう。」俺が言うと、ハコベはそれに頷く。
「皆、先に進むぞ。」
「解りました!」ハコベの部下が答える。
「襲撃だ!」御者が叫ぶ。
「はぁ、またか。」俺は馬車の屋根から降りる。
「盗賊です!」御者が叫ぶ。
「え~、実入りが無い奴か。」俺はがっかりする。
盗賊は、付近の村の食い詰め者や、食にあぶれた者達の集団で、倒しても何も得られない物だ。
「荷物を置いていけば、命までは取らないぞ。」先頭にいた奴が大声を上げる。
俺はそれに答える。
「黙って通せば、命だけは助けてやる。」
「貴様!」先頭にいた男が激高して俺に向かって走ってくる。
「はぁ。」俺はため息をつきながら、天叢雲剣を抜く。
今の俺の身体能力は、普通の人間の能力を凌駕している。
そして、天叢雲剣は、何でも切れる。
その男は、粗末な刀を俺に向けて走って来た。
俺は、その攻撃を半歩ずらして躱し、天叢雲剣で首を切った。
「くそう、避けやがばsぢお。」意味不明の言葉を残してその男が躯になった、
「貴様!」
「よくもやったな!」盗賊たちが俺に向けて攻撃を仕掛けてくる。
「はぁ。」俺はため息をつきながら、盗賊たちの攻撃をいなし、撃退する。
50人ほどの盗賊は、半刻で全滅した。
「死体は消して良いですか?」俺はハコベに聞く。
「組合のカードをお持ちなら、記録されるはずなので大丈夫かと。」
「解りました、ミロク。」
「くふふ、任せて、塵に成れ。」盗賊たちの死体が消えた。
「盗賊のアジトを散策すれば、お宝が得られますよ。」ハコベが嬉しそうに言う。
「先を急がなくて良いのですか?」
「少しなら、大丈夫です。」
「まぁ、ハコベさんがそう言うなら。」
「ほほほ、楽しみですなぁ。」ハコベは嬉しそうだ。
「ミロク。」
「うん、ここから北に300m行った処に、それらしい建物があるよ、見張りが2人、中に10人ほどいるね。」
「ハコベさん、ここから北に300m行った処に、その拠点があるみたいです、盗賊の仲間もいますが、本当にいきますか?」
「ムサシ様がご一緒なら、心強いです。」
「はぁ、護衛ではないですよ。」
「解っておりますとも。」ハコベは楽しそうだ。
周りにいる、御者やハコベの店の従業員もニコニコしている。
(あれ? 俺がおかしいのか? 盗賊のアジトを襲うんだぞ。)
「くふふ、君のさっきの戦いを見ちゃったら、そうなるよね。」
「え? 俺のせい?」
「くふふ、君のせい。」
「はぁ、んじゃ行きますよ。」俺はそう言って、北に向かった。
おあつらえ向きなのか、馬車が通れる道があった。
「くふふ、盗賊たちが、自分達の獲物を運ぶために作ったんだろうね。」
「こんなに目立つのに?」
「くふふ、普段は隠してるんだろうけど、今回は、襲撃した馬車を通すためにそれを無くしていたんだろうね。」
「はぁ、そう言う事にしておこう。」
**********
暫く歩くと、それが見えて来た。
「ハコベさん。」
「はい、わくわくしますね。」
「はぁ、緊張感を持ってください。」
「むふふ、解っておりますとも。」
「とりあえず、見張りを潰すか。」俺はそう言って、足元の拳大の石を拾う。
「せーの!」俺は、その石を見張りに向かって投げた。
距離は300m程。
我々は森の中で、多分見張りは気が付いていない。
命中。
見張りの頭が消えた。
「うわぁ、やっておいてなんだけど、グロい。」
「おぉ、流石はムサシ様です。」ハコベの目が痛い。
「敵襲だ!」もう一人の見張りが、ドアを開けて叫ぶ。
すると、数人の男がドアから出て来た。
「おぉ、ぞろぞろと出て来たな。」俺が言う。
「何もんだ、貴様ら!」出て来た男の一人が叫ぶ。
俺は一人皆と離れ、200m迄近づいた。
「あぁ、お前らの仲間に襲われたから、礼を言いに来た。」
「はぁ? 仲間? いや、あいつら何人が行った?」その男が横の男に聞く。
「50人です。」
「そいつらは?」その男が俺に聞く。
「死んだ。」俺は答える。
「なっ!」その男は顔をゆがませる。
「貴様がやったのか!」その男は俺に聞いてくる
「あぁ、降りかかった火の粉を払った。」俺は答える。
