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(俺にだけ)ツンツンしてくる女優とボディーガードな俺

作者: 目玉焼き丼

俺の名前は進藤亮介、とある芸能事務所で事務所専属のボディーガードとして勤務している。

職業柄いざというときにすぐ体が動くように運動や筋トレをしているため少し筋肉質ではあるがそれ以外にはこれといった特徴のない、いたって普通の人間である。


そんな俺には最近ちょっとした悩みがある。

この事務所のエースであり、今や日本中で絶大な人気を誇る女優の半田鈴音さんから数週間前に起こったある事件の日を境に露骨に避けられているような態度を取られることである。


以前は俺にも他のボディーガード同様にこやかに話しかけてきてきてくれたものだが、ここ最近はそんなことはなくなり俺を視界に入れるや否や目を背けたり、顔を赤くしながら怒ったような態度をとるばかりである。


「はぁ…不可抗力だったとはいえあれだけあからさまに嫌がられるとなぁ…」


そんなことを考えているとガチャリと扉が開き

「おはようございます」

女性としては少し低めの、落ち着いた声が事務所にこだます。


噂をすればなんとやら、半田さんご本人の登場である。


俺はその声を合図に座っていた椅子から立ち上がり

「おはようございます」

と声のするほうに向かい頭を下げる。


半田さんは長い黒髪をなびかせ颯爽とこちらに向かって歩いてきたかと思うと、俺のことをチラリと一瞥し

「あっ、今日はあなたなの…よろしく頼むわ」

と目を背けながら挨拶をしてくる。


ここ最近は2回に1回は挨拶しても返事されなかったため

(おっ、今日は機嫌がいいのかもしれないな…)

