蟹
「アルゴンに面会「アルゴンに面会したい」俺は王城の門番にそう言った。
「はい。どうぞお通りください」門番は俺を通してくれる。
ふと見ると、ひとりの門番が伝令で走っていった。
「マジで神待遇だな」俺はそう言いながら謁見室に向かった。
「おぉ、ムサシどうしたのだ?」アルゴンが聞いてくる。
「あぁ、カリナが懐妊したから報告に来た」
「なんと?」
「あぁ、本当の事だ」
「何と目出度い」
「へっ?」
「流石はムサシ様です」
「いや、カリナだけじゃない」
「は?」
「俺に嫁いだ、サノアとリーンも懐妊した」
「おぉ、それでは臣民に通知しなくては」
「はい、国王様、仰せのままに」宰相が走っていく。
「なぁ、アルゴン」
「何でしょう? ムサシ様」
「カリナの懐妊が国民に知らせるべき事なの?」
「勿論ですとも、神の身代わり様のお子が、王家に降臨するのですから」
「はぁ?」
「もし男子が生まれたなら、その日は国民の休日にしましょう」アルゴンが言う。
「まぁ、任せるよ」
「わははは、ムサシ、奇遇だな」
「おや、レニウム義兄さん、どうしたのですか?」
「エリスも子を授かった」
「おぉ、それは良かった」
「あぁ、ムサシの子供と同じ歳なら同じ学校に通えるな」
「あぁ、そうですね」
「お前の子供と、俺の子供なら親友になれるだろう?」
「ははは、子供の自主性に任せます」俺は無難に答える。
「かかか、ムサシ、私は蟹が食べたい」姉御が言って来る。
「蟹?」
「あぁ、特にでかい奴が良い」
「其れは、俺に持ってこいと言う催促かな?」
「かかか、勿論だ」
「はぁ、解ったよ」俺は王城を出て人魚たちの町に走った。
「相変わらず並んでいるな」俺は列の最後に並んだ・
「ほほほ、この町は初めてですか?」前にいた商人が話しかけてくる。
「いや、何度も来ている」
「おや、それでは人魚たちの料理も食べましたか?」
(あぁ、俺が教えたからな)俺は言葉を飲み込んだ。
「ははは、そうだな」俺は誤魔化した。
「ほほほ、エビの天麩羅を使った、エビ天丼が絶品ですぞ」
「そうか、試してみるよ」
「ほほほ、ほっぺたが落ちますぞ」
「ははは、楽しみだ」
そうして並んでいると、俺の番が来た。
「おや、貴方は、どうぞお通りください」門番が俺を通してくれる。
「何であの御仁は素通りなのですか?」俺に話しかけた商人が聞いてくる。
「あのお方は、この町を発展させてくれた方です」
「え?」
「人魚たちに料理を伝授したのはあの方です」
「何と!」商人が驚愕する。
「あ! お兄さん!」
「ムサシ様、来てくれてうれしい」人魚たちに歓迎された。
「今日はどうしたんだい?」
「あぁ、姉御に難題を吹っ掛けられた」
「難題?」
「あぁ、蟹が食いたいって言われた」
「蟹って、足が8本で、はさみが付いている奴か?」
「あぁ、それもでかい奴が良いってさ」
「あれかぁ、ちょっと時間をくれるかい?」
「あぁ、構わないぞ」
「んじゃ、捕ってくる」人魚たちがそう言って梅に入っていく。
「さて、どんな蟹を持ってくるのかな」俺は竈を借りてイカ焼きを作りながら言う。
「ムサシ様、それは?」
「あぁ、其処にあったから焼いている」
「え? そんなのが食べられるの?」
「なんだ、食べるために捕ってきたんじゃないのか?」
「いや、グニグニしてるから捨てようと思ってた」
「え~、美味しいのに」そう言いながらイカに醤油を塗って焼いていく。
「醤油が竈に落ちて香ばしい匂いが広がるな」
「ごくり」人魚が生唾を飲み込む。
「あれ? 教えなかったっけ?」
「聞いてないよ」
「そうか、焼きあがったから食って良いぞ」俺は人魚たちイカ焼きを差し出す。
「どれ?」
「熱い」
「あわてるな、たくさんあるから」俺はイカ焼きを焼き続ける。
「はふ、はふ、美味いな」
「まさかこんな風に食べられるとは」
「本当にいろんなものが食べられるんだな」
「感激だ」
「これは串に刺して売れば売れるんじゃないか?」
「あぁ、それは良い」
「じゃ、組合のカードに契約するよ」
「あぁ」俺は人魚たちに組合のカードを渡した。
「こほん」俺の後ろで貴族が咳払いをする。
「ん~?」俺は振り返る。
「それはいくら払えば食べられるのだ?」
「あぁ、イカ焼きひと串50Bだ」俺は答える。
「暴力的な醤油の匂いがたまらん、ひと串くれ」
「まいど」俺はその貴族にイカ焼きを渡す。
俺は人魚たちに目配せする。
「どんどん焼いて良いぞ」俺は人魚たちに言う。
「んじゃ、あたいがイカを捕ってくるよ」そう言いながら数人の人魚が海に飛び込んだ。
「んじゃ、残った奴はジャンジャン焼いていけ」俺は人魚たちに言う。
「あいよ」人儀世たちは竈でイカを焼き始める。
暫くすると蟹を捕りに行っていた人魚たちが帰ってきた。
「何だい、この香ばしい香りは?」
「ムサシ様が新しい売り物を教えてくれんだ」
「マジか?」
「あぁ、で、蟹はどうなった?」俺は人魚に聞く。
「こんだけ捕ってきたよ」人魚たちが蟹をそこに出す。
「おぉ、この辺でも捕れるのか?」俺はその蟹を見て驚愕する。
そこには、タラバガニをはじめ、毛蟹、ズワイガニが並んでいた。
「小さいのもいたけど、これは要らないよな」人魚がその蟹を捨てようとする。
「ちょっと待った」
「え?」
「これは、ズワイガにの雌だ」俺はその蟹を見て言う。
「え? 食べられるの?」
「姉御が、卵と味噌が絶品だと言っていた」
「へぇ」
「お湯を沸かして、3%の塩をいれて」俺はそれを実行する。
「蟹の腹を上にして鍋に入れる」
「色が赤く変わって、良い匂いがしてきた」
「蟹は高級品だからな」
「そうなの?」
「ああ、俺達には捕れないからな」
「成程」
「一杯500B位で売れば良いんじゃないか?」
「一杯って?」
「蟹一匹の事だ」
「成程」
「で、今回はここにある蟹を全部買う」
「え? いくらになるか解らないよ」
「んじゃ、4Gで良いか?」
「相場が解らないよ」
「ゆっくり決めて良いんじゃないか」
「あぁ、そうだね」
「んじゃ、貰っていくぞ」
「あいよ」
「ミロク」
「くふふ。うん」その場にあった蟹が全部消えた。
「姉御の話だとこの量が4Gは破格だな。」俺は独り言を言いながら王城に帰った。




