わたしが、物語の、主人公。
「いや、俺、攻略対象じゃないんで。」、「私の、執事は、名前が覚えられない。」、「逃がした、魚が、大きすぎて。」の寝取りヒロインの男爵令嬢の独白。
※勘違い自己中令嬢の心の声が中心になっているので、胸糞悪いなと思った方は速やかなUターンをお勧めします。
わたしには前世の記憶があった。
そして今のわたしが誰なのかを知っていた。
わたしはアルメリア。
ごくごく普通の一般庶民の家に生まれた天の使い。
それがわたし。
わたしには魔力がある。
貴族などの特権階級の者たちしか持ちえない高貴な力が、わたしにはある。
だって、わたしは主人公だから。
前世でやっていた恋愛シミュレーションゲームの主人公にして、世界でも珍しい光魔法の使い手。
それがわたし。
この世界はわたしの世界。
わたしを中心に動いてるの。
両親はわたしを可愛がり、周りの大人はわたしを持て囃す。
でもね、わたし、庶民じゃ嫌なの。
パパもママも嫌いじゃないけど、わたしはもっと裕福な暮らしがしたいの。
たくさんの色鮮やかなドレスを着まわして、煌く宝石をたくさん身に纏って、見目美しい男の子たちがわたしを求めて駆け引きをする。そんな人生がわたしには似合っているの。いいえ、それが本当のわたしなの。
だって、ここはわたしの為の世界だから。
みんなわたしの思い通りになるの。
わたしはアルメリアだから魔法が使えることを知っていた。
幼い時に面白半分で発動させたら、私を天の使いだって、見ていた皆が持て囃してわたしは可愛いだけじゃなくて魔法も使えるという噂が広まった。
それを聞きつけた一人の貴族のおじさまがわたしに会いに来た。
わたしはその出会った貴族のおじさまにわたしを売り込んだ。
そのおじさまは男爵家の当主だった。
若くて綺麗な女の子が大好きなおじさまだから、わたしの事も大好きみたい。
わたしはおじさまの子供になりたいと強請って見せれば、おじさまは笑顔でいい返事をしてくれる。
パパとママにまとまったお金をあげて、わたしは男爵令嬢になった。
庶民の娘から貴族の令嬢になったけど、おじさまの爵位は下から数えた方が早くて、王宮での催し物に呼ばれることも殆どないし、三大侯爵家と呼ばれる大貴族のおうちとはほぼ無縁の貴族だったので、わたしの魅力を王太子殿下をはじめとした見た目も家柄も揃っている攻略対象たちに見せる機会がなかった。
でも平気。
だってわたしは魔法学校に行くことが決まっているのだから。
そこで王太子殿下やその側近の侯爵子息たち、騎士団長の息子に将来有望な少年をわたしの魅力で瞬く間に骨抜きしてあげる。
…
魔法学校に入学して、わたしは王太子殿下やその側近の侯爵子息たちと仲良くなった。殿下達には家が決めた婚約者やそれに準ずるような子がいたけど、そんなの関係ない。だってみんなわたしを愛してくれた。
ちょっと微笑んで、優しくしてあげて、ゲームで得た知識で彼らを励ましてあげれば彼らは何も疑わずにわたしへ好意を持つようになっていった。
その中でひとりどうも様子がおかしい攻略対象がいた。
騎士団長の息子だ。
好みという訳じゃないけど、顔もいいし、将来も有望なので傍に置いておきたいのだけど、どうも彼は色恋ごとよりも自分を鍛える事が好きみたいであまりわたしを見てくれない。
今日も差し入れを持って訓練場へ行ってみたのだけど、彼は見たことのない男子生徒と口論になっていた。
「何度も言わせるな!俺の名前はガーランドだ!!」
「わかってますってバーバパパくん」
「全然違うわ!!」
彼の鋭い剣戟を躱しながら軽口を叩ける男子生徒に、彼はさらに吠える。
怒りを剣に乗せる様に鋭い攻撃が幾多も男子生徒に襲い掛かるが、その生徒はその攻撃を全て見切れているのか、最小限の動きで躱していく。
「逃げ回るな!」
「嫌ですって」
「俺が勝ったら騎士団に来いっ!」
「い・や・で・すっ」
「べふっ!」
筋肉質で身長もある彼よりも細身のその生徒は彼が渾身の力で振り下ろした剣を跳ね飛ばし流れる様に回し蹴りをきめた。
ちょっとやそっとじゃびくともしなそうな彼をその生徒は軽々と蹴り飛ばしたのだ。
それで終わったのか、その生徒は服に着いた砂埃を手で払い、懐から時計を出した。
「時間なんで失礼します」
「ああ。また手合わせを頼む」
「他をあたってくださいよ…」
その生徒は溜息を吐きつつそう言って訓練場から出て行った。
わたしはその生徒がいなくなったのを確かめてから、そっと彼の前に顔を出した。
