次の獲物の前に
「さて、次はどっちに行けば良いんだ?」
「くふふ、やる気だね。」
「あぁ、終わりが見えているからな。」
「くふふ。」
「で、どっちに行くんだ?」
「くふふ、人魚の村から更に南に行った所。」
「はぁ?」
「うん?」
「海を渡れと?」
「くふふ、そうだよ。」
「どうやって?」
「人魚の村で船を雇う?」
「何で疑問形なんだ?」
「受けてくれる人がいると良いね。」
「何だそれ!」
「でも、陸路でも繋がっているから、そっちに行けばオッケー」
「はぁ。」
「何だい?」
「ひょっとして、海には何かいるのかな?」
「くふふ、当たり!」
「因みに何がいるんだ?」
「シーサーペントだよ、一度狙われたら船を沈めるまで追って来るたちが悪い奴さ。」
「うわぁ。」
「食べても美味しくないしね。」
「最初から陸路一択じゃないか!」
「くふふ、そうとも言う。」
「はぁ、んじゃ王都からだな。」
「うん。」
*********
「と、言う事で、行ってきます。」俺はカリナに言う。
「はい、行ってらっしゃいませ!」
俺は南門から、人魚の村に向けて走り出した。
「30分で着いたんだが?」
「くふふ、街道を行く人たちがギョッとしていたよ。」
「おぉぉ。」
「で、並びがまた長くなっているな。」
「くふふ、そうだね。」
俺は最後尾の男に声を掛ける。
「なぁ、この並びは何だい?」
「あぁ、人魚たちがここから馬車で20日かかる町の名物を売り始めたんだ。」
「へぇ?」
「更に、ラガーに合うタコわさも売り始めてさ、これが美味いんだ。」
「そのために並んでいるのか?」
「そうだよ、あと2時間ぐらいかな?」
「ありがとうな。」俺は列から離れる。
「食べていかないのかい?」その男が聞いてくる。
「あぁ、また今度にするよ。」俺はそう言って東に向かって走り出した。
「くふふ、やっぱり君のせいだね。」
「あぁ、どんどんやらかしている気がするのは何故だろう?」
「くふふ。」
俺はスピードを抑えて時速150kmで走っている。
「くふふ、それでも街道を通っている人たちが脅威の目で見てくるね。」
「気にしない事にした。」
「くふふ、懸命だね。」
街道を通る人間がいなくなり、両サイドが深い森になっているところに来た。
「ん~?」
「くふふ、襲われているね。」
3台の馬車がゴブリンに囲まれていた。
護衛の冒険者が6人いてゴブリンを相手している。
「ざっと数えて50匹か、あれは駄目だな。」俺はゴブリンの数を見て言う。
「くふふ助けてあげれば?」
「そうするか。」俺はそこに走った。
「くそう、キリがない!」
「口を動かすなら手を動かせ!」
「やってるよ!」
「魔力が切れそうだ!」護衛の冒険者が叫びながらゴブリンたちを攻撃していた。
「ぐわぁ!」一人の冒険者がゴブリンの攻撃を受けてしまった。
「おい、大丈夫か?」男がその男に声を掛ける。
「まだいける!」そう答えた男の出血は酷い。
「お~い、助けは要るか?」俺は間延びした声で男たちに聞く。
「頼む!」一人の男が答える。
「ミロク!」
「うん。」その瞬間にゴブリンが息絶える。
「な!」冒険者たちが呆ける。
「何をしたんだ?」冒険者の男が聞いてくる。
「魔法?」俺は答える。
「何故疑問形?」冒険者の男が言う。
「其れよりも、魔石はどうするんだ?」俺はけがをした男に近づきながら言う。
「ゴブリンの魔石は金にならないからな、要らないよ。」
「そうか、ミロク。」
「くふふ、解ったよ。」周りのゴブリンが塵になった。
俺はけがをした男にヒールを掛けた。
「おぉ、傷が塞がった!」けがをしていた男が驚愕する。
「本当に君は一体何者なんだ?」冒険者の男が聞いてくる。
「俺は、「ムサシ様!」名乗ろうとしたら言葉を遮られた。
「ん~?」俺はその男を見た。
「ムサシ様、私です、ハコベの部下のヨコモチです!」ヨコモチが俺の前に来て言う。
「あぁ、お前か、娘さんの結婚式はうまくいったのか?」
「はい、ムサシ様のおかげで盛況に終わりました。」
「それは良かったな。」
「はい、それでなのですが。」
「次の町まで護衛をしろと?」
「流石はムサシ様、話が早い。」
「はぁ、解ったよ。」俺はそう言って一番前の馬車の屋根に乗った。
「ヨコモチの旦那、誰なんですか?」護衛の冒険者の男が聞く。
「神の身代わり様だ!」ヨコモチが答える。
「あれが?」
