No.33 不可能
海風に乗って流れる異様な匂いをカンナ達は忘れた事など一度もない。
かのイギリスで最悪な女殺しが己の操る拷問器具で死んだあの日からだ。
焦げ臭い肉の匂い。
それは誰かが死ぬ予兆を表していた。
「嘘でしょ...。どうして...私達は救った。間違った事なんてしてないのに」
「あんまりだ」
そう現場に駆けつけ、カンナは言いたかったのだろうが余りのショックに声が出なかった。
「お兄ちゃん...」
やけ爛れた顔を癒すようにタマミは涙を流すがピクリとも動かない。
こんな時、「万能の薬」があれば2人を癒す事も救う事も出来たのかもしれない。
しかし、現実は非情だ。
2人は戦車の中、身動きが取れず投下されたライターが火種となり焼死した。
誰かを救う為には誰かが犠牲にならなくてはいけない。
この混乱状況の中で全てを救えるなどあり得ない。
それぞれの命が天秤にかけられ、奪われ救われていくのだ。
「誰なの...こんな事をしたのは」
「僕だよ!」
威風堂々と高らかに声を上げたダイスは3人の元へ近づいた。
その正体を知ったカンナは下唇を噛んだ。
彼が心の奥底に冷酷で惨忍な感情を隠し持っていた事を知らなかった自分の無知さを恨んだ。
母親に気を取られて、危険人物が潜んでいる事に気づけず、結果的に2人の命を失う事になった。
こんなにもあっさりとだ。
2人が弱かった訳ではない覚悟がなかった訳ではない。
寧ろ、私達と対立してきた人達だ。
錚々たる覚悟がなければそんな事は出来ないだろう。
しかし、これからどうすればいい?
2人を失い、敵討ちでもするか?
3対1なら勝機もあるだろう。
相手は手ぶらだ。
それよりも早く武器を展開すれば良いだけの話だ。
勿論、カンナもそうしようとした。
しかし、体がそれを拒絶した。
それ以上に戦意が削がれていたのだ。
「?、どうしたのかな?大丈夫?生きてる」
手を目の前でヒラヒラと動かされるが、下を向いたままカンナは動かない。
どれだけ足掻こうと行き着く先は全て同じ。
「死」は人間を待ってくれているのだ。
「短い」「長い」など関係ない。
そう考えた時、カンナは自らの行動を振り返った。
「自分のこれまでしてきた行いは人を死へ追いやる為だった」と
No.32を読んでいただきありがとうございました。
次はNo.34「失敗」をお送りします。