「お疲れ様です」
「ああ…」
「ガーランドくんに砂を付けるなんて、彼は何者なのですか?」
彼は攻略対象の中で一番強いはず、その彼に勝てるんだからあの男子生徒も攻略対象かもって思ったけど、黒髪の攻略対象なんていたかしら。
そう思って聞いてみれば、彼はどこかの家の執事見習いらしい。
庶民の出ではあるが、わたしと同じように魔法が使える様だったのでその家の当主に見込まれて魔法学校に入学したらしい。
「あいつをただの執事にしておくなんてもったいない。奴は騎士団に入るべきだ」
どうやらあの生徒にライバル意識を持っているようだ。
わたしとの話もそこそこに彼はまた自主練習を始めてしまった。
恋よりも自分を鍛える事に夢中じゃしょうがないわね。
まだまだ子供な彼を横目に、私は次に起こるであろうイベントを思い出す。
次は魔物がいる森へ校外学習に行って起こる魔物討伐イベントだ。
わたしは最高の癒し手として戦う彼らの後方、一番安全な所にいるだけでいいのだけど、その事を良く思わない馬鹿な上級貴族の令嬢に前線に連れ出されてしまい、あわやというところで好感度が一番高い攻略対象が助けてくれるのだ。
わたしは今、攻略対象のほとんどと接触してそのほぼ全員といい感じになっている。
これはもしかしたら、ゲームではできなかった全員に守られるお姫様になれるかもしれない!
逆ハールートを攻略する前にこっちの世界に来てしまったのでほんとにこのルートがあるのかわからないけど、今の状況はどう見たって逆ハールートまっしぐら。
うふふふっ。ふふふっ。あーっ楽しいなぁ。
このイベントをクリアできればあの目障りな侯爵令嬢を蹴落す足掛かりができる。
悪役令嬢の癖に主人公のわたしより頭がいいあの人形女。
見た目だけならおじさまのコレクションよりもずっと綺麗な顔。
でも、その性根が腐ってることをわたしは知ってるんだから。
自分じゃ手を汚さず、嫌がらせを他の令嬢にやらせる卑怯な女。
深窓令嬢ですっていうあの見た目も気に入らないし。
なんで主人公のわたしよりも綺麗なドレスを着て、美しい髪飾りを付けてるの。
ほんと見ていてイライラしちゃう。
でも、もうすぐ、あの令嬢の持ち物も、地位も、みーんな私の物になるのだから、それまで使わせておいてあ・げ・る。
侯爵家を追放されたらわたしの奴隷にでもして死ぬまでこき使ってあげようかしら。
あの涼しげな顔をが悔しさに歪む瞬間を想像しながらその日を待つの。
運命の日。
殿下やその取り巻き達がわたしを庇うように立つ中、殿下はわたしへの数々の嫌がらせ(半分はでっち上げだけど。何故かゲームみたいな嫌がらせあんまりなかったのよね。なぜかしら?まあ、いいか、そんなこと。)を述べて彼女との婚約を破棄してわたしの手を取ることを言ったら、彼女は普段はほとんど動かない表情を少しだけ歪ませた。
ああっ!やったわ。これで私が王太子殿下の新しい婚約者よ!
思わず笑顔がこぼれてしまいそうになったから、わたしは取り澄ましたように神妙な顔を作って流れを見守る。
彼女はゲームのように取り乱し、殿下に縋ることなく粛々と殿下の決定を受け入れその場を立ち去った。
今までたくさんの人に囲まれていたのに彼女に付いていくのは一人だけ、寂しいものね。
これで家に帰ったらそのついて行った彼もいなくなって、本当に一人ぼっちで追放されるのね。
思い通りに物語が進んだことに満足した。
それなのに。
それからはどういう訳か、ゲームのようにすんなりと行かないの。
殿下はわたしを新しい婚約者にしてあの令嬢との婚約を破棄したと国王と王妃に話したら物凄く怒られ、婚約破棄を取り消せと言われたそうだけど、公衆の面前で宣言してしまったためにそんなことできないし、侯爵家からも正式に婚約破棄の手続きの書類が届けられたそうで、もう取り消すことができなくなったのであの女と殿下の婚約は正式に破棄されることになったけど、何故か新しい婚約者のわたしは保留になった。
まあ、いいか。
保留だろうと殿下がわたしを愛してくれていることには間違いないんだし。
取り敢えず、今まで買えなかったドレスとネックレスと、あと指輪と買いたいもの買っちゃってもいいわよね?だってわたし殿下の婚約者なんだし。
殿下名義で買い物をしていたらある日、殿下に自分名義で買い物をするのはやめてくれと言われた。
はあ?わたしがあの性悪女追い出して、自由の身にしてあげたんじゃないの。それなのにわたしにはあの女みたいに買い物をさせないつもり?
