始まり
以前一度投稿した作品ですが、設定を変えて再投稿しました。
最初の方は、職業名以外の内容は変えていません。
俺の名前は、ムサシ。
女神と契約することになり、のちの世に英雄と呼ばれる羽目になった男だ。
俺がこうなった原因を話そう。
俺は、あるギルドでポーター(荷物持ち)をしていた。
俺は、それなりに仕事をこなしたが、ポーターの収入は微々たるものだ。
所謂「その日暮らし」がぴったりだ。
毎日ダンジョンに潜り、高位ランクの人が狩った獲物の部位や魔石を表に持ち帰るのが仕事だった。
そう、だっただ。
今から数年前。
俺が働いていたギルドが破綻した。
*************
「皆済まない、これ以上ギルドを存続できなくなった。」ギルマスが朝一番で宣言する。
「なんで?」
「どうしてだ?」所属していた高ランクの者達が、ギルマスに詰め寄る。
「組合への上納金が払えなくなった。」ギルマスが苦悩して言う。
「おい、俺達は結構な金額を納めていたぞ。」
「俺達もだ!」
「すまない、経理担当の『ドウメキ』が、それを持って逃げた。
「なっ。」
「マジか?」
「後を追ったが、既にこの国から出ていた。」
「くそぉ、マジか。」
「高ランクの者には、俺から別のギルドに紹介状を書く。」
「はぁ、仕方ないか。」
「くそう、ドウメキは見つけたら殺す。」
「殺すリストの上位に書いておこう。」高位ランクの者たちが、愚痴を言う。
高ランクの者たちは、文句を言いながらギルマスの紹介状を持って消えていく。
「で、残ったお前達には、申し訳ないが一人当たり5Gを支払うから、当座の資金にしてくれ。」そう言いながらギルマスが俺達にGが入った袋を渡してくる。
「5G(1G=1000B=1万円)かぁ。」俺はその袋を受け取って言う。
宿屋に、5日止まれば消える金額だ。
「参ったなぁ。」俺はギルドの前で座り込んだ。
俺には、荷物持ちしか取り柄がなかった。
魔法適正は有るのだが、魔力量が少なすぎた。
戦闘も、力不足だ。
「俺の人生、詰んだか。」俺はそう思って落胆する。
しかし、座り込んでいても何も状況は変わらなかった。
「とりあえず、飯でも食うか。」そう言いながら俺は立ち上がり、食事が出来る処に歩いた。
「ふぇ、ふぇ、ふぇ、そこの貴方。」辻占いの老婆が俺に声をかける。
「え? 俺?」
「そう、貴方じゃよ。」
「何かな、俺は今、人生の危機に立ち向かっているんだけど。」
「ふぇ、ふぇ、ふぇ、貴方は最高の幸運を持っているよ。」
「え? 明日の生活もままならないのに?」
「ふぇ、ふぇ、ふぇ、今あたしと出会った事さ。」
「はぁ?」
「貴方に最高の物を送ろうじゃないか。」
「何を言ってるんだ?」
「これだよ。」老婆が虹色に輝く石を取り出す。
「はぁ?」
「これが、貴方の人生を変えるはずさ。」そう言うと老婆は俺の手にその石を握らせて、財布を引っ手繰って駆けだす。
「おい。」俺がそう言った時には、老婆の姿はなく。虹色に輝く石が手の中にあるだけだった。
************
俺は、老婆に渡された虹色に輝く石を見つめて、途方に暮れていた。
「何か食おうと思っていたのに、いきなり無一文か。」
「せめてこの石が、食べられればいいのにな。」そう言いながら、俺はその石を口にくわえる。
「何てな。」
(契約は完了したよ。)
「え?」
「300年ぶりに封印を解かれたよ。」
そこには、千早と巫女装束を着た女の子がいた。
いや、いたと言うのは可笑しいか。
その姿は、髪の毛は腰まで伸びたストレート。
顔立ちは、少しタレ目気味の女の子。
しかし、その女の子は、目に見えるのに、実体がなかった。
「うわぁ。」俺は取り乱す。
「落ち着きなさい。」
「いや、あんた、だれ?」
「ふふん、あんたと契約した、ミロクだよ。」
「え?」
「すっごい神様だから、敬え!」
「神様?」
「そうだよ、あたし、神様。」そう言いながら、中学生ぐらいの少女が腰に手をやってふんぞり返る。
「ふ~ん。」
「ちょ。」
「ん?」
「反応薄くない?」
「?」
「あたし、神様。」
「だから?」
「さっきから言ってるけど、すっごい神様だから敬え!」
「あ~、そういうのは間に合ってるんで、それじゃぁ。」俺は、面倒くさいと思ってその場を去ろうとする。
「ちょっと待てぇ。」真っ赤な顔をしてミロクが俺の服を掴む。
「いや、面倒くさそうなんで、パスで。」
「契約をしたから、解約は無理だよ。」
「え?」
「あんたが死ぬまで、契約は続くから。」
「なんだよそれ?」
「受け入れなさい、あんたは私と契約した。」
「いや、した覚え無いんだけど。」
「さっき、あたしと、せ、せ、せ。」
「せ?」
「接吻したじゃない。」
「はい~?」
「あたしの唇を奪ったんだから、契約完了、解った?」
「いや、石を口に触れさせただけだし。」
「奪ったの!」
「え~?」
「泣くよ。」そう言いながらミロクが泣きそうな顔をする。」
「な、解った、解りました、確かに契約、契約しました。」
「よろしい。」
「はぁ。」
「あんた、名前は?」
「俺か? 俺はムサシだ。」
「そっか、宜しくね、ムサシ。」
「あぁ。」
「活動するのは明日からにして、とりあえず、何か食べてから、宿を取りなさい。」ミロクが言う。
「俺、一文無しなんだけど。」さっき婆に財布を取られた俺が言う。
「持ってるじゃない、財布。」ミロクが言う。
「え?」俺は手に財布を持っていた。
中には、5Gが入っている。
「あれぇ?」
「さっさと宿屋を探しなさい。」
「あぁ。」
************
「ふぇ、ふぇ、ふぇ、上手く言ったね。」路地裏で、老婆が財布を開けて言う。
「河原で拾った、綺麗な石で金が手に入れば御の字だね。」そう言いながら財布に手を入れた老婆の手が止まる。
「どこかの祠に、安置されていたあたしは、突然発生した鉄砲水でどこかに流された。」
「あんたは、そんなあたしを拾い、彼(契約者)と出会わせてくれた。」
「その事には、感謝する。」
「ただ、彼(契約者)のお金を奪ったことは罪。」
「その、代償は罪の重さで決まる。」
「罪には罰。」声が聞こえた。
「ぐはぁ。」老婆は血を吐いて倒れた。
「あたしの契約者に仇なした結果だ。」
「かはぁ、あたしはババを引いたのかい?」
「ばばぁだけにね。」
「上手いこと言ってるんじゃ・・・」老婆がこと切れる。
「これは返してもらうよ。」老婆の手から財布が消える。
そこには、老婆の躯だけが残った。