姉御と人魚の村で
「美味い物?」俺が聞く。
「あぁ、美味いぞ」姉御は酢を混ぜたご飯を茶碗によそう。
「これにウニを乗せて、のりをぱらぱらと」
「おぉぉ」
「で、醬油をひと回し」姉御はウニに醤油をかける。
「さぁ、食ってみ」姉御は人魚の前に其れを差し出す。
「どれ」人魚がそれを器用に箸で口に入れる。
「ぐはぁ!」人魚が目を見張る。
「何だ?」
「毒か?」他の人魚が警戒する。
「う」それを食べた人魚が声を出す。
「う?」他の人魚が聞き返す。
「美味い」と言った人魚は茶碗のウニご飯を掻き込む。
「あたいにもくれ」
「あたいにも」人魚が群がる。
「もっとウニを採ってくればもっと食べられるぞ」姉御がニヤニヤしながら言う。
「くそぉ、待っていろ」
「皆行くよ」人魚たちが海に潜っていく。
「さぁムサシ、今のうちに味見だ」そう言うと姉御は3人分を茶碗に盛り、ウニを乗せのりを掛けて醤油をひと回しする。
「はい、あなた」姉御はレニウムに茶碗を渡す。
「あぁ、忘れられているかと思った」レニウムはそう言いながら茶碗を受け取る。
「ほい、ムサシ」姉御は茶碗を俺に差し出す。
「あぁ。」俺はそれを受け取る。
「今のうちに味見だ」姉御はそう言ってウニ丼を口に入れる。
俺も箸でそれを口に入れる。
「ふわぁ」ウニ単独で食べるよりもおいしい物が其処にあった。
「くふふ、私にも食べさせろ」ミロクが言うので箸を渡す。
「どれ」ミロクがそれを口に入れる。
「ふわぁ」
「酢飯とウニの相性はばっちりだろう」姉御が言う。
「きっと人魚たちはこれを売りたがる、そうしたらこの村に入るのにもっと時間がかかるようになるぞ」俺は言う。
「父上に言って、この村の入り口を増やすように進言しよう、そして警備も倍にするように」
「姉御、売り上げの5%は何処に振り込めば良い?」
「え?」姉御がキョトンとする。
「人魚たちは、売った売り上げの5%を俺の口座に振り込んでいる」
「あぁ、なら今まで通りムサシの口座に振り込ませれば良いさ」姉御がけらけら笑いながら言う。
「いや、それでは」
「ムサシは、この村で獲れる魚貝を王城に定期的に持ってくる、それで良いさ」姉御がにっこりしながら言う。
「あぁ、それで良いぞ」レニウムも言う。
「俺、配達員か」
「採って来たよ!」人魚たちが両手いっぱいのウニを持って帰ってくる。
「かかか、剥き方を教えるから一緒に剝くぞ」姉御が人魚たちに言う。
「あぁ、任せろ!」人魚たちが逞しい。
「はぁ。」俺はため息を着く」
俺はミロクから米を貰い、砥いで炊き始める。
「ムサシ、何をやっているんだ?」姉御が聞いてくる」
「あぁ、飯を炊いている」
「かかか、流石はムサシだな」姉御が嬉しそうに言う。
俺は10合の飯を炊き、さっきの5倍の調味料をボールで合わせた。
「さて、寿司桶を作るか」俺はミロクから木片を貰い、クリエイトの魔法で桶らしきものを作る。
「水で洗って、御飯を入れて平らにして、調味料をしゃもじで受けながらご飯にかける」
「ムサシ、お前何処でそれを?」
「さっき姉御がやっていたじゃないか」
「んで、しゃもじで混ぜていくんだったな」俺は片手で団扇をあおぎながら、もう一方の手で、しゃもじでご飯を混ぜていく。
何人かの人魚が、俺のやることを必死でメモしている。
「かかか、剥けたな」姉御が笑いながら言う。
「あぁ、流石はムサシ様の師匠だ」人魚が言う。
「ご飯をよそったぞ」俺は地魔法で作ったどんぶりに酢飯をよそい、白ごまを振りかける。
姉御はさっきと同じように、どんぶり飯にウニを手際よく並べ乗せ、刻みのりを振りかけて醤油を回しいれる。
「さぁ、人数分作ったから食べて良いぞ」姉御が言う。
「「「わぁ!」」」人魚が我先にと殺到した。
「美味い」
「あのとげとげが、こんなに美味いとは知らなかった」
「後100個ぐらいほしいんだが、ありそうか?」俺は人魚たちに聞く。
「今まで採っていなかったから、ごろごろいるよ」
