暖炉
「へへへ、ムサシ、お前稼いでいるそうだな」昔の仲間に街中で絡まれた。
「はぁ? 俺に構うと死ぬぞ」俺は冷たく言い放つ。
「何だと、貴様! 下っ端のくせに」
「今の俺は神の身代わりだ、あんた達にこき使われた俺じゃない」
「へへへ、言うじゃないか。仕方ないから今日のお前の稼ぎを貰ってやるよ」昔の仲間たちが言う。
「はぁ、馬鹿たちだった」俺はため息を着きながらそいつらに相対する。
「お前たち、街中で騒動を起こすんじゃない」衛兵がそう言いながら近づいてくる。
「あぁ? 俺たちは昔の仲間に金を借りるだけだ」昔の仲間が衛兵に言う。
「あぁ、こいつら、俺をカツアゲしているんだ」俺は衛兵に言う。
「なぁ? ムサシ様!」衛兵が驚く。
「なぁ、こいつら俺に向かって敬語も使わないんだぜ」
「なんと?」衛兵が驚愕する。
「お前に関係ないだろう、俺はムサシと話しているんだ」昔の仲間が言う。
「貴様、このお方がどういうお立場の方か理解しているのか?」衛兵が剣に手を掛けながら言う。
「知らねえよ、只のポーターだろう?」
「ははは、不敬罪だな」俺は笑いながら言う。
「何を言っているんだ?」昔の仲間が言う。
「お前は、本当に知らないのか?」衛兵が言う。
「何をだ?」
「此処にいるムサシ様は、公爵を叙爵なさったお方だ」
「は?」
「つまりお前は、公爵様に無礼を働いたと言う事だ」
「え?」
「最初に言ったよな、俺に構うと死ぬと」
「何だと?」昔の仲間が挙動不審になる。
周りには衛兵が集まって来た。
「此処にいる者を捕らえよ、公爵様に暴言を吐いた罪で奴隷落ち、鉱山送りだ」
「はっ!」
「いや、待ってくれ、違うんだ」昔の仲間が言い訳をする。
「黙れ!」衛兵が昔の仲間の腹にこぶしを入れる。
「ぐはぁ!」
「連れていけ、こいつは奴隷落ちで鉱山送りだ」
「は!」衛兵が昔の仲間を連れて行った。
「ありがとう、助かった」
「何をおっしゃいます、ムサシ様、ムサシ様ならご自身で排除されたのではないですか?」
「ははは、そうだな」
「では、失礼いたします」そう言いながら衛兵が離れていく。
「はぁ、あんな馬鹿がまだいるのか」俺はため息をついた。
「くふふ、もっと周知したほうが良いんじゃない?」ミロクが言う。
「面倒くさい、それに其れはアルゴンの仕事だろう」
「くふふ、そうだね」
「今日はどうするんだい?」
「適当にぶらぶらする」
「くふふ、暇人」
「五月蠅いな」
「そう言えば、しばらく孤児院に顔を出していなかったな」
「くふふ、そうだね」
「んじゃ、様子を見に行くか」
「うん」
「あぁ、その前に屋台で食材を仕入れるか」そう言って手近な屋台に行った。
「兄ちゃん、何を買ってくれるんだ?」屋台の親父が聞いてくる。
「此処は串焼きの店か?」
「あぁ、美味いぞ」
「じゃぁ、串焼きを100本くれ、ここに皿を置くから焼いたら乗せてくれ」そう言ってミロクから大皿を貰い其処に置く。
「あぁ、それは良いが、全部で5Gだぞ、払えるのか?」屋台の親父が聞いてくる。
「大丈夫だ、このカードで決済できるならカードで、駄目なら現金で支払う」
「おぉ、カードは使えるぞ」
「そうか、んじゃ決裁してくれ」俺は屋台の親父にカードを渡す。
「決済完了した」親父が俺にカードを返してくる。
「あぁ」
「串焼きも置いていくぞ」
「あぁ、悪いな」
「何言ってるんだ、美味しい売り上げだ」
「ははは、良かったな」
「あぁ、ジャンジャン焼くぜ」
「おぉ、頼んだ」
「良し焼きあがったぞ」親父が言う。
「おぉ、ありがとうな」俺はそれをミロクに持って貰い、孤児院に向かった。
「おぉ、孤児院は変わらないな」
「くふふ、そう簡単には変わらないよ」
「そうだな」
「あ! ムサシ兄ちゃんだ」目聡い虎児が声を上げる。
「ははは、見つかった」
「わ~い、ムサシ兄ちゃん、今回は何を食べさせてくれるの?」
「ははは、餌付けの効果が出ているな」
「くふふ、本当だね」
「まぁ、食えるって事は良い事だ」俺はそう言いながら孤児院に入っていく。
「あら? ムサシ様じゃありませんか」シスターマリーが俺に声を掛けてくる。
「お久しぶりです、今日は寄進に参りました」俺はそう言いながらミロクから100G分のBが入った袋を貰いシスターマリーに手渡す。
