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23th 協力要請とクラス内訳

入院、というのはつまらないものだ。


(やることないよね…)


ベッドの上で方鐘はため息をついた。なにしろこの病室は個室。この閉鎖都市の設立に関わり、三つの学園それぞれの創立者にして御三家とも呼ばれる『雪月花』の一角『月』の次男坊である月島の口添えもあるが、世間から見れば犯罪者の僕が一般の人と同室になれるはずもなく、こうしてこの病室をあてがわれたのだ。現に、引き戸は鍵をかけられて開かない。


「暇だなー」


現在は昼過ぎ。今日の治療は午前中に終了してしまい、精密検査は昨日、月島が帰った後に終わらせた。結果は片腕づつ粉砕骨折と単純骨折。単純骨折のほうは今朝の治療でだいたい治っており、なんとか動くようにはなっている。それでもギプスだけは外せないが。


(こんなときに限って俺は出て来ないし…)


と、いきなり意識が飛んだ。断りなく替わるときはいつもこうだ。


「はっ?!」


で、戻る。傍らにはいつの間にかメモ帳があって、そこには、


「疲れた。眠い」


だそうな。これは期待できない。


(僕もちょっと…寝よう)


面会のときにしか鍵は開かない。昼食の五目ご飯はさっきいただいたし、月島たちが見舞いに来るにはまだ早い。つまり、やることはない。ならば寝るに限る。そう思って目を閉じようとしたとき、引き戸の向こうから声がした。担当医の声ではないが、病室に入りたいらしい。


「どうぞ」


眠りかけた意識を起こして声を返す。入って来たのは、意外な人物だった。


「へ?会長じゃないですか。どうかしたんですか?」


片手で操作できる電動車椅子に乗って来たのは、昨日発作を起こして面会謝絶になっているはずの暁会長だった。


「ごめんなさい。急にお邪魔してしまって…」


「いえいえ。こんな一般生徒の病室ならいくらでもどうぞ。それで、ご用件は?」


すると、なぜか少し戸惑ったような顔をした。


「その…かたがねさん、ですよね?」


はい、と答える。なぜか奇妙な顔をされた。どうかしましたか、と問うと。


「あ、いえ、その…あまりに、雰囲気が違っていたので…」


そう聞いて納得がいった。そういえばこの人は僕に会うのは初めてだ。そこを含めて説明すると、すぐに納得してくれた。


「なるほど…そうだったのですか。納得しました。性格が変わっただけなんですね」


「そういうことです。というかよく納得しましたね」


「そうですか?筋道をきちんと立てて考えればそうなりますけど…」


かたがねの中から見ていた時はあまりはっきりしなかったが、やはりこの人もどこか規格外だ。纏う雰囲気が他の人と明らかに違う。


「それで、ご用件は?わざわざ生徒会長自らこんな犯罪者のところに来たんですから、きっと何かあるんですよね?」


「ええ。貴方に協力して貰いたいのです。貴方が容疑者にまでなった、事件の解決に」


自然と硬くなった唾を、方鐘は飲み込んだ。




「で、まだ方鐘は入院中、ってことね」


「ああ。放課後見舞いに行くか?」


「うし、行く。月島は?」


「俺がいないのに三上はどうやって病室探すんだよ。当たり前だろ」


昼休みの教室では三上と月島がメシ片手に話していた。もっぱら話題は方鐘だ。


「で、学校側の方鐘の扱いは?」


「生徒会が先生を通じて昨日のうちに説明はしてくれてる。けど、けっこう仲がいい俺らは別として、方鐘の奴孤立しがちだからな。周りからどう見られるかはわからないぜ」


「…肝に命じとく」


いくら操られて犯した殺人でも、他人に与える衝撃は大きい。ましてや、普段はほとんど月島と三上にしか関わらない方鐘だ。どんな噂が立ってしまうかわからない。…その、弊害も。


「ぶっちゃけ、お前がいつもいっしょにいるから手が出しにくい、ってのもあったと思うぜ。安形あがた辺りは気をつけたほうがいいな。アイツ、微妙に黒いウワサがあるし」


「そういえば、風紀委員のほうでも何度か補導した覚えがあるな…」


安形というのは、このクラスの級長の男子のことだ。ガタイがいい上に部活では砲丸投げをやっていて、腕っ節は強い。更にスピンオフがBランクと恵まれていた。それゆえにガキ大将として君臨していたらしく、クラス中で一大勢力をまとめている。ちなみに、もう一つグループがあり、そちらは女子のグループだ。白坂しらさかという女子をリーダーに団結している。もちろん、月島や三上、方鐘のようにどこにも所属しない人もいる。


「ちなみにいつ退院するわけ?ノートとかノートとかノートとかヤバくないか?…売り付けていい?」


「なんで3回言ったんだよ。ダメに決まってるだろ!」


三上はカツサンドを口にくわえたまま笑うと、水筒に手を伸ばした。と、こちらは玉子サンド(水越お手製)をかじっていた月島の手元に長い影が落ちる。頭を上げると、ガタイのいい長身が嫌らしい笑みを浮かべてこちらに話しかけてきた。


「よう、お二人さん。あの犯罪者はどうだい?」


安形だった。



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