人魚にたこ焼きを教える
「採って来たよ~。」人魚たちがタコを俺の前に置いて言う。
「おぉ、30匹もいるな、じゃぁ2G払うぞ。」
「多いよ。」人魚が言う。
「チップだ。」俺はそう言いながら2G分の入った袋を置く。
「チップって何?」
「受けたサービスに対する対価かな?」
「へぇ?」
「で、其れも教えてくれるんだろう?」人魚が言う。
「あぁ、別に良いけど、特殊な鉄板がいるぞ。」俺は以前作った調理場に入ってたこ焼き用の鉄板を竈に置く。
「まず前処理だ。」俺は人魚から貰ったタコを掃除でする。
「タコの目と足先を切り取って、塩を振りかけて吸盤を一個づつ掃除する。」
「全体を掃除して、泡がメレンゲ状になったら水で洗う。」
「ほぉ。」人魚が感心する。
「更に塩で揉みこんでいく。」
「随分大変なんだな。」人魚が言う。
「美味い物を食うためだ。」
「成程。」
「全体がキュキュってなったら塩茹でする。」俺は沸騰した鍋に塩を大匙1入れて、足から入れていく。」
「足が丸まってきたら5分ぐらいで取り出して水でしめる。」俺はタコを流水に入れる。
「へぇ~、 そうやって食べるんだ?」人魚が感心する。
「あぁ、そのまま食ってもうまくないよな。」俺が言う。
「そうやって処理をすれば、美味しく食べられるって事だね。」人魚が感心する。
「あぁ、そうだぞ。」俺が言う。
「で、だ、たこ焼きの用意だ。」
「おぉ~。」
「まず卵を3個、ボールに割り入れてよくかき混ぜる。」
「ふんふん。」
「で、別のボールに、塩小さじ半分、醤油小さじ2、カツオと昆布でとった出汁を200cc入れる。」
「ほぉ。」
「そこに氷水800ccをいれ、さっきの卵を入れてよく混ぜる。」
「うん。」
「で、小麦粉300gをふるいにかけながら入れる。」
「なんで?」
「だまにならないようにな。」
「へぇ~。」
「で、牛乳を30cc入れてサクッと混ぜて液は完成。」
「おぉ~。」
「たこは足を2cm位に切り分ける。」
「ふんふん。」
「紅生姜をみじん切りにする。」
「おぉ。」
「青葱もみじん切りにする。」俺は材料をミロクから貰いながら作業をする。
「で、竈に火を入れて、さっきの鉄板を温める。」
「温まったら、布に油を浸み込ませたもので各穴に油をひいていく。」
「おぉ~。」
「で、さっき作った液をお玉で鉄板の穴に入れていく。」
「溢れてるよ。」
「問題ない。」
「で、ここにさっき切ったタコを穴に一つづつ入れて、紅生姜、青葱、天かすを適量ずつ入れる。」
「ほぉ。」
「暫くして、表面に薄皮が出来てきたら、竹串ではみ出た液を戻し、穴の周りを竹串でこそって裏返す。」
「おぉ~。」
「すべて同じように裏返す。」
「上手いもんだね。」
「あぁ、店で、店員がやっているのを見て覚えた。」
「へぇ~。」
「あとは、たこ焼きを何度も裏返して、焼き色が付いたら器にとって、ソースをかけて、鰹節と青のりを振りかけて完成だ。」
「おぉ~。」
「どれ?」俺はたこ焼きを一つ口に入れる。
「あふ、あふ、あふ。」俺はふうふうしてたこ焼きを冷まし、噛みしめる。
「サクッ、じゅわ?」とした食感と味が口に広がる。
「うん、初めて作った割に美味い。」俺はそう言いながらミロクの口元にたこ焼きを差し出す。
「パクリ。」
「あふあふ、うん美味しいよ。」
「あたしらも食べて良い?」
「あぁ、良いぞ。」
「「「「わぁ。」」」」人魚たちが一斉に群がる。
「あふい、でも美味しい。」
「さっきのと違う味だけどこれも美味しい。」
「あたいらでも出来るかな?」
「大丈夫だろう。」
「じゃぁ、ムサシ様、この鉄板仕入れてきて。」
「え? 俺が?」
「頼むよ。」
「仕方ないな。」俺はその依頼を受けた。
*********
「とりあえず、業務用の一番でかい一度に100個焼ける奴を買って来たぞ。」俺はミロクから貰った鉄板をそこに取り出す。
