一匹目
本日2回目の投稿です、前作からお読みください。
宿を確保した俺は、その宿の食堂で晩飯を食べた。
「あぁ、美味い、明日からはこんな飯が食えなくなるんだな。」
「何を言ってるんだい、あたしが付いているんだぞ、今日以上の食事が食べられるよ。」
「なんで?」
「あんたが、あたしと契約したから?」俺にしか見えないミロクがどや顔でふんぞり返る。
「訳が分からないよ。」
「まぁ、今日はさっさと寝ちまうことだね。」ミロクが言う。
「あぁ。」部屋に帰った俺は、布団にもぐる。
「添い寝してやろうか?」にやにやしながらミロクが言う。
「実体がないくせに、何言ってるんだ。」
「ちぇ。」
「あ~、暇だなぁ。」ミロクが呟く。
「朝までこのままかぁ。」更にミロクが言う。
「天井のシミの数でも数えるかなぁ。」
「寝れね~よ!」
「おや?」
「寝かす気ないだろう?」
「暇なんだよぉ。」
「お前も寝れば良いだろう!」
「300年も寝てたから、目が冴えちゃった。」
「はぁ。」
「?」
「良いから布団にもぐれ。」俺はミロクを掴んで布団に入れる。
「きゃぁ、強引。」
「って、何でつかめるんだ?」
「何でだろう?」
「実体がないのに何で掴めるんだ?」
「さぁ、私と契約したからじゃない?」
「成程。」俺は納得した。
「まぁ良いや、添い寝してやるから寝ろ!」
「襲っても良いよ。」ミロクがにやにやして言う。
「襲わない!」
「ちぇ。」
「なぁ。」
「うん?」
「お前、神様なんだろう?」
「そうだよ、敬え~。」
「何で実体が無いんだ?」
「ぐっ。」
「ん?」
「はぁ。」
「?」
「実はね、300年ぐらい前に昼寝していたら、そこらにいた魔物たちに神気を食べられちゃったんだ。」
「残った神気をかき集めて、その石に入ったんだけど、動けなくなって。」
「あたしを拾った男が、あたしを神社に奉納して、300年たって今に至るって。」
「大雑把すぎ。」
「む~。」
「俺は、どうすれば良い?」
「出来るなら、あたしの神気を取り戻してほしい。」
「俺、戦闘は出来ないぞ。」
「そこに連れて行ってくれれば、あたしが何とかする。」
「そこに連れて行けば良いんだな?」
「うん。」
「解った。」
「わ~い。」
「だが。」
「?」
「今は寝ろ!」布団を頭から被った。
「・・・。」
「?」
「何で、実体もないのに、体温を感じるんだろう?」
「さぁ? 契約したから?」
「しかも、なんか柔らかい感触が。」
「えっち。」
「だぁ~、意地で寝てやる。」
「くふふ、触っても良いよ。」
「ぐー。」
「くふふ、寝たふり可愛い。」
「ぐー。」
「うい奴じゃ。」
「ぐー。」
「ウリウリ。」
「てぃ!」俺はミロクの腹に一発を入れた。
「ふぐぅ。」その存在が静かになった。
「良し、寝よう。」俺は安心して眠った。
************
「う~ん、良い朝だ。」俺はベットから起き上がると、顔を洗い身支度を整えた。
この宿は、朝食も食べられ、お昼の弁当までが料金に含まれていた。
俺は、荷物を持って宿の食堂に向かった。
「おはようございます。」宿の娘が挨拶をしてくる。
「あぁ、おはよう。」俺は開いているテーブルに座る。
「朝食です。」そう言いながら、宿の娘が俺の前に朝食を置く。
俺の横にはミロクがいる。
だが、宿の少女には、ミロクが見えていないらしい。
この宿の朝食は、白パンと、卵焼き、ウインナー、もやしを炒めた物、それにコーヒーだ。
「今日の卵焼きは、私が焼いたんですけど、お口に合えば良いんですが。」宿の娘が言う。
「うん、うまい。」卵焼きを食べて俺が言う。
「良かったです。」
「こちらが、お弁当です。」宿の娘が、テーブルの隅に竹皮で包まれたものを置く。
「あぁ、ありがとう。」俺は朝食を食べ終えると、その弁当を持って宿を後にした。
「さっきから起きているんだろう?」
