5匹目
「朝ごはん食べれますよ。」テトの声で目が覚めるニ
「ふわぁ~。」俺は欠伸をしながら服を着替え、食堂に行く。
「お好きな席へどうぞ。」テトが言う。
俺は、すぐ傍の席に座った。
目の前には、カリカリに焼いたベーコンとスクランブルエッグ、ポテトサラダが乗った皿が置いてあり、籠の中には切られたバゲットが入っていた。
「はい、スープです。」テトがスープを持ってくる。
「おぉ、今日はコンソメか?」
「はい、昨日から仕込んだものです。」
「おぉ、美味そうだ。」俺は朝飯を堪能した。
「今日はどっちに行くんだ?」弁当を貰った俺がミロクに聞く。
「今日は、バジリスクがいた所から更に南に行った所。」
「あぁ。」俺は南門に向かって歩く。
「次は何だ?」
「解らない。」
「はぁ?」
「本当に解らないんだよ。」
「なんで?」
「さぁ?」
「まぁ良いや、行けば解るんだろう?」
「多分。」
「南門に行けばいいんだな!」
「うん。」
「おぉ、バジリスクを狩ってくれたんだって? ありがとう、感謝する。」昨日の門番とは違う人が俺に言ってくる。
「なに、仕事だ。」
「今日はどうするんだ?」
「もう一匹、俺が狩る必要のある者がいる、それを狩ってくる。」
「そうか、武運を祈るよ。」
「ありがとう。」俺は南門を出て、全力で走った。
「いやぁ、狩ったなぁ。」俺は獲物を見ながら言う。
「くふふ、楽勝だったね。」
ゴブリン99、オーク44、オーガ26、金鶏77、コカトリス11。
「財産が凄い事になってるな。」
「くふふ、敵はすぐそこにいるよ。」
「な?」ミロクの言葉で、俺は身構える。
「おぉぉぉぉ!」
「え?」
そこに現れたのは、フェンリル。
「え? 狼?」
「くふふ、神獣だよ。」
「はぁ?」
「其処にいるのは、我に宿る神気の源か?」フェンリルが言う。
「くふふ、あんたが食った者の神気の元さ。」
「俺が食った者?」
「あぁ、言葉が通じるなら、其れを返してもらうよ。」
「確かに、神気を纏った兎を喰った。」
「おいおい、兎に神気を喰われてるんじゃねーよ。」
「最後の方は、全く抗えなかったんだよ。」
「今は我の物だ。」
「はぁ、ミロク、説得は無理そうだぞ。」
「そうみたいだね。」
「大人しく立ち去るなら、見逃してやろう。」
「断る!」ミロクがそう言いながら魔力を飛ばす。
「笑止!」そう言いながら、フェンリルがその魔力を跳ね返す。
「私の神気を使いこなしているね!」
「ははは、中々良い物だ。」
「でも。」
「?」
「捕まえた!」
「な?」
最初に飛ばした魔力は囮で、魔力で作った網を周りに張り巡らしたらしい。
ミロクが良い顔で、其処にいた者を引きずってくる。
「く、放せ。」
「くふふ、ムサシ。」
「あぁ。」俺は、天叢雲剣で止めを刺す。
「くはぁ!」その言葉を残し、其の存在はこと切れる。
「これ、素材とかあるの?」
「勿論、皮と魔石がそうだよ。」
「解った。」俺はサクサクと皮を剥ぎ取り、心臓の横にあった魔石を抜き取る。
「残りはチリになれ!」ミロクがその存在をチリにする。
「くふふ、この村での討伐は終わったよ。」
「あぁ、それは良かった。」
「明日は、元いた村に帰ろう。」
「あぁ。」そう言いながら、テトのいる宿に帰った。
「え~、もう帰っちゃうんですか?」
「あぁ、殲滅対象を全部狩ったからな。」
「そんな~。」
「あぁ、遠くの町に行くときに、また来るから。」
「本当ですか?」
「嘘をつく理由が解らない。」
「にへへ、約束ですよ。」テトが笑って言う。
「あぁ。」
「フェンリルの皮は、リーンに売ってやるか。」
「くふふ、そうだね。」
「さて、晩御飯は何を食べようか?」
「あの、ムサシ様。」テトが俺に話しかける。
「き、金鶏をもう一度食べさせてくれませんか?」
「あぁ、良いぞ。」
「やったぁ!」
「じゃぁ、今日は金鶏の唐揚げが良いな。」
「からあげって何ですか?」
「え?」
「この村にはないのか。」
「よし、教えてやるから作ろう。」
「にしし、うん。」
そう言う事で台所に連れてこられた。
「金鶏は、捌いてもらって、もも肉だけ下さい。」
