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32th 結果と心配事項

衝撃波が唐突に止む。それを感知した水越が天幕を散らした。


「ど、どうなったの?」


解除した水越が辺りを見渡しながら発言する。

濃密な水蒸気に満たされた空気は白く、全てを隠していた。


「あ、明乃っ!」


たまりかねた黒川が中央へ走る。そこには何ごとも無かったようにベッドの上で気絶する暁と、そのとなりで服こそボロキレのようになっているが平気そうな片銀がいた。


成功?


頭の中で会話する二人。


(ギリギリだったけどな)


…先に謝っておくよ。ごめんね?


(…は?)


音もたてずに入れ替わる。


お、オイ!いきなり何だよ!


頭の中を無視して、そのままぶっ倒れる。そのまま黒川に話しかけた。


「いよう!若干予想外なことは起きたがイイ感じに終わったぜ」


「…そうか」


「…反応薄いなオイ。さーて、どうすんの?これで俺は用済みだ。生かす理由もなくなっただろ?さー殺せ殺せ。もう疲れた。あーめんどくせぇ」


ポン、と言い捨てる。

最初からそういう約束だったのだ。方鐘恭一は暁明乃を生き長らえさせるための駒でしかない。

用済みになれば、爆弾を抱える意味も理由もない。


「どうせ『僕』が死んでもまた『俺』は別の誰かさんに浮かぶさ。方鐘だって了承済みさ。『自分に生きてる価値はないから』だと。気兼ねすんなよ?」


ちょ、ちょっとまてバカ野郎!何勝手なこと言って…っクソ!治療に全力傾けたせいで動けねぇ!


再度頭の中の声を無視する。


「ホレホレ、今が多分最大のチャンスだぜ?ついでに多分最後の。…疲れ切って動けやしない。オマエが『老賢者オールドワイズマン』ならわかる筈だぜ?俺を残しておくことのリスクがよ」


黒川は、無言。しかしその手は仕切りのカーテンのほつれを握りしめていて。

ざわざわと。さらさらと。

糸がほどけていく。それらは黒川の足元に集まると、蛇のように鎌首をもたげる。


「…はは」


思わず声が漏れる。なるほど、こんな僕でも生命の危機は恐ろしいらしい、と方鐘が思った直後、白い糸が一気に襲い来て、締め上げられる。


「ぐっ…くう…!」


そのまま、まるで吊り下げられるかのように空中へ引き上げられた。


「あぐっ…!があ…!」


苦悶の声がこぼれる。痛い。苦しい。やめてよ。けれど全ては自業自得。自分が誰だがわからなくなったのも。噴怒を呼び寄せてしまったのも。

全部、全部自分のせいだ。


しかし、黒川はいきなりこちらを睨み付けて言った。


「…アフターケア、という言葉を知っているか?」


答えられるはずはない。しかし、黒川の言葉は続く。


「言い換えると、事後治療、とでも言うのだろうか。…まだるっこしいな。つまり何が言いたいか、というと、キサマはまだ明乃を完全に治療したとは言い切れないのだ。したがって、死ぬのは許さん。最後まで手を抜くな」


方鐘は思わず呆気にとられてしまう。何を言い出すのか。この副会長は。治療は完璧だ。その程度は片銀を信用している。


「アホか?治療は完璧だぜ。影響だってすぐ抜けるさ。それよりも…」

「黙れ。キサマに聞きたいことはない。方鐘を出せ。…ほら」


言葉と共に、糸が解かれる。その下から出てきたのは、完全に補修された服。


「それに、方鐘は前にこう言ったのだ。『高垣に恩を返すまでは死ねない』、とな。だから、キサマの言う事は嘘だ。もう一度言う。方鐘を出せ」


方鐘は、言葉を返せなかった。

そこに、月島や高垣、水越といった面々が集まってくる。


「方鐘は、さ。前に俺に言ってくれたんだよ。『変わるかもしれない。だから、待ってみてくれ』って。なぁ片銀、お前が自由に動けなくて歯がゆいのはわかる。けど、だからって死ぬのはやめてくれよ。…頼むから」


月島に続いて、全員が真剣な目で方鐘を見つめる。


だってよ。お前だって何が正しいかわかってるだろ?


中と外、二つの語りについに、方鐘は耐えられなくなる。


「…じゃあ、僕と俺とを止めて見せてよ」


「方鐘?戻ったの?だったら…」


高垣を遮るようにタネを明かす。


「最初から僕だよ。片銀を観察してなりきっていただけ」


義眼に仕込まれたマジックミラーから、一本のパレットナイフを作り出す。


「正直に言うと、恐いんだよね。昼のことでよく分かったよ。この学園、片銀の抑止力が居ないんだ」


数歩下がって距離をとり、ナイフを構える。


「抑えられない爆弾は、どうすればいいのだろう?…絵を描きながら、考えてみたんだ。そして行き着いたのは…高垣さん。あなただった」


「わた…し?」


「そう。あなたの『自我ゼルプスト』。皮肉にも片銀の特訓のおかげで使いこなせるようになった、『鼓動を読む力』。あれなら、僕と俺を押さえられる」


けれど、と続く。


「これ以上高垣さんには迷惑をかけたくない。…だから、僕に教えて。皆が居れば僕と俺を止められる『証明』を!」


宣言するその顔は、本人にはわからないだろうが苦痛に満ちていた。他人に刃を向ける恐怖が現われていた。しかしその目には、自決をも厭わない覚悟があった。


「やーれやれ!いきなり謝るから何事かと思ったらそんなことかい!」


水の天幕がなくなったことで再度鏡に映った片銀がしゃべった。


「要するに、僕が本当に恐れるのは『他人に迷惑をかけること』なのさ!で、原因の筆頭が俺。なら簡単だ。高垣以外で俺と僕を抑えてみろよ。じゃなきゃ僕は自分から死ぬしかない…」


そして愉快そうに笑って。


「さあやってみろよ!大罪と一般人相手に生徒会と風紀委員の総力戦だ!なんって贅沢!まさに血が騒ぐぜ!」


笑いながら画面から消える。本体に戻ったのだ。


同じくして、方鐘がナイフを構えながら叫んだ。


「いくよ!」


応じるように皆が構える。

月島は静電気に髪を逆立たせ、水越は水を手のひらにナイフのような形に作り出す。中村は右手を構え、遠見は一歩下がって明乃を戦闘領域から逃がす。黒川は余った糸を変質させて手に絡め、手袋を編み上げる。


「高垣さんは離れててね!」


その言葉で、戦闘の火蓋は切り落とされた。



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