ムサシ崇められる
「くふふ、お迎えが来たみたいだね」
「あぁ、そうか」
「ご主人様に仇なすものは私が排除します」紅が言う。
「ははは、穏便にな」
「ムサシ殿、皇帝がお会いになるそうです」宿屋を訪ねてきた騎士が殺気びんびんで言う。
「あぁ、案内してくれ」俺はその騎士に言う。
「はい、解りました」その騎士は俺の闘気に気圧され素直に俺を案内する。
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「こちらの馬車にお乗りください」その騎士が言う。
「おぉ、豪華な馬車だな」俺はその馬車に乗り込む。
「さて、皇帝はどう出るかな?」
「くふふ敵対するなら滅ぼしちゃえ」
「ご主人様。私が一掃します」
「ははは、一応穏便にな」
「皇帝がいるところまではどの位かかるんだ?」俺は其処に居る男に聞く。
「皇帝様を呼び捨てか」その男の殺気が増す。
「ほぉ、我が主に仇なすつもりか?」紅が殺気を高める。
「落ち着け」俺は紅に言う。
「はい、ご主人様」
「こいつ等が俺に仇なすなら、ドラゴニア帝国が滅ぶ時だ。
「解りましたご主人様」紅が礼を取る。
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数分で皇帝のいるところに着いた。
そこは、質素だが高級な佇まいの家だった。
「ふむ、皇帝の家か?」
「こちらです」兵士が案内してくれる。
俺は皇帝の前にいった。
「よく来たな」皇帝が言う。
「あぁ、初めましてだな、俺はムサシだ」
「私はご主人様の伴侶、紅だ」
「で、俺を呼び出したのは何のためだ?」俺は闘気を高めながら言う。
「いや、私は貴方に敵対しない」
「何を腑抜けたことを!」皇帝の側近の一人が俺に剣を向けてきた。
「なっ、止めるのだ!」皇帝が叫ぶ。
「くふふ、やらせないよ」ミロクがその男の首を持つ。
「なぁ? 何故動けない?」その男が悶えながら言う。
「皇帝、これが帝国の総意と言う事で良いか?」俺は闘気を開放して皇帝に言う。
「待ってください、先ほども言った通り、私は貴方に敵対しない」
「だが、お前の周りの人間は俺に敵対するって事で良いな」
「違います! お前たちも控えるのだ!」皇帝が叫ぶ。
「くそぉ、何で俺は動けないんだ?」ミロクに首を持たれた男が苦しそうに言う」
「ミロク神に首を持たれているからだ」
「何を馬鹿な事を」
「はぁ、まぁ見ていろ」俺はミロクの神気を周りに流す。
すると、ミロクの姿が薄っすらと見え始めた。
「なぁ? ミロク神様?」
「おぉぉ、神々しい」
「ありがたや、ありがたや」
「あぁ、なんとお綺麗な」帝国の皇帝の側近たちが跪いてミロクに祈り始める。
「なぁ?」ミロクに首を持たれた男も、ミロクを見て驚愕する。
「俺は神の身代わりだ」俺は冷ややかに言う。
「はい、存じております」皇帝が跪いて深々と礼をする。
「俺が黒龍を滅したのは、ここにいるミロク神の神気を己の物としてミロク神に返さなかったからだ」
「何と?」
「つまり、神罰であると?」
「あぁ、そうだ」
「ばかなぁ?」ミロクに首を持たれたままの男の力が抜ける。
「まだ俺に敵意を向けるか?」俺はその男に聞く。
「黒龍様を滅したのは事実、たとえミロク神の神気を返さないとしても、それは黒龍様の自由だ!」
「ほぉ、それは私に対する謀反と取って良いな」ミロクが低い声で言う。
ドラゴニア帝国では、ドラゴン信仰を主としているが、ミロク神聖教会でミロクを信仰するものも多い。
もっと言えば、どちらも信仰対象となっている。
だが、この男は龍のみを信仰しているようだ。
「そうか、では龍を信仰したまま死ぬがいい」ミロクが手に力を入れる。
「がはぁ!」その男の首の骨が折れた。
「くふふ、神罰だよ」ミロクが言う。
「「「「ははぁ!」」」」周りにいた皇帝以下全員が跪いて頭を床に付ける。
「ご主人様に仇なすものは私が滅する」紅がその場で宣言する。