でもさすがにそんなこと言えないから、しおらしく涙の一つでも見せれば、彼はすぐに甘い顔をして一緒に買いに行こうと言った。
うーん。殿下以外の攻略対象との買い物もしたかったけど、暫くは大人しくしていようかしら。
ていうか、なんであの女、今も普通に学校に通ってる訳?
追放されたんじゃないの?
校外学習でドラゴンなんて凶悪なもの用意してきたんだし、処刑ぐらいされてるかと思ったんだけど。なんで普通に生活してるの?
しかもあの女の隣には騎士団長の息子よりも強かったあの男子生徒がいるではないか。
黒髪に黒目で他の攻略対象みたいな華やかさはないけど、顔立ちはかなり整っているみたいで落ち着いた美しさがある美青年。
もしかして隠しキャラかしら。
確か、公式では隠しキャラは隣国の皇太子で、身分を隠して入学しているらしいというのは聞いたけど、キャラデザはルートが開いてのお楽しみなんて言われてシルエットすら出回らなかった。
彼がその隠しキャラ?
だったらわたしがあの魔性の女の魔の手から彼を救わないと。
殿下に振られたらすぐに別の男に媚を売って保身に走るなんて卑しい女に次期皇帝になる相手なんてもったいない。
わたしのほうがいいに決まっている。
わたしとちゃんと出会えば、彼だって私を好きになるはず。
だって、わたしは、主人公だから。
わたしが、物語の、主人公なの。
この世界はわたしを中心に回ってるの。
なのにどうしてあなたばかり幸せになるの?
わたしが全部貰ったじゃないの。
なんであなたは不幸にならないの?
どこで狂った?
どこが違った?
リセットボタンはどこ?
さいしょっからやり直しよ。
こんなの間違ってる。
ねえ、出来るでしょ?
私はこの物語の主人公なの。
だから、私が願ったことは叶うんじゃないの?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。
どうしてよ。
どうして私の思い通りにならないの!!!
「第一王子の妃の座にだけ甘んじていればここまで堕ちなかっただろうになあ…」
そんな声が落ちてくる。
誰よ。アンタ。
「っても、廃嫡された王子の妻じゃ嫌にもなるよなあー…」
「だが、こうなる前に引き返すことはできたんじゃないのか?」
「そこまでの頭がなかったんだよ。このお嬢さんにもあのボンクラ王子にも」
誰よ誰よ誰よアンタは。
わたしを馬鹿にするアンタは何様よ。
好き勝手にわたしのことを悪く語る声に憤る。
なのになんで声が出ないの?
私の天使の美声が全くでない。
なんでなんでと思うと、傍でゲコゲコと醜いカエルの鳴き声が聞こえてわたしをさらにイラつかせる。
「王子も被害者だったのか…」
「そうか?」
「こんな女に見初められなければ今頃はお嬢様と結婚できていたかもしれないのに…」
「んー…それはどうだろなあー…旦那様、お嬢様を第一王子の婚約者にするつもりなかったみたいで王家に言われて仕方なく了承したって聞いてたから、もしかしたら頃合いを見て婚約破棄してたかもな。お嬢様の気持ちを知らない訳じゃなかったし」
「しかし…」
「まあ、なんにせよ一番いい形で纏まったんだからいいじゃないか。きちんと能力のある王子が後継についてこの国も安泰安泰。ついでにうちの次期侯爵は貴族位取って来たアイツで安泰間違いなしだな」
「まあ、アイツのほうが侯爵領をまとめるには適しているから」
声が遠ざかっていく。
どういうこと。
何の話をしているの。
こんなエンディング、わたしは知らない。
一番ざまぁされないといけない人書いてなくない?と思って書き進めて5ヶ月ほど経ってしまいました…長かった…。
シリーズ「いや、俺、攻略対象じゃないんで。」を評価してくださった方々、ブクマしてくださった方々、コメントをくださった方々、ありがとうございます!
さらに毎回誤字脱字を報告してくださった方々に心からの感謝を申し上げます。本当にありがとうございます!
こそっと作者の独白。
この短編の大元、「いや、俺、攻略対象じゃないんで。」を連載版で書こうかなぁなんて、考えていたりいなかったり。
話の内容が若干変わるかもしれませんが、短編ではすっ飛ばしたり、ぼやかしたり、書ききれなかったりした部分、主人公とそのご主人様の恋の攻防戦の行方を書きたいなあっと思っています。
もし見かけたら応援してくださるとありがたいです!