表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/64

44th 糾弾と体裁

次の日。相変わらず進展はなく、皆が散ったあと。


方鐘は黒川と向き合っていた。


「どうした?私だけに聞きたいことというのは」


明乃のお見舞いに行きたいのだが、と言う黒川を方鐘がとどめる。


「いえ、ちょっと時間がかかりますがお願いします。…大事な、事ですから」


そう言って方鐘は隅に置いてある椅子に座る。それを見た黒川も自分の役職の座席に腰を下ろした。


「では、まず。山良先生が失踪した日。あなたは何をしていたのですか?」


「まさかとは思うが、私は疑われているのか?…いいだろう。晴らそうではないか。その日は普段通りに起床した後、学校に遅刻の連絡をいれてから家を出た。そして明乃のお見舞いに行った後に登校した」


「なるほど」


ここまでは問題ない。お見舞いの件は昨日のうちに会長に確認済みだ。


「時間等は覚えていますか?なるべく正確に」


「具体的にはあいまいだが、学校には昼休み前には到着していたな。学校の前で時計を見たから覚えている」


ビンゴ。ミス一つ。


「わかりました。それから?」


「それからはいつも通りだ。授業をきちんと受けていた。放課後になって事件のあらましを聞いたな」


ダウト。ミス一つ。


「そうですか…では、授業にはいつから?」


「五限からだ。職員室で登校を報告した直後にチャイムが鳴ってな。昼食を買っていなかったから購買に走った。なかなかの人込みだったな。買ったはよかったが食べているうちに時間が危うくなってしまって教室に駆け込んだ。…そんなところか?」


アウト。尻尾は掴んだ。


方鐘が攻勢にでる。


「なるほど…では、最後に一つ。あなたは、警備員詰め所に立ち寄りましたか?」


「いや。そんな覚えはない」


「そうですか…」


方鐘はため息を一つ。恐れていた可能性が、現実になった。


(…最悪だ)


そう心の中で呟いてから、パソコンを立ち上げる。その間、互いに無言のままだった。


「…では、これを見てください」


方鐘が取り出したのは、記録ディスク。


「それは?」


「監視カメラの映像を保存しているディスクです。…警備員詰め所前の廊下のね」


ほう、と感嘆のため息をつく黒川。だが、方鐘の目には若干の焦りを見せていた。


「事件当日の昼頃の映像です。…先程、あなたは警備員詰め所を訪れていない、と言いました。ですけど…」


画面に零と一との合成画像が動きだす。作り出されたのは、警備員詰め所の廊下を歩いていく黒川の姿だった。


「…これは、何ですか?」


「………」


黒川が黙る。


「言っておきますが、偽造はできませんよ。先程遠見さんにも確認してもらってます」


「………」


相変わらずだんまりを決め込む黒川。

その間にも動画は進んでいく。そこには、焦ったように乱暴に扉を開けて走り去っていく黒川の姿が。


「これで動画はお終いです。…そして、僕は最悪の可能性にたどり着きました」


相変わらず何も言わない黒川をにらみ付けて方鐘は言う。


「…あなた、山良さんに何をしたんですか?

しかも詰め所から出て来たとき、あなたの服はボロボロだった。あなたのスピンオフを使って何かしたのは明白です」


そこまで言っても、黒川は何も言わない。


「オイオイ。だんまりかよ。証拠も、お前の口からブラフも出て来てる。隠し通しても意味はないぜ?」


スリープモードに入ったパソコン画面に片銀が映る。

相変わらず軽い調子だが、こちらの味方にはなってくれるつもりらしい。


そこまで来て、やっと黒川が口を開いた。


「ああ、確かに私はあの日、警備員詰め所に行った。そこには確かに山良先生もいた。だが…」


そこで不自然に言葉を切る。


「嘘は通用しませんから」


方鐘がそう言うと、わかっている、と返ってきた。


「率直に言おう。疑われたのだ。自分の推論を得意気にひけらかした挙げ句墓穴を掘って、な。そして、恐ろしくなった」


なるほど、あの逃げるような足取りはそういうことか、と方鐘は納得する。


「そして、逃げたのだ。先程の映像のようにな。ただ、追われるのは恐ろしかった。だから、

戸を塞いだのだ。私の『糸』で。

そのまま教室に飛び込み、日常に埋没しようとしたのだ」


(…なんとかセーフ、か?)