「あいよ。」ニホさんが上手に捌いて行く。
内臓を捨てようとしたので、慌てて止める。
「?」怪訝な顔をしたニホさんに俺が言う。
「食べられますよ。」
「え?」
「本当に?」
「はい。」
元のギルドにいた時には、ポーター以外に食事も良く作っていた。
ギルドメンバーは、良い肉を持っていき、俺には内臓や端肉しか回ってこなかった。
だが、調理次第では、十分美味しく食べられた。
「心臓は、上の方を切り落として、半分に切って血合いを取る。」
「へぇ?」ニホさんが珍しそうに俺の手もとを見る。
「レバーも、何個かに切り分けて、血の塊を取り出す。」俺がレバーを軽く潰すと、にゅるっと出て来た。
「腸は、面倒くさいから捨てて、お! 卵巣があったラッキー!」そう言いながらキンカンを取り出す。
「へぇ? 卵の中身?」
「あぁ、これも食える。」
「後、砂肝は半分に切ってっと。」
「これ、全部食べられるの?」
「えぇ、色々な調理ができますが、今日はもつ煮です。」
「もつ煮?」
「はい、鍋使って良いですか?」
「あぁ、どれでも好きな奴を使っておくれ。」
「ありがとうございます。あと、生姜ってありますか?」
「あぁ、有るよ。」そう言いながらニホさんは生姜を渡してくれる。
「生姜を、薄切りにして。」俺は皮ごと薄く切る。
「ネギとかもありますか?」
「はい、これ。」テトが渡してくれる。
「うん、ありがとう。」ネギを受け取り青い所をむしり取る。
鍋にモツを入れて、水を張り、生姜とネギの青い所を入れる。
「で、密かに砂糖も大匙2杯。」砂糖と書かれた入れ物から鍋に砂糖を入れる。
「で、煮こぼす。」火にかけて灰汁を取りながら沸騰させる。
「5分ぐらい煮たら、煮汁とネギを捨てて、もう一度水を入れる。」
「で、これにだしの素を入れる。」ギルド時代に自作した、乾燥シイタケや、昆布、乾燥トマト、出汁ジャコを細かく砕いたものだ。
「で、砂糖と醤油と酒を入れて、一煮立ち。」
「もつ煮の完成だ、一度冷まして、もう一回煮立たせると味が染みるぞ。」
「はぁ、見事だね、うちで働かないかい?」ニホさんから勧誘を受ける。
「ははは、まだ、やる事があるから。」
「そうかい、残念だね。」
「次は唐揚げだ。」
「ニホさん、片栗粉と大蒜は有りますか?」
「あるよ。」
「本当は小麦粉を使うんだけど、俺は片栗粉のパリッとした方が好きだな。」
俺は、ボールに醤油、酒、生姜のしぼり汁、大蒜のしぼり汁を入れ、もも肉を一口大に切った物を入れよく揉み込む。
「手が、大蒜臭くなるのが欠点だな。」そう言いながら、味がなじむように揉み込んだ。
「で、5分経ったら、汁を捨てて片栗粉を入れ、再びよく混ぜる。」
「ニホさん、揚げ鍋は?」
「あぁ、こっちだよ。」油がたっぷり入った鍋の前に連れて行ってくれる。
「温度は、170度。」菜箸を使って、油の温度を確認すると、肉を4個入れる。
「へぇ。」
「入れ過ぎると、油の温度が下がるからな。」
「ねぇ、マジで家に婿入りしないかい?」ニホさんが再び言ってくる。
「しないよ。」
「テトを好きにしていいよ。」
「え~。」テトが叫ぶ。
「だから、俺を貶めて楽しいのかよ。」
「親と、本人の同意があればOkだよ。」
「オッケーじゃないから。 ほら、揚がったぞ。」俺は油きりする為の網の上に唐揚げを乗せる。
「5分ぐらい、余熱で火を通すんだ。」
「へぇ?」
「その間に、もつ煮にも火入れしよう。」俺はモツの鍋に火を入れる。
冷めた鍋がぐつぐつと煮始めたので、火を止める。
「さぁ、もつ煮もできたぞ。」俺は、鍋の中身を深めの皿に入れてテーブルに置く。
「ねぇ、食べても良い?」テトが我慢できずに言う。
「あぁ、良いぞ。」
「いただきます!」そう言いながら、テトは唐揚げを口に入れる。
「はぅ!」一口噛んで固まった。
「そうだろうな。」俺は思う。
「私も一口。」そう言いながらニホさんがもつ煮を口に入れる。
「はぅ。」同じ様にフリーズする。
「ははは、金鶏だもんな。」そう言いながら、唐揚げを口にして仰け反る。
「たははは、美味いなぁ。」




