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6th 異常と禁忌の午後 Aパート

そんなこんなで昼休み。月島が全授業寝ていたことを付記しておく。せめて前半4授業あるんだからちょっとくらい起きていてもいいような気がするんだけれども。そして注意しない先生も先生だと思う。

キーンコーンカーン、と新設校らしくない古風なチャイムが鳴った。昼食が購買の学生たちは今から戦場だろうけれど、僕は弁当派なので関係ない。しかし僕の監視監督者の月島が購買派である以上ついていかないといけない。それがルールであり、僕に課せられたペナルティだからだ。で、何を言いたいかというと月島がいないと弁当が食べられない。イコールつまりまず月島を起こさないといけない。で、思い返すのは今朝の悲劇。また首をガタガタやられるのは勘弁してもらいたい。主に関節の危機について。


「うおーい、月島?昼休みだぞ?」


用具をカバンに突っ込んでから後ろを向いて呼び掛けてみる。が反応なし。やはり月島の弱点は寝起きの悪さだ。監視対象に起こされる監視人ってのもどうかと思う。3才の頃からいろいろな監視監督人に監視されてきたが、こんなぐ〜たら、良く言うと付き合いやすい監視監督人は初めてである。といっても、もう4年近く付きあってきてくるうちに慣れてきたけれど。

さらに揺する。机まで揺れる勢いで揺らしてもまだ起きない。そろそろ最終手段か、と思ったら、


「タカヒロ〜!いる?」


対睡眠中月島用最終兵器水越が降臨した。月島が全身ごとビクリ!と反応して一気に目を開ける。机ごと跳ねて過剰な反応を示してくれた。


「プレヴェイル!?っな、なんでここに!」


軽く声が裏返っている。クラスの注目を集めながら水越が切り出した。


「お昼のお誘い。たまにはいいでしょ?」


「いや、構わないけど…」


チラリと月島が僕を見る。監視対象から離れるのが不安なんだろう。


「いいよ。行っておいで。少しくらいなら問題ないはずだし」


本来なら監視監督人が対象から離れる場合、制限装置(僕の場合はメガネ)をかけなければならないのだが、月島と僕の場合時々制限しないまま行動することがたまにある。


「ま、基本的には信頼してるさ」


とは月島の弁。


「よっし。じゃ行くわよタカヒロ。今日こそは肉入りデラックスヤキソバパンをゲットするんだから!」


「んな!よりにもよって最高難度の限定品狙いかよ。保障しないぞ!」


「大丈夫よ!いざとなったら方鐘に作ってもらうから平気平気」


最終的に僕だのみなんだ…。

とりあえずカロリー補給にバイト先の和菓子屋で作ってきたきんつばを頬張る。

食べるのが好きな訳ではないが、能力発動がそのまま生死に繋がりかねないのでエネルギー効率を考えてきたら自然とこうなってしまった。さらに無駄遣いを控えるために出雲店長に作りかたを教えてもらったりしているうちにいつのまにか菓子ならお前だ、なんて言われるようになってしまった。出雲店長にも認めてもらったので悪い気はしないが。

とりあえず空いた時間をどうしようか悩みつつ、なんの気も無しに廊下に出た。


それが、いけなかった。


ゾクリ、と異様な気配が背筋を這い上がる。とっさに制限装置のメガネを外した。危機感を感じた。視力は精密画を描き続けたためにかなり悪くなっていて視界は効かなくなるがその代わり能力は開放される。


(なんだ…これ…?!)


背中のイヤな感覚はすでに全身に回っている。全身からの警告が頭に響く。もはや嫌な予感のレベルではない。確実に何かがおかしい。

そして、気付いた。


(誰もいない…?!)


そう。誰もいないのだ。昼休みという本来なら生徒でごったがえしていてもおかしくない状況、クラス3つが隣接する廊下。なのに、人がいない。明らかな異常。気がつけば、背中から聞こえるクラスの雑音すら消え去っていた。まるで何かに感覚を奪われたようなあいまいな空気が僕を包む。

異常。危険。不安。困惑。様々な要素が絡み合い、最終的に作り上げられたのは、最も分かりやすく確実なもの。

自衛本能。

朝に造り、月島に返してもらった小刀。ポケットの中に鞘を造って入れていたそれをきっちりと握り締めて周りを見渡す。いつのまにかいつもとかけ離れた印象をもった冷たく無機質な廊下に変化が起きたのはその直後だった。


「キャアアーーーーーッ!」


唐突な叫び声。

思わず鞘から小刀を引き抜いて身構える。

と同時に頭を冷却する。

パニックになっては対応できるものもできなくなるからだ。

と同時にキレるのを押さえ込むためのものでもある。いつも見る朝の夢。全てのものが触れた直後になにもかもカタチを失って崩れていって、最後には自分まで崩れる狂ったような悪夢。なにもない見渡す限りの白い砂。瓦礫すら残らずに砂に還る。その中で独り孤独に怯えながら激痛とともに指先から砂に還っていく、夢。けれど、残る感情は崩れ去る恐怖でも一人を嘆く悲しみでもなく、純粋なまでの怒り。もはや噴怒と呼ぶべきなまでに凝縮し圧縮し濃縮した莫大な意思。

あれだけは、ダメだ。

毎朝そう直感する。何度でもそう思う。例えるなら地雷のようなものだ。薄氷の上に立っているイメージ。もはや禁忌のように刻まれた、怒りに対する恐怖。それが、無意識に頭を冷やす。



叫び声が近くなる。聞いたことのない声だ。元から多くない知り合いの声でないことに安心する。走る音が2つ無人の廊下に響く。1つは急ぐ足音。叫び声の張本人と見て間違いないだろう。そして2つ目が響く。こちらはまるでステップか何かを踏んでいるかのようにリズムがバラバラだ。(2人目から1人目が逃げている…のか?にしては2人目の足音がおかしいんだが…)


冷静に解析している間にも声が近付いてくる。もはや1人目は叫ぶ余裕すら無くしているらしく、息も荒く走っているらしい。静かな廊下に息遣いと緊張の糸が走る。

いざとなれば振ることができるように小刀を構える。そして、直後、来た。


廊下の角から姿を現した女生徒が僕の隣を走りぬけようとする。そこから全てが予想外に吹き飛びだした。


「っな!」


いきなり身体が動かなくなる。しかもさらに勝手に動きだしていって…


右手に握った小刀が、女生徒の身体を2つに横断した。


「え…?」


信じられない、というような声を上げる上半身。身体と衣服に生暖かい液体がビシャリと叩きつけられる。血だと気付くのに数秒かかった。


「な、んで…?」


呆然と声が漏れる。

と同時に、背筋にはしる違和感が消えた。それを引き金にするように戻ってくる昼休みという最悪の目撃者。


「キャアアーーー!」


「な、なんだこれ!」


「人殺しだ!人殺しがいる!」


「嘘…なんてこと…!」


返り血にまみれた僕と死体を遠巻きにしている群衆から様々な反応が返る。そしてその中には、僕の監視監督人とその婚約者の姿があった。


「つ、月島…」


呼び掛ける。けれど、反応はなくて。

その代わりに水越とは逆隣に立っていた女生徒が僕に宣言した。


「1年3組方鐘恭一。殺人の現行犯で捕縛、拘束します。」


冷徹に告げる彼女の右腕には、『生徒会書記・高垣奏たかがきかなで』と書かれた深紅の腕章があった。

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