(とりあえず、最悪はね)


その告白を聞きながら、頭の中で片銀と会話する。


方鐘が想定したこの場合の最悪とは、黒川が山良をその手にかけていた、という場合だった。


その場合、捜査は完全に手詰まりになり自分の未来が確定する。

だがそれは、どうやら外れてくれたらしい。


(けど、そうなると山良は自分の意思で隠れている、ってことになるのか?)


(だろうね。そうすると、その理由がまた謎だけど)


これが先程の最悪の意味。謎がただ増えただけという事実。


「それから後は、知っての通りだ。そのまま生徒会に出向き、何事もなかったように過ごした。それだけだ」


沈み込む黒川に突っ込むように片銀が言う。


「くはは!ま、嫌われないように、世間体が傷付かないようにって理知的に行動したのが見事に裏目に出たわけだな」


ケラケラ笑う片銀に黒川が沈んだ声で答える。


「ああ、否定はしないさ。これは確かに自業自得だ」


自嘲する黒川。そのひたすらに沈んでいく態度にキレて爆発したのも当然片銀だった。


「っだぁ!ああクソ、マジウゼェなお前!」


「方鐘!さすがに言い過」

「過ぎてねぇよ!ったくイジイジして自己嫌悪に一人ダイビングしやがって!反省とかねぇのか!」


一人ダイビングって何さ。


「…つまり、先を見ろってこと?」


全力で首を縦に振る片銀。


「まぁ、確かに賛成するけれどね」


方鐘も同意を示す。すると、黒川が意外そうな顔をした。


「方鐘が賛成するのか…意外だな。てっきり君達は逆の反応をするのかと思っていたが」


「そうですか?」


「逆ではあるが、根底じゃ同じなのかもな。俺も本当なら『大罪』に任せて暴れ回るだけだったのが、方鐘のカチカチな理性プロテクトのせいで比較的まともになってるし」


「へえ、そんな風になっていたのか…」


「オイオイ、自覚なしかよ?今の俺はなかなかレアケースだぜ?」


「ふむ…ならば、他の大罪の保有者は多かれ少かれ大罪に引っ張られるのか?」


「あのな黒川。引っ張られるってなんだ引っ張られるって。まぁ、俺みたいな強い感情なら強制力は強いけどよ」


「というか誤魔化さないでくださいね副会長。僕たちは許してないですから」


うっ、と黒川が情けない声を出す。


「まぁ、借り一つってことで。…返して貰えるかはわからんがな」


暗に、「お前のせいで俺らがヤバイ」と言う片銀に黒川がさらにションボリする。


「まぁ、黒川先輩にはより頑張ってもらいますが」


方鐘が追い討ちのようにイイ笑顔で告げる。それを見た黒川がヤケになったようにイスを蹴倒す勢いで立ち上がった。


「わ、わかったわかった!探しに行ってくる!」


「なら、ついでに皆に連絡をお願いします。行方不明と自発的な隠蔽では探し方にも違いが出ますから」


返事の代わりに苦い顔で携帯電話を取り出した黒川がドアを開けて出ていく。


(さて、と)


それを見送ってから、方鐘は目を閉じる。


(今、何を考えるべきだろうか?)


自分に問う。疑問の形をとる事で思考の照準を模索する。いつものパターンだ。


(黒川先輩の件はプラスマイナスゼロだから、別の事かな)


黒い視界に照準を定める。


(よし、決めた)


思考の海に沈み込む。


「で、まーた俺は暇になるんだな」


窓ガラスの中で片銀がぼやいた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