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15th 謎と救出

公園の入り口を越えた直後から、急に頭が痛くなりだした。


「あてて…なんだコイツは…」


隣でここまで運んでくれた中村先輩が頭に手を当ててこらえる素振りを見せる。頭痛?どうして、と思う前に答えが遠見先輩から告げられる。


「ここ、すごく酸素が薄いです。まるで山の上みたいな感じ…」


「っち!まさかこんな風になってるとはな。どうすっかな…」


「先輩の能力で酸素を引っ張ってきたらどうです?」


「無理だな。俺の能力は目に見える範囲の物を引き寄せる、だ。酸素は引っ張ってこれるが、三人分は流石に足らないだろ。しかも公園のどこにいるかわからねぇ。だからって一人で行くのは論外だな」


確かに、この公園は広い。今だって視界の半分は公園だ。残りは海だが。


「…海…」


思い付きという名の打開策が走り抜けた。


「先輩。海の水をここから引き寄せられますか?」


「いきなり何なんだお前は?…まぁ出来なくはないが」


「なるべくたくさん引っ張ってきてください。今から…酸素を、作ります」


中村先輩はわけがわからない顔をしていたが、どうやら遠見先輩はわかってくれたらしい。


「なんだよ二人して分かった顔しやがって!いいよやってやるよ!」


半ばヤケになった中村先輩が両手を海に突き出すと、海が文字通り抉れた。


「ぬぁあ!」


裂帛の気合とともに水の塊を持ち上げて引き寄せる。


「で?どうするんだ?」


こっちへ、と自分の前に持ってきてもらう。


雷電双手スイッチサンダー…プラス極とマイナス極に分離…」


かつてないほど精密に。

かつてないほど限界に。


「まだ…まだっ…」


これが工夫。言われて、考えて、結局は直感した新しい使い方。


(全く。直前にやってた勉強が理科で助かったな!)


目前の水の塊に極性分離した両手を突っ込んだ。


そして発生したのは、白い山。それと、衝撃波だった。


「うおっ!」


とっさに遠見先輩をかばった黒川先輩が爆風に押されて遠見先輩ごと倒れ込む。実にうらやましい体勢だ。


「あぶないだろアホ!何やらかしてやがる!」


そのままの体勢でキレる先輩の下で、もう一人の先輩が状態の解決を告げた。


「あ…息が、軽くなりました」


それを聞いて黒川先輩が納得とともに怒りの矛先を収めた。


「なるほどな。海水を電気分解したって訳だ」


かつてなく精密な発動でフラフラする頭を必死でなだめながら、正解ですとだけ告げる。


「電気の発する高熱で海水を蒸発させて塩分などの不純物を分離して、空気中に散った水分を今度は極性を分けた両手で水素と酸素に分解。そして水素だけに着火して爆発させて酸素を広い範囲に吹き飛ばした…と、いうことですか」


言いながら、識は驚愕する。

そんな精密操作が思いつき、だけでできるわけがない。彼が扱うのは『電流』だが、電気には必ずプラス極とマイナス極がある。実験器具なら極性を分けることは簡単だが、人間の身体を媒介にして電気分解を起こせるほどの電流をどうすれば自分が感電しないようにできるのか。ほとんど無茶だと言っていい。


黒川も驚愕していた。こちらはまた別の意味で。


(『酸素』に火を付けずに『水素』のみに着火するだと!どんな芸当だ全く!)