「まぁ、いつもいつもありがとうございます」
「いえ、貴族としての義務です」
「そう言えば、ムサシ様は公爵様でしたね」
「はぁ、まぁ一応」
「ムサシ兄ちゃん」孤児が後ろからタックルしてきた。
「うぉ、何だ?」
「おなかすいた」
「あたしも」
「何か食べさせて」
「あぁ、解った、じゃぁ手を洗ってこい」
「はーい」
「洗って来る」孤児たちが手洗い場に駆けて行く。
その間に、俺は昔作ったテーブルのところに行った。
「綺麗に使っているんだな」俺はそのテーブルを見て言う。
「晴れた日のお昼ご飯はここで食べています」シスターマリーが俺に言う。
「そろそろ寒くなってきますから、表では寒いのではないですか?」
「子供たちは元気ですから」
「あぁ、そう言えば孤児院の暖房はどうしているのですか?」
「薪ストーブがあります」
「其れだけですか?」
「はい」
俺はテーブルの上に串焼きが乗った皿を取り出すと、孤児院に向かった。
「前に魔法で補強したから、隙間風とかは入らないな」俺は建物に魔力を流しながら確認する。
「シスターマリー」
「はい何でしょう?」
「孤児院の中に入っても良いですか」
「はい、構いませんが」
「それじゃあ」俺は孤児院の中に入った。
「風呂場もきちんと掃除されているな」
「孤児たちが頑張っています」
「そして、これが薪ストーブ?」俺はそれを見て固まる。
「部屋の隅に小さなストーブ?」怖い事に煙突が無かった。
「これに火をつけるのですか?」俺はシスターマリーに聞く。
「はい」
「換気は?」
「窓とドアを開けて使います」
「シスターマリー」
「はい、何でしょう?」
「作り直して良いですか?」
「はい?」
「では」俺はストーブを魔法で改良していく。
「いえ、今のはいは、肯定のはいではなかったんですが」
「え?」半分ぐらい改良してしまった俺は固まる。
「どうぞ続けて下さい、ムサシ様がすることですから悪い事にはなりませんのでしょう?」
「頑張ります」
俺はストーブを暖炉に作り替えていく。
当然煙突もしっかり作る。
前面は火に強い火炎蜘蛛の甲羅を使って中が見えるようにした。
「で、壁の上の方に穴をあけて煙突を表に出す」俺は魔法でそれを行う。
「表に出した煙突は雨が入らないようにH型にして」
「良し、完成」
そこにはさっきのストーブより二回り大きな暖炉があった。
「試運転します」俺は暖炉の蓋を開けて、ミロクから巻きを貰って中に入れた。
「火魔法」俺は薪に火をつける。
暫くすると、部屋が温まり始める。
「うん、良い感じだ」俺は満足する。
暖炉の窓からは燃えている火が見える。
「この火を見ているだけでも良いものですね」シスターマリーが言って来る。
「旅の途中で、野営をするときに焚火を見ていると癒されますからね」
「まぁ、そうなのですか」
「えぇ」
「うわ、部屋が暖かい」
「本当だ」
孤児たちが部屋に入ってきて言う。
「あ? ストーブが変わっている」
「本当だ」
「お前たち腹は膨れたのか?」
「うん、おなか一杯」
「美味しかった」
「全部なくなったか?」
「ううん、シスターの分は残した」
「まぁ、私の分を?」
「うん」
「まぁまぁ」シスターマリーの目に涙が浮かぶ。
「では、食べに行きましょう」俺はシスターマリーを促す。
「はい」シスターマリーはそう言って表に出ていく。
「さて、俺はもうひと仕事だな」
「くふふ、何をするんだい?」
「薪置き場を作る」
「くふふ」
俺は孤児院の横にある空いたスペースに地魔法で薪置き場を作った。
「で、薪を詰め込む」俺はミロクから巻きを貰ってそこに詰め込んだ。
「一月位は持つだろうな」
そして、テーブルのところに行くとシスターマリーが涙を流しながら串焼きを食べていた。
「え? 大丈夫ですか?」
「あの子たちの優しさが嬉しくて」シスターマリーが言う。
「シスターたちの教えが良いんですよ、きっと」
「そうなのでしょうか?」
「はい」
俺はシスターマリーの前にコップを置きワインをなみなみと注いだ。
「え? 昼からお酒は」
「ミロク神の血です」
「まぁ、それなら」そう言いながらシスターマリーはワインを飲む。
「美味しい」
「良かったです」
「さて、王都の孤児院はどうだろう?」明日の予定が決まった。




