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6th 異常と禁忌の午後 Bパート

午前中は、いきなりプレヴェイルが来て俺の話をカン違いして方鐘に襲いかかる、というハプニングがあった以外はつつがなく終了した。

といっても、いつものように寝てただけなんだけども。

つまり寝てる間のことはわからないが、風紀委員の俺になにもないということは、特になにもなかったということだろう。で、俺の安眠を妨げるのはいつも方鐘だ。せっかくいい気分で寝てたっていうのに、とんでもない勢いで机を揺すられる。いつものことだが、やはり眠い。睡眠は全ての基本と考えている俺としては全力で抗いたいのだ。特に今朝なんか、ムリヤリ起こされた分眠気のレベルが跳ね上がっている。その分長めに寝なければならない。気分的に、いや精神衛生的に。


「うおーい、月島?昼休みだぞ?」


なに?昼休み?ごめん、睡眠優先。と思って全力スルーしようとすると、


「タカヒロ〜!。いる?」


おっそろしいボイスが脳天まで突き抜けて、条件反射のレベルで一気に目が覚めた。


「プレヴェイル!っな、なんでここに!?」


あまりにも予想外な来訪に思わず声が裏返ってしまった。あんな追い返し方だったからいつかは来るなと思っていたが、さすがに早すぎる。


「お昼のお誘い。たまにはいいでしょ?」


「いや、特に問題ないけど…」


チラリと方鐘をみる。普通なら、監視監督人のルールに従ってあまり離れる訳にもいかないし、そうするのならば能力制限を更に強化しなければならない。


「いいよ。行っといで。少しくらいなら問題ないはずだし」


そんなことは露ほども考えてない、みたいな態度でまるでからかうようにひらひらと手を振られた。こう見えて方鐘は気遣いが上手いというか頭がいいところがあるから、気をつかってくれたのかもしれない。


「よっし。じゃ行くわよタカヒロ。今日こそは肉入りデラックスヤキソバパンをゲットするんだから!」


「んな!よりにもよって最高難度の限定品狙いかよ。保障しないぞ」


「大丈夫よ!いざとなったら方鐘に作ってもらうから平気平気」


で、そのまま引きずられて行く俺を方鐘含むクラスほとんどが温く見送ってくれた。こんちくしょー。まだ寝たいぞー。


「ああ、やっぱり無理だったな。さらば肉入りヤキソバパン…」


やっぱりな、という気持ちをこめて呟いた。元から人気商品だ。ただでさえそうなのに、寝ていた俺を起こすというタイムロス。残ってないのも当然なんだろう。隣でがっくりとうなだれている婚約者の背中をポンと叩いて慰める。


「まぁ次があるさ。そんなに落ち込むなって」


プレヴェイルは若干納得しないままながらも頷いてくれた。極上の金細工のようなロングが動作に合わせてさらりと揺れる。思わず手を触れたくなるがそこは我慢。そんな見境のないことはしない。親父から仕込まれたことの一つだ。


「で、どうする?別のパン買うか学食に方鐘連れて突入するかの2パターンがあるわけだが」


「うーん…方鐘を連れていかない選択肢ってない?」


「ないな。もう一度戻って方鐘の制限装置をかけてくるなら別だけど」


「そっかあ。ならしょうがない、方鐘連れて学食に突撃しましょ!」


と言ったちょうどその時、プレヴェイルに声をかけてきた人がいた。


「おーい、レイちゃん!」


「あ、かなで〜。どうかした?」


「レ、レイちゃんときたか…」


あまりの以外性に親父の教育を思わず破って呟いてしまった。レイちゃん。一応年下なのだからちゃんづけもおかしくないけれども、同学年にそう呼ばれてしまうプレヴェイルに少しだけ驚く。と同時にそこまで溶け込んでいることに安心する。ハーフとはいえ外国からの飛び級、しかもお金持ち。敬遠されてもおかしくないはずだったけど、どうやら上手くやっているらしい。


