9th 準備と相対の始まり
そのまま次の日は学校への影響を考えて謹慎の命令が月島から入った。その日に水越を通して高垣さんから連絡があり、3時頃に海浜公園の白樺の木で、ということになった。けれどやっぱり、高垣さんがかなり剣呑な雰囲気だったことが気になったらしく珍しく心配されてしまった。
で、バイト先の出雲夫妻に事件のこともあるので裏方をやらせてもらって、バイトを午前で終わらせ、そのまま売上に対する貢献とエネルギー補給を兼ねて和菓子を大量に買い込む。
(いくらあっちが事件の情報を要求しても、こっちは何もやってないから教えられることはないし先にあちらが痺れを切らすだろう。つまり、実力行使に出る、ということだろう。なら…)
準備が必要だ。少なくとも、自分に向かう理不尽に抵抗するだけの。
というわけで、僕は和菓子を食べながら百貨店に向かった。
「…ねぇ、奏。何するつもりなの?」
「ん?大丈夫だって。ただちょっとだけ聞きたいことがあるだけだから」
心配そうに訊いてくるレイちゃんに心配ないと返す。尋ねたいだけで、他には何もする気はない。最悪の場合は実力行使になるだろうけどという予測は立つし、個人的にちょっと言わせてもらいたいこともある。だから、二人だけで話してみたい。今のところはそれだけだ。
「けど、奏ってたまに思い込みで暴走するし。一応容疑者だけど私の許婚の友達でもあるんだから、加減はしてね?…半殺しまでは許可。」
明らかに悪い笑顔でレイちゃんが笑っていた。
「何気なく酷いことこの上ないよね、レイちゃんって…」
というと、まるで火がついたようにとうとうと語りだした。
「だって!今朝だって三上の力借りて私の攻撃防いだくせに逆ギレしてくるし、私が説教入れたら全力でスルーしてきてまったく聞いてないし、さすがにちょっとイラっとしてるからそれくらいは…ねぇ?」
「アイツより危険なのが隣にいる気がする…」
しみじみと思う。そこでふと、今気付いたようにレイちゃんが言った。
「そういえば、方鐘が怒ってるの見たの、初めてかも…」
なぜか、その呟きだけはハッキリと聞こえた。
百貨店について、まず向かったのはおもちゃのコーナーだった。いくら必要なものを造り出せるとはいえ、限度があるのも当然。それならなるべく用意できるものは用意すべきだろう。
「えーと…お、あった」
BB弾300発。続いてホームセンターの区画に移動して、長めの木の棒などを買う。
「よし。こんなところかな…」
必要だと思うものはとりあえず揃った。時計を見ると、約束の時間まであと2時間半ある。
(仕込みもあるし、早めに行くかな)
気分と連動するように重い足に空元気という活力をこめて、歩き出した。
2時半。約束の時間に奏はきっちりと海浜公園の白樺の木の下にいた。
…呑気に寝ている相手に半ば呆れつつ、だったが。
「なんで平和に爆睡してるかな…?」
約束の白樺の木の下、袖口がゆったりとした薄手のロングコートを羽織ったまま下を向いて眠っていた。
「やっぱり、起こさないとダメだよね…」
とりあえず、肩を掴んで揺すってみる。
「うん…ふぁ?」
謎の声を上げてあっさり目覚めてくれた。
「ああ、もう時間だった?ごめんね、ちょっと眠くて」
などと言いながら、横にあるカバンを手にとって立ち上がった。
「さて、なにが聞きたいんだっけ?」
互いが望んだ相対が、始まる。