「ほぉ、良い度胸をしているな。」その男が言う。
「なぁ、聞いても良いか?」俺はその言葉を無視して言う。
「なんだ!」
「お前たちのボスはどいつだ?」
「俺だ!」さっきから答えていた男が言う。
「おぉ、そうか。」俺は魔法を唱える。
「アイスジャベリン!」
その男以外の男が、全員その場に倒れる。
「な!」その男は驚愕する。
倒れた男達の心臓には、氷のやりが突き刺さっていた。
「俺が、お前だけ残したのが解るか?」俺が言うと。
「うわぁぁ!」その男がドアに入ろうとした。
「フリーズ!」俺は再び魔法を唱えた。」
その男は、その場で転んだ。
その男の両足が凍り付いていた。
俺は、その男にゆっくりと近づく。
「く、来るな、来るなぁ!」その男は叫びながらその辺りの石や土を投げてくる。
「フリーズ!」その男の両手が凍り付いた。
「ムサシ様、その男は生かしたまま連れて行きましょう。」ハコベが俺に追いついてきて言う。
「はい、解りました、シズカ。」
「はい、ムサシ様。」
「このロープで、その男をぐるぐる巻きにして下さい、凍った手や足はロープを巻きやすいように、適当に折って良いです。」
「はい、ムサシ様!」シズカは嬉しそうにそれを実行した。
その男の壮絶な悲鳴が聞こえたが無視だ。
「ミロク、数が合わないんだが。」俺はミロクに言う。
「中に何人か残っているね。」
「敵か?」
「う~ん、違うと思う。」ミロクが思案顔で言う。
「ハコベさん、俺が突入します、ここで待っていてください。」俺はハコベに言う。
「はい、仰せのままに。」ハコベが俺に礼をする。
(違う、何かが違う!)俺はそう思いながら、天叢雲剣を抜き、ドアの中に入る。
その部屋には誰もいなかった。
「何だよ。」俺はそう言いながら、隣の部屋を開けた。
其処にいたのは、高貴なお方と思える女性、いわゆる姫様だった。
「私を犯すつもりですか!」俺を見て姫様が言う。
「はぁ? 助けに来ました。」俺は答える。
「え?」姫様が狼狽える。
「私を犯しに来たのでは?」
(この姫様は、犯され願望でもあるんかい!)そう思ったが、普通に答えた。
「いえ、私はあなたに興味はありません。」
その答えに、姫様は少し落胆したようだが、俺には関係ない。
「姫様、違うみたいです。」姫様の隣にいた侍女らしき女性が姫様に声を掛ける。
***********
ハコベ達にも部屋に入ってもらい、質問をすることにした。
「え~と、盗賊に捕らえられたって事で良いですか?」俺が問う。
「城塞都市から、王都迄向かっておりましたが、昨日この辺りで盗賊に取り囲まれて、護衛の冒険者は我先にと逃げ出し、御者は殺されて・・。」
「この建物の裏に、馬車が有りました。」ハコベが言う。
「我々も、王都に向かっております、宜しければご一緒に。」ハコベが言う。
「はい、お願いしても宜しいですか?」姫様が嬉しそうに言う。
「姫様、私たち助かったのですね。」
「えぇ。」
「助けていただかなければ、慰み者にされて、奴隷商に売り払われたところでした。」
その後、屋敷を手分けして探し、盗品と思しき物品と、金貨や銀貨を発見した。
「これは、どうすれば良いんでしょうか?」俺はハコベに聞く。
「物品は、組合に届け出て、盗難届が出ていれば、相応の賞金になります。」
「盗難届が出ていなければ?」
「私が、買い取って現金を山分けしましょう。」
「はぁ。」
「現金は、姫様の取られた分を姫様にお返しして、私とムサシ様で山分けでいかがでしょうか?」
「其れで良いのであれば。」俺は曖昧に頷いた。
言葉通りに実行すると、ハコベは自分の取り分から、御者や、部下たちに金貨を1枚手渡していた。
「素晴らしい人だ。」
「くふふ、そうだね。」
金貨と銀貨合わせて420Gが俺の取り分になった。
因みに、金貨が10G、銀貨が1Gだ。
姫様の馬車は、何処も壊れておらず、馬も小屋に繋がれていた。
御者がいないが、ハコベの部下が操作出来るらしいので問題は無かった。
「さぁ、先を急ぎましょう。」俺の言葉で、隊商が動き始めた。
馬車6台の大所帯だ。




