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60th 遺物と双子

「のっけから全力全壊で行くぜ!『大量破壊マスディストラクション』っ!」


破壊の力場を纏って突撃するいきなりの大技。一見考えなしに思えるその手は、しかし意図をきちんと持っている。


相手がほとんど致死の攻撃にどう出るかを判断するためだ。もし影のように再生能力を持っているならば、甘んじて受けて反撃をするだろう。そうでないならば避けるなどのアクションを取るはず。片銀自身は力場を纏っているため危険はない。ついでに方鐘が身体能力の程度を見切ってくれれば更に良し。そう考えての初手だった。


「さあ、どう出る!?」


だが、先に引いたのは片銀だった。


「どうした?」


追いついた方鐘がすかさず尋ねる。


「野郎、俺と同じように『崩壊』でガードしてやがる!」


同時に、反動で片銀の腕が裂ける。


「……大丈夫か?」


「ハッ、問題ねぇよ。影の奴がいたら引き受けて貰うがな」


だが、方鐘はいきなり裂けた腕を自分の手で叩いた。


「いっ!」


「治療完了。いけるな?」


いきなり何を言い出すこいつは、と思いながら片銀が叩かれた腕を見ると、なんと傷が消えていた。


「……こいつがお前の新しい力か?」


尋ねられた方鐘は、わからない、と首を振った。ただ、できると思ったとも。


「オイオイ、慎重派なお前らしくないな。……ま、時間はない。実践が実戦だぁな」


「しょうがないか。うん。気合いでなんとかする」


「……変わったなお前。とか言ってる間にきたぞ!」


片銀が叫んだ直後、また『子』が咆哮する。姿形は人そっくりだが、だからこそ認めたくない命。それは時折溶け崩れ、床を溶かしながらこちらに向かってくる。


「くおっ!」


片銀が相殺。と同時に方鐘が飛び蹴りをぶち込むが、表面をへこませただけで効果はほとんど見られない。


「片銀の『崩壊』と軟体の二重防御か!」


しかし、攻撃中は『崩壊』が働かない。そうやって方鐘は理解を重ねる。それは、影の戦い方。


「片銀! 瞬間的にガードが解けるタイミングがある! 肌の色で見切れる、試せ!」


『崩壊』の力場には、薄墨のような黒色がついている。片銀もそうだが、どうやら『子』もそうらしい。


(軟体なら打撃は不可能……なら、切断、もしくは純粋な能力攻撃が必要かな……片銀がキーか)


頭の中で次々と計算していく。


(高垣さんの『指揮者コンダクター』はバリバリの物理だから除外、僕は……今回は片銀のサポートかな。きちんと自分の逆流能力を理解できればいいんだけど……)


勝つ。そのためだけに方鐘は思考を続行する。


(刃物……)


必要なものを視界に探す。以前の自分なら、作り出せばそれで済みそうなのだが。そんなどうでもいい思考を並列させる。


「片銀っ!」


発見。崩壊の力場をぶつけあっていた片銀に呼び掛ける。


「ばっ!」


だが、それが裏目に出た。瞬間的な集中の途切れが片銀に隙を作る。


「がっ!」


片銀の腕が消し飛ばされ、衝撃の余波で本人も弾かれる。


「すぐ治す!」


着地点に方鐘は先回りする。だが、そちらにも『子』の攻撃の手が伸びていた。

比喩ではなく、物理的に。


「伸びるか?!」


空中で身動きの取れない片銀が注意を叫ぶ。


「アアアァアァア!」


『子』の伸びた手が方鐘の喉元に締め殺そうと迫る。


「これなら……できる!」


だが、方鐘はなんと崩壊の力場を纏う腕を切り落とした。

いつの間にかその手に握られていたのは、白木の小刀と殺意の刀。


「せやぁっ!」


ためらわず方鐘は小刀を本体に投げ付ける。逃げるように距離を開けて投げ物で攻撃する彼本来の戦い方。


硬質な音がして『子』に小刀が突き立つ。


「オアアアァア!」


痛みを叫ぶように『子』が暴れる。痛みの源である小刀を自分で抜き、方鐘へと投げ返す。


「させるかあっ!」


空中の片銀が『噴怒』を解放。浮力と慣性を破壊し落下しながらその小刀を蹴り落とす。


「一秒!」


方鐘が飛び出して小刀を空中で捕まえて反転、慣性の分を跳ね戻ってちょうど着地して来た片銀の血も何も出ていない傷口を振り向きもせず手で叩く。言葉通り一秒で片銀の腕は再生した。


「助かった」


「使え。影の特別製だ。『崩壊』しないらしい」


小刀を片銀の進路に投げて方鐘は刀を腰に構える。ちらりと刀に目をやって気付いた。


(この刀は……!)