「どしたの?そんなに慌てて」


「い、いま背の高い女の子が通らなかった?」


よほど急いで走って来たのか、呼吸が荒い。スラリと長いその腕には深紅の腕章がピンで留められ名前が記されていた。

高垣奏。生徒会1年書記にして校内5位の能力者で、何度か風紀委員に協力してもらったことがある。実際に能力を使うところを見たことがないが、噂によるとアドバンスアビリティまで扱えるらしい。(ちなみに、生徒会メンバーは全員少なくとも校内10位以内の実力者たちばかり)いろいろと規格外な人ではあるし、立場から規則に厳しいところはあるが、付き合ってみればほかの奴と大して変わらないいい奴だ。


「通ってないけど…なんかの用事?」


プレヴェイルが尋ねる。生徒会メンバーの高垣が追いかけている生徒だ。クラスの連絡ならいいけども、もしなんらかの理由で追いかけているならば協力しようと思う。プレヴェイルに目で確認すると頷いてくれた。こういう時になんだが、ちょっと嬉しい。


「なんだったら手伝うよ?」


プレヴェイルの一言でやっと高垣が口を開いた。

「朝の氷の巨人騒動って知ってる?」


知ってるもなにも、半分被害者のようなものだ。


「ああ、俺も巻き込まれたアレか。いきなり巨人が市の中央に現われたヤツ」


「え!?タカヒロ巻き込まれてたの?」


「というよりは方鐘が、だけどな。いきなり氷の塊が降ってきて潰されそうになったんだ」


「へ、平気?どこか痛くない?」


「ペタペタ触らない。別に怪我はしてないからな」


「あ、あの〜。イチャつくのはいいんだけど、こっちの話を進めていいかな?」


すっかりおいてけぼりにされた高垣がおそるおそる口を挟む。


「あ、ごめん奏。で、それがどうしたの?」


「どうやら、彼女が原因みたいなの。原型が『氷結』だし現場に彼女が居たのもわかってるから、間違いないと思う」


けど…と高垣が言葉に詰まる。なぜなら、その程度の逆流能力でそんな巨人が造れるはずがないからだ。もしできるとしたら、『氷結』よりも強力な『凍結』もしくは『冷凍』くらいなものである。


「つまり…」


と呟くプレヴェイルの後を継いで推論を述べる。


「A・Aか…最悪、暴走したか。どっちにしろ危ないことには違いない訳だな」


「うん。もし暴走してるなら特別指導をしないといけないし、A・Aが使えるならそれはそれで問題だし。だから私が直接話を聞こうと思ったんだけど、顔を見たとたんいきなり走りだしちゃって仕方ないから追いかけてきたら見失ったんだ」


「なるほど…。ならいいよな?プレヴェイル」


念の為確認する。今回も目線だけで通じた。


「もちろん!風紀委員として協力させてもらうわ!」


サムズアップ付きでプレヴェイルが元気よく宣言した。


「…この時代にサムズアップは無いと思うな、俺」


「え!パパからこういう時はこうするとカッコいいって聞いたのに!」


「お前のパパさんはどっかズレてるよな」


と少しだけ呆れをこめて呟いてみる。


「でも将来はタカヒロのお義父さんだよ?」


「っあ〜そうだった〜!」


視界の端で高垣が呆れ半分苦笑半分の顔をしていたことがヤケに印象に残った。


「で、どうしようか?」


いきなりこれだよ。考えてみたら見失った時点で手掛かりはほとんど無いと同じなのだ。


「どうしようね」


「疑問に疑問で返されても…」


的確なツッコミ。方鐘がいたらいいツッコミコンビになりそうだなと思いつつ、提案。


「とりあえず、その人が向かった方向はどこよ?闇雲に探しても見付かるわけがないし」


「えっと、教室からそこの廊下までは姿は見えてたの」


と、高垣が月島たちが通ったのと反対側の廊下を指差す。


「で、この廊下に入って、角を曲がったらもういなくなってたの」


最初は『転移』とかで逃げたのかな?と思ったけど、彼女は『氷結』だしね。と締めた。


「と、消えたってことでいいの?」


「うん。まさにいきなりってカンジだった」


現状確認を続ける女性陣に対して、とりあえず考える役にまわる。


(ということは、もしそのまま走っていたら俺たちの教室のほうに行ったってことか…なら、とりあえずそっちに行くか。もしかしたら方鐘が見てるかもしない)


