No.20 脅迫
オクトール諸島・北の島
海を経由し、北の島へと向ったレイカとケンシロウは現場の唯らなぬ状況を目にした。
コロシアムを始めとした周辺の建物が崩壊している。
コテツの姿が見えないとシャンランが暴れたのだろう。
時間稼ぎをする様に応戦していたのはヤンだったが、変幻自在に長さの変わる如意棒によって戦車の装甲が抜けている。
幸い、完全なる防御力を持つウサマルに助けられているので命に別状はない。
車椅子に押されながら、レイカはシャンランの元に向かう。
上空からはコテツが監視するように張り付いているのでどんな事があろうと指示に従わざるおえない。
「確か彼女はファースト・セカンドリーグの番人だったな。以前から面識があったのか」
その言葉にレイカはケンシロウに顔を向け、クスリと笑った。
「貴方が見えなかったで10年も前から此処にいたのよ?他の生徒や教師には私の存在は当たり前だった。彼女に逃げろって言ったのよ。貴方達が余りにも物騒だったから」
貴方達というのはケンシロウやペルケレの事だ。
その意味を理解した彼はバツの悪そうな顔をした。
レイカを生き返らせようと守護者達の身体や自分の時間を犠牲にも関わらず、当の本人からは否定的な言葉を喰らったからだ。
嫌な気持ちを吐き出そうと深呼吸をした後、ケンシロウは質問した。
「それで、何か案でもあるのか?」
「別に。そもそも、あの子にとって私が重要な存在だと知らなかったもの。上空の彼にとってメリットがあるから私を選んだだけ。…彼も誰かの指示で動いているのかもしれないけど」
そんな会話をしていると、コテツは大きく旋回しながら2人の元を去る。
シャンランが数十メートル先にいるのが見えたからだ。
「シャンランさん、これはまた派手にやったわね。ペルケレ先生が困っちゃうわ」
「…!?」
以前、会った事がある筈なのだがシャンランは「誰だ?」と訝しげにレイカの顔をじっと見つめている。
無理もない。何故ならレイカがシャンランと初めて接した時、レイカの顔はなかったからだ。
既視感があるとするならば彼女の声だけだろう。
キョウの右目もウサマルの左目も、メイの両耳も、ヴァンダの鼻も以前はレイカにはついていなかったからだ。
彼女の正体を思い出したのかシャンランは棒立ちとなり、顔を青ざめながらこう言い放った。
「化け物!!悪魔!!レイカの真似した偽物ヨ!!」
「あら、酷いわ。本物よ?ちゃんと現実と向き合った方がいいんじゃないかしら?…それともなに?私のことを神様とでも思ったの?ごめんなさいね」
阿鼻叫喚するシャンランを見ながらレイカは悲しい目をしながら笑っていた。
No.20を読んでいただきありがとうございました。
次はNo.21「理想」をお送りします。