「おぉぉぉ、ミロク神の身代わりとレッドドラゴンを妻に娶ったお方を我々は信仰せざるを得ない」皇帝が叫ぶ。
「その通りです、神の鉄槌もこの目で見ました」
「その男は、自業自得、神に逆らった男の末路です」
「勿論ムサシ様にはこの国で自由にお過ごしいただきます」側近たちが騒ぎ出す。
「あぁ、俺に敵対しないなら、この国が亡ぶ事は無いだろう」俺はそう言いながらその館から出ようとする。
「お待ちください、町の中にはまだムサシ様を良く思わない者たちがおります」皇帝が俺の足におでこを付けながら言う。
「はぁ?」
「私が宣言するまで、ここにお泊り下さい」
「なんで?」
「無知なる者達によって、この国が終わるのは残念です」
「はぁ、いつまで居れば良いんだ?」
「明日には私が民衆に宣言いたします」皇帝が言う。
「はぁ、解ったよ」俺は諦めてそう言う。
「では、部屋を用意させます」皇帝が傍にいた使用人に何かを伝える。
「はぁ、では世話になる」俺はその提案を受け入れた。
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翌朝、皇帝は俺が信仰対象であると宣言をした。
「いや、ちょっと待て、何で俺が信仰対象なんだ?」
「ムサシ様は生き神様です」皇帝が良い顔で言う。
「訳が分からん」
「ミロク神の加護を持ち、ドラゴンを伴侶にする、最早神と同義」
「違うから!」
「さぁ、ご自由にこの国をお歩きください」皇帝が言う。
「はぁ」俺はため息を着きながら皇帝の家を出た。
「ムサシ様、これをお納めください」住人が供え物を渡してくる。
「あぁ、ありがとうな」
「ムサシ様にお礼を言われた」
「おぉ、羨ましい」
「ムサシ様、これもお納めください」住人が竹の皮に包んだ何かの肉を差し出してくる。
「くふふ、この地方の特産の最高級の牛肉だよ」
「あぁ、ありがとうな、お前に幸あれ」俺はミロクを真似して住民に声を掛ける。
「おぉぉ、ムサシ様から祝福を頂いた」その住民が感極まって涙を流す。
「おぉ、羨ましい、私も寄進しよう」
「私もだ」俺に対する寄進は、ドラゴニア帝国を出るまで続いた。
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「何か疲れた」
「くふふ、君も私と同じ立場になったね」
「要らない」
「くふふ」
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俺はアルゴンに報告しながら、寄進された者を押し付けた。
「ムサシ、ドラゴニア帝国の名産を随分くれたそうだな」アルゴンが言う。
「俺一人じゃ食いきれないからな」
「かかか、ムサシ、あの国で聖人認定されたのか?」姉御が言う。
「いや、信仰対象だとさ」
「かかか、ムサシ神だってか?」
「笑い事じゃないよ」
「ご主人様が信仰対象になるのは必然です」紅が良い顔で言う。
「違うから」
「国を亡ぼせる者を信仰するのは当然です」紅が言う。
「そう言う物なの?」
「はい」
「かかか、ムサシ、この色紙にサインをしてくれ、お守りにするから」姉御が言う。
「姉御、マジで言ってる?」俺は姉御をジト目で見る。
「いやぁ、ドラゴニア帝国で売れば小遣いになるかなって」姉御は俺から目をそらしながら言う。
「はぁ、姉御のそういうところ好きですよ」
「何だ? 求婚か? だがあたいはレニウムと結婚したから答えられないぜ」
「何でそうなるんだ!」
「かかか、小さいことを悩むな」
「はぁ、解りました」俺はため息を付いて納得した。
「考えたら負けだ」
「くふふ」
後日、ドラゴニア帝国は俺を生き神であると内外に発表した。
俺は天を仰いだ。
その後も、ドラゴニア帝国から俺への寄進が続いた。
「良し、滅ぼそう」俺が怖い考えになるが、ミロク神から窘められた。
「くふふ、孤児院への寄進にすればいいじゃないか」
「あぁ、それもそうだな」
バカ高い高級品以外は、国の孤児院に寄進することにした。
俺が神聖化したのは無視しよう。




