No.13 変異
シャトランス・地下4階
「シュン君、ヤメテ!!」
不味い事になってしまった。
私は咄嗟に母に駆け寄り安否を確認する。
母に似つかない褐色肌の足が見える。
マルソさんの物だ。
制服のネクタイを解き、止血する。
背後では近づこうとするシュン君をタマミちゃんが槍で足止めしている状態だ。
此処に来て問題が発生するとは思わなかった。
いや、普通に考えてれば分かる事なのだ。
メイさんを殺す様に誘導されたシュン君にとって母は恨むべき存在だ。
彼女を見れば撃ち殺したくなるのも分かる。
しかし、ここは堪えて欲しかった。
母を壁際まで引きずり、意識があるかどうか声をかけた。
「うふふふふふ、あははははははは!!」
「ママ、死なないでよ。死なれたら困るから」
狂った母の笑い声を聞いているものの思ったより冷静だった。
その時、この人の目的が分かった。
地下5階に時限爆弾を仕掛けたのは「死のうとした」からだろう。
ミッシェル先生のおかげで事前に防げたのが幸運だった。
「ママ、命を粗末にしないで。あと、爆弾は手榴弾で誘爆してあるから」
「…」
そう言うと、母は黙ってしまった。
まだ、理性が残っていたのかもしれない。
狂った笑い声も心を誤魔化す為だったのかもしれない。
応急処置はしたものの私は素人だ。
プロに任せるのが良いだろう。
「タマミちゃんは此処でママを身張っててくれる?一番強い人に身張って貰えると安心するから」
「カンナさん、なら俺に見張らせてくれ!」
「それは絶対ダメ!シュン君は私と一緒にパパを呼びに行こう。頭冷やそう、ね?」
タマミちゃんに見張りを頼み、エレベーターの中、頭を垂れるシュン君を責めるのではなく励ました。
私の言葉から反省しているのは態度で分かるからだ。
「大丈夫だよシュン君、まだ最悪のシナリオじゃない。ママを殺したら相手の思うツボ、仇を討つ方法は他にもあるはず。一緒に考えよう?」
「…ありがとう。中々上手くいかないな、相手が相手だから仕方ないと思うが」
父に連絡し、地上で合流した後、直ぐに母の手当てしてもらった。
「貴方は神様みたいね、嫌な意味で。どうしてそんなに我儘なの?私を生き返らせておいて味方になったり裏切ったり。…生き返らせてなんて言った事は一度もないわ」
「…それが聞けないから生き返らせたんだ。私は君達と違う」
「…そうだったわね」
No.13を読んでいただきありがとうございました。
次はNo.14「追走」をお送りします。