なんてことを考えながら

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

と返事をするのだった。


そしてそのまま半田さんはいつもの通り俺の前を通過して事務所の奥へと入っていくかと思いきや、立ち止まって俺の方に向き直る。


その行動を疑問に感じた俺は

「どうかしましたか?」

と思わず声をかける。


するとビクッと肩を震わせたかと思うと、手に提げていたカバンをゴソゴソとあさり始める。そして

「んっ!これ!」

と顔を真っ赤に染めながら俺に一枚のチケットを押し付けるようにして渡してきた。


驚きながらそのチケットに目を通すと、それは半田さんが主演を務める最近公開された映画のチケットだった。しかもご丁寧にVIP席である。


いまいち状況を飲み込めない俺はもう一度問いかける

「あの…これはいったい…?」


しかしそんな俺の問いかけに答える余裕のない様子の半田さんは真っ赤な顔を手で隠しながら

「とっ!とにかくその時間にその映画館に来なさい!」

そう言い残して、逃げるようにして事務所の奥へと消えていった。


取り残された俺は、なぜ半田さんがこんな行動をとるのか首をかしげながらその日一日を過ごすのだった。


☆☆☆


半田さんからチケットを渡されてから数日後、俺は渡されたチケットを片手に指定された映画館へと足を運んでいた。


「えーっと…ここでよかったはず…」

初めてのVIP席に戸惑いながらも腰を下ろす。


そこは普段利用する席ではなく、完全個室となっている席というよりか部屋と表現した方がしっくりとくるような場所となっていた。


そして一人呟く。

「なんでこんなことになってんだ?しかも明らかにこの部屋二人用じゃないか…」

そんなことを言いながら部屋のものを見回していると、ガチャリと後ろのドアがおもむろに開かれる。


扉の方を振り向くとそこには俺をここに連れ出した張本人である半田さんが立っていた。


半田さんは

「よかった…来てくれてた」

と安堵の表情を浮かべながら小さな声でそう呟く。


予想外の人物の登場にうろたえてしまい思わず立ち上がって後ずさってしまう。

驚きのあまり口から突いて出たのは

「あ…う…」

といった言葉にもならないうめき声であった。


するとそんな様子の俺のことを見かねたのか、半田さんは少しあきれた様子でこちらの方に歩み寄ると

「そんな急いで離れなくてもいいじゃない…私が来たのがそんなに嫌だったの…?」

と少し不満そうな表情を浮かべてこちらに問いかけてきた。


しかも俺の行動がよほど気に食わなかったのか、突然の行動にアタフタしている俺の腕をつかんで自分の方に引き寄せると一緒に座れと目で訴えかけてくる始末である。


職業上、綺麗な人や人気のある人にはある程度慣れている俺からしてもこの行動は破壊力十分であり見惚れてしまいそうになる。


しかし、そこは鋼の意思でなんとかもちこたえ頭を左右にブンブン振るとやっと言いたいことが口から出てきた

「な…んでここに半田さんが?というかこれは一体どういう状態なんでしょうか…?」

掴まれた腕に目線をやりながらそう問いかけると半田さんはやっと自分がどんな行動をとったのか自覚してきたようで、カーッと赤面すると勢いよく俺の腕から手を放す。

そして

「な、なんでもいいでしょ!とにかく座りなさいよ!」

と取り乱した様子で言ってくる。


普段の半田さんからは想像もつかないような行動に、これ以上抵抗してもいいことはないと判断し

「失礼します…」

と言いゆっくりと腰を下ろす。


しばし沈黙が流れる。

半田さんから何か言ってくるのかと思いしばらく黙っていたが、そんな様子は一向になく赤くなった顔をパタパタと手で扇いだり何かを思い出して足をバタつかせるだけである。


このままでは拉致があかないと思った俺は思い切って話を切り出すことにした。

「あのー…それで今回は一体どういったご用件で…」


話しかけられて事で八ッと我に返ったのか、半田さんは軽く咳ばらいをすると

「なに?用がなかったら呼んじゃダメなの?」

と少し開き直ったような態度をとってきた。


半田さんの予想外の反撃にい俺は言いよどむ。

「いや…そんなことはないですけど…お友達でもありませんし…」


「うっ、それはそうなんだけど…その…なんていうか…」

半田さんは痛いとこを突かれたのか、どうにも歯切れの悪い様子である。


そこであれの頭にある可能性が浮かび上がる。それはプライベートをより安全に過ごすために仕事として依頼されているのではないかということである。

俺はその可能性にかけて問いかけてみる

「ではお仕事でということでしょうか?」


すると表情がパァッと明るくなり

「そっそう!仕事よ仕事!仕事をお願いしようと思って!」

嬉しそうな顔をしながらフンフンと身振り手振りで訴えかけてくる。


「なるほど、そういうことでしたか。でしたら合点がいきます。普段通りの格好ではありませんが全力でお守りします」

そう言って扉の前に向かおうと歩き出そうとしたところで右腕に違和感を感じる。

視線を腕に移すと、なぜだか半田さんに裾を掴まれていたのだった。


俺のとった行動が予想とは違ったのか、慌てた様子で言ってくる。

「ちょ!ちょっと待って!仕事なんだけどそういうことはしなくていいから!私の隣にいて…」

上目づかいで小さな子供のように懇願されてしまってはどうすることもできない。ただでさえ端正な顔立ちをしているためその目を直視することができないでいた。


俺はその顔にやられてしまい目線をそらしながら大人しくソファに座りなおすと、嬉しそうな笑顔を浮かべて

「ふふっ、これは仕事よ。仕事なんだからねっ」

と言いながらこちらをじっと見つめてくるのだった。


その後も俺へと視線が注がれることは止まることはなく、さらには映画中にタイミングを見計らったように手や腕に何かが触れる感覚が感じられたが心の中で

(これは仕事これは仕事…この感覚も気のせいだ…)

と祈るような気持ちで映画が終わるのを耐えるのだった。


☆☆☆


半田さんの謎の行動から数日後…


ピロリン!

プライベート用で使用しているスマホが鳴り響く。


その音で目を覚ました俺は、まだ開ききっていない目をこすりながらスマホを確認する。

(休日だというのになんなのか…)


そして通知の相手をみて一気に目が覚めてベッドから飛び起きる。

そこには『半田鈴音』と表示されていた。


謎の映画館での会合の直後、半ば強引に連絡先を追加されてしまっていたことを思いだす。


アプリを起動して内容を確認すると

『お仕事をお願いしたいんだけど』

と書かれていた。

(なぜこうも俺の休日を狙って連絡してくるのだろうか…というかなんでこんな日に限って事務所のエース警護に誰も出れないんだろうか)


そんなことを考えているとまた通知音が鳴り続きが送られてくる。

『もちろん私服できてよね!あ、それと今日はフレンチを食べに行きたいからルーズな格好はやめてよね』


なんで俺が天下の半田鈴音相手にこんなデートまがいのことをしているのか

「はぁ…俺の休日は一体いつ来るのやら…」

そんなことを言いながら何気なくつけたテレビに映っていた文字をみて口に含んだコーヒーを吹き出す。


”人気女優、半田鈴音に熱愛発覚か!?”


どうやら先日観た映画で共演したイケメン俳優との熱愛が報じられているらしい。お似合いの二人に街では肯定的な意見が多く報じられていた。


タイムリーなことにちょうど張本人から連絡がきていたこともあって

『わかりました、準備します。それとちょうど半田さんのことがテレビで取り上げられていました。熱愛発覚だそうでおめでとうございます』

と返事をしておいた。


するとすぐに既読が付いたかと思うと

ピロピロ!ピロピロ!

電話がかかってきた。


何事かと思い電話に出ると

「ちっ!違うから!!あれは違うの!信じて!」

といままで聞いたこともないような焦ったような必死な声が聞こえてきた。


予想もしていなかったその反応に

「…はぁ…?」

と気の抜けた返事しかすることができない。


そんな俺の返事が気に入らなかったのか

「あー!信じてない!とにかく今日会った時に事情は説明するから!」

半田さんはそう言い残すやいなやガチャリと電話を切る。


ツーツーツー…

そして俺は通話相手のいなくなったスマホに向かって

「あの…やっぱり今日も休日出勤ですか…?」

と呟くのだった。

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