「君に殴られたから、その後の記憶がないよ!」
「ちゃんと寝むれたんだな?」
「むぅ。」
「あたしの扱い、酷くない?」
「全然。」
「むぅ。」ミロクが頬を膨らませる。
「で、どっちに行けばいい?」
「西。」むくれ乍らミロクが言う。
「西に、歩いて2日の所にある洞窟に、私の神気を食べたやつがいる。」
「はいよ。」俺は宿を出て、西の門に歩を進めた。
西の門の先は、広大な森が広がっている。
「この門からは、出ない事を進めるぞ。」門を守っている衛兵が声をかけてくる。
「俺もそう思う。」
「そう言いながら、出ていくんだな?」
「あぁ。」
「変わった奴だ。」
「自分でもそう思うよ。」
「武運を。」
「ありがとう。」俺は、門を潜る。
「さて、森に入れば良いのか?」
「あぁ、とりあえずは、真っ直ぐ進んで。」
「解った。」俺は言われた通りに真っ直ぐ森を進む。
「歩いて二日なら、走れば今日中に帰ってこれるな。」
「くふふ、良い根性してるね。」
「普通だ。」
************
「だぁぁぁ、何度襲撃されればいいんだ!」
「全部、あたしが撃退してるだろう?」
「その都度、素材だ、魔石だ、肉だと魔物を解体する俺の身になってくれ!」
「全部あたしが持ってやってるじゃないか。」
「どうやって持っているのか知らんが、それにしてもだな。」
「そのおかげで、君はすでに30Gを手に入れているよ。」
「え?」
「ふふふ、あたしを敬え~♪」ミロクが腰に手を当てて上を向く。
「マジかぁ、やる気出て来たわ。」
「よし、サクサク進め!」
「あいよ。」
************
「ぜいっ、ぜいっ、3桁はきつい。」半日走り続けた俺が言う。
「だが、其処に最初の獲物がいるよ。」
「おぉ、やっとか。」
「あぁ、気を引き締めていこう。」
「わかった。」
************
「おや、誰かと思ったら、昔に神気を食ってやった奴かい?」その存在が俺達に気付いて言う。
「ふふふ、あの時は世話になったね。」ミロクが口元を歪めながら言う。
「今更、何の用だい?」
「勿論、神気を返して貰うためだ。」
「きゃははは、今のアンタに何が出来るんだい?」その存在が、ゲラゲラと笑う・
「おや、気付かないのかい?」ミロクがにやりと笑う。
「あん?」その存在が疑問に思った時。
「げぇ、身体が動かせない?」その存在が気づく。
「あんたの神気は、あたしに繋がったからね。」ミロクが黒い顔で笑う。
「なぁ!」その存在が驚愕する。
「あたしを喰った罰を受けてもらおうか。」ミロクはにっこりと微笑む。
「な、何をする?」その存在が慌てて言う。
「そうだねぇ、とりあえず死んで。」ミロクが笑いながら言う。
「なぁ。」
「お、俺の身体を操るな!」その存在が抗おうとする。
「拒否するよ。」そう言いながら、ミロクの意志でその存在が右手で腰のナイフを抜く。
「止めろ!」その存在が首を横に振りながら言う。
「止めない。」ミロクの意志でその存在が、そのナイフを両手で持つ。
「頼む、止めてくれ!」その存在が、懇願する。
「お前に喰われた時に、そう願ったあたしの願いをお前は聞いてくれたかい?」笑顔のままミロクが言う。
「なぁ。」
「終われ!」そう良いながら、両手で持ったナイフを心臓に突き入れる。
「かはぁ。」その存在はそのままこと切れた。
「さて、こいつも解体して。」真顔になったミロクが、俺に言う。
「はぁ。」
「何でため息をつくんだい?」
「オーガキングを解体するのが初めてだから?」
「あぁ、こいつは、魔石と両手、両足の爪、それから心臓以外は要らないから。」
「はぁ。」ため息をつきながら、俺はその部位を切り取る。
「よし、町に帰ろう。」すっきりした顔でミロクが言う。
「はぁ、解ったよ。」その後、さらに複数の魔物を解体しながら俺は全速で町に戻った。