「わぁ、ありがとう。」
「それと、これも見つけたから買って来た。」俺はそれをミロクから貰う。
「何それ?」人魚が俺に聞いてくる。
「穴に油をひく道具だ。」俺は油ひきをそこに置く。
「へぇ。」
「それと、これもだ。」俺はたこ焼きピックを数本其処に置いた。
「これは何?」
「竹串の代わりだ。」
「へぇ。」
「で、全部で5Gだ。」
「え? 何が?」
「材料費だ、手数料は勘弁してやる。」
「あぁ、そうだよね、カードをおくれ。」人魚が言って来る。
「あぁ、組合の端末が出来たと言っていたな。」俺はその人魚にカードを渡す。
「振り込んだよ。」人魚がカードを差し出すので、俺はそれを受け取った。
「あぁ、そうだ。」
「え?」
俺はミロクから煮ダコの頭を貰い、包丁で薄く切っていく。
「これを、山葵醤油で食ってみ。」俺は山葵と醤油、小皿を取り出して人魚の前に置いた。
「タコの頭?」
「あぁ、足もこれで食うと美味いぞ。」
「どれ?」人魚がタコの頭を醤油につけて口に入れる。
「クニクニして美味い!」
「なんだと。」
「あたいにも食わせろ。」人魚たちが群がる。
「くわ~。」
「タコってこんなに美味かったのか。」
「タコわさって料理にして、店で提供すれば酒のあてになるんじゃないか?」
「かぁ~、ムサシ様は本当に良い奴だな。」人魚が感激して言う。
「勿論、今までと同じで、たこ焼きもタコわさも売り上げの5%をくれれば良い。」
「んじゃ、カードに誓うよ。」人魚がそう言うので、俺は組合のカードを取り出し口にする。
「人魚は、たこ焼きと、タコわさの売り上げの5%を俺に渡す。」
「あたいらは、たこ焼きとタコわさの売り上げをムサシ様に渡す。」
カードが光り、契約が完了した。
「くふふ、又門の並びが長くなるんじゃないかい?」
「そうかもな。」
「くふふ。」
*********
其の後で王城に向かい、たこ焼き鉄板や油ひき、たこ焼きピックを姉御に渡した。
「ムサシ、ありがとうな。」姉御が笑顔で言う。
「タコも要るか?」
「あぁ、くれ!」
「何匹要る?」
「え? どんだけ持っているんだ?」
「今は28匹だな。」
「其れなら、10匹くれ。」
「あぁ、って料理長に渡した方が良いかな?」
「そうだな、あたいは時間が止まったマジックバックを持っていないからな。」
「んじゃ、渡しておく。」俺は料理長のところに向かう。
「タコですか?」料理長が言う。
「あぁ、掃除の仕方は姉御が知っていると思うぞ。」
「いえ、若奥様にそのようなことはさせられませんので、是非教えてください。」
「教えるのは構わないが、対価はなんだ?」
「対価ですか?」
「あぁ。」
「そうですね、国王様の味の好みをお教えするとかでは?」
「要らないな。」
「え?」
「それを知ってどうしろと言うんだ?」
「いや、国王様に媚びを売れるかと。」
「アルゴンは、俺の料理を食ってどうなった?」
「涙を流して喜んでいました。」
「媚びを売る?」
「必要ありませんね、忘れて下さい。」
「はぁ、姉御のためだ、教えるよ。」
「ははぁ、恩に着ます。」
俺は人魚たちに教えた内容をリピートした。
「おぉぉ、こんな方法が。」料理長が感激する。
「姉御のために充分掃除してくれ。」
「解りました。」料理長が深く礼をする。
*********
其の後王国の家に帰り、カリナとサノアにたこ焼きを渡した。
二人とも、未知の味に感動していた。
俺は料理長にもたこ焼きを渡し、たこ焼き用のもろもろの道具を渡した。
勿論、カロリーヌさんや他のメイドにもたこ焼きを振舞った。
全員、食べた事の無い味に感動していた。
料理長は「是非味を再現します。」と言ってタコを掃除し始めた。
「いや、しばらくタコ焼きは良いかな。」俺はそう思ったが、晩御飯はたこ焼きだった。