投げた小刀を目で追う。思った通り、この刀と小刀はかつて使ったことがある!


小刀は、月島に手渡した自分の命を預けた時のもの。

刀は、自分という存在が居てもいいのか生徒会の皆に試した時の刀。

どちらも、大切な二振り。


「ハッハァ! 影の野郎も粋なことしやがるじゃねぇか!」


同じことに気付いたらしい片銀が前傾姿勢で疾走しながら方鐘の投げた小刀を掴み取る。


「こんなもの貰っといて! 負けるわけにゃいかねぇだろ!」


すり抜け様に片銀が『子』を斬る。斬撃線は二本で、一本は斬られていない方の腕に、もう一本は胸に残った傷を抉るように。


「重ねる!」


方鐘も突撃。片銀の軌跡を裏側からなぞるように斬る。


感触は重みに変わり、存分に斬った実感に変わる。


「イイアアアァアッ!」


痛みの叫び。絶たれた腕は自重で繊維質のちぎれ音を立てながら、下に落ちる。


「再生はしないらしいな?」


「元がスライム状だから、時間が経つとわからないけどね」


「はっ! カンケーないね。削り殺してやるよ」


「切断なら効果があるのは確実だからね。それが一番現実的か」


「しかし、影の奴こんな便利なもの残してたとはなぁ……」


泣き叫ぶ『子』から冷静に距離を取りながら、片銀は小刀を見つめる。


「……案外、最初から僕のことを返してくれるつもりだったのかもね」


方鐘も自分の刀に視線を投げかけて言う。


「根拠は?」


「『僕』に繋がるきっかけを二回も作ったこと。小刀は一回喰われて消えたけど、わざわざ作り直して刀の側まで置きに行ったし」


「ふーん……悪いことしちまったかな……」


「大丈夫。多分ね」


「その言葉にこそ根拠が欲しいところだな。……うおっ!」


片銀が飛び退く。警告を伝える。


「足元から来るぞ!」


それを聞いた方鐘もためらわず跳ぶ。間一髪で床から生えた『子』の手から逃れられた。どうやら床を崩壊させて潜行してきたらしい。


「……オイ、身体能力上がってねぇ? 俺と同じ高度まで来てるぞ」


「嘘!? あ、本当だ」


地上五メートル程度の空中に方鐘はいた。それは高垣よりは劣るものの、片銀と同レベルと言って差し支えない。


「……つくづくお前の能力がわからん。なんかこうピンと来るのは無いのか?」


「……微妙」


「あっそ。ついでに落下特攻でも仕掛けてみるかな!」


「それじゃ、僕は下からかな。高度足りる?」


「んー。満足とはいかない」


「了解。蹴り上げるから。その反動で僕が先行する」


跳躍のタイミングは片銀が速かったため、落下に転じている。それを下から、後に跳躍した方鐘が器用に上下を反転させて足裏を重ね、蹴り上げた。本来有り得ない芸当だが、片銀の引き継いだ経験と方鐘の限界まで研ぎ澄まされた知覚がそれを可能にした。


「完璧! さすがだな!」


片銀の称賛を後ろに、逆に下への勢いがついた方鐘が着地したと同時、衝撃を吸収するために曲げた膝をそのまま推進力に転化する。地を這うように飛び出し、すれ違いながら両足の腱を切断、移動を封じた。


「行っけええぇ! 片銀!」


そのまま上半身を起こし、『子』を縦横無尽に滅多斬りにする。しながら叫ぶ。


「どりゃああああぁ!」


片銀の叫びが墜落と共に応える。


「オギャアアアァアアァ!」


『子』が泣き叫ぶ。否定しようと崩壊の力場をより強く展開する。


「さ、せ、る、かああぁっ!」


方鐘が丸太を叩き斬るように首を切断する。脳からの指令が無ければ身体は動かない。

想像通り、崩壊の力場が消失した。


「死、ねぇええぇっ!」


片銀が落雷のように小刀を振るう。切断されたばかりの頭から股まで、縦に切り裂いた。


「ギィアアアァッ!」


だが、まだ死なない。悲鳴を上げて二つに裂けた身体のまま、こちらに向かって腕を伸ばす。そのまま手のひらを向けた瞬間、頭の中の影の残滓が警鐘を鳴らした。間違いない、『暴食』の予備動作。


「片銀、離れ……!」


だが、それは一瞬遅く。


「……は?」


引きつった表情のまま、片銀の肩から下がごっそり消失した。



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