考えられるのは、蒸発する温度。水素と酸素では当然その温度は変わる。その点を見切り水素のみを取り出して発火、その爆風で温度を上げて酸素を作りつつ拡散させた。


(これがコイツの実力か!惜しい…)


条件さえ満たしていれば生徒会に迎えてもいい。そう思える逸材だ。


「はぁ、はぁ…よし。行きましょう先輩」


若干グロッキー入ってはいるが月島が復活する。


「よし…行くか」


その言葉をきっかけに、公園内へと歩き出す。最初に気付いたのはやはり遠見先輩だった。


「あの…あれ、何です?」


ん?と、はい?とそれぞれの反応が返る中、公園の中側から歪な影がゆっくりとこちらに向かってくる。張り詰めたような緊張が走り抜ける中、潮風に巻かれた砂埃のカーテンを掻き分けるようにして現れたのは。


「恭一!」


「高垣さん!」


月島と遠見が駆け寄る。中村は念のため警戒しながらついて行く。この場一帯に残る薄墨に悪意を飽和するまで溶かし込んだ後でぶちまけたような異様な気配が、警戒を緩めることを許さない。


「おい高垣!恭一はいるか…っ!」


人影に駆け寄った月島は呆然とした声を上げてしまった。


「っ…ごめん…」


口から小型の酸素ボンベを離しながら言う高垣と、閉じた瞼から血を涙のように流す死んだように動かない方鐘だった。


「高垣さん。とりあえずもう酸素ボンベは要りません。そして、教えてください。どうしてこうなったのかを」


そこに中村が追いつくなりその状況を見て言う。


「とりあえず出るぞ。少なくともそいつには病院に行ってもらわないとな」


引き寄せて同時に寄ってきた識に診てもらう。


「…呼吸が止まってます。急がないと脳死して植物状態になります」


それを聞いた月島が慌ててケータイを取り出して救急車を呼ぶ。


後には、ただ立ちつくしたままひたすらごめん、と呟くだけの高垣がいるだけだった。




月島がその地位と権利をフル活用したその結果、すぐに病院に到着し速やかに診断と治療が行われた。


「正直に申しあげまして、彼は一命をとりとめ、植物状態からは免れました。しかし、目の処置は我々には不可能でした」


説明する医者。それにつっかかる月島。


「どういうことだ。アンタらの中には眼科の専門医もいたはずだろう!それでもダメだったってのか!」


「む、無理です。ご覧になればわかると思いますが…」


なら見せてみろ、とばかりに麻酔を受けて横たわる方鐘の包帯を解く。その場にいた全員が同じようにのぞき込んで絶句した。


「右目がない…な。どういうことだ。説明してくれ」


解いて瞼を開けた右目にあったのは、白い眼球ではなく赤黒い空洞だった。その事実に呆然として言葉の出ない月島に代わって中村が問う。


「はい…呼吸器の処置が終わった我々はまず目のレントゲンを撮影したのです。すると…」


と言いながら写真を見せる。


「視神経が全て引き千切られていました。更に眼球から網膜、虹彩、水晶体すべてが破損していました。そしてある医者が身体を下に向けた途端、…目玉が、落ちました。」


「ふざけるな!それじゃアンタらがそんなことしなけりゃ目は治ったんじゃねぇのかよ!」


襟元を掴んで持ち上げながら怒鳴る月島。空中で必死に弁解する医者。


「どちらにしろ、あのままでは血液の供給が止まり眼球が腐ってしまいます。摘出しなければならなかったんです!」


それを聞いて、がくりと崩れ落ちる月島。


「どうしようもないってのかよ…」


「治癒能力者は?」


「この場にそこまで強力な者はいません」


中村先輩の代案も打ち砕かれた。


「腕の筋肉は治癒しました。…逆にこちらが聞きたいです。どんな無茶と無謀をしたらこんな傷を作るのですか。もう一人の方も含めて…」


と同時に診察室のドアが開いた。中から出てきたのは同じように治療を受けた高垣だった。相変わらず下を向いたままだ。そこには責任感と罪悪感がないまぜになっている。そしてそれを吐き出すことができずに苦しんでいる。そんな表情をしていた。そんな高垣に月島が言う。


「なぁ、高垣…教えてくれよ。なんでこうなったのか。こうならなきゃならないのか…頼む」


周りすべての人が一斉にそれぞれ同意を示す。誰もが説明を求めていた。


「わかりました。…全部、話します。でも、その前に彼と話がしたい…それだけは、させてください。そうしたら、必ず…」


「わかった」


中村先輩が代表するように言った。

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