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No.31助け船

オクトール諸島・北の島 海岸


「ゲホッ、ゴホッ」


ダイスの攻撃から逃れたキョウは海岸の岩陰に隠れながら、体内に残った海水を吐き出していた。

まだ、口内の塩気が残っているが周囲を見渡し敵がいないか確認する。


「酷いな、これ」


水中にいたキョウは知らなかっただろうが、新設されたコロシアムもシャンランによって破壊され全壊状態だ。


「早く、皆んなを探さないと」

 

瓦礫を隠れ蓑にしながらコロシアムの方へ移動すると、同じように瓦礫の中に光る何かを見つけた。

銃口だ。いや、それにしては大き過ぎる。


キョウは“それ”に既視感があり、正体に気づけば安堵した。戦車だ。

相手も自分の姿が見えたのか、天井のハッチを開け顔を出した。


「ヤンさんでしたか。良かった、ダイスさんかと思ってヒヤヒヤしましたよ。あの人の攻撃、多彩過ぎて読めないから」


その言葉にヤンは何かに気づいたのか、キョウを訝しげに覗き込んだ。


「何故、貴方が彼を警戒するんですか?私達の敵は彼ではないでしょうに」


「いや...ははっ!えぇ、と...」


キョウは目を泳がせながらも、ヤンをチラチラ見て訴えかけようとする。

ヤンは何かに気づいたのか「まさか」と言いながらキョウを問いただした。


「敵の2人を逃した?馬鹿ですか貴方は」


「ですよね!貴方ならそう言うと思って言えなかったんですよ!僕みたいな、戦いが好きじゃない奴は誰かを守る為にしか戦えない。それに、こう言うのはどんな状態でも生き残った奴が勝ちなんです。好戦的な貴方には理解してもらえないかもしれないけど…」


キョウは2人を庇ったのは例え、守護霊がいなくなったとしても生きてさえいればどうとにもなると思ったからだ。

キョウは在学中シャトランスの生徒は“守護霊を過信しすぎだ”と思っていた。


自分が大会で優勝した後、メイとギクシャクしてしまったのもあるだろうがそれ以前から自分の強力な武器が嫌いだった。

定期試験だけクリアすれば学園生活を送れるのだからそれでいいと自分を押し込めていた。


それをヤンは理解してくれるのだろうか?

正直言って、無理だろう。2人は真逆の人間だからだ。

しかし、そう言う奴こそ一周回って答えを持っているものだ。

ヤンは考えながら口を開いた。


「私がそんなに好戦的な人間に見えますか?」


「凄い、見えます!」


「違いますよ。怖がりなだけです。何度も自分で「死にたい」と言っているのに死のうとしないのは生きていたいからです。私は生き残る為に他者を利用し、攻撃するんです。逆に、貴方が羨ましい。貴方は“自分が死んでも他人を生かす事が出来る人”なんでしょうね。言葉は嘘をつけても行動は嘘をつけませんから」


「ヤンさん…」


次の瞬間、熱風が吹き荒れる。

キョウは直ぐにこの正体が分かった。

主の気持ちを伝達するように“怒り”が込められたその風を2人は感じとっていた。




No.31を読んでいただきありがとうございました。

次はNo.32「墓場」をお送りします。

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