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46th 捜索者と相対者

月島は、市内の中央部、歩行者天国の中を水越といっしょに歩いていた。


「どうする…いや、どうにかしないと…」


場所、人…何か手掛かりがないか、視線をさまよわせる。


プレヴェイルはその近く、背中合わせの形で並び同じように辺りを見渡していた。


と、そこに二人同時に電話が入る。


互いに取り出して名を見ると、同じ『高垣奏』の名前が。


「チャットトーク?」


「みたいだな」


チャットトーク、つまり複数人の間で行う通話だ。この技術、『接続』や『共有』、挙げ句には『伝達』のスピンオフを利用している。人力、と言い換えてもいいかもしれない。これを使うということはそれなりの事態なのだろう。緊張を感じつつ回線を開く。


『もしもし。聞こえてますか?』


「ああ。どうした?」


「何かわかったの?」


『ええ、最悪のことがね。今ちょっといい?』


「……いいぜ。こっちも手づまりだしな」


「ていうか、今そっちは何処にいるの?向かったほうがいいんじゃない?」


『ううん、むしろ動かないで。電話を強く顔に当てて! 震動で伝えるから』


骨伝導の要領だろうと月島は見切りをつけて、どちらかというと耳より顎に携帯を当てる。

周囲の音に邪魔をされない震動は、確かに二人の鼓膜に音を伝えた。


『……どう? わかった?』


特定の音を送ることで、震動として送信したのだろう。能力の応用だ。


「……マジかよ……」


「それは……」


内容は充分に衝撃的なものだった。


『まさかビデオレターがもう一つあったなんてね……あの時の過剰反応がなかったら、見落としたわよ』


送ったのは、二つ目のビデオレターの内容だった。高垣は方鐘の家から通話してきているらしい。


「……畜生……まだ、かよ……また、仲間外れだと思ってるのかよ……っ!」


月島が焼け付くような、唸るような、血を吐くような声を落とす。


「タカヒロ……」


水越の気遣いの視線を受けつつ、月島は再度携帯に向かって話しかけた。


「……つまり、『この町にある全ての屋上のどこか』に方鐘はいるんだな?」


『ええ。夕方、なら今しかないわ。手分けして探しましょう。先輩たちには私から連絡するわ』


「了解。見つけたらとりあえずぶん振るが問題ないな?」


『私からはノーコメントで』


「わかった」


それだけ聞くと電話を切り、歩行者天国の中央……四方を高層ビルに囲まれた空を見上げた。


「やってやるよ……天から全てを見下ろす『月』の名にかけて、絶対に見つけてやる!」


決意を叫びつつ、月島は駆け出す。

けれど、それを水越が引き止めた。


どうして、と振り返った瞬間、足元に音もなく水が忍びこむ。


「私に掴まって! 上まで一気に行くよ……!」


次の刹那、足元の水が間欠泉のような勢いで上へ爆発し、月島と水越は天高く放り出された。


「っと、着地!」


ジェットコースターのような感覚も束の間、パチン、と風船が弾けるような音とともに二人は近くのビルの屋上に立っていた。

どうやら庭園になっているらしく、まるで植物園のような雰囲気を漂わせている。


「……おお、こんなやり方が」


「……居ない、みたいね」


月島が驚くのも束の間、水越の言葉で本来の目的を思い出す。


「……だな。次に行こう」


屋上から降りるためのドアを月島が探そうとすると、また水越に引き止められた。


「またかよ!」


「どこに行くつもりなの?」


「まずは向こうのビルかな。上に行くのはさっきの水鉄砲でどうにか……」


指差して目標を示す。


「なら、このほうが早いわね!」


水越が言うなり、身体が今度は横に吹っ飛んだ。そちらを見ると、庭園の隅にあった水道の蛇口が捻られている。


「のわあっ!」


「ここで……ストップ!」


再びの浮遊感の後、目標の地点に到着する。同時に水の壁がクッションとなって減速し、勢いが止まる。


「……無茶苦茶だな……」


びしょ濡れの服を見ながら、尻餅をついて茫然としたまま月島が言う。


へへん、と水越がどうだとばかりに薄い胸を張ってみせる。


それを見て、月島は決めた。


「……よし、プレヴェイル、しばらくそれで移動しよう。頼む」


「タカヒロの頼みなら、いつでも! でも、ここには居ないみたいだし、次に行こう!」


「ああ、頼む」


未だに水越の支配下にあり、空中に固定されていた水に押されて二人はまた空を飛ぶ。


奇妙な空中散歩が、捜索を加速させていった。





「……いらっしゃい、方鐘君。歓迎するわ」


学校の屋上で、方鐘は希美と向き合っていた。その隣には、こちらは予測通りの人物、山良望がうっすらと笑みを浮かべて立っている。


「……なるほど、アンタら兄妹がグルになってたのか!」


叫ぶ方鐘に答えるのは、希美ではなく望。


「ああ、そうさ。最初から僕たちは二人で動いていた。……もっとも、まだ別に関係者はいるがね」


例えば、と前置きして、方鐘を指差す。


「君のような臨時の協力者がいい例だ。……ご協力、感謝するよ」


皮肉を隠しもせず、望は言う。方鐘はそれを完全に無視した。


(落ち着けアホ! 挑発だっての!)


頭の中で片銀がそう言ったからだ。

ふう、と冷却のため熱をため息として吐き出す。


「ほほう? 冷静だな」


「でも兄さん、後一押しみたいよ?」


二人の会話から方鐘は関係を想定する。


「兄妹……なんだな? なるほど、また繋がった」


推理とは即ち、関連を見つけ出す作業だ。事実があり、また別の事実がある。それぞれを繋げるまた別の事実がある。ある時はそこに仮定を混ぜて、新しい事実を生み出す。あとはそれを繰り返すだけだ。


「繋がった、とは?」


望が問い掛ける。方鐘はそれを再度無視して語り出した。


「……まぁいい。こちらには聞きたいことがある。答えるつもりはあるか?」


「なんですか? 方鐘君」


今度は応えたのは希美だった。


「僕を呼び出した理由だよ。それを聞きたい……返答如何では、敵対するけれど?」


敢えて挑戦的な態度をとってみる。相手の出方を見るためだ。


すると、二人は同時に振り返って試験管に近寄り、それぞれ機械に手を置く。


希美は試験管の本体に。

望は隣のコンソールに。


カタカタ、と望キーボードを叩く。

そのまま話しかけてきた。


「私たちの目標は、このフラスコの中身を完成させること。それだけが至上さ……そら!」


タン、とキーボードを一際強く叩くと、機械が唸って起動した。希美が愛しさを込めてとろけるような視線で見つめる先、あまりにも巨大な試験管の中の水分が抜けていく。


そこに見えたのは、無数のコードと。


それに繋がる、用途も定かでない濁った色の薬品の数々と。


その反対側、人間を模して作られた、けれど絶対に在ってはならない、人間の形を徹底的に冒涜し繰り返した果てに出来上がったような……肌色のゲルのような堆積物。


潰れ、ひしゃげ、出来損なった人体だった。



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