「とりあえず、消えなかったら行ったほうに行こうぜ。もしかしたらただ見失っただけかもしれないし」


「奏に限ってそれは無いと思うけどな〜。奏なら足音でわかるでしょ?」


「え、えっとさすがにこの人数に紛れ込まれると分かんないよ」


「あー、そりゃ仕方ないわ。この人数じゃな」


昼飯時の購買ほど学園内で人口密度が高い空間は滅多にないだろう。他にあるか?と訊かれたら、ただの教室で全校集会をやった時、と答えるしかない。


「じゃ行きましょうか!」


とプレヴェイルが意気揚々と歩き出す。俺はひっそりと呟いた。


「昼飯どうするんだよ…」


隣で高垣がまた、苦笑いした。


当てのない予測に従って追跡を開始する。しかしあまりの人込みにどうしても進むスピードが遅くなってしまう。


「あーもう!進めないじゃないの!」


「メシ時の混雑をナメてたな。ここまで多かったか?」


「私はいつも購買だけど、こんなもんだよ。ってアレ?レイちゃん?」


「あら?いない…まさか迷子か?」


「ちゃんといるわよ!後ろ後ろ!」


振り返ると、ニ歩くらい後ろに手が伸び上がっていた。身長が年齢相応な分流され安かったのだろう。その手を握ってこちら側に引っ張る。


「大丈夫か?」


しかし、こっちに引き込んだだけで人込みの中にいるのは同じ。自然と身体が密着してしまう。


「ちょ、ちょっとタカヒロ、近いって、ば」


腕の中には小さく柔らかい身体とうっすらと漂うシャンプーの香り。思わずこのままでいたくなるが、自制。


「さ、さすがにここまでくると呆れるしかないというかなんというか…あんまりベタベタすると不純性交遊で捕まるんじゃないかな」


風紀委員の二人にいうのもなんだけど、と言いにくそうに言った、その直後。


「キャアアーーー!」


「な、なんだこれ!」


「人殺しだ!人殺しがいる!」


「嘘…なんてこと…!」



まさに行く先から聞こえてきた声に、俺を含む三人ともの雰囲気が一気に変わる。ちょっと用事のある昼休みから、生徒会と風紀委員の任務ができた昼休みへと。


「今の悲鳴…!?」


「ただごとじゃない声が聞こえたね…。行くよ!」


「了解!」


真っ先に高垣が飛び出す。陸上部のエースだからか、人込みをすいすい抜けて悲鳴のほうへ。次に俺が人込みを掻き分け、その後ろをプレヴェイルがついてくる。

たどり着いた現場には、恐ろしいほどの鉄錆の匂いと、血まみれの親友の姿。


(う、嘘…だろ…?)


あまりの事態に頭が追いつかない。


(あ、ああ、つまりアレだな。見間違えだ。方鐘があんなことするはずがない。きっと良く似た誰かさんだろう…)


けれど、その希望も、婚約者の声で打ち砕かれる。


「嘘…方鐘…?」


そして、渦中の人物が振り向いた。


方鐘だった。


とてつもない衝撃に頭がホワイトアウトする。方鐘が何か話しかけてきたらしいが、頭が処理しきれず反応できない。いつのまにかプレヴェイルが握っていた右腕から、彼女の震えが伝わる。やはり彼女も信じられないようだ。そんな中、方鐘に歩み寄る人影が一つ。

高垣だった。

この場で方鐘と唯一面識がなく、もっともショックを受けない人間。そして唯一、この場で方鐘に対して権力を振るえる人間。


そして、告げる。


「1年3組方鐘恭一。殺人の現行犯で捕縛、拘束します。」


こうして、俺の親友兼監視対象は容疑者にランクアップした。

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