ウニ
「ムサシ、ウニが食べたい」姉御が王都の俺の家を訪ねてきて言う。
「ウニって何だ?」俺は姉御に聞く。
「海にいるとげとげの生き物」姉御が言う。
「はぁ?」
「ははは、ムサシ、すまないがエリスの願い事を聞いてやってくれ、何、報酬ははずむぞ!」レニウムが姉御の横で白い歯を見せながら言う。
「はぁ?」俺は困った顔をしながら、カリナを見る。
「ほほほ、かなえて差し上げれば良いじゃないですか」カリナがコロコロと笑う。
「くふふ、頑張れ」ミロクが良い顔で言う。
「他人事だと思って」
「くふふ、他人事だもん」
「はぁ。」俺は人魚の村の前に門を繋げた。
「くふふ、ムサシ、人族は空間魔法を使えないのに」ミロクが頭を抱える。
「俺は人外なんだろう?」そう言いながら姉御とレニウムと一緒に門を潜った。
**********
「此処は?」目の前に続く行列を見て姉御が言う。
「人魚の村だ」俺は答える。
目の前には長蛇の列がある。
人魚の村に入る門に並んだ人々だ。
「俺が、色々とやらかしたそうだ」俺は二人に言う。
「ムサシ、例のあれか?」姉御が聞いてくる。
「あぁ、それだ」俺は答える。
「何の話かな?」レニウムが聞いてくる。
「姉御の料理を人魚に教えたら、人魚がそれで商売を始めて」
「あぁ、貴族たちが嵌まっているというあれか」レニウムが納得する。
「今日こそエビフライ定食を食べるぞ」
「俺は鯖の味噌煮定食だ」
「いつも1時間ぐらいで売り切れてしまいますからね」
「まぁ、たこ焼きなるものが残っていれば僥倖でしょう」
前に並んでいる商人たちが話している。
「かかか、聞いた事がある料理だな」姉御が俺の脇腹を肘でつつきながら言う。
「姉御の御業だからな」俺は横を向いて言う。
「しかし、たこ焼きは教えてないよな」
「あぁ、たこ焼きが有名な街で見て覚えた」俺が言う。
「味は?」姉御が俺に聞く。
「食えば解るじゃないか」俺は答える。
「天才かよ、お前」姉御がわなわなする。
「普通だろ」俺はあっけらかんに答える。
2時間で俺たちの番になった。
「身分の証明を出来る物はあるかい?」門番が聞いてくる。
「あぁ」俺は組合のカードを見せる。
「あぁ、君かぁ、どうぞ通って良いよ」門番が言う。
「身分を証明できるものはあるかい?」門番がレニウムに聞く。
「身分を証明?」レニウムが困った顔で俺を見る。
「あぁ、その二人は俺の連れだ」俺は門番に言う。
「神の身代わり様の連れですか、一体どのような?」
「あぁ、俺の義兄と義姉だ、つまりレニウム王子とその妻だ」俺は門番にこっそりと言う。
「ひぇぇぇ、恐れ多い」門番がその場で平伏する。
「あぁ、今回はお忍びだ、気にするな」レニウムが門番に声を掛ける。
「勿体無いお言葉です」門番はさらに平伏した。
「騒ぎになるから、顔を上げていつも通りにな」俺は門番を立たせて言う。
「ひゃい。」
「さぁ、姉御と義兄さん、行きますよ」俺は二人を連れて門を離れた。
**********
「食事ができる店の前は長蛇の列だな」
「そうだな」姉御が答える。
「だけど、魚や貝を売ってる店は其れほどでも無いな」俺はそう言いながら二人を貝を売ってる店に連れて行った。
「あぁ、ムサシ様だ!」人魚の一人が俺を見つけて声を上げる。
「おぉ、元気だったか?」俺はそう言いながら店に入った。
「ムサシ様、今日はどうしたんだい?」人魚が聞いてくる。
「あぁ、ここにいる姉御がウニを喰いたいんだってさ」俺は後ろにいる姉御を人魚たちに紹介する。
「姉御って」
「あぁ、お前たちに教えた料理を俺に教えてくれた人だ」
「へぇ~、ムサシ様の先生かい?」
「そうなるな」
「で、ウニって何だい?」
「海の底にいる、とげとげの奴らしい」
「え~、あんなの食えるの?」
「痛いし」人魚たちには不評だ。
「そう言わず、採ってきてくれたら一個50Bで買うから頼むよ」
「むぅ、他ならないムサシ様がそう言うなら」そう言って人魚たちは海に飛び込んでいく。
「ムサシ、お前人気者だな」姉御がまた俺の脇腹を肘でつつきながら言う。
「ははは、なんでかな」俺は苦笑いをする。
「採って来たよ」人魚たちが続々と帰ってくる。
人魚たちは俺が地魔法で作った箱にウニを入れていく。
「ふふふ、バフンウニっぽい奴も、紫ウニっぽい奴もある」姉御が嬉しそうに言う。
「姉御、食べられるかどうか鑑定するから待ってくれ」俺はそう言って、そこにあるものを鑑定する。
「鑑定」
(ブフンウニ、生食可、黄色い部分が生食可)