「先を急ごう!」俺は全員に声を掛ける。
「はい、仰せのままに。」ヨコモチは御者に声を掛けて馬車に乗り込んだ。
俺は闘気を全開にして手間を省くことにした。
*********
「今日は、ここで野宿です。」ヨコモチが言う。
「はぁ、今日中に終わるかと思ったんだがなぁ。」俺はそう言いながら馬車から降りた。
冒険者たちがテントを設営して、食事の準備を始めていた。
「あぁ、今日は俺が料理を提供してやるよ。」俺が宣言する。
「え?」
「良いのか?」冒険者たちが聞いてくる。
「本当に宜しいのですか?」ヨコモチも聞いてくる。
「あぁ、今までに食ったことが無い物を食わせてやるよ。」俺はほくそ笑みながら言う。
「え?」
「食ったことが無い物?」冒険者たちが戸惑う。
「まさか、ハコベ様が言っていたあれでしょうか?」ヨコモチが聞いてくる。
「さて、どうだか。」俺は地魔法でテーブルを作っていく。
「おぉ、凄い。」冒険者たちが驚いている。
「全部で何人いるんだ?」俺はみんなに聞く。
「俺たちが6人で」冒険者たちが言う。
「私共が10人です。」ヨコモチが言う。
「ありゃ、足りないか。」俺はそう言って、少し離れたところに竈を作り、薪をミロクから貰って竈に火をつける。
「ムサシ様、足りないというのは?」ヨコモチが俺に聞いてくる。
「あぁ、手持ちの料理が10人分しかなかったから、作ることにした。」俺はそう言いながら調理台を作り、材料をミロクから貰って切っていく。
「金鶏のカレー。」俺は竈に大鍋をセットし、材料を入れて煮込み始める。
「白飯。」やはり大鍋を竈に乗せて飯を炊き始める。
「オーク汁。」オークの良い所のお肉と、ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ、コンニャクを煮込んで味噌で味付けする。
「カレーって何だ?」冒険者の男が言う。
「知らない。」冒険者の女が言う。
「私も知りません。」ヨコモチも言う。
「よ~し、出来たぞ!」俺は宣言する。
「容器は、当然無いよな。」俺は地魔法でカレー皿とお椀を人数分作る。
俺は、カレー皿に白飯をよそい、カレーをお玉ですくって白飯の横に入れて配る。
「福神漬けと、ラッキョウは自分で好きなだけ乗せて良いぞ。」俺はそう言いながら、机に其れを乗せる。
「ふくじんづけ?」
「らっきょう?」
「何ですかそれは?」ヨコモチが聞いてくる。
「カレーのお供だ。」俺はそう答える。
「はぁ?」
そして、同じく地魔法で作ったお椀にオーク汁をお玉でよそう。
「これを少し入れると、ピリ辛で美味くなるぞ。」俺は七味を机に置く。
「さて、全員分行き渡ったかな?」俺が聞く。
「あぁ、椅子を忘れていた。」俺は机の周りに人数分の椅子を地魔法で作る。
「魔力の無駄遣い。」冒険者の一人が言う。
「さぁ、食べようか。」俺はカレーを口に入れる。
「美味いなぁ。」
「くふふ、私の分は?」
「目の前にあるだろう。」ミロクの前にもカレーとオーク汁を用意してある。
「くふふ、いただきます。」ミロクはカレーをスプーンで口に入れ、幸せそうに咀嚼している。
「あのぉ、ムサシ様、スプーンが一人でカレーをすくっているように見えるのですが?」ヨコモチが俺に言う。
「あぁ、ここにミロク神がいるからな。」俺は手をヨコモチの前に出す。
「?」ヨコモチが怪訝な顔をして俺を見る。
「触ってみ、ミロク神が見えるから。」俺はヨコモチに言う。
「はぁ?」ヨコモチは俺の手を触る。
「旅の安全を祈ってやろう。」カレーで口の周りをべたべたにしたミロクが言う。
「ミロク神様!」ヨコモチがその場でひれ伏す。
「ミロク神?」冒険者たちがざわつく。
「なぁ、俺達も良いか?」冒険者の一人が聞いてくる。
「ん!」俺はその男の前に手を差し出す。
その男が俺の手を触る。
「身の丈に合った依頼を受けよ!」やはりカレーで口の周りをべたべたにしたミロクが言う。
「み、ミロク神様、仰せの通りに!」その男もその場でひれ伏す。
結局全員がミロクを見てひれ伏した。
「くふふ、どうだい私の威光は。」カレーで口の周りをべたべたにしたミロクが言う。
「残念だよ!」
その後、恒例のお風呂タイムに、冒険者の女がため息をついたのはいつもの事だ。
「これが、ハコベ様が仰っていた、ムサシ様の至福。」ヨコモチが幸福そうだった。




