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3rd 犯罪者と監視監督人の朝

寮に入ると、まず名前を台帳に記入する。入居者はフリーパスだが、外部の人(つまり僕)は記録をださないといけないルールなのだ。といっても、バレさえしなければ別に無断で入ってもいいわけだが。


「さて、と」


エスカレーターに乗り込み、8階へのボタンを押す。監視カメラがあるので、警備員の人達にカメラ越しに頭を下げた。


そんなことをやっているうちに8階に着く。目指すは814号室。ドアの前に立って一呼吸おいてからドアを叩く。ここからが正念場だ。

ゴンゴン、と鈍い音がして、確かな固さを音と感触で返すドアが鳴る。1、2、3秒と待って反応がないのでさらに叩く。叩く回数が2ケタを数えたあたりでやっと反応が返ってきた。


「ふわぁーい…後5分…」


「5分待ったら遅刻するぞ!何時だと思ってるんだ!」


「え〜。いいじゃないか。後10分くらい…」


「さり気なく増やすな!」


さすがに時間もまずくなってきた。と言うわけで、切り札を出す。


「ああもう、そんなに起きないならプレヴェイル呼ぶぞ!!」


その瞬間、いきなり中からバタバタと音がしたかと思うと、目の前でドアが吹っ飛びそうな勢いで開いた。その向こうには誰がどう見ても女ならカッコいいと黄色い歓声をあげる男子が。ただ、今はひたすらにあせった表情で僕の前に立っている。


「おはよう月島…って!」


いきなり月島に肩を捕まれて揺すられる。それも傍から見たらガクガクという効果音が付きそうな勢いで。いかん、頭がクラクラしてきた…


「お、お前マジで呼んだのか?おい、おい!」


声が裏返っており顔も青ざめて明らかにパニクっているのがわかる。


「つ、月島、呼んでないからそんなに振らないで…頭痛い!」


必死な叫びが通じたのか、月島が揺するのをやめてくれる。


「ほ、本当に呼んでないんだな?た、助かった…」


「それ僕のセリフ…。死ぬかと思った。」


「アッハハ、死にはせんって…多分。」


「今多分って言ったな?言ったな!?」


まぁそうカッカするなって、と笑いながら月島。根はいいヤツだし、さっきも言ったように顔もスタイルも抜群、さらにこの月島学園の理事長の次男。強いて悪い点をあげるとしたら寝起きの悪さくらいと言うハイスペック野郎。それが月島貴弘つきしまたかひろという男なのだ。なぜそんなヤツと僕が友人なのかというと、


「あ、ちょい待って。定期報告しなきゃ。」


そう言ってケータイを取り出す。いくつかボタンを押して電話をかける。かける先はいつも同じ、警察だ。


「こちら学生警官スクールジャッジ月島。本日これより特2級要監視人、方鐘恭一の監視監督を始めます。」


と言ってケータイを閉じた。


「いやはや、慣れないね。やっぱり。どう見てもお前が犯罪者には見えないんだが…。」


つまりそういうことだ。

どうやら僕は3才の頃、父と母と妹の3人を家ごと殺してしまったらしい。らしい、というのは全く覚えが無くいきなり病室に来たスーツのオッサンに教えられたことだからであり、さらに同時に記憶喪失であると診断されたからである。つまり事の真偽さえ分からないままに僕は家族を全て失い犯罪者と断定され、挙げ句の果てには記憶喪失になっているのだ。


「僕としては最初からずっと監視を受けながら生活しているようなものだから、そんなにストレスがあるわけじゃないし大丈夫だって。それに、月島もこの仕事に試験がかかってるんでしょ?僕も監視受けなきゃ監獄行きなわけだし、お互い様なんだから気にしなくていいって。」


ちなみに特2級要監視人というのは犯罪者のランクで、


「逆流能力(原型から個人に逆流する力、という意味。普通は能力をこう呼ぶ。スピンオフとも)を使って人を3人以上殺害した者」の事で監視監督者が付き、場合によっては生殺与奪さえ管理される、という刑に処される。もっとも僕の場合は3才という若さと記憶喪失という点を考慮され、監視監督人が付くというだけに収まっている。


「まぁな。しかし、最終試験が実地なのはいいんだけど、担当がお前で楽過ぎてちょっと不満かも。」


としみじみ月島。


「僕じゃマズい?だったら監視監督者変更を要求するけど…」


「いやいや!ラクで助かってるぜ。ってかお前が要求したら刑期伸びるだろ。俺が申請しないと。」


「でもそうしたら月島、減点されるでしょ?」


「構わないって。ってか別に本当に申請するわけじゃないし。」


「それもそうか。」


と、二人して笑いながら寮を出た。


そして僕は、その日の通学路で頭の上に氷塊を落とされる。

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