「そうか、じゃぁ、食ってからで良いから採ってきてくれないか?」
「あいよ」
「任せな」
「ははは、頼もしいな」
「ムサシ、そんなにどうするんだ?」姉御が聞いてくる。
「アルゴンと王妃様にも食べさせないと」
「あぁ、そうだった」
「それに、俺の家族たちにも食べさせたい」
「かぁ~、優しいな、ムサシは」
「大体、一人前は5個分ぐらいだろう」
「そうだな」
「姉御さん」人魚が聞いてくる。
「なんだ?」
「売っても良いですか?」
「別に構わないぞ」
「では、契約を」そう言いながら手を出してくる。
「いや、今まで通り、ムサシと契約してくれ」姉御が言う。
「なんで?」人魚が首をかしげる。
「あたいは、組合のカードを持っていない」
「そうなんだ、じゃあムサシ様」人魚が俺を見る。
「姉御、本当に良いのか?」俺は姉御を見て言う。
「問題ない」姉御がニカって笑う。
「そうか」俺は組合のカードを取り出し、いつもの契約を実行する。
「姉御が人魚に教えた料理を売った場合は、その売り上げの5%を俺の口座に振り込む」カードが淡く光る。
「人魚族は、姉御さんから教わった料理を売った場合は、売り上げの5%をムサシ様の口座に振り込む」人魚が言うとカードが光り、契約が完了した。
「ところで、ムサシが教えた料理で、一番売れているのは何だ?」姉御が人魚たちに聞く。
「う~ん、何だろう?」人魚たちが考え込む。
「なめろうや、たたきはそれなりに出てるけど」
「エビフライは開店して1時間ぐらいで売り切れちゃうし」
「味噌煮や塩焼きもすぐに終わっちゃうね」
「ムサシ、教えたのは其れだけか?」姉御が俺に聞いてくる。
「あぁ、あれこれ教えても覚えきれないだろう?」
「そう言えば、ここはエビを売っているんだな」姉御がそれに気づく。
「あぁ、あたいらが採っている」
「生きた状態で売っているのか」姉御が驚く。
「死んだらすぐに駄目になるからな」人魚が答える。
「そうか、冷凍する事が出来ないからか」姉御がうなる。
「出来るぞ」俺は言う。
「へ?」姉御が呆ける。
「フリーズの魔法を唱えれば簡単だろう」俺は言う。
「魔法?」
「あぁ、それは出来るけど、生きた奴の方が美味いじゃないか」人魚が言う。
「成程」姉御が納得する。
「エビも買っていくか?」俺は姉御に聞く。
「そうだな、久しぶりに食べたいな」姉御が言う。
「んじゃ、ここにあるエビ全部買う」俺は人魚に言う。
「5G分有るけど、良いの?」人魚が聞いてくる。
「あぁ。」俺はカードを人魚に渡し、決裁してもらう。
「ミロク」俺はミロクに声を掛ける。
「くふふ、解ったよ」其処にあったエビが消える。
「採って来たよ」籠一杯に入ったウニを持った人魚が数人帰って来た。
「おぉ、凄いな、姉御のところは半分ぐらいで良いか?」俺は姉御に聞く。
「あぁ、それで良いや」姉御が頷く。
「んじゃ、全部で10Gで良いか?」
「貰い過ぎだよ」
「前にも言っただろチップ込みだ」俺は組合のカードを人魚に渡し決裁してもらう。
「さて、じゃぁ帰ろうか」俺が言う。
「ちょっと待て、ムサシ」姉御が俺を止める。
「何だよ?」
「エビはエビフライだけか?」姉御が聞いてくる。
「塩焼きは教えたぞ」
「天麩羅は?」
「いや、教えていない」
「なんで?」
「さっきも言ったけど、色々教えても覚えきれないだろう」
「そうか、そうだったな」
「天麩羅って何?」一人の人魚が聞いてくる。
「今度来た時に教えるから」俺が答える。
「え~」人魚がブウ垂れる。
「ははは、又な」俺は王城の前に門を繋げる。
「だから人間は・・はぁ、もう良いや」ミロクがあきれ果てる。
そして、王城でミロクに持って貰っていた、ウニとエビの半分を料理長に渡し、ウニを一個料理長の前で剥いて手順を教えて家に帰った。
当然、カリナ以下家族と料理長とメイド、そしてシーナとリーンにもウニ丼を振舞った。
全員喜んだのは当然だ。