(ブラサウニ、生食可、黄色い部分が生食可、ブフンウニに比べ味が薄い)
「姉御、どっちも生で食べられるぞ」俺は言う。
「マジか、やったな」姉御は嬉しそうに言う。
「なぁ、本当にそれが食えるのか?」人魚が聞いてくる。
「あぁ、美味いぞ、多分」姉御が言う。
「多分かよ!」人魚が叫ぶ。
「食ったことが無いからな、でもムサシが生で食べられると鑑定したからきっと旨い!」姉御が宣言する。
「どうやって食べるんだ?」人魚が聞いてくる。
「剥く」姉御が菜箸を持ちながら言う。
「おぉ」人魚がうなる。
「ムサシ、見て覚えろ」姉御が俺に言う。
「解った」俺は姉御の手元を凝視する。
厚手の手袋を付けた姉御はウニを持って菜箸でウニの口のようなところをほじくり始める。
「へぇ、面白いな」俺は姉御の手元を見て言う。
姉御はウニの口を菜箸でほじくると、ウニを二つに割った。
そして、黒っぽい部分を菜箸で掃除していく。
「姉御流石だ」
「かかか、当然だ」
「海水をくれ」姉御が人魚に言う。
「え? 何に?」人魚が狼狽える。
「これに酌んでくれ」俺はボールを人魚に渡す。
「あいよ」人魚は海水を酌んで姉御に渡す。
姉御は掃除したウニをボールの海水で洗う。
「何をしているんだ?」人魚が聞いてくる。
「ウニの掃除らしい」俺は答える。
「へぇ~、凄いね」人魚が言う。
「だろう」俺は誇らしげに言う。
「よし、後はスプーンで身を取る」姉御はそれをやり始める。
「もう一回海水を」姉御が言う。
俺は人魚にボールを渡した。
「酌んだよ」人魚が海水が入ったボールを渡してくる。
俺はそれを姉御の前に置く。
姉御がスプーンでウニの身をそいで海水の入ったボールに入れていく。
「ふむ」だいたいを見て覚えた俺は、姉御の隣で姉御の真似をする。
「菜箸で口らしいところをほじくって、二つに割って」俺はそれを実行する。
「黒い所を菜箸でこそげて海水で洗う」
「そして、スプーンで黄色い身をとる」俺は姉御の真似をしてウニを剥く。
あらかた剥いたら、姉御が俺を見て驚愕している。
「ムサシ、今までやったことがあるのかい?」姉御が興奮しながら言う。
「今見て覚えた」
「かぁ~、お前は天才だよ」姉御が叫ぶ。
「はて?」
「で、これだけ剥いたら実食だ!」姉御が叫ぶ。
「ご飯は有るかい?」姉御が人魚に聞く。
「売るほどあるよ」
「少し持ってきて」姉御が人魚に言う。
「わかったぁ」人魚が店に入っていく。
「姉御?」
「ムサシ、酢はあるか?」姉御が俺に聞いてくる。
「あぁ、あるぞ」
「よし、出せ」姉御が俺に食い気味に言う。
「あぁ、何酢が良い?」俺は姉御に聞く。
「そんなに種類を持っているのか?」
「あぁ、町に行く度に、見たことが無いのは買ったからな」
「とりあえずどんなのがあるんだ?」姉御が息を荒くしながら聞いてくる。
「米酢、黒酢、穀物酢、赤酢、玄米黒酢、ワインビネガー、バルサミコ酢」
「ムサシ、お前」姉御が俺を見て言う。
「何だよ」俺は答える。
「本当に使えるやつだな」
「褒められてるの?」
「褒めてるんだ」
「そうか。良かった」
「ご飯持って来たよ」人魚がお櫃を持ってくる。
「どれ?」姉御がお櫃を確認する。
「2合ってところかな?」姉御が言う。
「ムサシ、赤酢をくれ」
「はいよ」俺は赤酢を姉御に渡す。
「別の容器に、赤酢を大匙4」
「ムサシ、米酢をくれ」
「はいよ」俺は米酢を姉御に渡す。
「米酢を大匙1.5」姉御が米酢を調合する。
「ムサシ、砂糖だ」
「はいよ」俺は砂糖壺を姉御に渡す。
「砂糖大匙1.5」姉御が砂糖を入れる。
「ムサシ、塩」
「はいよ」俺は塩壺を姉御に渡す。
「塩小さじ1」姉御が塩をその容器に入れて撹拌し始める。
「今のうちに、ウニを味見するか」俺はそう言って海水の中のウニを指でつまんでミロクの口に持っていく。
「パクリ」
「ふわあ」ミロクがうっとりとする。
「そこまでか?」俺はウニの身を指でつまんで口に入れる。
口の中に広がる磯の香、そしてウニの甘さ。
「こ、ここまで」
「ムサシ様、食べて良い?」人魚が聞いてくる。
「あぁ、待て待て、今もっと美味い奴を食わせてやる」姉御がそう言って人魚を止める。
そして姉御は合わせていた酢をご飯にかけて、しゃもじでご飯にあえていく。
「ムサシ、団扇であおげ」姉御が俺に言うので俺はそれをする。
「おぉ、米につやが出てきたな」俺はそれを見て感想を言う。
「かかか、今美味い物を食わせてやるよ」姉御が吠えた。




